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-二章- プリエール女子学園 その06。

 家に帰ってきた私は制服も脱がずに1時間程度ベッドの上に倒れ込み続けた。


**********


 3日後。

「ふっふふふふふ。ふふふふふふふふふっ」


 その頃にはいい加減に私の理性さんも限界を迎えようとしていた。

 毎日毎日授業の間の休憩時間10分。お昼は50分。

 突っかかってこられるんだから、そりゃあ私の理性さんにも限度が訪れるというものだ。


「もう無理そうです。助けてください。アリシア、ミーア」


 私の大切な人・2人にとうとう泣きつく。

 それは3日目のお昼の休憩時間残り10分の時。

 毎度のように私に突っかかってきたハイエルフ。ケーレから逃げ出した私はいつものように心配そうに私のことを見ていた2人の胸の中に飛び込んだのだ。

 

 ああ、癒される。2人のことが凄く好き。

 くっついて放れない私の頭を撫でてくれるアリシア。

 ミーアは私の背中を撫でてくれながらある事を提案してくる。


「ねぇ、リーネ。そろそろいいんじゃないかなー」

「何がですか……」

「そもそもこの学園に編入した理由って【リリエル】の力を他の生徒に見せつけて大人しくさせて、授業に真剣に打ち込むようにさせる為じゃなかったっけー」


 そう言えばそうだった。

 シエンナ様からの依頼はそれだった。

 じゃあもういいのかな。我慢しなくていいのかな。

 やっちゃってもいいのかな。


 2人の胸の中から2人を見上げるようにして"じっ"と見る。


「リーネ。子犬みたいで可愛すぎるわ。その感じ」

「よしよし。辛かったんだよねー」

「そうね。次は魔法学。しかも実習だし、丁度いいんじゃないかしら」

「やっちゃえ。やっちゃえー」

「……アリシア。私、もう我慢しなくていいですか?」

「ええ。3日も過ぎたことだし、もういいと思うわ」


 ああ……。やっとだ。やっと解放される。

 2人から許しが出た。となれば。


「ところで運動着に着替えないとねー」

「そうね。ちょっと面倒臭いわね。そういうところ」

「ごめんなさい。多分誰か異世界人のせいです」

「でもこの制服って何気に可愛いから傷つくのが嫌なのも確かなのよね」

「分かります。とりあえず着替えましょうか」


 名残惜しいけど、2人から放れて席に戻って"もぞもぞ"と着替える。

 運動着。トップスは基礎は白。首と腕部分が濃いネイビー。

 ボトムスは上の首部分と腕部分と同じ色の短パン。

 寒い日ならネイビーなジャージの着用が認められているけれど、今はまだそんな季節じゃないのでジャージは無し。


 着替え終わり、自分の運動着姿を見下ろしつつ白の布部分を引っ張ってみる。


 そこそこ布に厚みがある。これなら汗をかいても透けることはないだろう。

 何がとは言わないけど。


「じゃあ行きましょうか」

「そうだねー」

「はい」


 【リリエル】3名で"ぞろぞろ"と校舎から外へと移動。

 今日は天気も良いので実習は運動場 兼 決闘場で行われる。

 ここにも、体育館の方にもラピス様の魔力が感じられる。

 上級魔法を使っても外に被害を出さないように結解が張られているみたいだ。


 魔法学担当の教師が私達生徒の前に立つ。

 その口から告げられるのは実習のこと。

 これから行われるのは魔法を使った模擬戦。物理攻撃は禁止。

 魔法なら相手を殺さない程度に下級から上級迄何を使っても良いとのこと。

 この学園にはラピス様が採用した優秀な学園医がいるからと。

 それこそ手足を失っても再生させることのできる腕前なのだそうだ。

 私のヲタク知識が私に告げる。



 それって絶対に聖女じゃん。間違いなくそうだよね―――。



「でも聖女って勇者と共にいるのが定石の筈ですが……」

 

 独り言。寝返ったのかな。ラピス様の場合、勇者がいなくなったからといって強引に拉致とかするタイプじゃない。女性大好きな方だし。


「まさか聖女と呼ばれる程の人がラピス様の魔力に気が付いていない。……なんてことはありませんよね」


 寝返ったんだろう。うん。

 そういうことにすることにした。


「それでは模擬戦の相手ですが―――」

「はい! うちはそこのエルフもどきとやり合いたいです」


 そう来ると思ってた。

 丁度いい。私もそのつもりだったしね。


「だ、そうですが。どうですか? リーネさん」


 教師が私に尋ねてくる。

 ケーレは厭らしい笑みを浮かべてて嫌な感じだ。


「とりあえずエルフ「もどき」って言われたのが気に入りません」

「確かに今のよくなかったわね。ケーレさん、次から相手を見下すような言葉は慎むように」

「はーい」


 教師に注意されて不貞腐れた返事をするケーレ。

 しかし彼女は反省などせずにすぐに立ち直る。


「で、うちとするの? それとも逃げる?」


 何処かで聞いたような気がするなぁ、その言葉。デジャヴだー。

 今となっては物凄く懐かしい。


「その模擬戦。受けます。でもただ戦うだけではつまらないと思いませんか? 何か賭けませんか?」


 教師は私の言葉を聞いて嫌な顔をする。

 注意してこようとしてきたのでその前に別の言葉で制した。


「勿論、常識の範囲内でです。それなら問題ありませんよね? 先生」

「う~ん。教師としては返答に困りますが、例えばどういうことです?」

「私が勝ったら今後は私に絡んでこないこと。ならいいですよね?」

「絡んでくるとは?」


 ケーレの顔色が変わる。

 まぁ、教師に聞かれたら拙いよね。

 私に何か言われる前にケーレは返答をしてきた。


「じゃあうちが勝ったら明日のお昼。学食であんたの奢りってことでどう?」

「構いませんよ」


 私とケーレ。2人で立ち上がる。

 この程度の賭け事くらいならと教師も認めたのだろう。

 特に何か言ってくることもない。


「ではまずリーネさんとケーレさん。決闘場に立ってください」

「はい」

「はい!」


 運動場の中央。そこに特別な場所がある。

 この学校の運動場は全体的に芝生が生えているのだけど、中央部にだけは生えていないのだ。

 そこだけ砂。砂の色は黒く、円状になっている。


「この円の中から出るか。もしくは倒れるか。相手に「参りました」と言わせた方が勝ちとします」


 教師の言葉。うん。分かりやすい。


 私とケーレ。2人でその円状の場所へ歩いていく。

 並んで歩いていく中、ケーレが私にだけ聞こえるように言ってくる。


「まずはその耳。引き千切ったげるから覚悟してなさいよね」


 それを聞いて小さく笑う私。

 大きな口を叩くものだ。これから自分がどうなるかも知らないで。


「何がおかしいのよ?」

「いえ、別になんでもありません」


 並んで歩くのは途中迄。

 ある程度の所で分かれて右と左へ。

 右側に私。左側にケーレが立つ。


 と、その場に現れるのは透明の半円。

 カプセルの半分みたいなモノの中に私達は閉じ込められる。

 運動場そのものにも結果が張っているけれど、これも結界。

 決闘を盛り上げる為か。念の為か。

 いずれにしてもラピス様の魔力で張られている為に異常と呼べる強力さだ。

 肌に感じるそれがちょっと怖い。


 ケーレ側は何も感じてないみたいだけど。


 アリシアとミーアを"ちらっ"と見る。

 軽く手を振ってくれている2人が可愛い。

 心が自然と落ち着いていく。


「それでは魔法学実習。模擬戦を開始します。2人共準備はいいですか?」

「はい」

「はい!」


 私達の返事を聞いて教師が笛を吹く。

 模擬戦開始の合図。と同時に2人揃って空中から取り出すのは自分の得物。

 ケーレは長いタイプの杖が得物らしい。

 地球のファタンジー物語では定番の、先がくるりっと巻いた木の杖。

 最初に動くのはケーレ。

 

風の刃(ウィンドブレード)


 本当に私の耳を狙ってきた。

 それにしても微弱な魔法だ。

 この程度なら……。


 私は魔法を使わずに右手を横に振って杖のみでその魔法を払い除ける。

 それを見て目を丸くするケーレ。


「その程度ですか?」


 聞くとケーレは次の魔法を放ってきた。


「下級魔法程度じゃダメってことね。それなら」


 ケーレの身体の前に竜巻が渦巻く。

 風の上級魔法。ううん、風だけじゃない。水と雷も闇も合わさってる。


「これでも食らいなさい。呪魂の鎮魂歌(カースレクイエム)


 それは禁忌の魔法。

 魂に呪いを付与。やがては呪われた者を死に至らしめる魔法。

 禁断の魔法が使われたのを見て慌てる教師。騒めく生徒。ただ、【リリエル】。

 アリシアとミーアだけは黙って私のことを見ている。


「これで貴女も終わりね」

「はぁ……っ。つまらない魔法ですね」

「は?」


 ケーレの魔法が私へと襲い来る。

 教師が結界の外から咄嗟になんとかしようとしているけど、その前に私がケーレの魔法(モノ)を消す。


「はっきり言いましょう。貴女の実力では私には勝てません。暴食之魔帝(ベルゼビュート)


 私の眼前に現れるのは黒と赤の混合。円形の光。

 光は虚空。魔法の名の通りケーレの魔法を喰い尽くす。

 それでは飽き足らず、ケーレに噛み付き、彼女の魔力を喰らおうとする。

 この魔法は餓鬼だ。幾ら喰らっても決して満たさることは無い。

 私の魔法が本気で彼女に噛み付く前に前に霧散させた。


「なっ! なんで。ノマエルフ如きがうちの魔法を」

「ノマエルフだの。ハイエルフだの。くだらないです。呆れます。それに……」


 私は自分の魔力を自分の身体に纏わせる。

 ここにいる全員に[格]の違いを見せ付ける為。

 流石にラピス様には到底及ばないけれど、私にもドラゴンに匹敵する程度の魔力量がある。

 ラピス様の魔力量が10,000ならドラゴンは8,500~8,200だ。

 300の差は個体差によるもの。私の場合は7,500くらいだろうと多分思う。

 なので4,000程度のハイエルフの魔力を捻じ伏せる程度のこと、そんなに難しいことじゃない。


「なっ、あんた……。なんなの……。本当にノマエルフ? 何よ! その魔力量」

「まだその俗称を言うのですか。やれやれ、ですよ」


 私の魔力で結解が振動している。

 壊れはしないけど、外に漏れるのを防ぐ為に結解さんは頑張ってるみたいだ。


「ば、化け物」

「それを言われたのは何回目でしょうかね。もう覚えていません」


 何回目だっけ? まぁ、どうでもいいか。


「本当はこれを使うと魔力をごっそり持っていかれますのであまり使いたくないのですが、でもこの後に邪族との戦闘が控えているではないですし、いいですかね。これで反省してくださいね。見せてあげます。私の力を、ね」


"すーっ、はーっ"

 息を吸い、吐き出す。

 私は私の身体から右手の杖に魔力を伝わせて、ケーレの眼前へと突き出す。

 そして私は彼女を()ぶ。


「水の精霊よ。我が呼び声に応えよ。時に世界を潤わして、時に世界を破壊せよ。清め、流せ。その力を我に示せ。代償は我が魔力。さぁ、我が前にその姿を現せ。そして我が敵を討ち倒せ。顕現せよ! 水の精霊・ウンディーネ」


 ごっそりと魔力が身体から抜けていく。

 相変わらずこれを使った後は疲労感が凄まじい。

 

「み、水の精霊ですって?」

「そうです。私と契約してる存在です。美しい存在ですよ」

〔リーネじゃない!〕


 ケーレと一言、話している間にウンディーネが私の前に現れる。

 その姿は全身青。人型でパレオ水着のような衣装をその身に纏っている。

 右手に持っているのは三つ又の矛。風の精霊シルフの次に私に懐いてくれている水の精霊。


〔なんだかよく分からないけど、いつもと違う感じがするわね〕


 辺りを"きょろきょろ"と見回しつつ小首を傾げているウンディーネが何所となく可愛い。

 私は私の可愛い水の精霊・ウンディーネに近寄り、小さな声で耳打ちする。


〔へぇ、そんなことになってるの。それはともかく分かったわ〕


 ウンディーネが周りを見回すのをやめて矛をケーレに向ける。

 矛に凝縮された強大な水の魔力が集っていく。


〔これで死んだらごめんなさいね〕

「あっ……。あぁっっっ」


 ケーレの下半身から湯気と液体。

 あまりの恐怖に耐えられなかったらしい。


 私はケーレに追い打ちをかける。


「ウンディーネも言ってたけど、殺してしまったら、ごめんなさい」


 ウンディーネが魔法を解き放つ。

 それを見てケーレは絶望して、気を失った。


「まぁ、ケーレには当てないように魔法を放ってと予め言ってあったりするんですけどね」


 ウンディーネは私のお願い通りにケーレの頭上よりそこそこ高い所にある結界に魔法を当てた。

 

 壊れた。


 ウンディーネの魔法は中央の結界をまさかの破壊をして、外の結界に当たり霧散した。


「噓ですよね……」


 呆然としたのは私だ。

 結局そのせいでその後の魔法学実習模擬戦は中止となり、生徒達は普通の魔法の練習へシフト。

 私はラピス様に呼ばれて、しこたま怒られた。

 しかも罰としてラピス様とウンディーネと一緒に結界の張り直しをさせられた。

 ウンディーネのこと()んだままにしておいて良かった。

 けど、結界張り直し完了後。私は魔力欠乏症に陥って気を失ったのだった。

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