-特別編6- 新たな仲間 その1。
スライムの溶液が変貌してから10年の時が過ぎた。
これでやっとリーネ達は心と身体の年齢が1つ上がったことになる。
――――――
世間上は。ただ、リーネ達。エルフ族は老化は停止してしまっているので変わりない。
ミーア達も同様。眷属として存在している彼女達はリーネ達と共通して老化が停止するようになった。
閑話休題
――――――
たった1つでは考え方やらなんやらそんなには変わらない。
人々はそう。だが、文明は少し発達した。
それというのもティロットに別の世界から新たな種族が喚ばれてきたから。
今度は地球ではなく、ユースリアと呼ばれる世界からの召喚。
人数は500名。勿論、全員女性で収監された種族名はツヴェルク。
大きな物から小さな物迄、物作りを得意とする者達。
文明が発達したのは召喚した種族達の恩恵によるもの。
但し、それは前と変わらずルージェン王国と同盟国に限られる。
他の国には彼女達はいない。彼女達自身が出ていこうと思えば出ていけるのだが、その時には溶液が使えなくなる。
あんな優れものを女性が1度でも使うと、恩恵を失うようなことをしたいなんて思う筈もない。
余程の変わり者以外は……。
ということで今のところツヴェルク達は誰も他国には行ってない。
ルージェン王国と同盟国で仕事を見つけて働いている。
さて、そんな彼女達がティロットに来て文明を発達させたところ。
それはライフラインと建物の大震強度。
今迄よりも大幅に強化されて震度7かそれ以上の大地震じゃないと崩壊することは無くなった。
本当はもっと発達させることも可能なのだが、ティロットの人々は文明に関しては大きすぎる変化を望まない傾向にある。
なのでツヴェルク達は彼女達だけで集まって何度か話し合いをし、一部分だけを発達させることにした。
いや、軍事力も底上げした。
これは魔道具士マロンと彼女達が出会った為だ。
つまりは悪ノリの結果。
ゴーレム達はブロック状のモノから関節が球体でできた女性の姿となり、自動人形と呼ばれるようになった。
自動人形。地上専用と海中専用と空中専用とがある。
地上専用の自動人形は顔も身体も無機質ということ以外は[人]と変わりない。
海中専用の自動人形は足の代わりに魚のヒレをつけて見た目は人魚のよう。
空中戦用の自動人形は腕に翼が生えていて、羽ばたかせることで空を舞うことができるようになっている。遠目には魔鳥人族にも見えないことはない。
恐ろしいのはそれらの自動人形は魔法を巧みに使えるというところだ。
そんじょそこらの魔女見習いや魔女よりは自動人形の方が強い。
【リリエル】や【ガザニア】を相手にしろと言われると、束になって戦闘しても圧倒的大差で敗北してしまうだろうが。
自動人形の他にマロンと彼女達は軍艦も造って設備した。
当然、大砲も積んである。
1秒に1発。全部で1,000発。万象の爆裂が打てる大砲が。
数は軍艦によって異なるけれど。
他国は地球でいうところの中世に少し毛が生えた程度の文明度。
なのにこちらは……。
一体何と戦おうとしているんだろうか?
ルージェン王国と同盟国で暮らす人々は日々続々と配備されていく自動人形と軍艦を見てそう思ってしまった。
思いの答えは、ただの悪ノリなので何も考えていないが正解。
まぁこれで、ルージェン王国と同盟国に対して戦争を仕掛けようとする国は無くなることだろう。
国の国家元首がまともな脳みそを持っていれば。
**********
【リリエル】の自宅。
ツヴェルク族がティロットにやってくる迄は満室状態だったが、彼女達に増築と補強をして貰って、それ迄は【リリエル】の別荘という場所で離れて暮らしていた【ガザニア】も一緒に暮らすようになった。
それによって見えた【リリエル】の面々の知らなかったところ。
【ガザニア】は最初こそは戸惑ったが、1ヶ月もすれば【リリエル】に染まって何も思わなくなった。
寧ろ彼女達も積極的に参加するようになった。
賑やかになった【リリエル】邸。
彼女達は表では見せない顔を自宅では……。
・
・
・
月日は少しだけ過ぎてカフェ・リリエル。
このカフェに新しく店員が入店してきた。
新しい店員はツヴェルク族の女性2名。
名前はキャロルとリュシー。
カフェに人手が欲しくなったミーアが従業員募集の紙をカフェの扉に張り出したところ、応募者多数で大慌て。
急ぎ従業員募集の紙を剥がして募集して来てくれた人々に数名ずつ実技試験と面接試験をした結果、見事にこの2人が残ったのだ。
業種はシェフ。これでウェイトレス4名、シェフ5名の9人体制。
最初は新人にそこ迄仕事を急かすつもりは無かったが、キャロルとリュシーの2人はミーア達が思っていたよりも優秀で、あれよあれよという間に戦力化。
彼女達の実力に驚愕したミーア達だったが、2人が戦力化したのならば料理の提供も素早くできる。
そこでカフェ・リリエルはお客様の予約数を多少増やすことになった。
今日もカフェ・リリエルには予約がびっしり。
訪れるお客様達の目当ては実は料理よりも上質な百合。
キャロルとリュシーが店員になる前もここには大輪の百合の花が咲いていたが、2人が加わってからはますますお客様は幸せ気分を味わえるようになった。
キャロルとリュシーも【リリエル】と【ガザニア】に負けず劣らずイチャイチャぶりを見せてくれるから。
このカフェはお客様の席次第では厨房の中も見られる仕様だ。
そこではミーア達に混ざってキャロルとリュシーが時折身体を軽くぶつけ合ってお互いに微笑んだり、"こそこそ"と隠れているようで隠れていないキスをしたりする姿が見られる。
互いに互いのことが愛しくて仕方がないという様子。
麻薬にも似た尊い百合成分の摂取。
お客様達は度々尊死をしては、なんとかこちらの世界に戻ってくるということを繰り返している。
「はぁ、はぁ……。生きてて良かったわ」
「あぁぁ………。女神セレナディア様。こんなにも尊いものを私に見せてくださって心より感謝致します」
「このお店どうして予約制なのかな。そうじゃなかったら毎日でも来るのに!」
お客様達が雑談をしている間にも料理を作りながらお互いに対して"ちょこちょこ"とちょっかいを掛けては怒ったフリをして「もう! そんなことするならこうしてやるんだから」などと言いつつお互いの首筋を舐めてから甘噛みするキャロルとリュシー。
「キャロルの首筋って甘いね。癖になりそう」
「リュシーの首筋も甘いよ。どうしよう。"ドキドキ"してる」
見つめあう2人。大きなお鍋をかき混ぜながらのキス。
離れると名残惜しそうな顔付きを2人は見せる。
「ふっ……っ。尊い」
「わたくしの人生に悔いはありませんわ」
「は、鼻血が。どうしよう」
お客様達大惨事。
惨事を見つけてティッシュを片手に絶賛惨事中のお客様の所へ行こうとするリーネ。
小走りのリーネをアリシアが咄嗟に捕獲する。
「アリシア?」
「ごめんなさい。リーネ成分が足りないのよ。少し、抱き締めさせて」
リーネが返事をする前に彼女の腰に腕を回すアリシア。
「あ、あの……お客様が大変なことになっているのですよ。アリシア」
「いい匂い。もう少しだけこのままでいさせて頂戴」
「アリシア! 嬉しいですけど、今は……」
「もう! 煩いわね。その口塞ぐわ」
リーネの言葉はアリシアに全く届いていない。
近くの壁に身体を押し付けられて、リーネはアリシアからのキスを受ける。
濃厚なモノ。身体が火照り、段々と力が抜けていくリーネ。
長い。
リーネが酸素が欲しくて堪らなくなった頃、漸くアリシアが唇を放す。
「ぷはっ」
「はぁっっっ。アリシア、自分で立てません。どうしてくれるんですか!!」
「それはつまり、もっと甘えさせてってことよね? 可愛いわ、リーネ」
抱き締めあう2人。乱入するミーア。
「うちの妻が可愛いよー」
リーネとアリシア。2人の身体を"ガッチリ"捕獲。
ミーアはリーネとアリシアに順番に唇を啄むようなキスをする。
3人の世界。リーネ達は愛しい女性達のことしか見えてない。
「キス……、もっとください」
「リーネ、いつ迄もキス魔ね」
「どんなキスがいいー?」
「長いのが……、欲しいです」
「だって? ミーア」
「アリシアの希望は?」
「わたしは……。リーネと同じので」
「ん? 最後聞き取れなかったなー。なんて?」
「わたしにも長いキスして欲しいわ」
「2人共可愛すぎるでしょー」
キスにキス。
お客様達はより一層、尊死と大惨事が感染していく。
「もう、私はダメそう」
「尊い……」
「セレナディア様ありがとうございます。ありがとうございます」
割と長い時間を得て、やっと3人がこちらの世界に戻ってくる。
アリシアとミーアは仕事に戻ったが、リーネは身体の力が抜けきって暫く使い物にならなくなった。
・
・
・
お客様入れ変わり。
百合災害下の状況でも料理はちゃんと提供されていたのだから恐ろしい。
大惨事が起きた席はアリシアとケーレが[洗浄魔法]を用いて綺麗に戻した。
何事も無かったかのような店内。
新しいお客様からオーダーを聞いて厨房に到着するケーレ。
到着したケーレの背後に迫る者。
彼女は自身に迫る者の存在に気が付いていない。
「オーダー。お願いしまっっっ!!?」
急に自由が利かなくなる身体。
ケーレは一瞬焦ったが、カミラが抱き着いてきたせいだと気付く。
「ちょっと! びっくりするから」
「ケーレ、最初に謝まっておく。すまない」
「は? どういうこと? ……って!!!」
カミラのセクハラ。
厨房にいるメンバーからはセクハラの概要が見えるが、お客様達からは見えない。
ケーレの顔は深紅。厨房メンバーは「うわぁ」と少しドン引きしていたりする。
気が済む迄ケーレに触れて、カミラは仕事に復帰した。
「……………。カミラのバカ」
残されたケーレ。
口ではそう言っても、案外満更でも無かったらしい。
ケーレは服を整えてから、今度こそお客様からのオーダーを伝えた。
「何が起こってたのかしら?」
「シェフの人達の様子を見るからにきっと凄いことだよね」
「見たかったと思う自分は変態なのかもしれない……」
今回はお客様達は無事だった。
……と思うのはまだ早い。
このカフェにはもう1組。凶悪な存在がいるのだから。
「えっと、オーダーです」
「フィーナ来た」
「どうしたの? マリー」
「うん、なんだか寂しくて。おかしいよね? 同じ場所にいるのに」
「っ。そんな顔で言われると困る」
「そんな顔ってどんな顔?」
「マリー、可愛い」
「フィーナ、顔紅いよ?」
「マリーのせいだから」
「じゃあ責任取るね」
そう言うや否や厨房から身体を乗り出すマリー。
フィーナの頬を左右片手ずつ包み込み、彼女の眼を"じっ"と見つめる。
「マ、マリー、そんなに見ないで」
「フィーナ。顔がどんどん紅くなっていくの可愛い」
「マリーだって、そうだよ?」
「だって、大好きな女性に触れてるからね」
「っ。どうしよう。心臓が煩すぎて。私、死ぬかも」
「死んだらダメだよ」
マリーの優しい眼差し。
瞳に吸い込まれそうになるフィーナ。
マリーはゆっくりとフィーナに顔を近付けていく。
「愛してる。大好きだよ。フィーナ」
「マリー、それ以上はやめて。私、本当に死んじゃう」
「フィーナ、目……閉じて」
「うん……」
マリーに言われた通りに目を閉じるフィーナ。
マリーはフィーナの顔を暫く見つめてから唇に自分の唇を重ねる。
師匠達の真似をして長いキス。
離れてもマリーはフィーナをまだ解放しない。
「フィーナ、好き、大好き。世界で一番好きだよ」
「どうしたの? 今日のマリー、なんだか……」
「嫌かな?」
「嫌じゃない!」
「良かった。もう一回キスしても良い?」
「でも、仕事しないと」
「うん。でも後一回だけ。大好きな女性にキスしたい」
「その言い方はずるい!」
「するね」
今度はフィーナに心の余裕を与えることなくキス。
目を大きく開いてしまうフィーナ。
でもそれも、少しずつ少しずつ蕩けていく。
代わりに心臓は爆発しそうになっているけれど。
「ありがとう。美味しくて可愛かった」
2度目の長いキスを終えてマリーはフィーナから離れていく。
フィーナはマリーに返事ができずに店内の床に座り込んだ。
「無理だよ」
フィーナのぼやき。
フィーナの想いはお客様達も同じだ。
店内のお客様の中に尊死していない者はいない。
全員、半分魂があちらの世界へ行きかけている。
言葉すら発せられない程に。
カフェ・リリエル。
そこは訪れた人を尊死させる場所。
今日も、明日も、明後日も。
彼女達自身は無自覚でお客様達を百合の世界へと誘い……。




