表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

プロローグ

ルディ視点のオマケのお話。


 放課後の生徒会室は、今日もじめじめカビ臭い。


 

「はぁぁぁぁ。今日もまっっっっ、たく! 相手にして貰えなかったぜ……」


 盛大にため息をつきながら円卓の上に突っ伏すライアンに、俺は冷ややかな目を向けた。


 ――――今日もまた、始まった。


「この前だってそうだ。このオレがデートに誘ってやってんのに、あいつ蔑みの目で見てきやがるし……。なんだよ。オレのなにが気に入らねーんだよ」


 ライアンは、赤い髪に金の瞳をした精悍な顔立ちの美形である。めちゃくちゃ女にモテるのだが、肝心の本命にはいつも邪険にされている。

 毎日いろんな令嬢を侍らせているのにな。まあ、そういうとこだと思うけど。


 がっくりと落ち込んだライアンの逞しい肩を、隣に座るエリオット王弟殿下が慰めるようにポンポンと叩いた。


「異性と認識されているだけ、ライアンはまだマシな方だよ。僕なんて、いつまで経っても可愛い弟としか思われていないからね」


 殿下が窓の外を見つめながら、ふぅっと切なげな吐息を漏らす。


 サラサラの金髪に澄んだ青の瞳。やや童顔で、いつも微笑みを絶やさない美形の殿下は、年上のお姉さま方から非常に人気が高い。殿下の想い人も年上で、丁度いいかと思いきや、年が離れすぎているせいか完全に弟扱いされているようだ。


「僕はもう16だ。デビュタントだって済ませている。背丈だってとっくに追い越したのに、未だにあの人は僕を子ども扱いするんだよねぇ……」


 ちなみにお相手は25歳の未亡人。

 ……そりゃ可愛い弟にしか見えないよな。


 まあ、今の関係を崩すのが怖くて、言い訳並べて弟ポジに甘んじている殿下も殿下だと思うけど。


 嫌われたくないのも、避けられたくないのも分かるけど。怯えさせたくないなんて言ってたら、永遠に意識してもらえないと思う。いい子の仮面をかぶったままじゃ、いつまで経っても弟ポジから抜け出せないだろう。

 

 慰めを装いつつ愚痴を言う殿下に、ライアンが不貞腐れた顔を向ける。


「そりゃ男とは認識されてるさ。浮ついた男とか、お気楽な男とか、どうしようもない男とか、散々な言われようだがな。くそ、ちっとも嬉しくねぇよ!」

「ははっ、全部当たってるじゃないか」


 揶揄うように笑われて、ライアンが声の主であるブレッドをじろりと睨んだ。それを受けて、ブレッドが円卓の向こうから自嘲の笑みを浮かべる。


「2人とも可能性があるだけまだマシじゃないか。俺なんて、仮に想いが通じ合ったとしても結ばれないと決まっているからな」


 黒髪黒目のブレッドは、艷やかな色気を放つ美形である。甘いセリフが口からすらすら出る彼は、あちこちで口説き文句をばら撒いている。

 それも、本命の目の前で。


「別に決まってないだろ。妹ちゃんに後を継いでもらえばいいだけじゃね?」

「妹に期待は出来ないな。あいつには想い合っている相手がいるし、そいつも一人息子なんだ。どうにもならないさ」


 ブレッドの想い人は伯爵家の長女である。この家には他に子がいない。つまり、現段階で彼女は女伯爵として跡を継ぐことが決まっている。ブレッドも子爵家の嫡男で、妹が1人いるのみだ。確かにこのままだと、付き合うことは出来たとしても、その先は望めないだろう。


 ――――でも、世の中何が起きるか分からないんだし。決めつけるのはまだ早いと思うけど。


 悲観したくなる気持ちも分かるが、なにも退路を断つような真似をしなくても。ブレッドの思わせぶりな言葉にうっかり騙されて、本気にしてしまった女の子たちだって可哀想だろ。……いつか刺されるぞ。



 ちなみに以上の見解は、各自に伝えたことがあるのだが、「ルディはいいよな」となぜか羨まれただけで終わってしまった。以降、アドバイスは口にするだけ無駄だと思い、静観に徹している。



 ――――あんなにモテるくせに、みんな臆病で不器用なんだよなぁ。


 まあ、俺も人のことは言えないけど……


 

 ふっと、可愛い幼馴染の姿が脳裏をよぎる。当たり前のように、俺の隣に居た彼女。薄桃色のツインテールをゆらゆらと元気よく揺らしながら、俺を見つけては笑顔で駆け寄って来てくれていた、水色の瞳の女の子。

 あの眩しい日々は。俺に向けられていた温かな好意は……


 ――――全部、3年前に消えてなくなった。




 ◆ ◇




 俺には幼馴染がいる。名前はアリス・レーベル。喜怒哀楽がよく顔に出る、元気で可愛い女の子。


 彼女は、父の事業で付き合いのある家の子だった。母親同士も仲が良く、アリスとは幼い頃から頻繁に顔を合わせていた。


 アリスは我が家にやって来るたびに、俺の側にまとわりついてきた。なにが楽しいのか、いつも人懐こそうな笑顔を俺に向けてくる。1人で遊びたがる俺に、一緒に遊ぼうと声を掛けてくる。


 面倒なやつだな、と最初は思った。


 親には相手をしてやれと言われたものの、全く気乗りはしなかった。人形遊びなんて誘われて、俺が応じるとでも思っているのだろうか。何が楽しくて人形の服を着せ替えなきゃいけないんだ。あいにく俺は可愛いドレスにも、人形にもまったく興味はない。


 俺が好きなのは、本を読むこと。一度読み始めると読破するまで邪魔されたくないので、読書中にしつこく声を掛けられると、問答無用で部屋から追い出してやりたくなる。


 次に好きなのは、チェスをすること。なら一緒にチェスをしようとアリスは誘ってくるのだが、試しに対戦した彼女はとんでもなく弱かった。俺は強い相手と対戦するのは好きだが、弱い相手を蹂躙することに興味はない。あれは勝ちを掴むために思考を巡らせるのが楽しいのであって、余裕で勝てても満足感は得られないのだ。


 木登りも好きだ。登る過程はどうでもいいのだが、高いところから街の景色を眺めるのは好きだった。そんな俺にアリスは誘ってくれと言うのだが、スカートをはいている女の子を木登りに誘えるわけがない。そもそも女の靴は踵が高く、靴底もつるつるしていて木登りには不向きだ。


 一度しびれを切らした彼女がワンピース姿で登ってきたのだが、案の定、足を滑らせて落っこちてしまった。あの時は本当に焦った。本人は平気だと言っていたが、大きな水色の目の縁に、涙が溜まっていたのを俺は知っている。


 今思えば申し訳なくなるほど、俺はアリスに対してまともに相手をしてこなかった。そのうち俺では遊び相手にならないと悟って、近寄らなくなるだろう。そう思っていたのに、アリスは変わらず俺の側にやってきた。一人で過ごす俺の隣で、変わらず笑顔を向けてくる。


 お日様のように笑う彼女。曇りのない笑顔が眩しくて、可愛くて……


 胸の奥に、妙なむず痒さを感じながら。


 ――――まあ、邪魔しないのなら。このまま側にいさせてやっても良いかな。


 人形遊びは付き合わない。チェスは一人で楽しむものだ。本を読んでいる時は騒ぐんじゃない。俺は俺で好きなように過ごすから、それでもいいならアリスの好きにすればいい。俺の側にいてもいい。


 なんて、思い上がったことを考えていた罰が当たったのだろう。12歳になり、学園に入学してしばらくするとアリスは俺の側から離れていった。同じクラスの友達と楽しそうに笑っている。


 ――――そりゃそうだ。まったく反応してくれない俺よりも、一緒に遊んでくれる友人の方がいいに決まっている。


 そのまま1ヶ月が経ち。3ヶ月が経ち。1年が過ぎても、アリスは俺のところに戻ってこなかった。廊下ですれ違えば挨拶はしてくれるものの、昔みたいに、嬉しそうに笑って俺のところへ駆け寄ることはしてくれない。


 面倒なやつだと思っていたのに。一人でも、俺は変わらないと思っていたのに。アリスが来なくなって、すっきりするどころかぽっかりと心に穴が空いてしまった。


 一人で食べるお弁当はひたすら虚しかった。話しかけてくれる子もいたけれど、どうしてもアリスと比べてしまって駄目だった。誰と過ごしても、彼女と一緒にいる時のような満たされた心地にはなれなくて……


 あぁ、そうか。


 俺はいつの間にか、アリスが隣にいることに心地よさを感じていたのだ。側にいさせてやってもよい、じゃない。いて欲しいと願っていたのだ。


 アリスの笑顔に惹かれていた。お日様のように笑う彼女を見て、可愛いと思っていた。あの頃もう既に、俺はアリスのことが好きだったのか……


 全てが終わった後に、自分の気持ちに気が付くなんて。



「いまさら後悔しても、遅いよな……」 



 アリスには、とっくに愛想を尽かされている。

 ここからどう巻き返せばいいのだろうか。答えが出ないまま、ずるずると3年も経ってしまってる。




 ◆ ◇




「自分で言うのもなんだけど、オレっていい男だと思うんだけどなぁ~。これでも伯爵家の嫡男だし。見た目だっていい男だし。剣の腕前もピカ一だってのに、なんであいつはあんなに塩なんだっ」


 ライアンの声で、鬱々とした感情からふっと意識を取り戻す。

 なんだ、まだ終わってなかったのか。


「本気で口説いても落とせないとか、辛いな」

「うるせ! 本気なんか出してね~よ。まだまだ様子見してんだよっ!」

「勇気が出ないんだよね、ライアン。分かるよ。僕も様子見から抜け出せないでいるんだよね」

「ライアンって威勢がいいわりに臆病だよな」

「ブレッド! 様子見すら出来てねぇお前に言われたかねーっての!」


 3人の言い合いはちっとも収まる気配がない。


 この光景を他の生徒達が見たら驚くだろうな。カーストのトップに君臨するこのキラキラしい3人が、恋に悩んでいるとは誰も思うまい。


 ふっと時計を見ると、30分も無駄な時間が過ぎていた。はぁ、と心の中でひっそりとため息をつく。まったくもって不毛な時間だ。強引に引きずり込まれた生徒会の仕事で残るのはまだいいとして、議題終了後に愚痴を言い合うのを習慣にしないでほしい。

 こっちまで気が滅入りそうになる。


「もう終わったんだろ? 俺、帰るよ」


 いい加減付き合うのにうんざりした俺は、ガタリと椅子から立ち上がる。荷物を取りに教室に向おうとしたら、後ろからぞろぞろと3人まとめて俺の後についてきた。

 ……お前ら、なんでついてくるんだよ。


「ルディ、お前は余裕でいいよな~」


 そう言って、ライアンが俺の肩を遠慮なく抱いてくる。

 おい、体重かけてくるなよ。お前上背ある上に筋肉あるから重いんだよ。非難の意を込めて、じろっと横目で見たけれど、ライアンにはまったく通じていない。


「僕たちと違って、ルディは確実にアリス嬢から好かれているからね。はぁ、羨ましいよ」


 ライアンから逃れようと身体を逸らしたら、反対側から殿下まで俺の肩を抱いてきた。冗談じゃない。どこが羨ましいんだか。好かれていたのは3年前までの自分であって、今の俺じゃない。


 余裕なんてあるものか。


「なんの障害もないしな。俺もお前が羨ましいよ」


 今の俺をみて、どうしてそんな言葉が言えるのか。

 アリスは、俺に近寄ってもくれないんだぞ。


「……俺だって皆と変わらないよ」

「んなわけあるかよ。ルディなら、動けばすぐに上手く行くだろ。……オレと違ってな」

「簡単に言うなよ。ライアンこそ、もう少し真面目に動けば上手く行くんじゃないか?」


 少なくとも愛想を尽かされた俺よりは、ぐんと勝率は高いはずだ。


「羨ましいとか言うけどさ、殿下だって全然動いてないだろ。ブレッドなんて逆方向に走ってるし。それで上手くいかないとか、そりゃ当然だ」


 皆から一斉に羨まれて、次第にむかむかと腹が立ってきた。俺だって羨ましい。3年前までの自分が、羨ましくてたまらない。

 このままじゃ駄目なことも分かってる。それなのに動けない自分が情けない。


 愚痴を言い合うだけで、ちっとも動こうとしない皆を見ていると、まるで臆病な自分を見ているような気分になってくる。


「条件はみんな同じだ。俺も、ライアンも。殿下もブレッドも。行動に移さない現状でいくら嘆いても、どうしようもないのは同じなんだよ」

「…………」


 珍しく声を荒げた俺に、3人が目を逸らしながら沈黙した。重い足取りで廊下を歩く。窓から差し込む夕日が眩しい。淀んだ屋内とは違い、外は爽やかなオレンジ色に染まっている。


「……っ!?」


 教室に辿り着く寸前で、背後にいたブレッドにぐいと背中を押されてしまった。そのまま、隣の教室に連れられてしまう。


「――――じゃあ、みんなで動いてみるか?」


 俺の左右にいた2人も、驚いた様子でブレッドを見つめている。俺たちの迷いを振り切るように、ブレッドは真っ直ぐ自分の席へと向った。


 やけに真面目な顔をしたブレッドが、机の中からカードを取り出した。

 ごくりと喉が鳴る。



 誰もいない放課後。人気のない教室で、これから始まる内緒の遊戯。

 4人で顔を見合わせて――――みんなでゆっくりと、頷いた。


ライアン編、連載始めました


「罰ゲームで告白された、と思っていたのですが」

https://ncode.syosetu.com/n3402ip/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] くっ! おみゃーらの気持ちは分かる……分かるけど!! 罰ゲームだなんてネガティブな事をする時点で残念なイケメンズよたとえ試合に勝っても気持ちで負けてるっすよ(;'∀') 校長室の掃除を通し…
[良い点] 「このままじゃ駄目なことも分かってる。それなのに動けない自分が情けない。」 なかなか男性真理を突いていますねー。 そうなのです。 まともな思春期男子は初めての告白に臆病なのです! [気に…
[良い点] ルディ視点の回想、なるほど! でした。 押せ押せのアリスちゃんにちょっと甘えて、憎からず思いつつも自分からは一歩踏み出せなかった男子……! わあ、すごくしっくりきました。 距離を置かれてか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ