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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
後輩たち
33/102

あいつだけは特別です

 画面に映っているは女性アナウンサーと泡坂の世代が一人、今村だ。

 糸目、ノーフレームのメガネ、悪い顔、頭の良さそうな顔、泡坂の世代は全員そうなのだが長身である。だが物腰は穏やかで他人に気を遣わせる雰囲気はない。アナウンサーは落ち着いた様子でインタヴューを開始する。

「――大会への意気込みをどうぞ」

「良くも悪くも泡坂次第やね」

「――はぁ……」

「これはあくまで個人的な意見なんですけれど、このチームが最強なのは泡坂個人の能力によるところが大っきいんですわ」

「――泡坂選手個人ですか? (引きつった笑顔で)確かに素晴らしい成績を残していますが、彼以外にも高校卒業後プロに入団する選手が複数――」

「そのなかでもあいつは別格っちゅうことです。『白眉』っちゅう表現がぴったりかな? あいつがおらんかったら甲子園5連覇は厳しなりますね」

「――青海高校は泡坂選手一人に依存しているんですか?」

「あいつが他校におったら1回も全国で優勝してなかったかもしれない。敵に回したら敵わない。それくらいあいつの性能はケタが違う。野球選手として必要なスペックをすべて持っている。打撃も投球も走塁も。どんな環境でプレーしても一番になれる」

「――全国のファンのみなさんも同じことを思っていると思います」

「あいつを『大量破壊兵器』なんてけったいな呼び方をする奴もおるんですよ」

 背後から生徒たちのツッコミの声。

「――この映像を観てチームメイトのみなさんが不機嫌になってしまうかもしれませんよ(笑)」

「反論できるならすればええんですわ。僕は泡坂という選手を信仰していますからね。まぁ僕は同級生やから泡坂の普通の高校生らしい、俗っぽいところも知っとるんですけれど、野球やらせたら完璧やなと」

「――プロでもすぐに通用すると言われています」

「あいつのボールを受けられるのもこの大会が最後やろうし、悔いのないようにプレーしたいと思います。泡坂のことばかりで自分のこと全然語ってまへんけれど」

「――今からでもかまいませんよ」


「そこは選手やさかい、グラウンドで語らせてもらいます」


 アナウンサーの言葉を制止し今村は言った。



 画面に映っているのは女性アナウンサーと泡坂の世代が一人、泡坂だ。

 192cmの体躯に長い手足。横に座ったアナウンサーが別の生物に見える。無表情、《《そこにないものを視ている眼》》、真横にむすんだ口元はいかにも無口そうな印象を見る者にあたえるだろう。普段の泡坂は確かに喋らない。アナウンサーはぎこちない笑みを浮かべ話しかける。

「――大会への意気込みを……」

「勝ちたいです。みなさんのご期待に応えたい」

「――期待ですか」

「僕らにとって勝つことは義務なんです。部のみんなも、スタッフも、学校の生徒も勝って当然と思っている。その期待に応えたい」

「――な、なるほど。高校生ながらすでにプロの目線ですね」

「高校で一番評価される選手になってプロ入りすることは高等部に上がったときからの目標でした」

「――1年目で早くも日本一という目標は達成したわけですが」

「あの大会から変わったことがあります」

「――というと?」

「お客さんの眼を気にするようになったんです。あれだけお客さんが入ってくると、試合中観客の拍手やどよめき、声が伝わってきますから」

「――青海高校は成績だけではなく人気も規格外ですよね。ほぼ毎試合球場が満員になって……」

「大勢の人のまえでプレーすることは楽しいんです。昔は自分がいいプレーができればそれで良かった。スタンドからの声援なんてプレーには関係ないと思っていました」

「――それが違ったと」

「何万といるお客さんたちは僕たちにとっていいモチヴェーションになる」

「――私は競技経験者ではないので、大勢の人に囲まれて試合をする感覚がわからないですが……」

「《《あれは人生が変わります》》。あの体験を得るためだけでもプロのアスリートを目指す理由になると思います。選手と観戦者を問わず『一体感』がある。音楽のコンサートも一緒なのかな……」

「――スタジアムでプレーするとそう感じる?」

「できればお客さんに楽しんでもらって、味方につけてプレーしたいと思っています。かと言って特別なことをしているわけではありません。そうなれば青海にとってアドヴァンテージになるというだけです」

「――160㎞/h投げて特大のホームランを打つ泡坂選手ですから、テレビで観戦しているお客さんを含めみなさんが贔屓してくださると思いますよ?」

「《《この2年間僕たちは勝ちすぎた》》。負けるところを観たいお客さんもいますよ」

「――……常勝不敗と言われる青海高校より強いチームが存在するのでしょうか?」

「僕たちよりも強い《《チーム》》……というのはちょっと想像できないですが、僕たちよりも強い《《個人》》なら実在するかもしれない」

「――その個人というのは……バッターですか? ピッチャーですか?」

「バッターですね。屋敷は俺と似たバッターなんです。松濤高校の2年、屋敷慎一です。中学時代半年間だけチームメイトだった。注目しておいてください。決勝であいつと対戦できたらすごくうれしい」

「――泡坂選手にも注目している選手がいるんですね」


「あいつだけは特別です」

 微かに笑いながら泡坂は言った。


   *


 総評。

 青海には野球星人が5人いるというが、全員そろいもそろって変人ばかりだ。

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