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-一章 最終話- デュランタ。

 後日。

 ハンターギルド・ロマーナ地方支部。

 元ギルドマスターは突然ロマーナ地方領主ことシエンナ・フォン・ルフォールに辞表を提出し、あっさりと受理されて別の者がその座に就くことになった。

 これ迄散々にこの地方の人々に迷惑をかけてきた盗賊団の一味の中にハンターがいたこと。

 それに何よりも【リリエル】に危機を齎したことがシエンナにとっては何よりも許しがたいものだったらしい。

 しかしそれは自分も同じこと。なので自分も領主の座を降りようと一度はしたが、それは他ならぬ【リリエル】の面々と、シエンナの傍で働く人々、この地方で暮らす人々に全力で止められて結局シエンナはロマーナ地方領主の座に残ることとなった。


 そして新しく就任したギルドマスター。

 その者は異世界人でその名前をヒカリという。

 シエンナが【リリエル】の面々と共に新しいギルドマスター候補を選んでいる際にリーネがその者・ヒカリを是非にとシエンナに推薦したのだ。


 推薦したのは彼女のことをよく知っていたから。

 虐められてた自分に唯一優しかった者。近所に住んでいた姉のような存在。

 リーネはそのことをヒカリに告げるか否か悩んだが、告げることはやめることを選んだ。


 この世界では元の自分ではなく、リーネとして生きていくことを改めて選択したからだ。


 ところで元ギルドマスターに啖呵を切ったリーネだが、結局ギルドからはお金を貰うことはしなかった。

 ヒカリにその分のお金を役立てて欲しいと、そう思ったから。

 これからのハンターギルド・ロマーナ地方支部の為に。

 

 それから数日後。

 ハンターギルドにて掲示板に貼られている依頼書の内容を読んで選んでいる際にヒカリの目にたまたま留まったリーネの姿。

 それから個人的にヒカリにギルドマスター室へと呼び出されたリーネは驚愕することになった。


「単刀直入に聞きますね。リーネさんって里奈ちゃん、だよね」

「……!!!? えっ」

「久しぶりだね。里奈ちゃん。あ! 今はリーネちゃんって呼んだ方がいい?」

「な、なんでです? どうして分かったんですか!?」

「分かるよ。里奈ちゃんの時の癖が抜けきってないんだもの。例えば、依頼を見ているときに少し耳を弄ったりするところとか、あたしと話すときには照れ臭そうにするところとか、ね」

「う……っ」

「大丈夫。誰にも言ったりしないから。でも……」


**********


 ギルドマスター室を出た私は1人頭を抱えていた。

 まさか正体がバレるなんて思いもよらなかった。

 この世界で地球での自分のことを知っているのは自分自身とヒカリだけ。

 ミーアにはあのクソゲー世界でリーネを通して自分が虐めなど受けていること、親からはネグレクトを受けていること、中学生であることなどは話しているけども本名迄は教えてない。

 逆に私もミーアの本名を知らなかったりする。

 単純に考えると[美愛]とかかなって思ってはいるけれど。


「あ~~っ。」


 ある意味弱みを握られた。

 ギルドマスター室を出る時にヒカリ……。

 ヒカリお姉ちゃんに言われてしまった。


「里奈ちゃんのことは誰にも言ったりしない。約束するよ。でも、2人きりの時は前みたいに「ヒカリお姉ちゃん」って呼んでくれたら嬉しいな」


 お姉ちゃん、か……。

 もし呼ばなかったらどうなるんだろう? ってちょっと考える。

 うん、ヒカリお姉ちゃんはそれでも私のことを誰かに言ったりはしないだろう。

 ただ、寂しそうな顔はすると思う。

 私が小学生くらいの頃からずっと私の成長を見守ってくれていた人だから。


「断れないですね……」


 私はしばしそこで悩んだ後に、私だけじゃなく【リリエル】にも情報を開示して共有することにした。

 アリシアとミーアがどういう反応をするかほんの少し怖かったけれど、2人は私の言葉を飲み込んで、理解してから私にとって予想外のことを言い放った。


「それならわたしもヒカリさんをお姉さんと呼びたいわ。実は憧れてたのよ。姉妹っていう関係。わたしには姉も妹もいなかったから」

「分かるー。同じ同じー」


 思わず呆けてしまったのは仕方ないと思う。

 だって、誰がそんなこと言いだすと思う。

 思わないよね。普通。思わない、よね?


 その後【リリエル】3名とギルドマスター・ヒカリお姉ちゃんとのみの時は本当に2人はヒカリお姉ちゃんのことを「ヒカリお姉さん」と呼び出した。

 最初は突然のことに、さしものヒカリお姉ちゃんも言葉が出ない様子だった。

 まぁびっくりするよね。うん。

 でも私の様子を見て、何かを察したらしいヒカリお姉ちゃんはすぐにそれを受け入れた。

 元々人を見守ること・誰かの為に何かをすることが性に合っているらしい。

 

 ヒカリお姉ちゃんは早々に順応して私達のことを順番に可愛がり始めた。


「この世界に来て正直困惑してたところもあったのだけど、結果まさか3人も妹ができるなんて、ね。嬉しいな」


 私は昔からヒカリお姉ちゃんのことを知っている。

 知っているから、この先にどうなるか分かってた。予想してた。当たってた。


 それに対してアリシアとミーアは実際に「ヒカリお姉さん」と言ってみる日迄は{姉妹ごっこ}みたいな感じなんだろうなぁって思っていたらしい。

 ところが実際に言ってみるとヒカリお姉ちゃんの抗えない包容力。

 2人はそれに中てられ、すぐにヒカリお姉ちゃんの前に陥落した。

 実際の[姉]としてヒカリお姉ちゃんのことを慕うようになった。

 ヒカリお姉ちゃんと【リリエル】が出会ってから数日が経った。

 今日も私達は他のギルド職員には内緒でギルドマスター室にて女子会を開催していたりする。

 女子会の話題は主に私達3人のこと。ハンターとしての私達じゃなくて、普段の私達の生活のこと。

 ヒカリお姉ちゃんが話を振ってきて、それに私達が答える。……のだけれど。

 アリシアとミーアの答えは大体が惚気なのだ。

 2人で私を可愛がってる! っていうこと迄も答えているのだから恥ずかしいったらありゃしない。

 それもこれもヒカリお姉ちゃんが聞き出し上手なのが悪い。

 照れ隠しの為に「ヒカリお姉ちゃんにはそういう相手はいないの?」って聞いたことがあるけれど、ヒカリお姉ちゃんは自分が[恋]をするよりも誰かの[恋]を見守っている方が好きらしい。

 なのでその説明をされた後で「あたしはそういうタイプだから」って言われたら、もう私は何も言えなくなった。

 そこからはヒカリお姉ちゃんの質問が飛んでアリシアとミーアがそれに答える形が完全にできあがった。

 私は毎回公開羞恥に悶えるだけ。

 頬が熱い。身体が火照る。

 恥ずかしすぎて顔から火が出そうっていうのはこういうことを言うんだと思う。

 

「ふふっ。普段の【リリエル】の皆さんはそういう生活をなさっているんですね」


 不意に聞こえてきた声に私は"ぎょっ"としてしまった。

 いつからいたの? 領主・シエンナ様。

 シエンナ様はちゃっかり私達に交じって楽しそうにアリシアとミーアの話を聞いている。


「い、いつからそちらにいらしたんですか?」


 聞いてみると今日は最初からいたらしい。

 なんでもヒカリお姉ちゃんがシエンナ様を誘った。とのことだった。


「ヒカリお姉ちゃん!!?」


 私の顔は多分真っ赤なリンゴみたいになっていると思う。

 そんな顔でヒカリお姉ちゃんに抗議をする。

 が、ヒカリお姉ちゃんは私のことを歯牙にもかけない。


「前から参加したいって言っていらしたからね」


 とかのたまった。

 そうだった。今頃思い出した。

 ヒカリお姉ちゃんはここのギルドマスターになる前、シエンナ様の屋敷でメイドさんをしていたのだ。

 しかもメイド長の次に偉い人。

 そんな人だったから、シエンナ様と知り合いなのも当然だよね。


「それでですね。リーネったらすっごく可愛いんですよ」

「そうそうー。可愛がってるうちに甘えてくるのワンコみたいだよねー」

「そうなのね。【リリエル】の皆さんのその話、もっと聞きたいわ」

「リーネちゃん、今は幸せそうであたしも安心ね」

「じゃあ続けます。リーネはですね。擽りにも弱くて」

「ああ、その時のリーネ可愛いよねー」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。もうやめてください~~」


 恥ずかしさで死ぬ。

 いや、もういっそ誰か私を殺せ。


「照れてるリーネも可愛いわ」

「うんうん。可愛い可愛いー」

「ふふっ、本当ね」

「そういうところは変わらないね。リーネちゃんは」


 アリシアにミーアにヒカリお姉ちゃんに領主さん。

 4人に強く抱き締められる。

 地球では虐められっ子だった私。親からネグレクトされてた私。

 それが今ではこんなにも素敵な人達に囲まれている。

 この世界に来れて良かった。

 この世界が私の居場所。

 私はずっとここで―――。生きる。


「ところでリーネちゃんは昔から結構照れ屋だったんだけど、それは今も変わってないのかな?」

「あ! それ、今も変わってないですよ。例えばこうするだけで」

「アリシアがするなら自分もー」


 私の右の腕にアリシアの両手が絡み付けられて、左の腕にミーアの腕が絡み付けられる。

 そして、左右から私の頬へのキス。


"ぼんっっっっ!!!!!"


 頭。脳が沸騰して身体に力が入らなくなる。

 軟体動物化してしまう私。


「ほら。こんな感じです」

「可愛いー」


 いや、これに耐えられる人っている?

 いないよね? 無理だよね?


「恥ずかしいですが、幸せで頭がおかしくなりそうです」

「幸せって言ってくれた?」

「はい、幸せですよ」

「そっかー。それじゃあー」


 アリシアとミーアが顔を見合わせて悪い顔をする。

 そこを見逃さないヒカリお姉ちゃん。


「話の続き開始だね」


 私の公開羞恥。もう処刑だよ、これ。

 それは長々と続き、私はその間中、悶え続けたのだった。


**********


 ラナの村。

 帰ってきたのはついさっき。

 邪族討伐後に始まったお茶会。短時間で帰宅するつもりが長引いて、最終的には4~5時間ギルドマスター室に私達は意図せず居座ることになった。

 家の前。さっき迄のことを思い出しながら私は空に視線を向けて物思いに耽る。

 火照った身体に涼しい夜風が気持ち良い。

 それに地球と違って、明かりが少ないが故に闇夜に輝く満天の星々が美しい。

 

 恥ずかしかったけど、やっぱり幸せだったな~。


 そんなことを想っていたら、ふと私を呼ぶ声が聞こえる。


「リーネ。こんなところで何をしているの? 風邪を引くわよ」

「星を見ていました。……そうですね。でももう少しだけここにいたいです」

「星かぁ。あっちでは田舎に行かないと見えなかったよねー」

「はい。ですから余計に綺麗に見えます」

「そうなの? こんなに綺麗な光が見えないなんて。残念ね」

「あっちの世界にいた時はそんなこと思わなかったのですけどね。今は……、そう思います」

「星もいいけど、自分はー……」


 ミーアが私に抱き着いてくる。


「そうね。わたしも星よりも」


 ギルドマスター室での再現みたい。

 右側にアリシア、左側にミーア。

 2人が私に抱き着いて、同じタイミングで私の左右の頬にキスをする。

 

 だけじゃ終わらなかった。


「大好きよ。リーネ」

「大好きだよー。リーネ」


 最初にアリシア、次にミーア。

 2人から私の唇へのキス。

 しかも2人共同じくらいに長め。


「……………。無理ですよ」


 自分が幸せすぎて私はその場にへたり込んだ。

 それから2人に左右それぞれ肩を借りて家の中に連れて行って貰って、その矢先にまた2人からキスを受けた。

 こんなに幸せでいいのかな。


 幸せすぎて怖いけど、今はこの幸せを―――。


 享受することにした。


「キス……。もっとして欲しいです」

「リ、リーネ」

「うわっ。可愛すぎるー」


 その日の夜は2人から沢山キスをして貰いました。幸せでした。


-------

一章 Fin.

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