-二章- プリエール女子学園 その01。
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私がこの世界に来てから5年の月日が経過した。
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ルージェン王国。その地方のうちの1つロマーナ。
私ことリーネは、その建物の前で複雑な表情を浮かべていた。
「まさかまた学校に通うことになるとは思ってもいませんでした。予想外です」
そう。今、私の目の前に在るのは学校。
普通の学校じゃない。騎士や傭兵やハンターを養成する事も兼ねている所。
今から4年程前、人に仇を成す[魔物]の種族名が[邪族]に変わった頃。
その時にこの学園は[国命]によって設立された。
その理由は[邪族]に対抗する為の強い騎士や衛兵やハンターを育成する為。
というのは表向きの理由で、本当の設立理由は戦闘の経験の少ない騎士や衛兵・ハンターの中に身の丈に合わない任務・依頼を受けた末に[邪族]に殺されてしまうという事柄が多く続いた為。
王都の謁見室でその[事]を各地方の領主や騎士団長やギルドマスターから聞いた女王フレデリーク様は事態を重く受け止めて、件のスライムの所へと赴き、話を持ち掛けた結果、それならばその為の施設を建設しようということになったらしい。
施設。学園の建設。費用は少なからず掛かるが、一般教養を王国の[民]が身に着けることができるし、先に述べた騎士や衛兵やハンターの養成もできる。長い目で見れば国にとって良いこと尽くめということで女王フレデリーク様は即刻、学園の建設を始めた。
ただ、この国は残念ながら全部の地方が裕福という訳じゃない。
元々私がいた西暦2020年代の日本でもそうだったように、各地方によって貧富の格差がある。
そこで女王フレデリーク様が[国命]として学園の設立命を出したのは比較的資金に余裕がある地方領主に限ってだけだった。
私達が暮らすロマーナはそんなに資金に余裕がある地方じゃない。
そもそもここは[のどかな地方]、言い方を変えれば[田舎]。
特産品はお茶と乳製品、魚介類とそれなりな味のお肉とこの世界ではそこそこに上質な品質の服。
例えばミスリルなどといった鉱石は残念ながら余り採掘できない。
なのでそれらがふんだんに採掘可能な地方と比べたら資金に雲泥の差が生まれるのは当然のこと。
それでも、それでもシエンナ様はその話を隣の地方の領主様から聞いて、自身が統治するロマーナ地方にも学園を設立することを決定した。
実はロマーナ地方には国からの命令は届いていなかった。
女王フレデリーク様がそれ程裕福ではないロマーナ地方にそんな資金を使わせるのは忍びないと思ったからだろう。
人口だって私達【リリエル】がこの地方に居ついてからは私達の、自分で言うのもなんだけど、活躍ぶりを聞いた主にハンター達が他の地方から移住をして来て、前よりは少し増えたけど、それでも日本でいうと[政令指定都市]だったかな? にはさっぱり届いてない。
だというのにシエンナ様が学園を作ることを決定した背景は……。
「若い女の子の制服姿。絶対可愛いですよね」
っていう完全に私的なものだった。
これは余談だけど、この国は女性に限り20代・30代……。
なんなら100歳を超えてもどう見ても10代にしか見えない者が多い。
それはまず、エルフはその種族特性からによるもの。
他種族は件のスライムだけじゃなく、国中の地方・各地にいる多数のスライムの恩恵によるもの。
噂によると、他の国よりもこの国はスライムの数が多いらしい。
それは他の国からわざわざこの国に移住してくるスライムが多いからそうなっているのだとか。
本題に戻るけど、他の種族はスライムに頼めば貰える溶液を飲んだり、お風呂に使ったりして若さを保っている。
スライムの溶液は女性と相性が良い。それを使うとこの世界のエルフ以外の種族の寿命は本来は60~300歳くらいなのに、それが300年程延長。しかも老化が著しく遅くなる。
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1ヶ月に最低1度は溶液を使うことが必須事項。
忘れると溶液による恩恵は効果を失ってしまう。
その時は再び溶液を使えば恩恵が戻ってくるが忘れていた時期の分は戻らない。ので要注意。
例えば1年忘れていたらその1年は老化などが普通に進むということ。
ここら辺、特に人間は注意する必要がある。
彼女ら、彼らは1年ごとに歳を重ねるのだから。
獣人と魔物はエルフ程ではなくても老化の進み具合はそれ程でもない。
閑話休題
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それがどう見ても10代にしか見えない女性がこの国に多い理由だ。
それなら他の国でもそうしたらいいのにと思うけど、他の国ではどうやらそれが機能しないよう。
この国だけ。この国だけが、どういう訳かその仕組みが機能しているらしい。
それに他の国では多様な種族同士でいがみ合っている国が多いと聞いた。
この国は[一部の例外を除いて]種族間で差別とか偏見は余り無い。
差別どころか仲が良い。特に魔物は件のスライムの影響からだろうか?
懐っこいものが多く、自分達の側から他種族に寄って行って、その距離を縮めているくらいだ。
まぁそんな訳で、この国で実際10代以上に年齢を重ねている者が制服を身に着けても違和感はまるで無い。
「と、なれば学園を造らないなんていう道理あり得ませんよね!!」
とか"ふんすっ"とシエンナ様が鼻息を荒くしていたのを見聞きしてドン引きしたというのはラナの村からシエンナ様の領主館に文官として出向している村民の談。
それを聞いた私達もシエンナ様に申し訳ないけど、【リリエル】全員でドン引きしてしまった。
シエンナ様はもっと大人な方で、決して私的なことで[国命]をある意味利用するような方じゃないと思ってた。
それが蓋を開けてみれば全然そんなことなかった。
過去に誰かがシエンナ様は大人の雰囲気を醸し出してて素敵な女性だ。
とか言ってたよね。
そうだよ! 私だよ。
私はそれを聞いてから、シエンナ様に対する心象を1段階引き下げた。
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とは言え、私達【リリエル】には学園なんて無関係なことだと思ってた。
何しろ【リリエル】はそんな学園に通わずとも十二分に戦果を挙げていたから。
依頼を受けてからそれを達成し、ギルドへと報告。
その報告が[真]なるものか[偽]なるものか見抜くシステムがハンターギルドには在る。
それは私が作った冷蔵庫と同じ[魔道具]に当たる物。
地球でいうとタブレットサイズの石板。それに手を乗せて成果を告げると[真]であれば石板が虹色に光り、[嘘]であれば反応すら示さないという優れもの。
私達の場合はいつも石板は虹色に光っていた。
嘘なんて吐いて無いんだから当然なんだけどね。
だから、その時迄は私達には縁の無い話だと思っていたんだ。
シエンナ様から直々に「【リリエル】の皆さんにお願いがあります。これからの1年間。正確には今の時期だとそれに少し足りないくらいですけど。でいいので、プリエール女子学園に通ってください」なんていう依頼を受ける迄は―――。




