そういうスピリチュアル的な発言はいいから
確かにそう見えないこともない状況だが俺は言い返しておいた。
「置鮎いないけどお前らの監督に殴られてるんの?」
「屋敷慎一、置鮎から1点とってうれしいのはわかるでぇ。でも少し抑えたらどうや」と今村。
「フルネーム知ってるなんておまえ俺のファンなの? サイン欲しい?」
立ち止まる青海野球部員の面々。
サイズ的には松濤の部員たちも負けていないのだが(桜とアダムがいる)、身体の厚みが違う。そして顔付きを見ればキャリアの違いも明らかだ。
彼らは歴戦の雄だ。部内の過酷な競争を体験し、全国を無敗で勝ち上がったチームの強者共。
その猛者たちがその他大勢に見えてしまうほど強烈な個性を放つ三人の3年生がそこにはいた。
まだ高校生だというのにその名を世に広く認知されている三人。
今村は矢面に立ち松濤野球部とのコミュニケーションを引き受け、
泡坂は黙って立っているだけで人々の視線を集め、
佐山はチームメイトの輪から離れ青海野球部のファンたちにサインをし写真撮影に応じていた。こいつは試合中もこのようにファンサービスに熱心な奇人なのでなにも驚くことはない。実力以上に奇行で名高い男。ルックスは糞イケメンだったりする。
うちの顧問が眼をキラキラさせてその佐山に近づいていくが俺たちはスルーする。
今村はまだ俺につきまとっていた。
「惜しい試合だったみたいやな松濤野球部。置鮎が降板したちゅうても3点差を追いついた。2者連続HRやろ。ド派手やん」
俺は煽ってみた。
「おまえらは負けたの?」
「(苦笑)負けるかいな。俺たちは関西で一番強いチーム倒してきたし」
1年生ピッチャーが5回を投げパーフェクトピッチング、打線も3回に打者一巡の猛攻で大差をつけての勝利だった(9-0)。3番佐山も4番今村も複数安打。
「はいはいすごいすごいすごい」
「ほんと態度悪い奴やな屋敷」
泡坂のいるチームは岩手のメジャーリーガー二人輩出してるチームを圧倒した(8-1)。
泡坂は投手として終盤の2イニングのみの登板だった(無失点)。打者としてはHR1本で他はフライアウト。この時期は打球が飛びにくい木製バットを使用しているので数字はどうしても落ちてしまうとのこと(HR打ってんじゃねぇか)。
「うちの『大量破壊兵器』がしっかり仕事をしたみたいやね」
人間を兵器にたとえるな。文脈がプロレスなんだよ。
「俺たちが一番接戦だったのね」
「せやで。投手は桜君もアダム君もピリッとした内容やなかったみたいやけど」
そりゃ主砲に何本もホームラン喰らったらね。
「でも打線は手放しでホメてやらんと」
「この会話はどこにむかっていくの?」
「君らをライバルとして認めてるってだけやで。夏の予選の楽しみが増えた」
気色の悪い笑みを浮かべる今村。
「なんにも楽しいことなんて起こらないと思うよ。君らには」
今村は俺から視線を外し、後ろに立つ俺の後輩たちに眼をむけた。
「……」
桜は復活している。
身体も顔もユニフォームも土まみれで汚らしいが。
桜は本気で青海に勝つつもりなのだ。だからこれからフィールドで戦うであろう相手の前で地面に寝っ転がってなどいられないと理解し(遅ぇよ)、そして野生動物のように相手にむけ無言の殺気を放っている(怖ぇよ)。
「桜か……君が本番で試合つくれたら『もしも』があるかもしれんね。いや、俺のことなんて凡人もいいところやから無視してもかまわんで。でもうちの佐山や泡坂、それに風祭。風祭は今どっかでバット振ってるかもしれへんな」
努力の鬼だなあいつ。中学のときからそうだったけど。
「うちの打線を抑えられるピッチャーはうちにしかおらへん。泡坂と置鮎の二人や」
「二人に毒しこめば楽勝…ってコト!?」
今村は俺のボケをシカトする。
「うちの主力二人と桜との間には分厚い壁がいくつも用意されてるで。今日の出来見たら来年以降がんばれとエールを送るだけやけど……」
「……」
「なんや? 桜マジで俺たちに勝つつもりなん? どんな勝算があるん?」
……今村の発言がおかしい。
なんだ、この違和感は?
今村は最後尾で帰りたそうにしている片城を観察して言った。
「キャッチャーは片城言うたな、もちろんチェックしとるで。二人そろって中学公式戦不出場。自分たちだけで練習して強くなったイレギュラーコンビ。うーん、君の心はちょっと読みにくいか……」
え、読心。
「そういうスピリチュアル的な発言はいいから」
うさんくさいってレベルじゃない。
この関西人ここまでずっとキャラが薄かったのに爆弾を投じるな。
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