-一章- vs フレンジー盗賊団 その02。
領主様のお願いは、近頃このロマーナ地方で好き勝手している盗賊団の討伐依頼だった。
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太陽もそろそろ頭上の丁度真上に昇ろうとしているそんな頃。
私達【リリエル】はもう1組のハンター達と馬車の中にいた。
別に一緒の依頼だからという訳じゃない。
領主様からの私達への依頼は私達にしか出されていない。
たまたま乗り合わせた。それだけだ。
【エールラブリー】とか言うふざけた通称名のハンター達。
全員男性で6人組。うち3人は地球で言うところのバッハみたいな髪型で残り3人はベートーベンみたいな髪型をしている。
何を思って髪型を揃えたのかは知らないし、知りたくもない。
その連中の視線が苛々する。
明らかに私達の……。膨らみを見比べている。
大きさはアリシア、私、ミーアだ。
尚、【リリエル】は全員気が付いている。
気が付いてるけど、相手にしたくないので気が付いていないフリをしている。
女3人寄れば。とも言うけれど、そのせいで私達はお喋りもしていない。
口を開けば[罵倒]が出てくること間違いなしだろうからだ。
「エルフが2人に獣人が1人か」
「で、お前の好みはどれよ?」
「俺は銀髪のエルフだな」
「まじかよ。俺はベージュのエルフにそそられるぜぇ」
「俺は獣人一択」
「お前ケモ耳大好きだもんな」
全部こちらに聞こえている。
せめてヒソヒソ声で話そうとは思わないんだろうか。
何故に聞こえるように喋るのか。
その神経が分からん。
「あ~、しかしいい匂いするよなぁ」
「同感だ」
"くんかくんか"と馬車の中で鼻を"ひくひく"させる彼ら。
正直に言っていいかな? いいよね?
気持ちが悪い―――。
アリシアはそろそろ限界そう。
まぁ、彼女が一番に脱落するのは分かってた。
今はともかく、前はやんごとなき家のとこの子だったし、ここは狭い馬車の中。
そりゃあもう、元お嬢様なアリシアにとっては堪ったものじゃないだろう。
「ねぇ、リーネ」
私に凭れ掛かってくるアリシア。
そのアリシアの背中をミーアと2人で優しく撫でる。
「大丈夫ですか?」
「いやー。どう見ても大丈夫じゃないよねー。顔真っ青だよー」
ミーアが困った顔で私に言う。
そんなに? って思いつつアリシアの顔を下から覗き込むように見てみると、確かにミーアの言う通りにそれはもう、見事な迄に真っ青だった。
あ~、思ってた以上にアリシアには刺激がキツ過ぎたかぁ。
こうなれば馭者さんに言って休憩時間を取らせて貰おう。
そう思い立って私が立ち上がろうとした時だった。
「よぉ、姉ちゃん大丈夫か」
いつからそこにいたのか?
どさくさに紛れてアリシアに触れようとするバッハな1人。
それを見て"ぶちっ"とキレる私。
気が付いたら魔力を拳に乗せて、ソイツの顔の下から顎を抉るように突き出していた。
「あっ!」
やってしまった。
これは、私のせいで面倒臭いことになること確実案件。
そんな風に予想した通り。
「おいおいおいおいおい。な~にやってくれちゃってんの」
次々に立ち上がる【エールラブリー】。
彼らの通称名って言っててちょっと恥ずかしい。
ハンターメンバー達。
もう、こうなってしまったら仕方ない。
「すみません。馬車を止めてくれますか?」
馭者さんにまずは声掛け。
それを聞いて私の要求通りに馬車を止めてくれる馭者さん。
「お客さん、揉め事は困りますよ」
「ごめんなさい。その代わり運賃は少し弾ませて貰うので」
油断していた―――。
まさか馭者さんがそんなことをしてくるとは思わなかった。
私達に投げられる。いつかに見たような物体。
違うのは、アイツらが使っていたのは鉛色で今回のは緑色の物っていうところ。
【エールラブリー】のメンバー達はいつの間にかマスクを着けていた。
地球。中世ヨーロッパでペストが流行った時のマスクにそっくりなもの。
物体が馬車の床に落ちて2つに割れ、効果を現す。
眠り……薬。
手で鼻と口を覆おうとした時にはすでに遅かった。
即効性の物らしい。
「失敗……した。まさか貴方達が……」
領主様が言ってたフレンジー盗賊団。
ハンター【エールラブリー】はその一味か協力者。
「ぐ……っ。寝たら……ダメ、です……」
手足に力が入らない。
瞼が閉じられようとしていく。
ここで、もしもコイツらの思惑通りに寝てしまったら私達は―――。
「……………っ」
どうにか耐えようとする私に馭者さんが私の背後から私の口と鼻を押さえるように布を当ててくる。
それは先の眠り薬の成分がたっぷりと染み込まされた物のよう。
ヤラれた―――。
ついに耐えられなくなる。
私は、私達はフレンジー盗賊団の手の中に落ちてしまった。
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目覚めると、まだ馬車の中だった。
但し、先程迄とは違って手は後ろに回された状態で多分何らかの金属による枷が填められている。
足首にも手に付けられている金属と同じ材質のものだろうか? やっぱり枷が填められているのが目に留まる。
オマケにご丁寧に布製の猿轡迄されている。これでは奴隷か蓑虫のようだ。
屈辱的すぎる。
これじゃあ私達は何もできない。
あのクソゲーでリーネに弱点を作ったのは失敗だったかもしれない。
Strength(力)が無いから仮にこの金属がそこ迄頑丈なものじゃなかったとしても、アニメや漫画の主人公みたいに引き千切るのは無理だ。
後、私が魔法を使うには言霊と杖がいる。
杖は出現させることができても、猿轡されてたら魔法を使うのは無理だ。
考えても、考えてもこの絶望的な状況から抜け出す方法は何も頭に浮かばない。
"ガタガタガタガタ"と走り続ける馬車。
そう言えばこの馬車は何処へ向かっているのだろうか?
私達は本当はロマーナ地方の都心部から田舎の方に行くつもりだった。
そこで情報収集をしつつ、盗賊団を誘き寄せて一網打尽にするつもりだった。
それがこのザマだ。
「んんっ」
喋れないが呻き声を上げたことで私が起きていることに盗賊団の1人が気付く。
「よぉ、起きたか? じゃあ、少しばかり楽しませて貰うぜ。こういうのは、やっぱ寝てる時より起きてる時にするのが楽しいからな。ゲヘヘ」
"ニタニタ"と気持ちの悪い笑み。私の心身が拒絶反応を示して総毛立つ。
ソイツは私の心情など知らず私の身体に触れようとしてくる。
これからされるかもしれないことを思うと涙が零れる。
それを見て嬉しそうにする盗賊団のソイツ。
悔しい。ムカつく。
アリシアとミーア以外の人にそんなことをされるなんて……。
「おうおう。可愛いねぇ。」
ソイツの手が私の太腿を軽く撫でる。
虫唾が走る。言葉で言い表せない程に不快。
コイツは絶対に殺すと心の中で決める。
それも残酷なやり方で。
泣きながらソイツを睨みつけると更につけ上がって喜ぶソイツ。
「やっぱここで可愛がってやろうか!」
私の涙で加虐心が誘われたらしい。太腿を撫でた次はこの日穿いていたスカートを捲ろうとしてくる。
今の私にその行為を止める手段は無い―――。
「んっ!!!」
絶体絶命。でもソイツに生まれた一瞬の隙。
最初からその隙を伺っていたのだろうか?
寝たフリから瞬時に立ち上がって、倒れるようにソイツに体当たりした者。
それは他でもない私の大切な人の1人。
アリシア。その人だった。




