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-特別編6- 幸せな人生。

 ルージェン王国が一地方ロマーナにあるラナの村。

 村の一角に建てられている【リリエル】と【ガザニア】の自宅。

 今日は本業のカフェ運営も副業のハンター活動もお休みの日。

 どちらも忙しくて、ろくに休めていないので貴重な日。

 【リリエル】と【ガザニア】は当初、この休みこそは全力で怠けて過ごすつもりだった。

 何なら昼過ぎ迄睡眠を貪るつもりだった。

 ところが、職業病というやつだろうか。

 全員揃って目覚めたのはいつもと変わらぬ時間帯。

 時計を見て、まだ寝ようと皆が思ったが目が冴えてしまって眠れずに結局ベッドから起きだすことになった。

 2階の寝室から1階の居間へと移動しようと廊下へ。

 途中、鉢合わせる3組の婦々。

 リーネとアリシアとミーア。ケーレとカミラ。フィーナとマリー。

 一行は朝の挨拶と共に苦笑いし、共に1階へと降りてきた。

 朝ご飯をカフェのシェフ組が適当に作り、まかないの如く皆がそれを食べる。

 休日だというのに、ここ迄まるっきり平日と変わらない朝。

 【リリエル】と【ガザニア】。全員が行いに気が付いているので誰もが無言。

 居間に聞こえるのはカトラリーと食器の音。それだけ。


 気まずい。


 この状況をそう感じ、打開の為に会話をしようとするリーネ。

 ここで何か気の利いたことを言えれば良かったのだが、リーネの口から出たのはよりにもよって仕事の話だった。


「カフェ。今は洋食しか提供していませんが、和食の提供も有りかなと私は思うのですが、どうでしょうか?」


 洋食・和食・中華。

 リーネ達異世界人がこの世界に転移してくる迄はそんな組み分けは無かったが、異世界人が来たことで、馴染んでしまっている食文化。

 リーネは言ってから『やってしまった』と思ったが後の祭り。

 カフェのシェフ組に火が付き、店で提供する為の和食作りが朝食後に開催されることになった。


 ああでもない。こうでもない。もっとこう、お洒落に。


 "ぶつぶつ"言いながら黙々と料理を作るカフェのシェフ組。

 リーネ達ウェイトレス組は二階のアリシアの部屋にてミーアがニナの店でオーダーメイドで買ってきた何着かの制服の試着会。

 どれもこれも露出が多い。

 中にはミーアがネタの品としてニナに依頼した物もあり、ウェイトレス組はネタの品を見て頬を紅に染める。


「これはさ、流石に着れないよね」

「……それ、どう見てもサイズがケーレ用ですね」

「こんなの着て店内に立ったらお客さん達に痴女だと思われるって!」

「じゃあ夜用ね」

「ちょっ、アリシアさん!」


 ……………。

 一瞬の静寂。後、沈黙を破ったのはリーネ。

 "こほんっ"と咳払いをしてから彼女は思ったことを口にする。


「今迄のままで良くないですか?」


 お陰で変な緊張が解ける。

 空気が軽くなって、口々にリーネに賛成するウェイトレス組。


「私もそう思います。あれはあれで恥ずかしいですけど、ミーアさんが持ってきた物の中では一番マシだと思います」

「カフェ店内は魔道具で人が心地が良いって感じる温度に保たれているから年間を通してあれなんだよね」

「ですね。暑さ、寒さ関係ないです。クリスマスの時期だけは変わりますけどね」

「ミニスカサンタよね。うちの店は何を目指しているのかしら」

「正直、何度着ても慣れない」

「同感です」

「わたしもよ」

「私もです」


 試着終了。

 各々私服を着て再び一階へ。

 そこでウェイトレス組が見たのは机いっぱいに並んだ和食達。

 朝ご飯に良さそうな物から正月にでも出てきそうな物迄様々な物が所狭しと並びたてられている。

 目を引くのはやはり正月に出てきそうな物。

 練り切りやおせちもどき。職人が作ったとしか思えないできの物。

 だけど、他のもどれもこれも美味しそうな物ばかり。

 握り寿司やら手毬寿司迄もあって、見ているだけで目が楽しい。


「一応どれも自信作なんだけどよ。試食してみてくれないか」

「お店に出せる味にはなってると思うー」

「ちょっと張り切り過ぎちゃった感があるけどね」


 カミラとミーアの自信溢れる言葉。マリーの苦笑いの言葉。

 3人から箸を渡されるリーネ達ウェイトレス組。

 正直、悩んでしまう。どれもこれも美味しそうすぎて。


「朝ご飯食べたばかりなのにね」

「そうですね。ですが、食べたいです」

「迷うわね。全部美味しそうだわ」

「迷い箸ってマナー違反でしたよね? う~、でも迷います」


 どれから手を付けたものだろうか。

 迷いに迷うリーネ達。

 数分してから全員が味噌汁に手を伸ばした。


「んっ! これ美味しい」

「ええ、とても美味しいわね」

「心迄温まる気がしますね」

「ほっこりします」


 リーネ達の感想を聞き、笑顔でハイタッチするシェフ組。

 それからリーネ達は少しずつ3人が作った品物を食べていき、結論として全部が美味しかったという意見になった。


「美味そうに食べて貰ったのは嬉しいんだけどよ、この中でどれを店に出せばいいか決めてくれないか。流石に全品出すわけにもいかにないだろ?」

「そうですね。ではこういうのはどうですか?」


 リーネから出された提案。

 店への調達や調理が簡単な品物は毎日出すようにして、難しいモノは和食の日を設けて期間限定にするというもの。

 シェフ組は彼女の提案を聞き、即時採用することにした。

 数日後、カフェ・リリエルに設けられた和食の日。

 シェフ組の自信作でも一抹の不安にも似たようなモノがあったものの、お客様達には好評で1~2ヶ月に2回程の割り合いにてカフェメニューが全品和食となる日が設けられることに決定した。


 大成功。それは良かったのだけど……。


「師匠達だけずるいですよ!!」

「ですです!! もしかして忘れられてたんですか? わたし達」


 和食の試食会に自分達が呼ばれなかったことに【アベリア】からの苦情(クレーム)が入り、【リリエル】と【ガザニア】は彼女達に散々謝り倒した上で次の休日には絶対に【アベリア】を招待して、再度の和食の試食会を開くことを約束して漸く彼女達の許しを得た。


「ごめんね。そう言えばあの時作り忘れてたおはぎを今作ってみたんだけど、試食してみるー?」

「「是非!!」」

「おはぎには緑茶だよねー。はい、どうぞ」

「「わー! ありがとうございます」」


 カフェはもう閉店時間。

 店内に残っているのはカフェの店員達だけ。

 【アベリア】の師匠であるミーアから貰ったおはぎを美味しそうに頬張る2人の姿がとても可愛い。


 ……………。

 無意識で嬢子(でし)である【アベリア】の2人の頭を撫でるミーア。

 先の宣言通りにミーアは彼女達に優しく接している。

 叱るべき時はきちんと叱るけれど。

 フィーナの師匠のリーネ。マリーの師匠のアリシア。彼女達と変わらずミーアは【アベリア】にとって素敵で誇りに思える良き師匠。

 【アベリア】を慈愛に満ちた瞳で見つめながら彼女達の頭を撫で続けるミーア。

 嬢子(でし)を慈しむミーアに触発されるリーネとアリシア。

 リーネはフィーナを、アリシアはマリーの頭を撫で始める。

 嬢子(でし)の4人は師匠達の行為を不思議に思うが、嫌なことじゃないので黙って師匠からの愛慕を享受し続けた。

 【アベリア】がおはぎを食べ終わった頃には、嬢子(でし)のいないカミラとケーレも【ガザニア】と【アベリア】を自分達の嬢子(でし)のように可愛がって、4人の嬢子(でし)は大いに口元を緩めたのだった。


**********


 和食の日が設けられた日、嬢子(でし)達との戯れの日から更に数日後。

 リーネは大変な目に遭っていた。

 マロンの里に暫くの間出張していて、つい先程リーネの元へ帰還したばかりのクオーレと()んでもいないのに空中から現れた精霊達によって。


「リーネお姉ちゃん、リーネお姉ちゃん。会いたかったーーー」


 リーネの腰に尻尾を巻き付かせて彼女を逃がさないようにしながら、彼女の華奢な身体に匂い付けでもするように自分の頭を擦り付けるクオーレ。

 クオーレに便乗をして、左右と背後からリーネに抱き着いてクオーレの真似事をする精霊達。

 身動き不能。リーネとしては堪ったものじゃない。

 声を出して抗議するが、彼女達が引く様子は一向にない。


「クオーレ、擽ったいですよ。放してください。……と言いますか、貴女の行動は何百年経っても全然変わりませんね!! それと、シルフにウンディーネにシェードにドリアード。私は貴女達を()んでいませんが、どうやってこちらの世界に来たんですか!!?」

〔自分達の魔力を代償にして来たんだよ。お前にどうしても会いたくなってな〕

「シェード。貴女ってそういうキャラでしたっけ?」

〔るせぇなっ。どうでもいいだろ〕

「よくありません!!」

〔……お前っていい匂いするよな〕

〔ほんとほんと。すっごく好きな匂い〕

〔女の子の匂いね〕

〔ずっと嗅いでいられるわね〕

「完全にキャラ崩壊してますよ? シェード。後、シルフ達は自重してください」

「リーネお姉ちゃん、ぼくもリーネお姉ちゃんの匂いのこと、そう思う」

「なんなんですか! 今日はーーー!!」


 使い魔のクオーレとあのクソゲー内で契約した精霊達。

 それぞれから揉みくちゃにされるリーネ。

 風の精霊シルフに水の精霊ウンディーネに樹木の精霊ドリアードとは元より相性が良かった。

 しかし、闇の精霊シェードとは仲が良いとは決して言えなかった。

 ……筈なのに彼女も今は自分にくっ付いてきている。

 どういう心境の変化だろうか? 分からないが、甘えるにしても度が過ぎる。

 が、ここで強く彼女達を叱責できないのがリーネの甘いところ。

 自身が心を開いた相手にはてんで弱い。

 そのせいでクオーレと精霊達にされるがままにリーネはされる。


「はぁ……っ」


 思わず盛大にため息を吐き出すと、この騒ぎを聞いたのだろうか?

 リーネの自室の部屋の扉が外側から開けられた。


「何してるの? ってクオーレに精霊達?」

「リーネ、精霊全員()んで何するつもりだったのー?」

「アリシア、ミーア。いえ、精霊達は私が()んだわけではなくてですね」

「リーネお姉ちゃん、好き」

〔アタイ達もお前のこと好きだぜ〕

「っ! 貴女達! リーネはわたし達の妻よ!!!」

「そうだそうだー」

「張り合わないでください。まずは助けてください!」

「アリシアお姉ちゃんとミーアお姉ちゃんはいつもリーネお姉ちゃんにくっ付けるんだから、たまにはぼく達に譲るべきだと思う」

〔本当にそうよ。特に私達なんて滅多に()ばれないんだから!!〕

「そんなの関係ないわ。貴女達がどうしてもどかないっていうのなら、こっちにも考えがあるわよ」

〔んだよ。無理矢理アタイ達をリーネからどかせるつもりか?〕

「それはちょっと可哀想だから、自分達も混ざるー」

「はい?」


 成り行きを見守っていたリーネには開いた口が塞がらなくなるアリシアとミーアの言葉。

 2人は本当に混ざってきて、リーネはスキンシップという名目で何時間にも渡って彼女達に弄ばれた。

〔ふぅ、満足したわ〕

「ぼくも楽しかった」


 精霊達が満面の笑みを浮かべて自分達の世界へと帰っていく。

 クオーレは夕方の散歩。

 残されたのは別の意味で満身創痍なリーネとまだまだ元気なアリシアとミーア。


「……疲れました」

「楽しかったわ。リーネったら本当に可愛いわね」

「お風呂入る? 疲れ取れるよー」

「そうします」


 ミーアに言われて"ふらふら"と歩き出すリーネ。

 彼女の後にアリシアとミーアは続いて歩く。


「あの? どうして付いてきているのですか?」

「わたしたちも一緒に入るからよ?」

「だよー?」


 リーネの問いにさも当然だと答える2人。

 『お風呂場でも一波乱ありそうですね』と思考したリーネだったが、言い返すだけの気力も無くお風呂へと直行した。

 結論から言えば、リーネの予想は当たった。

 右腕にアリシア、左腕にミーアが自分達の腕と身体を絡ませて来て、まだ湯舟にも浸かっていないというのにすでにのぼせた感じになっているリーネの頬に左右からのキス。

 全身が火照って紅に染まるリーネ。

 アリシアがリーネの様子に笑顔になっている間に隙をついてミーアはアリシアの唇を奪う。


「んっ!!?」


 そしてすぐに次はリーネの唇を奪い、やってやった! とばかりにミーアがドヤ顔をする。

 しかしリーネもアリシアもやられてばかりでは無かった。

 ゲームのように始まる3人での唇の奪い合い。

 ある程度気が済んだ所で愛し合う者同士が微笑みあう。

 一番キスをされたのはやっぱりリーネ。

 湯船の中でも、お風呂から上がった後も、アリシアとミーアはリーネから離れようとしない。

 いつも以上にくっ付いて、リーネのことを手段を選ばずに誘惑しては思い通りに彼女の照れて可愛い顔を引き出すことに成功する。

 リーネはその日、あらゆる者達に翻弄された。

 明け方近く。

 不意に眠りから目覚めたリーネ。

 何気なく首を左右に動かすと、自身の身体に腕を巻き付かせて眠っている愛する妻の姿。

 アリシアもミーアも可愛い寝顔。


『どんな夢を見ているんでしょうか?』


 リーネがそう思った丁度その時、2人が共にリーネの名を呼んだ。


「んっ、大好きよ! リーネ」

「リーネ。もっとキスするよー」


 タイミングの良さにリーネが驚いている横で幸せそうな顔になる2人の妻。

 リーネはちょっとばかり面白くなく感じる。

 だってそうだろう。2人は夢の中の自分とキスでもし合っているのだから。


「アリシアとミーアは私の妻です! 例え夢の中の私でも渡しません」


 本当は2人の唇にキスをしたいが、当の本人達に身体を自由に動かすことができないようにされているので、『仕方ないので頬にでもキスしましょうか』とか考えるリーネ。

 実行前にアリシアとミーアが"ゆらりっ"と動き、リーネの頬に左右からキスをしてきた。


「2人共もしかして起きてるんですか?」


 アリシアとミーアが仲良しで、息がぴったりなことは何百年も前からリーネはよく知っている。

 それにしたって、寝ている時にもそんなことって有り得るんだろうか?

 2人の顔をじっくりと観察するリーネ。

 何度見ても、2人は幸福感に包まれている。という顔をして"すやすや"と眠っている。


 リーネは薄く笑い、心からの言葉を自身の口から紡ぎ出した。


「ある意味で2度目……。いえ、今の私(リーネ)でなかった頃も入れると3度目でしょうか。私は2度目も3度目も人生が幸せです」


 リーネが言い終わると同時、アリシアとミーアによる自分の身体の締め付けが少しだけ強くなる。

 リーネは彼女達と同じように幸せいっぱいの顔付きとなり、この世界に転移して来れたことを改めて喜ばしく感じた。

お知らせ(2024/03/06)

作者の記憶ミスにより、物語の内容がおかしなものになっていました。

その為に一部内容を修正し、加筆致しました。

ミスをご指摘してくださった読者様ありがとうございます。

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