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-特別編7- 特別な日・ケーレ。

 時は流れてファブラ(02月)の23日。ポアソン。

 本日はカフェ・リリエルは休暇日。

 もしも【リリエル】が出張らなければならないような邪族が現れたら休日返上となるが、現状その様子はない。

 なのでリリエル邸に住む者達は思い思いのことをして休日を謳歌している。

 リーネは庭に出て人化したエアルと魔法の研鑽中。

 目標は人化したエアルがリーネの魔力を使って魔法を使えるようになること。

 それとリーネが人化したエアルを媒介して魔法を使えるようになること。

 魔法を使うには杖が絶対に必要。それがこの世界での魔法を行使する為の絶対的な条件。

 エアルはリーネの杖が人化した存在。とは言え、手元から離れると世界の法則に従って魔法の行使はできなくなる。

 今回リーネがしているのは法則を破る挑戦。

 世界の法則を破るなんて無茶苦茶なことで、今は上手くいっていない。

 が、後少しで何かが掴めそうな段階にある。

 エアルにリーネの魔力を与えることはすでに成功している。

 残る課題はリーネが如何にしてエアルの杖としての力を受け取るかということ。

 悩んでいたが、何気なく自分の首に触れた時にリーネは妙案を思い付いた。

 隷属の首輪を中継地点にして、エアルの力を受け取ろうという目論見。

 彼女の思案通りにいけば、人化したエアルが半径5km以内にいれば魔法の行使が可能になる。

 そうなると、リーネを相手にする者にとっては堪ったものではないだろう。

 リーネが2人になるのと同じことなのだから……。


「エアル、魔女としてもう1段階成長できる迄後1歩という感覚があるので、後少しだけ私に付き合ってくれますか」

「勿論ですよ! ご主人様。エアも頑張ります!」

「ありがとうございます」


 エアルの言葉にリーネが屈託のない笑みを見せる。

 彼女の笑みの破壊力により、地面に座り込んだ者が3人。

 リーネとエアルがしている[事]の成り行きを静かに見守っていたアリシアとミーアとフィーナの3名。

 ここ迄は呆れ半分、感心半分で彼女達はリーネ達のことを見ていた。

 

 これ以上強くなってどうするんだろう……。

 飽くなき魔法への探求心は素直に凄い……。


 という感じで。

 その中で見せられた先程の笑み。

 呆れなんて何処へやら。心中のモノが応援一色に塗り替えられる。


「リーネが可愛すぎるわ」

「本当に魔法が好きなんだなー。って思い知らされたー」

「リーネ師匠、頑張ってください!!」


 可愛い妻。尊敬する師匠。

 3人の応援がリーネに届いたのだろうか?

 彼女は朝から始めた[事]を昼休憩を挟んで夕方には[もの]にして見せた。


「ふふっ、私は悠遠の魔女の称号に恥じない魔女でいられていますかね」

<充分だと思うよ。ご主人様>


 [事]を終えたエアルは杖に戻ってリーネの右手に握られている。

 彼女を照らすオレンジの光。リーネが神々しく見える。


「っ。リーネ!! 貴女って、貴女って本当に……」

「魔女の器を飛び越えた魔女だねー」

「リーネ師匠、凄いです!! 私もリーネ師匠の嬢子(でし)としてもっと魔法に精通した魔女になるように精進しますね。リーネ師匠の顔に泥を塗らないようにします。嬢子(でし)の務めです」


 アリシア、ミーア、フィーナ。

 3人に突然抱き着かれて一瞬、びっくりしてしまったリーネ。

 だったが、笑みが顔に溢れ、リーネは3人に優しい声で返事をした。


「3人が見守っていてくれたお陰ですよ。ありがとうございました」

「「「……………っ」」」


 3人への会心の一撃。リーネは強くて、弱くて、何よりも愛らしい。


「無理だわ」

「分かるー」

「分かります」

「はい?」


 3人の言葉に"きょとん"とするリーネ。

 そんな表情がまたまた3人の心を擽り……。

 だけじゃなくエアルの心も擽って彼女は杖から再び人化。

 リーネは4人からもみくちゃにされた。

 頭を4人に代わる代わる撫でられて髪型はぐちゃぐちゃ。

 今回は【リリエル】の制服ではなく、私服だったが過剰なスキンシップで着崩れが起きてしまっている。

 そんななのに当のリーネが楽しそうに笑うものだから、4人は彼女に心を完全に持っていかれてしまい、4人の女性達はリーネに抱き着いて長い時間離れられなくなった。



 後日、ロマーナ地方で起きた大規模な邪族大行進(スタンピード)

 リーネは研鑽の成果をここで見せ、魅せて討伐に参加していたハンター達や当日にリーネのやっていることを見てなかった仲間達、ハンターの邪魔にならないように遠くから邪族の討伐の様子を見学していたロマーナ地方に住む人々を大いに驚愕させた。

 

 討伐後にロマーナ地方の領主シエラ。

 ハンターギルド・ロマーナ支部のギルドマスターのユズリハ。

 ルージェン王国の女王ルミナにもこの時の[事]が伝えられる。


 伝えられた3人の思いは共通。

 【リリエル】を絶対の絶対に敵に回さないようにしよう。

 彼女達を絶対にこの地に留めるように努力しよう。

 権力者の3人は早速政策などの見直しに取り掛かった。

 【リリエル】がこの地方・ギルド・国に失望することのないように……。

 シエラ達は自分達の領域で慌しく走り回るのだった。


**********


 時は少し戻ってリーネが庭で魔法の研鑽を行っていた頃。

 マリーは自室で自らの象徴たる豊穣の女神フレヤに祈りを捧げていた。

 自分を見初めてくれたこと、この国とその同盟国に毎年文字通りの豊穣を齎してくれること、愛するフィーナと大きな喧嘩もなく仲良くいられること、自分を含む仲間達が健康かつ邪族や犯罪者との戦闘で無事でいられることへの感謝の祈り。

 フィーナのことや仲間達のことは詳細に言えば、フレヤの管轄外だが気にはしない。

 他の人々だって祈る事柄ごとに神様を選んだりしていないのだから。


「フレヤ様、いつもありがとうございます」


 両手を組み、フレヤに言葉を紡ぐ。

 いつもならこれで終わるのだが、この日は久しぶりにフレヤからマリーに神託があった。


〔間もなく貴女の目前で信じられないようなことが次々に起こります。貴女も見惚れるばかりではいけません。努力を怠らないようにするのですよ〕


 そう言われても、初めは何のことか分からなかった。

 が、数日後にフレヤからの神託の意味が嫌でも理解できた。

 リーネの化け物化が一段と進んでいる。

 それに加えてフィーナとアリシアとミーアも化け物に仲間入りしている。

 フィーナとアリシアはリーネと同じく言霊無しでも魔法を行使できるようになっているし、ミーアは見るからに以前の数倍身体能力が上がっている。

 更に炎の精霊・イフリートと契約を結んだようで彼女と共に戦闘。

 

「うっわぁ……」


 感嘆していいやら、唖然としていいやら。

 彼女達はいつの間にこんなにも恐ろしい存在となったのか……。

 マリーはフレヤの言葉を嚙み砕くと共に自分も負けてはいられないと決意。

 翌日からアリシアとフィーナに特訓を申し込み、数日のうちにマリーも言霊無しで魔法の行使ができる存在となった。


**********


 再び時は少し戻ってカフェ・リリエルの休暇日前日の夜。

 ケーレは悪夢に魘されて、あまりの内容に耐え切れず覚醒。

 半身を飛び起こさせた。


 悪夢のせいで寝着(ナイトウェア)が汗ぐっしょりとなっていて気持ちが悪い。

 息も荒くなってるし、貧血となっている。意識が朦朧とする。

 この症状を治すにはまた眠りに付くのが一番だが、さっきの悪夢を再び見ることになってしまったら? と思うと怖くて眠る気になれない。


 ……………。

 思い出したくないのに悪夢の内容が蘇る。

 カミラが難病に侵されて、自分を含む【リリエル】の皆の看病の甲斐もなく先に逝ってしまう夢。

 その後、生きる希望を失った自分もカミラの後を追うように逝った。

 残されたのはリーネ、アリシア、ミーアの3人。

 カミラが逝ってしまった時も辛かったが、残された3人の表情が深淵に包まれているかのようなモノになっているのも心が痛かった。


「嫌だよ」


 ケーレは恐る恐るカミラがいる筈の場所に目を向ける。

 ベッド上の隣。カミラはちゃんとそこにいた。


「生きてる、よね?」


 愛する女性(ひと)がいてくれたことには安心したが、息をしているかどうか。

 彼女を起こさないように気を付けながらケーレは"そっ"とカミラに手を伸ばす。

 額に触れるとほんのりと温かな熱。耳を澄ますと寝息が聞こえてくる。


「良かった……」


 夢は夢だった。現実だったら泣き喚いていたこと間違いない。

 "ほっ"と息を吐くケーレ。

 その時、腕を掴まれる感覚がしてケーレをびっくりさせる。


「カミラ、起こしちゃった?」

「……。そんなことより暗闇の中で分かる程に顔色が悪いぞ。大丈夫か?」


 心配気なカミラの瞳。

 悪夢内でカミラが倒れた時にしていた自分達の瞳と同じ色。


「ごめん。うち、悪夢を見ちゃって」


 ケーレはカミラをこれ以上は心配させたくなくて事実を告げる。

 カミラからの返事は「そうか」の一言。

 言葉はそれだけだが、彼女はケーレの腕を引っ張り自分の元へ引き寄せる。

 引力に逆らえずにケーレの身体はカミラの胸の中へ。


「どんな悪夢を見たのか知らないが大丈夫だ。安心しろ」


 強く抱き締められてケーレの不安が消化されていく。

 睡魔に(いざな)われて瞼がどんどん重くなる。


「おやすみ、ケーレ」


 カミラからの唇へのキス。

 ケーレは安心して眠りに落ちた。

 翌日。

 悪夢の内容をケーレに聞き出したカミラ。

 彼女を2度と不安にさせないようにカミラはケーレを連れてマリー、アレッタ、カリーナの順番で聖女達のいる場所を巡り健康診断を行った。

 結果、どの聖女からも健康そのもののお墨付きを得た。


「私は難病などとは縁がないそうだ。どうだ? いい誕生日プレゼントになったか?」


 少しの茶目っ気を出してケーレに問うカミラ。

 ケーレはここ迄してくれたカミラに惚れ直し、この日は珍しくケーレがカミラを自室に連れ込んで彼女を深夜迄翻弄させた。



 その日の深夜。


「なぁ、明日厨房に立てるか不安なんだが……」

「うちだって、それでも毎日ウェイトレスしてるから大丈夫でしょ」

「明日。いや、もう今日か。覚えておけよ!」

「意外と体力無いんだ。カミラ」

「ぐっ……」


 "くすくす"笑いながらカミラに抱き着くケーレ。

 カミラはケーレの愛情に応える。

 2人はこの後も暫くイチャイチャしてから眠りについた。

炎の精霊は書物やWebサイトによってサラマンダーだったり、イフリートだったりしますが、この世界には[赤]のドラゴンが存在します。

なのでイフリートを炎の精霊として採用させていただきました。

それからイフリートは男性型の精霊として描かれることが多いですが、この物語では女性です。

ご了承ください。

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