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-特別編6 完結話- 未来への翼。

 ハンターギルド・ロマーナ支部。ギルドマスター室。

 ルミナは室内で様々なハンターやこのギルド内で働く人々からの報告書を1枚1枚手に取っては読みながら頭を悩ませていた。

 悩みの多くは邪族に関する物。

 邪族という存在。彼らと人との違いはとても分かりやすい。

 人の肌の色は白色、黄色、褐色のいずれかだが邪族は緑色か葡萄酒色。

 死んだ魚のような目をしており、知性は殆ど感じられない。

 本能のままに生きている。獣よりも獣に近い生命体。

 そこは変わりないのだが、ここのところ新しい種が続々と目撃されているのだ。


 あれは今から1年程前だっただろうか。

 この世界を創造した女神ラプソディアに似た邪族が突如として現れて、ルミナは【リリエル】に討伐を依頼。

 【リリエル】と邪族は激闘を繰り広げて、辛うじて【リリエル】が勝利を収めてギルドに凱旋してきた。

 あの【リリエル】を半死半生とした邪族。

 身体は治癒されて傷は残ってはいなかったが、彼女達の衣装の至る所が損傷していたり、失われていたりする(さま)を見てルミナは【リリエル】に申し訳ない気持ちが湧き上がると共に彼女達でなければ討伐は不可能であっただろう今回の邪族のことを思い、安堵のため息を漏らしたりもした。

 強敵を討ち果たした【リリエル】。

 ルミナは彼女達のハンターギルドでのランクをギルドマスターの権限で1つ繰り上げた。

 聖霊石(エレメント)ランク。実際にはこの世界には存在していない鉱物の名前。

 ルミナがギルドマスターとなった時にそれ迄は下から青銅(ブロンズ)鋼鉄(アイアン)白銀(シルバー)黄金(ゴールド)白金(プラチナ)迄しか無かったランクに緋緋色金(ヒヒイロカネ)魔銀鉱石(ミスリル)金色金剛石(オリハルコン)黒色硬玉鋼(アダマンタイト)と言ったランクを設けて、その上に今回【リリエル】が授与された聖霊石(エレメント)ランクを用意していた。

 それ迄の【リリエル】は黒色硬玉鋼(アダマンタイト)ランクだった。

 昔は国との繋がりを嫌い、上位ランクを望まなかった【リリエル】だったが、彼女達が国にとって重要な人物になるにつれ、国側が譲歩。

 上位ランクになろうとも国が開催するお茶会などに強制参加させることは無いと明言された為、【リリエル】は上位ランクになることを拒まなくなって黒色硬玉鋼(アダマンタイト)に迄昇りつめていた。

 聖霊石エレメントランクには手を伸ばしても届かない状態。

 正直ルミナは聖霊石(エレメント)ランクに昇り詰める者はいないだろうと思っていたが、今回出現しただけで国中の人々に恐怖という感情を与えた邪族の討伐。

 討伐に成功した【リリエル】は聖霊石(エレメント)ランクにこれ以上ないくらいに相応しい。

 ルミナは最高位ランクを授けられて苦笑いする【リリエル】を余所に彼女達のことを手放しで称賛し倒した。

 

 そこからだ。

 新種の邪族があらゆる所で見られるようになったのは。


「あの邪族が何か関係していたことは間違いない。でもどういう風に関係していたのか迄は分からない」


 お手上げだ。

 幾ら考えた所で分からないものは分からない。

 ルミナは原因の究明を諦めて、妻であり、副ギルドマスターでもあるクリスタを呼んで報告書にある邪族の新種をギルドの邪族一覧に加えるように[(めい)]を出した。


**********


 神々の世界。

 女神セレナディアは地上の様子を眺めながら頷いていた。

 実は今回の一件、神々が絡んでいたりする。

 仮にも神でありながら、穢れを自分で祓わずに地上の人々に祓わせるという神にあるまじき行為を当然のように繰り返していた、セレナディアにとっては自らの姉であり、ティロットの創造主でもあるラプソディアと彼女の取り巻き達。

 セレナディアはそれでも神らしく、『いつかは姉さん達も改心してくれるだろう』と信じて辛抱に辛抱を重ねていたのだが、セレナディアの願いは一向に叶うことなく儚く散った。

 我慢の限界を超えて、姉であるラプソディア達に反旗を翻したセレナディア陣。

 神々の戦闘は3日3晩繰り広げられ、セレナディア陣が勝利迄後1歩という所迄怨敵を追い詰めた。

 取り巻き達を倒し、残るは主敵のラプソディアのみ。

 セレナディアがラプソディアに引導を渡す為に告げる。


〔ここ迄だよ。姉さん〕

〔くっっ……。妹の分際でよくもやってくれたわね。けど残念ね。あんたに絶望を与えてあげる〕

〔……? 何をするつもり?〕

〔こうするのよ!〕


 自身の邪族堕ち。

 元女神ラプソディアは自らが生み出した子達・ティロットの人々を皆殺しにする為に地上へと落ちた。

 これには焦ったセレナディア。

 邪族に堕ちたとはいえ、強大なる力を持ちし者。

 ルージェン王国の人々は肌で恐怖を感じ、国は一時騒然となってその殆どの機能が停止する事態となった。

 セレナディアはなんとかしようと動こうとしたが、それよりも少し先に【リリエル】と邪族と化したラプソディアとの戦闘が地上で始まってしまった。


〔なんてこと……。でもこうなったら……〕


 【リリエル】には自らの愛しき子(聖女)たるリーネがいる。

 セレナディアは【リリエル】を勝利に導く為に自身の[力]をリーネに注ぎ込んだ。



 先制攻撃は【リリエル】側。

 ミーアとカミラとケーレとの前衛組がラプソディアに3人で同時に突っ込んだが、ラプソディアは魔法で剣を作り出し、3人の攻撃を全て防いだ。

 攻撃を防がれたのを見て取ったリーネとアリシアが魔法で前衛組を支援するも、ラプソディアは杖を使用せずして魔法を使うというこの世界の法則を破る[事]をやって見せ、【リリエル】を驚愕させた。

 5人対1体。なのに実力は拮抗。

 【リリエル】は必死に抵抗したが、人と邪族では邪族の方が体力は上。

 疲労や魔力の著しい減少によって彼女達は次第にラプソディアに追い詰められていった。

 追い詰められていく中で一矢を報いようと動いたのがカミラ。

 【リリエル】を嘲笑うラプソディアにカミラはいつかのリーネ・アリシアの嬢子(でし)達の卒業試験の再現のようにラプソディアに特攻。

 カミラの特攻に少しだけ動揺するかのような気配を見せたラプソディアの隙をリーネは見逃さなかった。

 ラプソディアに上手く魔法を打ち込み、それでできた大きな隙をカミラが活かして、彼女はラプソディアの利き腕を胴体から落とすことに成功した。

 だが、これによって激高したラプソディア。

 【リリエル】はラプソディアの猛攻を受けて、リーネ以外は全員意識をラプソディアに刈り取られて地に倒れた。

 リーネも身体のいたる所から赤を零し、地に膝を着いている状況。

 意識を保っているのもやっと。

 瞼が今にも閉じようとしている。

 全滅間近。絶体絶命の危機。


「……。かなり拙いですね」


 赤を失いすぎている。

 魔力も残り少ない。

 放てて1~2発。


「ですが……」


 ラプソディアの方も無傷じゃない。

 カミラの特攻で利き腕を失い、【リリエル】の攻撃で身体中が傷だらけ。

 こちらは青を流していて、痛みに呻いている。


 こんなにも自分を傷付けた【リリエル】。

 ラプソディアは邪族となったことで最早自我はないものの、殺意という本能が彼女を動かして未だ意識のあるリーネに怒りを向けて駆けていく。


 自身に駆け寄ってくる邪族をリーネは、少しだけ口角を上げて見ていた。


「ふふっ、動けなくなりつつあった身体を無理矢理動かしてここ迄辿り着いた甲斐がありましたね」


 リーネがいる場所まで数m。

 そこで魔法が発動して魔法陣がラプソディアを取り囲む。

 戦闘をしながらリーネが仕掛けていた罠が発動したのだ。

 魔法陣は少しずつ、少しずつ小さくなってラプソディアを檻の中に閉じ込めたかのような状態となる。

 身体の自由を奪われ、呻き叫ぶラプソディア。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」

「終わらせます。魔女の連翼(ミランダ)


 リーネの背に生える6枚の漆黒の翼。

 翼は何度かはためいた末に彼女から離れてラプソディアの元へ飛翔していく。

 意思を持っているかのような翼。羽は一枚一枚が刃のようになり、ラプソディアの身体を切り裂いていく。

 これで、体内の魔力を使い切って魔力欠乏症に陥るリーネ。

 頭は朦朧とし、身体は言うことを聞かない。

 自分の中の砂時計は後僅かで最後の砂が零れて終わる。

 最後の力を振り絞って彼女は叫ぶ。


「……はぁっ、はあっ。私達の未来は、貴女なんかに奪わせません。魔女の連翼(ミランダ)


 リーネの声に呼応して翼達はラプソディアの周りで渦を巻いて舞い始める。

 漆黒から白銀、又漆黒に戻ったかと思えば再び白銀へ。

 リーネの魔法の翼は色を変えながら踊る。

 ラプソディアを空気と風の圧で微粒子レベルに消滅へと導きながら。


 全てを見届けたリーネ。

 意識を失って地に倒れる寸前に杖・エアルが人化。

 主人の身体を支えながらエアルはリーネに語り掛ける。


「ご主人様。未来の切り開き、お疲れ様でした。守られましたよ。皆の未来」


 エアルの腕の中。リーネは微かに微笑みを浮かべながら意識を失った。



 愛しき子(聖女)の敗戦寸前での逆転勝利。

 セレナディアは糸が切れた操り人形のように地に伏した。

 神の後始末を愛しき子(聖女)達にさせてしまった後悔。

 自分の愚かさと無力さをセレナディアは嘆く。


〔私も姉さんのことなんて言えないじゃない〕


 堪え切れずに涙を零すセレナディア。

 悲しみの女神の元に2柱の女神が集う。


〔セーレちゃん……〕


 恋愛とその安寧の女神セレナディアの幼馴染で光を司る女神エリー。


〔貴女の愛しき子(聖女)は凄い子ね〕


 女神セレナディアの親友で豊穣を司る女神フレヤ。

 2柱の女神に暫くの間、慰められて漸くセレナディアは立ち上がる。


〔姉さん、ここは貴女が創った世界なのに……〕

〔ねぇ、セーレちゃん。確かにラプソディア様は最低だったけど、あの神様はあの神様なりにこの世界のことを愛してたと思うよ~?〕

〔どうしてそう思うの?〕

〔じゃなかったら、とっくにこの世界を見捨ててたと思うから、かな~〕

〔そうね。それに最後に自分の手で子を失わせようとしたのも愛情の裏返しとも言えるような気がするわ〕

〔不器用すぎよ。姉さん……〕


 2柱の女神に言われる迄は姉に対する思いは[嘆かわしい]しか無かった。

 そんな姉をセレナディアは許せなかった。


〔でも……〕


 心の無情が(ほぐ)れていく。

 姉はもうこの世界にも、何処にもいない。

 存在している間に和解はできなかった。

 セレナディアは目を瞑って姉を偲ぶ。

 彼女は長年の恨みを捨てて姉を許すことができた。

 以降、この世界ティロットを主神として支えているのは3柱の女神達。

 女神セレナディアと女神エリーと女神フレヤ。

 邪族はどうしようかと悩んだが、今迄とは別の形で出現させることにした。

 人、動物、植物、世界の欲望を形にさせての出現。

 世界の狂気化をこうして少しでも散らせることにしたのだ。

 新種が見られるようになったのはその為。

 3柱の女神達は他の残った神々と共に世界を眺める。

 神らしい穏やかな眼差しで……。


**********


 聖霊石(エレメント)ランクになった【リリエル】。

 彼女達がそうなったという話は瞬く間に人々の間に広がって【リリエル】は多くの人々から祝福を受けることになった。

 シエラの思い付きでパレードなんかも行われて熱狂に包まれたロマーナ地方。

 嬢子(でし)の【ガザニア】と【アベリア】。傘下の【クレナイ】達迄も人々に混ざって【リリエル】を祝福する情景に当の【リリエル】一行は色んな意味で胸が熱くて、痛くなった。

 顔や身体は火照り、それはもう大変だった。

 しかしそれはロマーナ地方だけでは終わらなかった。

 ルージェン王国の王都や同盟国の王都にも呼ばれて開催されたのだ。

 【リリエル】一行は1ヶ月程、朝から晩迄大忙しだった。



 熱狂もやっと落ち着いて日常。

 ルミナとクリスタは今日もハンターギルドで仕事。

 メディとスキャラは蕾から花となり、それぞれの場で働きながらも互いのことを想い合っている。

 【クレナイ】は温泉旅館の切り盛りで相変わらず大忙し。

 【オダマキ】は畑にて野菜作りに精を出している。

 【アングレカム】は魔法連盟の総帥室で新たな魔女を選別中。

 ラピスとアレッタは学園にて趣味全開で楽しんでいる。

 現在、学園の生徒はスカートの長さは膝上10cm以上とすること! などという校則を作ろうと目論んでいるところだ。

 新たな校則を承認するか否かで悩んでいるアルマ。彼女も2人に染まりつつある。

 ハクは領地の視察中。領民に挨拶されて朗らかに笑む彼女。気さくな領主として領民からの支持が厚い。

 各国の女王達はそれぞれの地で国の運営に力を尽くしている。


 そして、【リリエル】と【カザニア】と【アベリア】は本業も副業も臨時休業にして別荘のあるマロンの里で休暇中。

 この里の長のマロンは今は夢の世界。

 【リリエル】達もこの里のエルフ達も、もうすっかりとそれには見慣れたもので誰も何も言わない。


「落ち着きますね」


 のほほんと呟くリーネ。


「そうね。やっぱり森林浴はいいわね」

「愛する女性(ひと)が一緒だしねー」


 リーネの言葉に続くアリシアとミーア。

 中心にリーネ。アリシアが彼女の右腕に自分の身体を巻き付けて、ミーアは彼女の左腕に自分の身体を巻き付けている。

 アリシアとミーアが自分達の胸をリーネに強く押し付けているのはわざとだろう。

 

「あの、2人共……」

「大好きよ。リーネ」

「リーネ、幸せそうー」

「確かに幸せですが……」


 リーネの頬が紅い。

 アリシアとミーアは笑顔。

 リーネが「大好きですよ」と告げた時、背後に感じる重み。


「ご主人様、エアもご主人様が大好きです。あ! 言い直します。ここにいる皆さんが大好きです」

「エアル!!? びっくりさせないでください」

「ごめんなさい」

「まぁ、いいですけどね」

「う~ん、今更だけどエアルって杖なのよね?」

「そうですよ」

「何も思わず受け入れている自分達ー」

「はい! だからエアは皆さんが大好きです」


 リーネの背中に頬ずりするエアル。

 それを見てか、見ずしてか、リーネの周りに集う仲間達。


「なんか面白いことになってるな。リーダー」

「女っ垂らしなリーネ」

「ちょっ、誤解を招く言い方はやめてください」

「リーネ師匠、混ざってもいいですか?」

「はい!?」


 フィーナの言葉を皮切りに皆にリーネは"わちゃわちゃ"される。


「ちょっ、ちょっと待ってください。あぁぁぁぁぁ」

「あはははははっ。おもしろ~い」

「擽ってもいいですか? リーネ先輩」

「貴女達、すっかりミーアに毒されますね!」

「毒されてるって失礼な言い方じゃないー。リーネ」

「事実です。って、恕作さに紛れて何処触ってるんですか! クオーレ」

「ぼく、ナンノコトカワカラナイ」

「わざとらしいです!!」

「リーネ、キスしてもいいかしら?」

「勿論です!」

「ぷっ。こんなになっててもそういうのは反応するんだな。リーダー」

「リーネって、キス好きだよね」

「リーネ師匠可愛いです」

「そういうところが皆に愛されるところですよね」

「エアもそう思います」

「……キス……早く下さい」

「ふふっ、愛してるわ。リーネ」


 リーネを真ん中に押しくら饅頭。

 楽し気に遊ぶ【リリエル】達。

 皆、それぞれに幸せそうな彼女達の横を風が通り過ぎていく。

 涼やかで優しい風が。


-------

転移したらエルフでした。~そして咲いた百合の花~

特別編 Chapitre complet Fin.

ご愛読ありがとうございました。

これにてこの物語は本当のフィナーレとなります。

読者の皆様はどちらの未来がお好きでしたか?

それではいつか、また別の物語で。


作者こと彩音。

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