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-特別編7- 特別な日・カミラ。

 更に時は流れてノーベン(11月)の14日。スコルピオン。

 本日の【リリエル】はカミラからのたっての願いで彼女の故郷。

 ダークエルフの里に訪れていた。

 この世界のダークエルフは情熱的で暑がりな種族。

 カミラに何度かこの場所に連れてこられたことのあるケーレは耐性が付いているが、リーネとアリシアとミーアは初めての訪問。

 物凄く目のやり場に困る。

 何しろ裸族やらそれに近い者達だらけなのだから。

 サマーな時季ならともかく今はもうオータム。

 そんな恰好で寒くないのかと小一時間程問い詰めたくなる。

 この環境下で育ってきたカミラ。

 彼女がまともに服を着てくれる人物で良かったと心の底から思う。

 違ったら【リリエル】の沽券に関わる問題だった。

 いやまぁ、それならそれでカミラを【リリエル】に加入させることは無かったと思うけれど。


「確認ですが、突然水が枯渇して困っているということでしたよね?」


 なるべく他のダークエルフ達のことは見ないようにカミラに視線を合わせて問うリーネ。


「ああ、昨日迄は大丈夫だったらしいんだがな。今朝見たら水が涸れちまっていたらしい」

「周りは砂漠でここはオアシス。水が無いと[人]は生きていけません。一刻も早い原因の究明が必要ですね」

「ああ。だがまぁ心当たりはあるんだけどな」

「そうなんですか? では私達はここに来る必要は無かったのではないですか?」

「それがなぁ……」


 リーネの質問に言葉を濁すカミラ。

 どうやら何かしらの面倒事があるらしい。

 どんな面倒事かは知らないが、カミラに対してジト目となるミーア。


「カミラ。どうせバレるんだから何があるかさっさと吐くべきだと思うなー」


 最もな意見。これから【リリエル】全員で原因の場所に行くのだから隠し事には意味はない。

 というよりも、分かっている[事]は【リリエル】内で共有しておくべきだ。

 原因解決の達成率やら危険があるなら生存率やらを上げる為にも。


 仲間達が一斉にカミラに視線を向ける。

 やや厳しめな視線を受けて頭を掻くカミラ。

 彼女が口を開く前に、別の所から【リリエル】に声が掛かった。


「説明はこちらが引き受けるぜよ」

「里長」


 カミラが【リリエル】の間に割って入ってきた人物のことをそう呼ぶ。

 この里で一番偉い人らしい。

 何はともあれリーネ達は彼女から水の枯渇についての原因の説明を聞く為に彼女に視線を向けて……。

 速やかに直視することを止めた。


「おい! 人の話を聞く時は目を見て聞くのがマナーぜよ」

「そう言われましても……」

「ほら。説明するからこっちを見るぜよ」

「無理だわ。カミラ。……とケーレは大丈夫よね? わたし達は離れた所から聞き耳を立ててるから、2人は里長さんからちゃんと話を聞いて頂戴」

「できればうちも離れたいんだけど」

「それはダメだろ、ケーレ。里長はお義母さんに当たるんだからな」

「……。今凄く聞き捨てならないセリフを聞いた気がしたー」

「奇遇ですね。私もです」

「里長さんはカミラのお母さん。……ということかしら?」

「そうぜよ。しかしどうしてこうも他の種族は恥ずかしがり屋が多いのか。全くの謎ぜよ」


 寧ろ逆に羞恥心を持て。

 口にはしなかったが、そう思うリーネ達。

 彼女達はカミラとケーレを残してその場から距離を取った。


「いいか。よ~く聞くぜよ」


 始まる里長の説明。

 リーネ達が彼女の話に呆れるにはそんなに時間が掛からなかった。

 ダークエルフの里に在る隠し通路への女性の像の前。

 巨大な壺を肩に担いだ裸族の石像。

 通常時はこの女性の石像が持つ壺から水が絶えることなく石像の前にある湖へと注がれているのだが、今は完全に止まってしまっている。

 湖に水が残っているので2~3日間はどうにでもなるだろうが、それ以上となると拙い。

 石像の裏側に回る【リリエル】。

 背中に[pdeils]とかいう文字が彫られている。

 アルファベットではなく西ティロットで広く使われている文字。

 これを並び替えると隠し通路が現れる仕組みとなっている。


「カミラ、お願いしますね」


 里長の話。どう並び替えるのか迄は聞かされていない。

 ので、この里で生まれ育ったカミラに任せることにする。


「任せとけ」


 慣れた手つきで並び替えるカミラ。

 [dispel] 解呪や消去の意味。

 これで隠し通路へと行くことが可能になった。

 行く方法は石像をその場所からどかせるだけ。

 【リリエル】全員で石像を押すと地下へと続く階段が現れた。


「問題はここからですね」


 ため息を吐くリーネ。

 この隠し通路は夜盗などから[水]を守る対策としてあちこちに罠が仕掛けられているとの話。

 何処にどんな罠があるのか分かれば良かったのだが、現在の里長。カミラの母親が誤ってゴミとして処分してしまったと言っていた。

 これがリーネ達が呆れてしまった原因。


「はぁ……っ。でも、躊躇しているわけにはいかないわよね」

「ですね。ここで躊躇うのはダークエルフ達を見捨てるのと同じですから」

「うちの母親が悪りぃな。苦労掛ける」

「いえ、間違いは誰にでもあるもので……」


 1歩。隠し通路の階段を踏んだリーネ。

 瞬時に彼女の真横から矢が1本飛んできた。


 かろうじて飛んできた矢を躱すことはできた。

 しかしたったの1歩でこんな物が飛んで来るとは思わなかった。

 自分の背後にいるカミラに錆びた玩具が"ギギギっ"と音を立てながら振り向く。

 ……という錯覚を覚えさせつつリーネが半笑いでカミラを見る。

 彼女の動作に苦笑いするカミラ以外の仲間達。


「前言撤回してもいいですか?」


 リーネが言いつつ自分に飛んできた矢を拾う。

 ご丁寧に毒が塗られていることを確認。

 これをもしも避けれずに受けていたら、リーネは1時間以内に魔法で毒の効果を消すか、抗毒薬を接種する必要性があった。そうしなければ、藻掻き苦しみながら死んでいた。


「気を付けて行きましょう」


 カミラに"へらっ"と笑い掛けて2歩目。

 今度は左右から1本ずつ毒矢が飛んできた。

 今度のは1歩目ので警戒していたのでリーネは余裕をもって避けることができたが、顔は流石に引き攣ったものとなる。

 階段を下りきる迄は残り98段。

 段数毎に矢の数が増えていく仕組みだったりするのだろうか。


「試してみましょうか」

 

 3段目。空中から取り出す杖。リーネ自身は下りずに魔法で土人形を作り出し、階下に置いてみた。

 飛んできた3本の矢。予想通り過ぎて逆に面白さで笑いが込みあげてくる。


「なるほど。なかなかに面倒ですね。ですが、矢は次に誰かが補充をしない限りは撃たれてこないと。連続で撃たれないならば対策は簡単です」


 再び魔法で作り出す物体。今度のは球体。

 押すと当然、球体は最下層へと転がっていく。

 放たれる矢。リーネ達は上階で何所かシュールな光景を見ているだけ。

 球体が最下層に達したところで【リリエル】は行動を再開した。


 楽々と最下層に到着。

 そこからは道が3つに分かれている。

 どの道を行くのが正しいのか分からないのは困る。

 やはりカミラの母親の間違いは許されるものじゃないと認識することになった。


「これ、どうするのー?」

「勘で行く?」

「本当に済まない……」

「では……」


 杖を地面に立てるリーネ。

 倒れた方向に向かうことにする。

 右、中央、左。杖は右に倒れたのでリーネはそちらに歩き出した。

 仲間達も後に続く。


 "カチッ"途中で何かを踏んだ。

 道は下り坂になっている。

 こういう場合にあり得るのは……。


 "ごろんごろんごろん"転がってくる大岩。


「やっぱりですか!」

「ふ~ん、一般人には有効かもしれないねー。でも」


 ミーアが繰り出す右ストレート。

 大岩は砕け散り、無意味な代物となった。


「ミーアがいてくれて良かったです」

「リーネ、厄日っぽいから気を付けてー」

「はい。本当に今日はついていませんね。忠告ありがとうございま……」


 "カチッ"


 ……………。

 言った傍から。落ちてくる天井。


「リーネ……」

「ごめんなさい……」

「まぁいいわ。土壁(アースウォール)


 アリシアの魔法で地面から生える何本もの土柱。

 ただの土ではなく、この世界にあるあらゆる鉱石がその柱には詰まっている。

 落ちてくる天井は魔法の柱によって支えられて落下を止めた。


「誰か先頭変わって貰えませんか」

「……だって? カミラ」

「私か! うん、まぁ仕方ないな」


 カミラとリーネ。先頭の交代。

 3歩、前に進んでカミラはリーネが聞いたのと同じ音を耳にする。

 "カチッ"前方から無数の槍が飛んできた。


「カミラもダメみたいですね」

「そのようね」


 槍はカミラとケーレが連携して全てを叩き切り、地へと落とすことに成功。

 この後は【リリエル】は先頭をケーレに交代したが、彼女も罠に引っかかった。

 残すアリシアとミーアも同様。ぐったりとする【リリエル】。

 どうも誰かが厄日というわけではなく、【リリエル】が厄日らしい。

 この後も何度も罠にかかっては魔法などで切り抜け、やっと最奥へと到着した。


「お疲れぜよ」

「「「「「えっっっっ?」」」」」


 しんどい思いをすること数時間。

 最奥に到着した【リリエル】が見たのはカミラの母親・里長。

 それと彼女の里の民達。

 【リリエル】全員の脳内に疑問符が舞い踊る。


「どうして貴女がここにいるんですか?」

「いや~、今日は娘の誕生日だからサプライズをしたんぜよ」

「サプライズって、これがか?」

「そうぜよ。どうだったぜよ? 楽しかったぜよ?」

「じゃあ水はー?」

「娘達が到着する前に止めておいたんぜよ。今はもう復活してるぜよ」

「水の魔石が割れたからっていう話は嘘だったということかしら?」

「ぜよ!」


 【リリエル】の質問にドヤ顔で答えるカミラの母親・里長。

 彼女の背後にいる民達もドヤ顔。


 ……………。

 自分達がされたこと。

 脳が理解して【リリエル】は沸々と怒りが湧いてくる。


「我ながら最高のサプライズだったぜよ」

「「「「「ふっ……」」」」」

「ふっ?」

「「「「「ふざけんなーーーーーー!!」」」」」


 【リリエル】の怒り爆発。

 正座させられるカミラの母親・里長達。

 【リリエル】はここ迄来るのに掛かった数時間分ダークエルフ達に"こんこん"と説教をして分からせた。

 ついでにカミラの母親・里長は【リリエル】全員からお尻百叩きを受けることになり、数日間は椅子などに座ることができなくなったが、阿呆な[事]を企んだのが悪いのである。

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