渦を巻く海の音
水溜まりのなかでとんびが飛んでいる。見上げたら、すっと落っこちてしまいそうなくらい澄んだ空がある。
いつぞやのどこかの小説で読んだみたいな風景を目に入れながら、私は歩く。歩く、止まる。止まる。止まる、目をつぶる。
波の手が届くのは、だいたい私の足元近く5メートルくらい。ざーざーと響く波の音が私を包んで、まっくらな視界のなかにその光景を浮かばせてくる。
とんびの声。
波の音。
風の揺動。
砂の浮遊感。
妹のさわぎ声。
誰かの噂話。
耳に残ってるピアノの音。
肌に染み付いた波の音。
ずっときこえてる波の音。
こころに入り込む色々の音に、私は成すすべもなく溺れた。
長い情動の後にはっと目を開けると、そこには視界のなかと同じ波があった。砂浜の外からお父さんが私を呼ぶ声が聞こえる。いつの間にか濡れてしまったスニーカーをぶんぶんと振って、大きな海に背を向けて歩き出す。
と、すぐに止まって青い海を振り返る。足元の平べったい石をひとつ拾って、波間の方へ放り投げた。
石は2回だけ跳ねて沈んだ。
指先についた砂は、パーカーになびった。
どうも、瑪瑙です。
満足していただけたら嬉しいです。