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-一章- vs フレンジー盗賊団 その03。

 それは他でもない私の大切な人の1人。

 アリシア。その人だった。


**********


 アリシア―――。

 心の中で叫ぶ。

 彼女が何を思っているかその時は分からなかったけど、"ちらっ"とこちらを見たのが分かる。


「てめぇっ!!」


 私の目の前で、先程迄私を辱めてくれたソイツが私の大切な人・アリシアを全力で殴るのが目に映る。

 それによってこちらに吹っ飛んでくる。アリシア。

 それで、さっき私を見たのが計算の上でのことだったことが分かった。


 アリシアがこちらに倒れこむと同時に上手く自分の手を私の猿轡へと引っ掛けてくれたことで私の口を塞いでいた猿轡が外れて口が自由になったのだ。


 無茶をする―――。

 その行動に少し呆れたけど、私もかつて似たようなことをしたことをすぐに思い出した。

 人のことは言えない。


 アリシアが作ってくれた希望。それを無駄にするわけには絶対にいかない。

 盗賊団が動く前に素早く対処する。


 右手に出現させる杖。


魔力之障壁(マナシールド)。そして魔力之重圧(マナグラビティ)


 私達【リリエル】は自分達の魔力で自分達が自滅しないように障壁を張ってそれから守る。

 盗賊団には容赦などしない。この世界の重力は私が地球で生きていた頃の重力と同じ程度。

 それが今は10倍のものが馬車に圧し掛かっている。


「ぐおっ! 急に身体が重くなりやがった」

「動けねぇ」


 地面に這いつくばることになる盗賊団達。

 これで私達に何かしたくてもできなくなった。

 無効化完了。後はこちらが自由になる必要がある。


「ふぅ……っ」


 (まか)り間違えても自分達を傷つけることのないよう、細心の注意を心掛けなくてはいけない。頭の中でゆっくりと魔法の構築をする。


風之刃(ウィンドブレード)」 


 手械と足枷を切断するつもりだったけど、切れない。

 私の魔法は枷に弾かれて霧散する。

 私が思っていたよりも強度な金属が使われているらしい。


「けけけけ。無駄だ無駄だ。そいつはなんたって黒色硬玉鋼(アダマンタイト)制の枷だからな」


 アダマンタイト。地球でのヲタク界隈で聞いたことがある。

 確かこういう異世界において最も硬くて希少な金属だったっけ。

 そんなものを枷に使うなんて、この盗賊達は余程私達のことを気に入ってくれていたらしい。

 全然嬉しくないけどね。それどころか益々嫌な気分になるばかりだけどね。


「なるほどです!」


 それなら。それならば魔法の威力を高める迄だ。

 

「風の精霊よ。我が呼び声に応えよ。全てを吹き飛ばし、全てを断ち切れ。猛威を振るい、その力を我に示せ。代償は我が魔力。さぁ、我が前に姿を現せ。そして我が敵を討ち倒せ。顕現(けんげん)せよ! 風の精霊・シルフ」


 いつもよりも強い言霊。

 その言葉の力の後に起こることを知っている私は私とアリシアと同じように目覚めていたらしいミーアと目が合う。

 些少ながら、怯えているような気がする。シルフのことを彼女は知ってるから。

 でもでも、ね。そんな目をしなくても[魔力之障壁(マナシールド)]張ってるから大丈夫だよ。


 風が吹く。馬車の一角に小さな竜巻のような風が。

 私達は障壁を張っているから平気だけど、盗賊団達はその風で馬車のホロを突き破り、外へと身体が投げ出された。


 まっずい……。


 またも失敗した。私の魔法は、さっき使った[魔力之重圧(マナグラビティ)]はこの馬車の中にだけ対応したものだ。

 外に出られたらその魔法が解けてしまう。

 今日の私はどうかしている。

 このままじゃ、アイツらに逃げられてしまう。


「シルフ、早く顕現してください」


 ()び掛けると風の精霊ことシルフは私のそれに応えるように私達の前にその姿を現した。

 見かけはエルフを30cmくらいの身長にして、背中に4対のトンボの翅を生やさせた感じの子。

 それが風の精霊・シルフの姿。


 ごっそりと魔力がシルフに持っていかれる。

 例えるなら2リットルの水が入ったペットボトル内から1.8リットル程。中の水を抜かれた感じだろうか。

 後少しで魔力欠乏症に陥るところ。疲労感が物凄い。


〔ここは何処?〕


 私の目の前に現れたシルフが怪訝そうに呟く。

 そして私を見て、私に寄って来るシルフ。この子は私が()び出せる精霊の中でも最も私に懐いてくれているのだ。


〔わぁ、リーネだ! でもなんかいつもと違うね? なんかこう、現実的(リアル)な感じ? いつもはなんだか作り物(アバター)っていうか、人形(ドール)っていうか、それっぽいのに〕

「現実ですからね。それよりシルフ。すぐに力を貸してください」

〔なんか焦ってるみたいだね。で、どうしたらいいの?〕

「このアダマンタイトの枷を……。私を含めて女性3人分、断ち切ることはできますか?」

〔そんなことでいいの? うん、余裕だよ〕


 シルフが右の掌を前に突き出す。

 そこから解き放たれるのは、私のモノなんてまだまだ可愛いって思う程のモノ。

 私となんてまるっきり比べ物にならない、比にもならない絶大な魔力の塊。


「……………。シルフ、異常に強くなってませんか?」


 確かにあのクソゲーム内でも彼女は強かった。

 だけど今は、それよりも何倍も強くなっている。


〔うん。自分でもびっくりした。ここが何処か分からないけど、あの世界とは違うよね? この世界はあの世界よりずっと魔力(マナ)の元になるモノ。魔素(エーテル)が濃いみたい〕


 魔素(エーテル)とは簡単に言うと、空気中に溶け込んでいる酸素とかの元素の仲間。

 地球にそれがあるのか無いのか知らないけど。多分無いと思う。あったら科学で解明されてる筈だし。

 この世界はそれがあのクソゲー世界よりもずっと濃いらしい。


 シルフのお陰で身体が自由になる。

 アダマンタイトの枷はいずれも見事にバラバラ。

 自由って素晴らしい。身体が伸ばせるって幸せなことなんだね。


〔これでいいの?〕

「うん、ありがとう。シルフ」

〔どう致しまして。あぁ、そうそう。リーネの魔力、今回も美味しかったよ。また()んでね〕


 そう言ってシルフは消えていく。

 また「()んで」なんて言ってたけど、そう易々と()べる存在じゃない。

 毎回私の魔力をごっそり奪っていくのだ。簡単に()んでたら私は干乾びて死んでしまうよ。


「「リーネ」」


 自由になったアリシアとミーアが私に抱き着いてくる。

 そのアリシアの頬に手を当てる私。

 殴られたところが赤黒い痣となっている。

 私が予想していたよりも相当に強い力で殴られたみたいだ。


「全く。人のことは言えませんが、アリシアも無茶をしますね。上級治癒魔法(ハイヒール)


 私の魔法でアリシアの頬は元通り。

 さて、後は盗賊の始末。

 そう脳内で処理して身体を動かした私の腕をアリシアが掴んだ。


「どうしました?」


 何事かと振り向く。

 アリシアはとても苛立った顔。

 ミーアも同じような顔で私を見ている。


「アリシア? ミーア?」

「さっきさー」

「はい?」

「リーネ、太腿触られてたよねー」


 ミーアの言葉で思い出した。

 うん。しかしまぁ、こんな時に思い出させて欲しくなかった。


「凄く気に入らないわ。というよりもよ。わたし、リーネを汚されて腸が煮えくり返ってるのよね」

「同感ー」

 

 アリシアが私から手を離す。

 それから少し動いて漁りだすのは馬車内にあった物品箱。

 これ迄奴らが強奪・略奪してきたと思われる物に混ざりアリシアとミーアの武器が箱の中にあった。


「……。とりあえず武器は回収できたわね」

「だねー」


 各々の武器を回収した私達。

 しかし、盗賊団を誤って外に出してしまってから相応に時間が経った。

 奴らはもう、遠くへと逃げてしまっている事だろう。


「ごめんなさい」


 武器の回収などを終わらせたら、私は2人に頭を下げる。

 今回の件は完全に私のミスだ。作戦を立てたのは私。

 指揮官という立場にありながら、【エールラブリー】が盗賊団の一味と関係していることを見抜けなかった。そのせいで【リリエル】を壊滅寸前の危機に陥らせてしまった。

 全部全部私の失態だ。

 

 この世界に来て、[力]を手に入れて調子に乗っていた。

 今の自分ならなんでもできるって高慢(こうまん)になっていた。


「ごめんなさい……。私のせいで……」


"ぼろぼろ"と涙が零れる。

 アリシアとミーアはそんな私を優しく抱き締めてくれる。


「貴女だけの責任じゃないわ。リーネ」

「そうそう。それよりさっきも言ったけどさー」

「ええ、気に入らないわね。リーネの身体にアイツらが触れたこと」

「全部終わったら、リーネを浄化しないとだよねー」

「そうね」


 その浄化の方法とは?

 こんな時に何だけど、私の脳が我が身の危機を訴えて来るのはきっと正しい。

 なんか謎の恐怖のせいで涙はすっかり引っ込んだ。


 いやいやいやいや。そんなことよりも、だ。今は―――。


「アリシア、ミーア。それは置いといて今はですね……」


 私が口を開いた時だった。

 馬車の外に数百にも及ぶ人間の気配を感じ取ったのは。

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