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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
96/102

9回裏 そうしなきゃ今年あいつらを倒せないでしょ

《青海視点》


 ベンチに座る勢源は感心していた。比叡は監督のサインを見ずに相手の投球を迎えようとしている。

「ついに俺の手を離れたな。自分の頭で考えてやがる――」

 やってみせろ。

 第1球高めに小さく落ちるフォーク、比叡は見送ってボール。

 今村は首を傾げる仕草を見せてから置鮎に投げ返す。

(コントロールミス? いえ今のはキャッチャーの演技よ。サイン通りのボールがきたはず)

 わずかなインターバルに比叡は思考を巡らせる。(ボールから入った? 置鮎のコントロールミスではない。初めて投げた小さく落ちるフォークを外した意味は私への配慮。バッテリーは私を警戒している。前の二人とは違い慎重に攻めてくる)

 攻める側の思考がまとまらないことが功を奏す。今村が〈意〉を見るタイミングで、比叡は狙い球を絞り切れていない。

(今度こそストライク、もう1球フォークを今度はストライクゾーンに投げ――)

 第2球、ストレートが膝元に突き刺さる。見送ってストライクである。スイングを途中で止めた比叡。

(体がストレートに反射的に動いた。早いタイミングで動かなければ置鮎のボールには反応できないから?)

「俺に回せ! 俺は一度打ってるぞ!」

 無責任な檄を飛ばすアダム。

(……狙いは3者連続となる三振。そこから逆算すれば2ストライクを奪ったあとは『わかっていても打てないフォーク』、置鮎の本気のフォークをヒットにできるのは松濤うちじゃ屋敷だけ)

 比叡には置鮎のフォークが打てない。

 2ストライクになれば沈む。

 第3球、

直球スト! 速い、近いっっ……衝突!?)

 置鮎がインコースに投げたのは通常のフォーク、すなわちシュート成分が入り左打者の手元から逃れていく軌道の落ちるボール。

 フォークボールを意図した位置に投げることができる置鮎のコントロールとの相乗効果シナジー、彼だけが使える絶技、

(フォークでフロントドアするんじゃないわよ!!)

 無効領域ボールゾーンから有効領域ストライクゾーンに変化する。

(全力で振ることが意味を成す)

 剛振。

 自分にむかって飛んできたボールを振り切った。

(避けずに振りおった。やはり比叡は怖いバッター……)

 そう今村は分析する。

(力強く振ることで今村は私を恐れるはず。2アウトランナーなしの今怖いのは長打。慎重な彼らが私を怖がらないはずがない。カウント()()投げるのはボール球)

 どこにどんなボールを?

(インコースの印象を強めたいはず。4球続けてインコース、5球目がアウトコースにくればわかっていても反応できない。5球目にアウトコースのフォーク、フォークを見送ってボールに――フルカウントになっても今村がストレートで反応できないコースを見つけ刺せるから問題なし)

(並の投手と違ってこの人は2ボール、3ボールになっても困らない。いつだってストライクは獲れるから)

(2ストライクになったあとは明確に三振を狙いにいくデータがあるわ。小さく落ちるフォークはない)

(今空振りしたボールはフォーク、ならフォークボールは見せ球には使わないはず。球種はストレート)

(見せ球とはいえ私がスイングするという期待もこめた投球になる。ストレートで空振りがとれるのは高め。おそらくインハイ。5球目がアウトローなら対角の攻めになるもの。インハイストレートは私がどんなアクションをしようと『投げ得』なボール)

(『ボールになるインコース高めのストレート』に賭ける。大人しく見送ることも選択肢にはあるけれど、5球目以降は死路でしかない。他のボールがきたら大人しく引き下がるわ)

『インコース高めストレート』一点賭け。


   *


 ある日の練習において、勢源の投げたインコースのボールを()打席に入った屋敷慎一が、比叡とまったく同じフォームで打ち、フェンスに直接ぶつける。

「ちょっと野球やめてもらっていい?」

「面白いフォームだね比叡。今日初めて試しに真似してみたけどさ」

「今日!?」

「最初はこうバットを大きく構えるけれど、スイング始めると腕を折りたたんで、ほら、フィギアスケートのジャンプみたいに胴体に腕を巻きつけるみたいに振るんだね。だからインコースも捌ける。低めは左足を曲げて対応してるんだろ? スイングスピードは出る」

「続けて?」

「コース的にも弱点はなくそうとしている。ピッチャーからすれば攻めにくそう」

「私の弱点はなに? 言いたいことがあるならはっきり言いなさい」

「プレーキャンセルが難しいことかな。フルスイングじゃないとボールが飛ばせない。俺はきた球を打つからぎりぎりまで瞬間的に判断してスイング変えられるけれど、おまえの打ち方だと途中で修正なんて無理だな」

「私が頭使わず野球してるみたいじゃない!」

「今日は俺教える側だよ比叡」

「どうすれば風祭や泡坂みたいに飛ばせるかきいてるのに……」

「1年生が高望みするね」

「そうしなきゃ今年あいつらを倒せないでしょ」

「もっと合理主義者かと思った。だから先達の俺が教えることにした。俺がフェンス直撃の当たりならおまえはフェンス越えになるよ。サイズ差的に」

「あんたが左で打ってたらフォーム狂うでしょう? 見取り稽古は助かるけれど……」

「んなもんすぐに戻せるさ。チームのためよ。ホームラン打ちたいなら飛ばす技術ももちろん大事だけどまず体格! おまえはまだ細い、飛ばすにはもっと筋力が必要じゃい! なのでもっと肉を喰え」

「食事……」

「そして相手のリードを読め! なのでこれからは練習試合で半分くらいキャッチャーやってもらう。実戦でサインを出す側の思考を学べばサインを読む際の材料になる。片城には承諾済み!」

「キャッチャー……」

「なにより速筋を鍛えないとね。短い時間に爆発的な力をもたらす白い筋肉。一流のバッターはスイングしている間ずっと力をこめるのではなく、ボールをインパクトする直前にフルパワーを出力する」

「それくらい意識してやってるわよ!」

「これは中原潔氏からの伝言だよ。『0.01秒の誤差も許されない』『比叡はジャストタイミングで力をこめられればもっと飛距離はでる』。比叡用のトレーニングメニューもいただいているので実践してもらおう」

「茨の道って感じね。あと数カ月で……」

「そして決断力。迷わずに振れ! 1打席ではなく1試合の4~5打席を念頭に打ってもらう。1試合1安打でも1本ホームラン出れば松濤としては黒字だ。全打席1発を狙ってもらう。これは公式戦でも!!」

「げぇ……」

「ノーアウト1塁で進塁打とかいらない! 比叡に関してはチームプレー不要! 個人技さえ研磨すればそれで良い!!」


   *

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