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-特別編6- 新たな仲間 その2。

 彼女達自身は無自覚でお客様達を百合の世界へと(いざな)い……。


**********


 時期はウィンター。

 カフェ・リリエルは本日も営業の予定だったが、ここ最近の大雪によって物流が止まり、そのせいでカフェに必要不可欠な食材が手に入らなくなった為に止むを得ず臨時休業。

 今日もいつもと同じようにカフェで元気に働く気満々だったキャロルとリュシーは出勤はしたものの、まさかの事態に肩透かしを食らうことになり、地面に降り積もった雪を恨めしく睨みながら仕方なく帰宅の途に着こうとしていた。


「あ~あ。つまんない。今日も先輩達の好きな女性(ひと)と愛し合う姿が見られると思ってたのに」

「だよね。それがこんなことになるとはね」


 2人の心に【リリエル】と【ガザニア】の皆々のカフェでの様子が思い浮かぶ。

 あれは、とても良いものだ。

 この世界ティロットに来てから僅かな時が過ぎた頃、2人はカフェを見つけて何故か吸い寄せられるように店内の扉の前に歩いて行った。

 そこにあったのは謎のオリハルコン製の板。

 書かれていた文字を読むと、[本日の予約表]とあった。

 それから予約の仕方も明記してあり、2人はオリハルコン製の板に祈りつつ手を触れた。

 カフェ・リリエルの予約。それはこのオリハルコン製の板によって行われる。

 予約日はランダム。当日が当たる時もあれば、5年後となる場合もある。

 オリハルコン製の板は5年先迄の予約が可能なので、何処かに振り分けられるのだ。

 カフェから遠い場所に居住している人々は各地方の商業ギルド本部 又は 支部に同じ石板があるので、そこで予約が可能となっている。

 ただ、予約が取れても【リリエル】じゃないと討伐不能な邪族やそれ以外の不測の事態が発生した際は自動的に予約が取り消しとなる場合もある。

 その時は補填として、カフェ・リリエルの料理の割引券。

 無期限で次回来店時に限り有効な物が配布されるが、予約に関しては取り直しが必要となる。

 [人]に害を成す者の討伐とカフェの運営。

 討伐の方が優先度が高いのは人々の間で暗黙の了解のこと。

 カフェ・リリエルで食事をするには[運]も必要なのだ。


 キャロルとリュシーは[運]が味方して当日の夕方の予約を取ることができた。

 この時はまだ朝方だったので、時間迄2人はロマーナ地方を観光。

 見るもの全てがまだ新鮮に映る時期で2人は大いに観光を楽しんだ。


 そうして迎えた夕方。

 不測の事態など起こらずに無事にカフェに入店できて身分証を呈示。

 席に着いた2人は……、他のお客様と一緒に尊死した。


 帰り道。絶対にまた来ようね! と約束した2人。

 後日、約束を果たす為にカフェに再来訪した2人が見たものは[従業員募集]の張り紙。

 2人は別の意味で身体に雷を受けたような衝撃を受け、従業員募集に飛びついた。

 しかし、どうやらその時点で希望者多数だったらしい。

 2人の申し込みを最後に慌てた様子で店員の1人が応募の紙を剥がし、2人には紙を剥がした店員からカフェの従業員となる為の試験日が口頭で伝えられた。


 幸い腕には自信がある。

 あるが、店員から聞いたのは応募者が多いという事実。

 勝ち抜けるかどうかは不安があった。

 数日後に行われた実技試験に面接試験。

 結果は後日と伝えられて2人はそれから"そわそわ"として落ち着かない日々。

 3日後に合格通知の手紙がカフェから届いた時は2人で抱き合って喜んだ。


「あの時は本当に嬉しかったなぁ」

「うんうん。でも貴女と出会った時も嬉しかったけど、ね」

「リュシー……」


 2人の故郷ユースリア。

 その世界は自由でありながら不自由だった。

 種族間の対立が激しく、差別や偏見は当たり前。

 そういうのが苦手な2人には、とても生き苦しい世界だった。

 混沌とした世の中で出会った2人。同じ考えを持つ者同士の出会いはまさに運命だった。

 2人は幸せだったが、できることなら『この世界から飛び出したい』という思いも常に抱いていた。

 抱いていた思いが要因だったのかは分からない。

 ある日、2人の足元に浮かんだ謎の魔法陣。

 驚いていたら、次の瞬間にはこの世界だった。

 2人は自分達に何事が起こったのかは分からずに、それでも勇気を出して始めの一歩を踏み出した。

 歩みを進める中で2人が見たのはユースリアとは全く違う世界。

 種族間で差別なんて無く、皆が仲良く暮らしている姿。

 エルフと魔族が楽しくお喋りしているところも見られた。

 ユースリアではこの2種族の対立は特に激しいものだったというのに。


「これって……」

「うん! きっと異世界ってやつだよね!」


 理解した2人。思い切って井戸端会議中のエルフと魔族に話し掛けてみると、喋っていた2人は自分のことのように心配してくれて、この世界のことと賃貸の家を紹介してくれた。


 今は優しくして貰えたことが懐かしい日となっている。

 思い出に耽っている間に2人の耳に届くハンター招集の鐘の音。

 この時期は本来、人の敵である邪族はハンターに成りたての者でも狩れる程度の強さしか持っていない者以外は巣に籠もってスプリングの時期迄眠りに就いているのだが、たまに巣籠もりに失敗したり不意に目覚めたりする者がいる。

 今回の招集はそういう者が現れたという知らせだった。

 

 この時期のそういう邪族はとても危険だ。

 日頃よりも凶暴性が増している。

 すでに何人かハンターに負傷者が出ているようだった。


「八つ当たりには丁度良いね」

「そうだね」


 ハンターギルドのマスター・ルミナの説明を聞いて笑う2人。

 2人もハンターの資格を持っている。

 エルフと魔族から話を聞いた後で身分証を得る為にいの一番にハンター登録を行ったのだ。

 通称(パーティ)名は【アベリア】。

 キャロルとリュシーの2人だけのパーティ。


 【アベリア】は他のどのハンターよりも早くギルドから駆け出していき、目標の邪族を見つけて狩りという名の殺戮を開始した。

 現場に訪れた【リリエル】と【ガザニア】一行。

 彼女達は【アベリア】がやっていることに大いに困惑し、これ以上ないくらいにドン引きしていた。


「リーネ師匠。私の間違いじゃなければ、あの邪族って魔法じゃないと倒せない筈ですよね?」

「よく覚えていましたね、フィーナ。その通りです。あの邪族には一切の物理攻撃は無意味です。……の筈です」

「でも、あれってどう見ても物理攻撃ですよね?」

「そうですね」


 魔法でしか倒せない筈の邪族。

 彼らを【アベリア】は物理攻撃で倒している。

 【アベリア】の武器は鎚。恐らくはアダマンタイト製のもの。

 品質については【リリエル】も【ガザニア】も認める。

 何といってもこの世界にアダマンタイト以上に硬い金属は存在していないし。


「ですが……」


 無茶苦茶すぎる。

 世の常識を捻じ曲げる行為を涼しい顔でやっている【アベリア】。

 カフェ・リリエルでは繊細さが求められる料理の提供もしている。

 【アベリア】の2人は繊細さが求められる料理も手際よく作っているのだ。

 それなのに現在2人がしていることといったらどうだろう。

 繊細さなんて程遠い。豪快な戦い方。

 【リリエル】も【ガザニア】も【アベリア】があんな剛腕を持っているだなんて全然知らなかった。


「不思議ですね。あの剛腕であれば、例えば食器とか幾つも破壊していそうなものなのですが……」

「そうね。料理だってこれは偏見かもしれないけど、大雑把な物になっていても当然のように感じるわ」

「ツヴェルク族ってその時々に応じて[力]の加減を可能にする能力が備わってたりするのかなー?」

「……。前衛としてうち達より優秀じゃない? 悔しいものがあるかも」

「魔法は、使えないのか? いや、溶液を使っているなら使えるようになっている筈だよな?」

「もしかして、ツヴェルク族って身体能力強化の魔法と武器への魔力付与の魔法を得意としている種族?」

「なるほどね! それなら本来魔法でしか倒せない筈の邪族が倒せることにも納得がいくね。流石フィーナ」


 【アベリア】の戦いぶりを眺めながら【リリエル】と【ガザニア】は雑談と分析を交えて会話をする。

 さっきは世の常識を捻じ曲げていると思っていたが、フィーナの分析通りならば彼女達はそんなことはしていない。

 常識はちゃんと成り立っている。

 それにしても恐らくはハンターに成りたての者が【リリエル】クラスじゃないと倒せない邪族を次々と討伐していく(さま)には末恐ろしいものを感じるが。


「ちょっと背筋が冷えた」

「で、でも嬢子(でし)の座は渡さない!」

「心配しなくても私達は貴女達以外の嬢子(でし)を取るつもりはありませんよ」

「ふふっ。フィーナもマリーも可愛いわね」

「それを聞いて安心しました」

「右に同じです」

「ですが……。っと今はそれどころではありませんね」


 空中から杖を取り出すリーネ。

 自分達の背後から襲ってきた邪族に魔法を放って駆逐する。


「今年は随分と眠れなかった邪族が多いようですね」

「同じ巣で眠っていたのを目覚めた邪族に叩き起こされたんじゃないですか?」

「なるほど。フィーナ、後で頭を撫でてあげます」

「本当ですか! 約束ですよ。リーネ師匠」

「ええ。でも、手伝いはしっかりしてくださいね」

「当然です」


 【リリエル】と【ガザニア】が連携しながら邪族達の討伐を始める。

 連携討伐を横目で見て顔をやや引き攣らせる【アベリア】。

 【リリエル】と【ガザニア】から見て【アベリア】は非常識に映る。

 が、【アベリア】から見て【リリエル】と【ガザニア】は化け物達に見える。

 どっちもどっち。各々が持てっている[力]で着実に邪族の数を減らしていく彼女達。

 そこに、【クレナイ】が合流した。


「加勢しますわ。お姉さま方」

「ふふっ、全員での狩りは久しぶりですね」

「しゃっ。じゃあ一気に片付けようぜ!」

「そうですね。……エアル、お願いしますね」

<任せて。ご主人様>


 【リリエル】達の顔付きが凶悪なモノに変わる。

 黒を赤に染めながら邪族達を次々屠る。

 【ガザニア】と【クレナイ】も母体たる【リリエル】に続く。

 邪族達はそれから数分後、4つのハンターパーティにより全滅した。



「……このまま帰るわけにはいきませんね。洗浄魔法(クリーン)


 全員の身体と戦場の汚れ落とし終了。

 綺麗さっぱりとしたところで杖・エアルに話し掛けるリーネ。


「エアル、力を貸してくれてありがとうございます」

<エアはいつだってご主人様に力を貸すよ。だから、捨てないでね>

「そんなことする筈ないでしょう」

<約束だよ>

「はい、約束です」

<じゃあエアは杖の世界に帰るね>

「分かりました」


 リーネは杖・エアルを宙に浮かせる。

 彼女はリーネの前で一回転してから杖の世界へと帰還していった。

 帰還を見届けてから【アベリア】に顔を向けるリーネ。


「さて、少しお話いいですか?」


 リーネが話したことは【アベリア】の面倒を【リリエル】が見るということ。

 つまりは【リリエル】の傘下へ加わって欲しい旨の打診。

 【アベリア】には断る理由なんて無く、彼女達は一瀉千里で【リリエル】の傘下に加わった。

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