-一章- vs フレンジー盗賊団 その05。
さて、【リリエル】vs【フレンジー盗賊団】の最終決戦。
その火蓋が今、切って落とされた。
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【リリエル】は元々3名。
【フレンジー盗賊団】は100名から10名に減少。
最終決戦の中で、私が殺る相手に定めたのは、当然馬車の中で私の太腿を無遠慮に触ったソイツだった。アリシアとミーアも譲ってくれるって言ってたしね。
右手に杖を出現させて、アリシアが持つダガーと同じ形の得物に変える。
それを逆手に持ち、狙うはソイツの頬。
「シッ!!」
ソイツは私の速さに付いて来ることなんてできず、いとも簡単に私の狙い通りの場所に攻撃することができた。
「痛っ」
「今のは挨拶代わりです。次からは本気で行きます。死にたくなかったら、私の動きに付いてきてくださいね」
ソイツにそんな芸当できる筈ない。
分かってて言う私は性格悪い。
「ほら、ほら、ほら、ほらっ」
頬、掌、腕、胸、腹、脚。
何処もほんの少しだけ皮の内部の肉が斬れるようにわざと薄く斬る。
「ぐわっ。くそっ……。痛てぇっ」
ソイツの背後に回る。次に斬るのはソイツの背中。
確か武士道とか騎士道では背後からの攻撃は「外道」って呼ばれるんだっけ?
けど私は武士でもなければ騎士でもない。
だからそんなこと知ったことじゃない。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
背中は深く斬った。
赤が舞う。汚い人間らしく汚い色な赤が。
「全然付いて来れてないではないですか。それでは死んでしまいますよ」
"ふふふっ"と笑う。
ソイツの眼前で。
私が自分の背後からいつそこに行ったのか。
ソイツには見えていなかったのだろう。
「なっ!!」
ソイツは驚愕の声を上げる。
「次はここにしますね」
ソイツの喉をダガーで一突き。
これでソイツは永久に喋ることはできない。
まぁ最も、どうせこれから死ぬのだから……、喋れなくなったところで関係ないわけだけど。
"ざんっ"手首を斬る。最初は右手首。次に左手首。
脚は左右とも根元から切断して、ソイツを砂漠の砂の上に寝転がす。
「今迄……」
ソイツが喋れないことを承知の上でソイツに喋り掛ける私。
この。私の身体を巡る、この感情はエルフの里が燃やされたあの時と、同じだ。
「今迄何人の人を殺してきたのですか? 傷つけてきたのですか? 女性を慰みモノにしてきたのですか?」
ソイツの顔は、赤くて白い。
そのままにしておくと出血多量で死んでしまうだろう。
まだ死なれては困る。ダガーから杖へと得物を戻す。
炎の魔法で私が斬った部分を焼いて流れ出るモノを止めてやった。
麻酔なんて無い。そのままだ。喉を斬っておいて良かった。
そのままだったら、さぞかしソイツの悲鳴で煩かったことだろう。
杖は左手に持ち、代わりに右手に持つのはその辺に落ちていた、ただの木の棒。
「殺された人達は、慰みモノにされた女性達は、きっと「許して」と貴方達に懇願をしていましたよね? 泣いていましたよね? ですが、貴方達はそんな人達を見ても自分達の行動を改めたことなんて……」
木の棒を大きく振り上げる。
狙うのはソイツの急所。
「無いのですよね!!!」
"ぶちゃ"潰れる音が聞こえる。
泡を吹き、気絶するソイツ。
私は左手に持った杖で魔法を使う。
「上級治癒魔法」
一度で許す筈がない。
治しては潰し、また治しては潰す。
魔力欠乏症になるその寸前迄、何度かそれを繰り返す。
ソイツは首を振って私に赦しを乞うている。
喋れなくしてるから分からないけど、多分命乞いもしているだろう。
魔力は残り少ない。
だから魔法でトドメを刺すことはできない。
「もう少し魔力が残っていたら後数回は潰せたのですが……」
杖を空中に消し、コイツにトドメを刺すのに相応しい物を探す。
「ん~~~っ」
何かよさげな物はないかと辺りを"きょろきょろ"としていたら、ぴったりな物が私の目に留まった。
「これでいいですかね」
"くすくすっ"と笑う。
それは錆びた剣。
アリシアかミーアか2人のうちのどちらかが倒した盗賊団の誰かが持っていたのだろう。
この盗賊団ってゴブリンみたいだ。
ゴブリンは自分達が倒したハンターや一般人。
その人達が元々所有していた物を自分達の物として使う。
が、彼らは手入れの仕方なんて知らないので、ずっとそのまま。
なのでゴブリン達が使う物は大体の物が錆びちゃったり、壊れちゃったりしてるのだ。
「ですがまぁ、貴方達のような人でなしにはお似合いですかね」
その拾った剣を逆さにして両手で持つ。
その切っ先はソイツの心の臓へ向けて。
「意外と重いですね」
何しろ私は魔法特化型だ。
日頃は武器など扱うにしても、魔法を使ってそれを軽くしたりしている。
しかし魔力が残っていない今はそれができない。
疲労感も覚えてる。本当に私は魔力が無くなれば無力だ。
「う~、なんのこれしき。私の名誉の為にちゃんと終わらせます」
失敗した。
肋骨が邪魔をしてくれた。
こっちは疲れてるのに、鬱陶しい。
オマケに剣が折れた。
この程度で折れるって……。
手入れしてなさすぎでしょうよ。
「あ~~~~、もう~~~っ!!!」
結局私は、ソイツにトドメを刺す為に4本もの錆びた剣を使うことになった。
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かくして【フレンジー盗賊団】はこの世から消滅した。
私は疲れ切って"ぼ~っ"とその様子を見てただけだけど、最後に残した盗賊団の一番上の人間こと[お頭]にアリシアとミーアがごうも……。げふんげふん。尋問をしてアジトの場所を聞き出し、そこに僅かにまだいた盗賊団の残党を殲滅。アジト内に捕らわれていた人々を救出して、本当にこの件は幕を下ろした。
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それから3日後の昼。
私達【リリエル】はブロブフィッシュ。……に似てるハンターギルド・ロマーナ地方支部のギルドマスターに呼ばれてギルドマスターの部屋にいる。
本当は盗賊団討伐終了後の翌日にはここに来るように言われていたのだけれど、アリシアとミーアのせいで私は2日程立てなくなり、訪問が今日になったのだ。
立てなくなるような事って何かって? 想像に任せるよ。
「まずは盗賊団の盗伐、ご苦労だった」
そう言ってギルドマスターが私達を労う。
その後、机の下に置いてあった物を机の上へ。
「で、これが領主様からの報酬だ」
大きな革袋。中を見ると結構な量の金貨が入っている。
それはいいのだけど……。
「今日は領主様は来られないのですか?」
尋ねるとギルドマスターは「本人は来たかったようだが、どうしても会わなくてはならない来客が訪ねてくる予定が入ったみたいで来られないことを嘆いておられたよ」 と尋ねた私にそう告げた。
「そうですか」
とは言ったものの、少し……。
ではなくかなり残念。目の保養になるから是非来て欲しかった。
ブロブフィッシュと合わせて4人。残念過ぎる。
「それでだ」
報酬を受け取り、用は済んだと立ち上がろうとした私達にギルドマスターは語り掛けてくる。
「俺はお前達に討伐の翌日にはここに来るようにと招集令を掛けていた筈だよな。それがまさかの今日とは。遅れた理由は一体なんだ」
ギルドマスターは少し怒っているようだ。
が、こちらとて来たくても来られなかったんだから仕方ないじゃないか。
どう理由を話そうかと悩んでいると、アリシアが口を開いた。
「プライベートな理由に迄突っ込んでくる権利がギルドマスターにはおありなんですかしら?」
「プライベート? つまりあれか? ギルドより自分達のことを優先したってことか? こう言っちゃなんだがなぁ。ハンターの自覚ってやつが足りてないんじゃないか。【リリエル】」
その言葉に"むっ"とする。
実際、ギルドマスターの言うことも間違えてはいないが、売り言葉に買い言葉。
そっちがそう出るならばこちらも言わせて貰うことにする。
私は喧嘩は時と場合によっては堂々と買う主義だ。
全部こっちの世界に来てからの話だけど。
「それなら貴方もギルドマスターとしての器が足りていないのではないですか?」
「なんだと!!」
ギルドマスターが立ち上がる。
私を見下ろしながら睨んでくる。
この目に怯む者もハンターの中にはそこそこいるだろう。
特に下の方のクラスのハンター。
ハンターにはクラスがある。
下から青銅・鋼鉄・白銀・黄金・白金という順番だ。
私達【リリエル】は白銀ランク。
領主様的には黄金ないしは白金ランクでもいいらしいけど、黄金になると王都に招かれて偉い人達とお食事会。なんてこともあるみたいなので、それが面倒で白銀ランクでい続けさせて貰っている。
「どういう意味だ!」
ギルドマスターが吠える。
私はそれを睨みつける。
魔力を身体に纏うようにしてわざと溢れさせて[力]を示す。
ギルドマスターは白金ランク。
しかしそれは過去の話。今はハンターを引退して育成する者となっている。
まぁ例え今も現役であったとしても私とギルドマスターとでは……。
ううん、今となっては私とアリシアとミーア。
それぞれ1人ずつでもギルドマスターと私達【リリエル】とでは勝負にすらならない。
ギルドマスターを圧倒して勝利する自信が私達【リリエル】にはある。
「今回の件、ハンターの中に盗賊団に協力している者達がいたことを貴方はお忘れですか?」
「それは……」
私に言われ、言葉を詰まらせるギルドマスター。
沈黙したギルドマスターに意地の悪い私は追い打ちを掛ける。
「そのせいで私達はアイツらの慰みモノ 或いは 奴隷にされるところでした。最悪変態に売られていた可能性だってありました。免れましたけど。という訳で私達【リリエル】には貴方を糾弾する権利があるのです。やろうと思えば領主様にも。まぁ、領主様にはやりませんけど。で、盗賊団に捕まっていた人々に対して貴方はどう責任を取るつもりなんですか? まさか謝罪だけで終わらせる。……なんてことは無いですよね? と、言いますか無理ですよね。ハンターが関わっていたんですから。貴方が過去に育ててきたハンター達が」
「ぐっ……」
私の事実上の糾弾でギルドマスターは"ドカっ"とソファに座り直す。
「で? お前達は俺にどうして欲しいんだ?」
今度は力の無い声。
今の私達より色んな意味で自分の立場の方が弱いことが分かったらしい。
"にこりっ"と微笑む私。
その私を見て顔色を悪くするギルドマスター。
「領主様からの報酬は確かにいただきました。で、ギルドからの報酬はいか程なんですか?」
これは領主様からの依頼だ。
なので領主様から報酬を貰ったからそれで終わり。
……にしようと思っていた。ついさっき迄は。けど気が変わった。
ギルドからもふんだくってやらないと気が済まない。私の気が。
「は? 今回の件は領主様からの」
「では、言い方を変えますね。慰謝料をください」
「慰謝料? それってなんだ?」
「やれやれ。そこからですか……」
この世界に慰謝料っていう概念無いのか。
説明するの面倒臭いなぁ。簡単に済ませよう。そうしよう。
「簡単に言うと、相手方の不当行為によって被った特定の人物や組織に対する精神的苦痛を被った相手に対して不当行為をした人物や組織がその相手に慰謝するために支払う損害賠償ってところです。この場合はギルドのせいで私達【リリエル】が被った[過大]な精神的苦痛を慰謝して貰う為の料金ってことになりますね」
わざとらしく「過大な」を大声で言ってみた。
ここは私の独断場。アリシアとミーアは見てるだけ。
全部のことを私に任せるつもりらしい。
「幾らだ」
観念したらしいギルドマスターの声。
私は容赦なく告げる。
「金貨60枚でいいですよ」
「おまっ……」
金貨60枚。地球の西暦2020年代の地球で言うと大体6,000,000円くらいかな。
小銅貨1枚が10円、大銅貨1枚が100円、鉄貨1枚が1,000円、銀貨1枚が10,000円、金貨1枚が100,000円、白金貨1枚が1,000,000円くらいだからそうだよね。
流石にしがない一地方のギルドにとってはそれは大金。
渋り、値切ってくるギルドマスター。
「そんなには出せん。せめて10枚で手打ちにしてくれ」
「それは安すぎますよ。それともなんですか。私達【リリエル】の価値はその程度だとでも言うのですか?」
「……分かった。20枚出そう。それ以上は本当に無理だ。勘弁してくれ」
「ふぅ。仕方がありませんね。その代わり……」
私はギルドマスターにとある注文を出すのだった。




