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-特別編6- 巨人の行進と新たなる師妹。

 ルージェン王国の一地方ロマーナ。上空。

 箒に腰掛けて、そこから、とあるものを見ている者が1人。

 風に吹かれて棚引くベージュ色の髪。はためく黒の衣装。

 ルージェン王国が誇るハンター、【リリエル】のリーダー・リーネ。

 彼女は空から見える光景に別の意味で感動を覚えていた。


「あれだけの存在が行列を成していると、圧巻なものがありますね」


 リーネの翡翠色の双眼が捉えているのは邪族の群れ。

 身長はそれぞれ10mはあり、高くても精々1.7mから1.8mの[人]なんて彼らから見れば虫けらのような者に感じるものと思われる。

 そんなのの行列。

 この地方に非常事態宣言が出された理由が痛い程よく分かる。

 今はまだ彼らは町には到着していない。

 が、彼らが到着した暁にはロマーナ地方は自然が起こす大災害と同じくらいには壊滅的な打撃を受けることになるだろう。

 愛する女性(ひと)達がいる場所。大切に思う人々が多くいる場所。

 安息の地を荒らさせるわけにはいかない。


 箒を操り、心を引き締めて空から地上へと舞い降りるリーネ。

 舞い降りた先には彼女のことを見守っていた者達がいる。

 【リリエル】と【ガザニア】。最近傘下になった【アベリア】。


「リーネ、どうだった?」


 見守っていた者の1人、アリシアがリーネに尋ねる。

 彼女の方を向き、無理矢理柔らかな表情を作るリーネ。


「はい。ティターン(巨人邪族)が少なくとも300体は歩いていました」

「あー。だから地面が小刻みに揺れてるのかー」

「そういうことになりますね」


 ……………。

 いやいやいや、ティターンが300体って。

 数が余りにも多すぎじゃないだろうか。

 今回の仕事、少々骨が折れる仕事になりそうだ。


「こんなに揺れてる中での戦闘かぁ」

「足場が不安定な中での狩りは少し不安です」

「踏み潰されないようにしないといけないしな」


 全員緊張した顔。

 1体も町に侵入させるわけにはいかないという思いが拍車を掛けている。

 リーネは暫く考え、「では、こういうのはどうでしょう?」と仲間達に提案。

 彼女の提案は誰からの反対もなく、実行されることになった。

 ティターンと【リリエル】達との戦闘。

 物量は圧倒的にティターンが上だが、戦闘能力は【リリエル】達が上。

 質より量な時もあるが、今回は量よりも質。

 ただでさえそうなのに、数が多いことが皮肉にもティターン達の足元を掬うことになった。

 仲間達が邪魔なのだ。足元を軽快に動く【リリエル】達を排除しようと試みても、傍の仲間達にぶつかって自分達が地へと倒れてしまう。

 間抜けな隙を見逃す【リリエル】達じゃない。

 【リリエル】のミーア達前衛組と【アベリア】が彼らの頭を飛ばす、潰すなどの行動を的確に行う。

 【アベリア】はそうしながら、自分達とは少し離れた場所で魔法を手足のように操っているリーネを見て味方で良かったと心底そう思った。

 

「絶対に敵に回したくない」

「うん、そう思う」


 苦笑いしながらリーネから今度は自分達の足元に視線を移す【アベリア】。

 地面よりもほんの数cmだけ浮いている。

 これによってティターン達の地揺らせも自分達には無効な状態。

 リーネの提案はこれだった。

 【リリエル】と【ガザニア】は彼女が難無くそういう[事]をすることには慣れているのか? 特別驚いた様子は見せなかったが、【アベリア】は自分達の身体が宙に浮いた時に驚いて声を上げてしまった。


「う、浮いてる!!」

「……? そういう魔法ですからね」

「あの、なんでそんな平然とした顔でそんなこと言えるんですか!! しかも、ここにいる全員に空浮きの魔法を使っても少しも疲労感とかなさそうじゃないですか!! 魔力、どれだけあるんですか!!」

「どれだけと言われても困りますが、7柱のドラゴンの魔力を全部足したくらいでしょうか? 量るものがないので正確な数字は分かりません」

「「化け物だ」」

「よく言われます」


 【アベリア】の言葉に笑い始めたリーネ。

 この世界の人々は全員そんな化け物なんだろうか?

 他の世界から来た【アベリア】はまだこの世界の常識に疎いので、そう思って【リリエル】と【ガザニア】を見たが、彼女達は一斉に首を横に振った。



 これで何体目だろうか? 又数体のティターンが倒れ落ちる。

 【アベリア】も奮闘しているが、それよりも【リリエル】と【ガザニア】が彼らを完膚なき迄に叩き潰す数の方が圧倒的に多い。

 こればかりは邪族との戦闘を重ねてきた経験の差。

 分かってはいても悔しくなる。

 視線を交えるキャロルとリュシー。

 負けてはいられないと彼女達も機敏に動き始める。

 

 リーネやフィーナの魔法に翻弄されるティターン達。

 彼女達に気を取られていると【アベリア】達に足の健をやられるなどして立てなくなる。

 容赦なくトドメを刺され、仲間達は矢継ぎ早に数を減らしていく。

 あれだけの数がいたのに、もう残りは片手で数えるのに事足りる。


 混乱するティターン達。

 リーネが残りの彼らに杖を振るう。

 下級の風の魔法の連弾。それでも威力は尋常ではなく、ティターンの太くて丈夫な首を下級の風の魔法は刈り取って過ぎ去っていく。

 【リリエル】達の戦闘は1体たりとも彼らを町に近付けさせることなく、町から遠い場所で決着した。

 ハンターギルドに凱旋。

 ギルドにいた者達から持て囃される【リリエル】達。

 少し照れ臭そうな顔をしつつ、小さく手を振りながら【リリエル】と【ガザニア】は今回の依頼達成の報告をしに受付嬢の元へと向かう。

 【アベリア】は彼女達の状況を見つつ後ろに続く。

 【リリエル】と【ガザニア】に手を振られた者達の顔は皆、紅色。


「可愛い……」

「尊い。尊すぎるわ」


 【アベリア】も少しだけ顔が紅い。


『あんなに強いのに、称えられて照れ臭そうにするの可愛い』

『戦闘時と日常時でギャップが……』


 【アベリア】はこの日、ますます彼女達のファンとなった。

 後日、【クレナイ】が作り、運営している【リリエル】ファンクラブものものがあることを【アベリア】は知る。


「「加入させてください」」


 【アベリア】は【クレナイ】に怒涛の勢いでそう告げて、ファンクラブメンバーの証たるメンバーズカードと聖典を手に入れた。


「こ、これは……人類種の至宝」

「肖像画なのが味わい深いけど、改良すれば……」

「聖典と経典に分ければ問題なくなるよね」


 口角を上げる【アベリア】。

 聖典は改良され、写真の如く鮮やかな色彩のものとなった。

 後日、【クレナイ】と【アベリア】が新たに配った聖典 改め 経典。

 ファンクラブのメンバー達は【リリエル】と【ガザニア】の艶と可愛さと可憐さが増した物により、尊死、昇天者が続出した。

 尚、聖典は神殿に至宝として祀られることになった。




 それからこれは余談だが、【リリエル】達から報告を受けた受付嬢。

 日頃は仕事を丁寧に、かつ素早く済ませるタイプの者なのだが、この時ばかりは心が舞い上がってしまって何度もドジを踏み、【リリエル】達から笑われながらも「大丈夫ですか?」と手を差し出されて彼女達の手を両手で包み込んだ。


「暫くこの手は洗わない」


 そう呟いた受付嬢は他の受付嬢から羨ましがられ、「次はこっちに誘導してよ」「ダメよ。こっちに誘導してよね」「いやいや、何言ってるの? こっちに誘導するべきでしょう?」と一触即発状態となった。

 幸いギルドマスターのルミナが現場を通りかかって、わざとらしく咳をしたことで事無きを得たが……。


『やれやれ、人気がありすぎるのも考えものね』


 ルミナは遠い目でため息を吐き、踵を返してギルドマスター室へと戻った。


**********


 カフェ・リリエル。

 【ガザニア】は危機感を抱いていた。

 というのも、近頃心なしか【リリエル】と【アベリア】の距離が妙に近いような気がするのだ。

 リーネとアリシア。【カザニア】の師匠達は自分達以外を嬢子(でし)に取るつもりは未来永劫・永久に無い。

 と言ってくれているが、どうしても不安が拭えない。

 師匠達は自分達の輪の中に1度入れた者には弱くて優しいから。

 だから何かの拍子に【アベリア】を嬢子(でし)にしてしまうのではないか。

 とか思ってしまう。

 師匠達を疑いの目で見ていたら、自分達の視線をリーネとアリシアに気付かれた。

 

『拙い!』


 と考えたのも束の間。

 【ガザニア】の元に歩いてくるリーネとアリシア。


「そんな顔をして、どうかしましたか?」

「何か相談したいことでもあるのかしら? わたし達でよければ聞くわよ?」


 リーネはフィーナ。

 アリシアはマリー。

 自分達の嬢子(でし)の頭を撫でながらそう話す。

 頭を撫でられて夢見心地になる【ガザニア】。


「あの、リーネ師匠」

「はい。なんですか? フィーナ」

「アリシア師匠」

「はい。何かしら? マリー」

「「師匠達はもう嬢子(でし)を取るつもりって無いんですよね?」」


 リーネ・アリシアの目を真剣に見ながらの【ガザニア】の問い。

 リーネとアリシアは嬢子(でし)の問いの意味を何も考えずに即答した。


「ええ、ありませんよ。私の嬢子(でし)はフィーナだけです」

「無いわよ。わたしの嬢子(でし)はマリーだけよ」

「「良かったぁ……」」


 リーネとアリシアの言葉を聞いて胸を撫でおろす【ガザニア】。

 自分達の嬢子(でし)たる【ガザニア】を不思議な目で見つめるリーネとアリシア。


「一体どうしたんです? 何かありましたか。フィーナ」

「マリー、どうして今更そんなことを聞くのかしら?」

「リーネ師匠」

「アリシア師匠」

「「はい」」

「師匠達が鈍くて良かったです」

「うんうん」

「なんのことです?」

「ちょっと失礼ね」

「リーネ師匠~~~」

「アリシア師匠~~~」


 【ガザニア】は2人の師匠の胸の中にそれぞれ飛び込み、まるでエアルのようにリーネとアリシアに自分達の匂いを擦り付けた。


「変なフィーナですね」

「マリーも変ね」


 師匠と嬢子(でし)

 彼女達の戯れ合いは暫くの間続いた。



 その横で……。

 【アベリア】はミーアに嬢子(でし)入りを頼んでいた。

 自分達は完全な前衛。ならば嬢子(でし)入りするならミーアだと思ったからだ。


「お願いします。是非嬢子(でし)にしてください」

「私からもお願いします」

「2人共なのー?」

「「はい」」

「う~ん……」

「なんでもしますから」

「女の子が軽々しくそんなこと言ったらダメだよー」

「じゃあどう言えばいいですか?」

「えっ!? う~ん」

「「ミーアさん~~~」」


 キャロルとリュシー。

 2人共が子犬のような目をしてミーアを見つめる。

 

「うっ……」


 2人の目に怯むミーア。


「なんなら土下座しますか?」

「ミーアさんに嬢子(でし)入りできるならやりますよ!?」


 そこに【アベリア】からダメ押しの言葉。

 これには慌ててしまうミーア。


「ちょっ、待ってー」

「「じゃあ」」

「あー、もう、分かったよー」

「「やったー。よろしくお願いします。ミーア師匠」」

「なんか上手く乗せられた気がするなー」


 とは言え、1度口から出た言葉は戻らない。

 ミーアは覚悟を決めて【アベリア】を嬢子(でし)に取ることにした。

 一続きのできごとを見物していたカミラとケーレが【アベリア】に声を出す。


「2人共ミーアはスパルタだからね」

「鬼だぞ。鬼。死なないように頑張れよ」

「「えっ!?」」


 カミラ達の言葉に怯えてミーアを見る【アベリア】。

 ミーアはカミラとケーレを睨みつけてから【アベリア】の頭を撫でる。


「2人には優しくするから大丈夫だよー」

「おい! それって贔屓だろ」

「なら、うち達にも優しくしてくれたら良かったのに」

「だって、カミラもケーレもキャロルとリュシーに比べると雑魚だったからねー。それに【()()()()】に加入するなら傘下の2人より強くなって貰わないといけなかったし? スパルタになるのは当たり前のことでしょー」

「うっ……」

「確かに……」


 ミーアの正論。何も言えなくなるカミラとケーレ。

 ミーアは論破した2人のことは無視をして、【アベリア】を両腕で優しく包んで抱き締めた。


「これからよろしくねー」

「「はい! よろしくお願いします」」


 ここに新たな師匠と嬢子(でし)が誕生した。



師妹(しまい)の関係っていうのもいいわね」

「はぁっ、ここはいつ来ても、どんな関係を見ても尊いわ」

「皆、いちいち可愛いのよねー」


 愛し合う者同士の百合。

 師妹(しまい)の関係の百合。

 仲間同士の戯れ合いの百合。


 お客様達はその光景を"ニヤニヤ"しながら楽しむ―――。

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