-特別編7 完結話- 暴動と鎮圧 その2。
リーネが勇者と戦っている頃。
アリシアは魔公テセウルズと戦闘を繰り広げていた。
彼の仲間、烏合の衆についてはミーア達が片付けを引き受けている。
数は多いが、それだけのこと。烏合の衆は烏合の衆に代わりは無い。
ミーア達のことだ。間もなく片付けは終わることだろう。
3人婦々の中で犯罪者に対して最も容赦がないのはリーネだが、ミーアはミーアでリーネとは又別の容赦の無さがある。
お仕置きという名のごうも……。
今回も烏合の衆は何かしらのお仕置きをされることになるだろう。
お尻百叩きとか、人の関節を曲げたらいけない方向に曲げられるとか。
うん。リーネを相手にするよりもミーアを相手にする方が嫌かもしれない。
自身は戦闘の最中。なのに妻2人のことを考えて苦笑いするアリシア。
随分な余裕ぶりが魔公テセウルズの気に障り、彼は強い怒気と殺気を込めて彼女を睨む。
しかし、彼の怒気も殺気もアリシアは気に留めない。
澄ました顔でやり過ごして終わり。
「てめぇ舐めてやがるのか」
アリシアの態度に吠える魔公テセウルズ。
当のアリシアはそれでも表情を変えることはない。
後、相変わらずに妻2人のことばかり考えている。
リーネの愛らしさ、ミーアの少々強引なところがありながらも感じる優しさ。
自分達は相性のいい婦々だと思う。様々な場面での役割分担もしっかりとできていると思うし。
「万象の爆裂」
魔公テセウルズから放たれる魔法。
アリシアは手にしたダガーから魔法を放ち、彼の魔法を凍らせる。
「なっっ!! はぁ??」
あり得ない。唖然とする魔公テセウルズにアリシアは欠伸をしながら問い掛ける。
「いつ迄小手調べを続けるのかしら? いい加減に本気になって欲しいのだけど」
アリシアは魔公テセウルズは本気を出していないと思っているが、全然そんなことはない。
彼は戦闘が始まった直後から常に本気だ。アリシアを亡き者にする為に殺傷能力の高い魔法を次々に放っている。
そうとは知らずにアリシアは彼の魔法を紙一重で躱したり、別の魔法を使って相殺させ続けている。
「ぐっ……、このっ化け物が!」
「あらっ。そのセリフはリーネが言われる、彼女の専売特許だと思っていたのだけど、わたしも言われるのね」
「死ねぇぇ ! 灼熱の獄炎」
「はぁ……っ」
アリシアに向かってくる灼熱の炎の渦。
彼女は彼の魔法を……。又しても凍らせた。
1度ならず2度迄も。
初めて魔公テセウルズの顔に怯えが浮かぶ。
脳から伝えられる命令。ここは一旦逃げろとの指令。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」
彼は脳の指令に従って、アリシアに背を向けて走り出す。
戦闘の最中に敵に背を向けるなど、阿呆な奴だけがすることだ。
アリシアは呆れながら彼の足元を目掛けて魔法を放つ。
地面と足が氷によって仲良くなる魔法。
これでもう彼は、アリシアから逃げ出すことはできなくなった。
「た、助けて。助けてください。なんでもしますから。どうかお慈悲を」
「……貴方、一応この暴動の首謀者なんじゃなかったかしら?」
「間違ってました。俺が間違ってました。どうか、どうかお許しを」
必死すぎる命乞いがアリシアには滑稽に映る。
そんなに言うなら最初からこんなことを企んだりしなければ良かったのだ。
自信満々で傲慢だった彼は何処へ行ってしまったんだろうか?
ふと、アリシアはリーネを見る。
目に映るのは戦闘を終えて伸びをしている姿。
彼女が相手取っていた人物は殺されずに地面に転がされている。
何があったのか? 生きる屍になっているのが気になる。
「一応聞くけれど、貴方は生きていたいかしら?」
リーネから視線を戻して魔公テセウルズへ。
「い、生きていたいです」
いつから泣いていたのだろう? 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃ。
身分は平民だけれど、お嬢様体質なアリシアが彼の顔を見てドン引きしてしまったのは仕方がない。
ところで、あのリーネが犯罪者を生かしたのだ。
それならば自分も魔公テセウルズを生かそうとアリシアは決める。
但し、もう2度と悪さができないようにして。
ダガーを魔公テセウルズに向けるアリシア。
彼の両手首と両足首は重度の凍傷によって……。
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暴動を起こした首謀者と彼の秘密兵器を討伐し終えたリーネとアリシア。
2人は合流してミーア達の元へ足を向けた。
「無事ですかね」
「ミーア達が雑魚にやられる筈がないでしょう」
「いえ、そちらではなくて暴徒の方です」
「……どうかしらね」
雑談しながら到着。
そこでリーネとアリシアが見たのは何とも言えない光景。
暴徒・烏合の衆の全員がお尻を丸出しにされて横一列に並ばされている。
全員のお尻は真っ赤で痛々しい。泣いている者も多くいる。
「「あ~……」」
重なるリーネとアリシアの声。
そこへ良い仕事をした。と誇り高げにやって来る者達。
ミーア、ケーレ、カミラの3人。
特にミーアはドヤ顔で大いに胸を張っている。
なんとなく、その様が可愛く見える。
「ドヤ顔似合いますね。ミーア」
「獣人だからかしらね。可愛いわ」
「そう思うなら、自分にくっ付いてもいいんだよー。リーネ、アリシア」
とかミーアは言っているが、本心は『抱き着いてきてー』の一択。
ミーアの本心を見透かしたリーネとアリシアは顔を見合わせて笑いあう。
「ではそうさせて貰いますね」
「わたしもそうするわね」
愛する妻。ミーアに抱き着いて顔を綻ばせるリーネとアリシア。
ミーアは2人の妻を抱き締めて満足気な表情を浮かべている。
触発されるケーレとカミラ。
「うちも、いい?」
「上目遣いは反則だろう、ケーレ。可愛すぎるぞ」
「それはいいってことだよね?」
「当たり前だ」
ケーレがカミラに抱き着く。
リーネとアリシアと負けず劣らずカミラに甘えるケーレ。
いつもの【リリエル】。しかし、イングリト王国の人々の殆どが彼女達の日常を見るのは初めて。
「と、尊い……」
「ナニコレ……っ。素敵すぎるわ」
「う、噂には聞いたことあったけど……。見るのと聞くのは違いすぎる」
【リリエル】はこの国でも無意識にファンを獲得した。
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暴動というアクシデントはあったものの、その後無事に行われた会談。
会談前に【リリエル】は怪我を負った人々を治療して回った。
このことで彼女達とルージェン王国の株は大上がり。
女王ユーリとイングリト王国の人々はルージェン王国に改めて[志]を同じくすることを誓い、【リリエル】を手厚くもてなした。
ルージェン王国とイングリト王国。
両国共に大成功と言える今回の訪問と出迎え。
良い話の裏で、女王ルミナがほくそ笑んでいたことは誰も知らない。
尚、勇者達の末路だが皮肉にも魔公テセウルズが創り出した異世界人召喚魔法陣により自分達が異世界へと送られた。
行き先は決められていないので何処の世界へ行ったのか。
誰も知らない。
[人]は知らないが、女神セレナディア、女神エリー、女神フレヤ。
ティロットを見守り、支えている3柱の女神達は知っている。
彼らが行ったのは、度重なる戦争によって荒廃した世界だということを。
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【リリエル】のイングリト王国訪問から数日後。
彼女達は嬢子の【ガザニア】と【アベリア】に詰め寄られていた。
ここ最近、イングリト王国からの観光客が倍増したから。
しかもルージェン王国の人々が決まって聞かれるのは【リリエル】のこと。
【ガザニア】と【アベリア】も例外ではなくて、イングリト王国からの観光客に迫られるということを経験した。
「あの国で何したんですか!? リーネ師匠」
「浮気じゃないですよね? 嬢子を増やしたりしてませんよね? アリシア師匠」
「ミーア師匠達は人たらしだということを自覚してください」
「全くです。こっちは大変だったんですからね!」
散々な言われよう。
嬢子達からの追及に"タジタジ"になる【リリエル】。
「私達は別に特別なことはしていませんよ?」
「浮気なんかしてないわ。何度も言うけど、わたしの嬢子はこれ迄もこれから先も貴女だけよ。マリー」
「人たらしってことはないと思うけどなー。だよね? ケーレ、カミラ」
「うん。うちらは寧ろ人から恐れられる存在だよね」
「始末屋とは違うが、場合によってはそれも厭わない時があるからなぁ」
【リリエル】は真面目に言っている。
彼女達の言葉で微笑を浮かべる嬢子一同。
「じゃあどうしてカフェ・リリエルはいつも満席。というか、完全予約制になったのか説明できますか? リーネ師匠?」
「それは……。貴女達が可愛いからではないですか? フィーナ」
「真面目に言ってます?」
「そのつもりですが、間違ってますか?」
「はぁ……っ。マリー、どう思う?」
「鈍感が過ぎると思う。それに、それならどうして【リリエル】のことを聞かれるのか矛盾してる」
「【リリエル】のことしか知らないから。とかじゃないかしら?」
「流石アリシア。きっとそうだよー」
「ミーア師匠。無知は罪です」
「そうだー、そうだー」
嬢子達が怖い。
こうなったら! と話題を変えようとする【リリエル】。
「そう言えば」
だけど女神様達は【リリエル】に意地悪をしたいらしい。
話を逸らそうとする前に【クレナイ】が突入してきた。
「「「お姉さま方、どういうことですか!!」」」
「「「「「ひっ!!!」」」」」
【ガザニア】、【アベリア】、【クレナイ】。
【リリエル】は彼女達を前に懸命に言い訳を伝え続けた。
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翌日。
イングリト王国への訪問などの為に暫く臨時休業としていたカフェ・リリエル。
今日から再開。
開店してすぐに数組のお客様を彼女達は出迎える。
「いらっしゃいませ。お席にご案内しますね」
笑顔のウェイトレス組。
アリシア達がお客様を席に案内している中でリーネは担当のお客様に店の入り口で呼び止められて動きを止めた。
「店員さん、お願いがあるのですけどいいですか?」
「お願いですか? 私達にできることなら協力しますが」
「私達、店員さん同士のキスをまずは見たいんです。お願いします」
「えっ!!」
予想していなかった願い事。
頬をやや紅くしながらアリシアとミーアを見るリーネ。
他のお客様達も興味津々でリーネのことを見ている。
「えっ……。えっとですね」
どうしたものか。
迷うリーネの傍に歩いてくるアリシアとミーア。
「大好きよ。リーネ」
「ずっと一緒だからねー」
リーネを順番に抱き締めながら彼女の唇にキス。
2人の妻からの抱擁とキスにやられてリーネは床にへなってしまう。
「わ、私も大好きですよ。絶対に傍にいてくださいね!」
小さな声。顔を手で覆いながらの言葉。
耳迄深紅になっているところが堪らなく可愛い。
「リ、リーネ。もっと貴女にキスさせて欲しいのだけど」
「可愛いが過ぎるー。いっぱいキスしたいよー」
「で、でも……。嬉し過ぎたので立てないんです」
「どうしようかしら。この可愛い生き物」
「座り込みながらの上目遣いー。無理無理無理」
アリシアとミーアの手を借りて立ち上がり、再びのキス。
リーネ達は様々なキスで婦々同士愛し合った。
その後。この日のお客様により「あのカフェでの新しい楽しみ方を見つけたの。尊いのよ。尊すぎて死ねるわ」と[事]が有名となり、カフェ・リリエルでは最初に店員同士のキスを頼むということがお客様間での暗黙の了解となった。
お客様達には大抵推しがいる。
推しの彼女達が愛し合う女性達とキスし合う姿なんて見た日には……。
カフェ・リリエルはこうしてますます予約の取れない店になっていくのだった。
"カランカランッ"
「いらっしゃいませ。お席にご案内……」
「最初に店員さん同士でキスを是非お願いします」
「えっと、はい……っ」
ここは人々の憩いの場・百合の花園―――。
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特別編7 Fin.
ここ迄お読み頂きありがとうございました。
特別編7は当初は書く予定がなかったのですが、筆が進み……。
ですが、この作品は今度こそはここで一区切りです。
それでも彼女達はこの世界で生き続けるのですよね。
幸せに暮らして欲しいです。
作者こと彩音。




