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-特別編7- 特別な日・リーネ。

 本日はセテプ(09月)の01日。ヴィエルジュ。

 【リリエル】一行はロマーナ地方の領主シエラから直々の依頼を受け、早朝からプリエーグル女子学園に訪れていた。

 依頼の内容は文化祭への飛び入り参加。

 要するにカフェ・リリエルのサプライズ出張出店。

 3週間程前からシエラやラピス、教師陣と念入りな打ち合わせを重ねてきたので準備は万端。何も問題はない。

 ないのだが、2つ程リーネには腑に落ちない点があったりする。

 1つ目は出店場所が何故か体育館であるということ。

 普通ならば空き教室なり、中庭なりでやることではないのだろうかと思う。

 体育館という場所は部活動単位・クラス単位で例えば演劇やらコンサートやらの催し物が行われる場所である筈だ。そのような大切な場所をカフェ・リリエルが占拠。

 居た堪れない気持ちになる。どう考えても自分達は邪魔者になること確実。

 勿論、シエラやラピスに自分の気持ち伝えた。場所の変更の打診もした。

 しかし、彼女達からは「大丈夫」との返事。何が大丈夫なのだろうか? リーネは何度も問題と疑問をぶつけてシエラ達に考えを改めるように促したが、結局今日迄彼女達は頑としてカフェ・リリエルの出店場所を体育館から譲ることはなかった。


「本当にいいのでしょうか……。それに……」


 体育館で準備を進めながらリーネはもう1つの気になることを思う。

 この場にいるのは【リリエル】だけでカフェ・リリエルでは欠かせない存在の【ガザニア】と【アベリア】がいないこと。

 【リリエル】の5人だけでも今回の件はできない[事]ではないが、提供できる料理の数が少し減る。

 カフェ・リリエルのメニューは【リリエル】だけが考えたものではないから。

 【ガザニア】と【アベリア】が考案した品も幾つもある。

 レシピは共有しているので真似た料理ならばできる。

 できるが、やはり本人達が作った方が美味しくできる気がする。


『シエラ様もラピス様もどういうつもりなのでしょうか……』


 リーネが困惑の思考を巡らせていると、傍にやって来るアリシアとミーア。

 リーネが大切に想い、愛して止まない妻2人。


「ねぇ、リーネ。今日使う材料に確認漏れがあったみたいなの。それが無いと料理の一部が提供できないのよ。だから今から買い物に付き合ってくれないかしら」

「あれだけ何度も確認しあったのにねー。まさかこんな初歩的なミスが起きるとは思わなかったよー」

「足りない材料は何ですか? もしかしたら私のバッグに入っている可能性もあるので、言ってくれたら見てみますよ?」

「希少な品だから、多分リーネのバッグの中にも入ってないと思うわ」

「それは見てみないと分からないじゃないですか」

「鈍いなー。買い物って言い方は口実で少しの間でもデートしよってことだよー。リーネ」

「そういうことよ」


 アリシアとミーアが呆れたようにリーネの顔を見る。

 当のリーネは2人の妻に言われたことにほんのりと頬が紅に染まる。

 デートの誘いは嬉しい。嬉しいのだが、材料の調達をして、ここに戻ってくる迄にどれくらいの時間が必要になるのかが気になってしまう。

 戻ってきたら、すでに始まっていた。なんてことになったら目も当てられない。

 脳内で考えたことを言葉にしようとリーネは口を開こうとする。

 が、その言葉を彼女が口にすることはできなかった。


 何故なら……。


 アリシアとミーアの2人がわざと自分達の膨らみを押し当てるようにしてリーネの腕に絡みついてきたから。


「付き合ってくれるわよね? リーネ」

「断る。は無いよねー。リーネ」

「うっ……」


 リーネの頬はほんのりとした紅色から深紅へ。

 熱に浮かされて紅潮した顔は緩み切っている。

 愛する女性(ひと)の融解した姿を見て、面白がるようにリーネに更に強く抱き着くアリシアとミーア。

 2人の妻からの小悪魔な如しな誘惑にリーネは大敗を喫した。


「デート、行きましょう」

「流石リーネ。話が分かるわ」

「ということで、ちょっと行ってくるねー。後はお願いするよ。ケーレ、カミラ」

「うん。うちらに任せておいて」

「気を付けて行って来いよ」


 ケーレとカミラ。【リリエル】の残り2人に見送られて3人は外へと繰り出す。

 アリシアとミーアはリーネの腕に絡みついたまま。

 そのせいでリーネは煮え滾る熱に浮かされて頭の中が茹っている。

 まともな思考ができない。一応は自分の足で町中を歩いているが、その実2人に引っ張られていると言っても過言ではない。

 ロマーナの町の中を歩くこと20分程度。

 到着したのは何故かニナの仕立て屋。

 ここに来てやっと働き出すリーネの頭。


『料理の材料を買いに来た筈ですが、何故ニナの仕立て屋に?』


 訳が分からない。アリシアとミーアを交互に見るリーネ。

 2人は面食らっているリーネを気にすることなくニナの店へと彼女を連れて入店する。


「「「いらっしゃいませ。お待ちしてました」」」


 入店した3人に掛けられるは元気なニナと彼女の店の従業員達からの声。


「ニナさん、例の服はできあがっているかしら?」


 アリシアによるニナへの問い。

 問いに対して胸を張って「当然ですよ! 私を誰だと思ってるんですか」とドヤ顔で応えるニナ。

 ついでにポケットから個包装されているチョコチップクッキーを取り出し、ニナはリーネに差し出す。

 微妙な顔になるリーネ。

 ニナはニアの生まれ変わりと人々から言われているが、仕立ての腕やらこうしてお菓子をリーネに差し出すことやらからして、人々の口伝は間違いないだろう。


「ぷっ。相変わらずね」

「まぁ、それはそれとしてリーネのことよろしくねー。ニナ」


 ここ迄ずっとリーネにくっ付いていたアリシアとミーアが彼女から離れる。

 自由になった右手で無意識にニナからの差し入れを受け取るリーネ。

 "じっ"とクッキーを見ていたら背中に感じる軽い衝撃。

 ミーアがリーネをニナの前に押したことによるもの。

 押されたことで前に出たリーネが思わずミーアを振り返ると彼女は眩いばかりの笑顔でリーネとニナのことを見守っている。

 いや、ミーアだけじゃない。ミーアの隣にいるアリシアも同様。


「リーネさん、じゃあこっちに来てください」

「ちょっ、ちょっと待ってください。一体何がどうなって……」

「まぁまぁ、取って食ったりはしませんから」

「はぁ……???」


 意味不明。だが、ニナに言われるがままリーネは彼女に付いていく。

 連れてこられたのは試着室。そこで手渡されるは礼装着と靴。

 襟部のみが黒色で他の部位は白色の半袖ブラウス。その上に身に纏う黒の肩紐なワンピース。

 裾部が膝丈よりも少し下迄あり、"ふんわり"とした何かの花のような仕上がりとなっている。

 靴は黒色のローヒールでつま先から少し上迄は革が覆い、足の甲は太めの革の紐がクロスして付いている。


「あの、これは?」

「着替えてください。リーネさん」

「えっと……」

「さぁさぁさぁ。アリシアさんとミーアさんも待ってますよ。着替えて着替えて」

「わ、分かりましたから怖い顔で迫って来ないでください」

「リーネさんに絶対に似合いますよ。その服」

「……えっと、そうですかね?」

「ふふふふふふふふふふふふふっ」


 圧が強い。ニナから狂気を感じて試着室に飛び込むリーネ。

 断るという選択肢は彼女には無い。もしも断れば、ニナ達によって強制的に服を脱がされて着替えさせられる可能性がある。それならば大人しく言うことを聞いておいた方が賢い選択に決まっている。

 試着室内で【リリエル】の制服を脱いで、ニナから手渡された礼装着を身に纏う。

 制服はバッグの中へと収納。着替えが終わると、試着室内の鏡に映るはいつもよりもやや華々しい自分の姿。


「何が何だか今もって分かりませんが、これはこれでお洒落ですね」


 結構気に入った。じっくりと鏡の中の自分を見つめるリーネ。

 彼女もやっぱり女性。素敵な物やお洒落な物は嫌いじゃない。

 ただ、派手じゃない物に限るけれど。


 その点、この礼装はリーネの趣味に申し分なく合致する。

 自分を見ることに満足して、試着室の中から店内に出る。

 と、傍で待ち構えていたらしいアリシアとミーア、ニアに店員達から絶賛の声。


「とても似合ってるわ。リーネ」

「流石、自慢の妻ー」

「素敵です。リーネさん」

「「「服もリーネさんに着て貰えて喜んでいるように感じられます」」」

「ありがとうございます」


 店員さん達の言葉は大袈裟に思うが、褒められるのは嬉しい。

 顔をやや俯かせ、照れながら礼を言うリーネ。

 彼女自身は自然体でしたことだが、アリシア達には様々な意味で心臓をときめかすには充分だったようで、リーネは店内にいる者達から「可愛い」と何度も連呼されて頭を撫でられた。

 その後、結局何の材料も買わずにプリエーグル女子学園への帰路。

 ニナの仕立て屋への行く時と同じようにリーネの腕に身体を寄せて歩くアリシアとミーア。

 リーネはこれで又しても頭が"ぼやっ"としていたが、なけなしの理性を総動員して2人の妻に質問を投げ掛ける。


「あの、料理の材料ってどうなったんですか?」


 それを受けて答えるのはミーア。


「ああ。あれは嘘だよー。本当の目的はリーネとのデートとコーディネイトだったんだよ。初めからね」

「はい? デートは分からなくもないですが、コーディネイトとはどういう?」


 リーネが言葉を紡いでいる間に到着する学園前。

 そこにはこの学園の理事長に返り咲いたラピスを始めとして、学園関係者の他に魔法陣を描いた時のメンバー他、ロマーナ地方に住む大勢の人達の姿。


「文化祭にしては随分と豪華な顔ぶれですね」


 彼女達の姿を見て留めて驚きの表情で口走るリーネ。

 彼女の言葉に笑うアリシアとミーア。


「ここ迄来てもまだ何も気が付いてないんだねー。リーネ」

「はい? どういう意味ですか?」

「今日はリーネの誕生日よ。そして貴女が地球からこの世界に転移してきた日でもあって、人間からエルフに変化した日でもあるわ。それから、わたしと邂逅した日でもあるわね」

「あ!!」


 アリシアに言われてリーネは漸く思い出して、そして理解する。

 何もかもが最初から仕組まれていたことなのだと。

 それにしたって、こんなにも大勢の人々が集ってくれたことは予想外だけれど。


「何を呆けているのかしら。貴女は自分が思っているよりも沢山の人々から慕われている。……ということよ。リーネ」

「そうそう。皆、リーネのことが大好きなんだよー」

「……本当に幸せ者ですね。私は」


 アリシアとミーアに手を引かれ、リーネは人々の輪の中心へ。

 中心地に行くと、リーネに対して人々が祝福の言葉を口にする。

 普通に「誕生日、おめでとうございます」と言う人もいれば、「この世界に来てくれてありがとうございます」と言う人もいる。

 それだけでも目頭が熱くなっていたというのに……。

 【リリエル】や【ガザニア】・【アベリア】・【クレナイ】といった自分と最も関係の深い仲間達から「生まれてきてくれてありがとう」、「わたし達と出会ってくれてありがとう」という言葉を贈られたリーネは涙が零れることを堪えることができず、暫くの間仲間達に身体を支えられながら泣き続けた。


 

 結構な時。やっと泣き止むことができたリーネ。

 彼女が落ち着いたのを見た領主シエラは"パンっ"と軽く手を叩き、文化祭ならぬリーネの為の誕生日会の開催の合図を告げた。

 カフェ・リリエルはリーネ以外の者達で開催。

 他にもロマーナ地方の飲食店が軒を並べて、学園は美味しい物の宝庫。

 人々は百合と料理に幸福の舌鼓を打った。


 尚、主役のリーネは集った人々からあちらこちらへと引っ張りだこ。

 誕生日ケーキなんて、これはウェデングケーキかな? と思われずにはいられないのが運ばれてきて、リーネは若干顔を引き攣らせた。

 何はともあれ領主シエラや仲間達によるリーネへのサプライズは大成功。

 リーネはこの日1日大変だったが、誕生日会が終わった後も嬉しさが抜けきらずにアリシアとミーアにくっ付いて離れない甘え魔と化した。

 そんなにも喜んで貰えて嬉しい反面、リーネの甘え魔化は凶悪が過ぎる。

 アリシアとミーアはこの日と合わせて3日程[愛]に悩まされることになった。

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