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深夜2時  作者: まさみ
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位牌倒し

ずっと夢を見るんです。暇なせいでしょうか。前は夢なんか見なかったのに……でね、その夢が変なんです。聞いてください。


夢の中の俺は民家に入ってくんです。見た目はごく普通の一軒家です。玄関の扉は施錠されていませんでした。不用心ですよね。

ドアを開ければ玄関と上がり框があります。泥だらけの運動靴や飴色の光沢を帯びた革靴、ゴムのサンダルが転がっていました。

「ごめんください」

礼儀正しく声をかけても誰も出てきません。諦めて視線を下ろすと、上がり框に意外な物を見付けました。

位牌です。位牌が立ってるんです。まるで来客を出迎えるように。

俺は首を傾げたまま靴を脱ぎ、何故かその位牌を抱えて先へ進みます。しばらく行った廊下の奥、小さい位牌が仰向けに倒れていました。これも拾って階段をのぼると、上から四段目にまた位牌が。

位牌だらけの家なんですよ、そこは。

三個目の位牌を回収して階段を下りると、左手に仏間がありました。敷居の上に横倒しになっているのは新たな位牌です。

なんでこんなに位牌が散らかってるんだろうと、薄気味悪く思いました。

けどね、不思議と動揺はしなかったんです。何故ならそれは明晰夢だったんです。

夢ならどんな不条理な事も起こりうる、俺が今体験しているのもその一環だと妙に冷めた心地で知覚していました。

全部の位牌を抱いて仏間に入るなり、声が聞こえました。


「順番に並べろ」

「え?」


太い男の声です。家長……父親でしょうか?何を言われたのかわからず困惑したものの、腕の中を見下ろして悟りました。

俺は畳に跪き、仏壇に向かって一列に位牌を並べます。左から右へ、大きい順です。

この家で拾った位牌は何故かサイズがばらばらだったんです。

仏間の敷居に伏せていたのが一番目、上がり框に倒れてたのが二番目、階段の途中に放置されていたのが三番目、廊下に倒れてたのが四番目でした。


「これで満足か」


仏壇にむかって確認した所、一斉に位牌が倒れました。向きは全部一緒、俺の方を向いています。

どうやら間違えたみたいです。では何の順番に並べればよいのでしょうか?正解しなければこの奇妙な夢は覚めず、家からも出れないのでしょうか。

俄かに不安になって仏壇を覗き込み……次いでてのひらを見下ろしました。


正解がわかりました。


今度は拾った順に一列に並べます。上がり框、一階廊下、二階へ続く階段、仏間……俺が辿った道順どおりです。しかしまだ仕上げが残っています。

俺は位牌の向きを変え、先頭のを倒しました。すると二本目三本目四本目と連鎖的に倒れていきます、カタカタカタカタ……ドミノ倒しです。


「きゃああああああ!」

「おかーさーん、怖いよー!」

「やだっ、こっちへくるな!お願いしますごめんなさい許して!」

「よくも妻と子どもたちを……」


俺に倒されるたび位牌は悲鳴を上げました。凄まじい断末魔です。最初は中年の女の声、次は甲高い幼女の声、三番目は小学生の男の子の声、最後は男の声です。


自然と笑っていました。

生きて泣き叫ぶ位牌を倒すのが楽しくて楽しくて、何度も繰り返し位牌でドミノ倒しました。


目が覚めてもまだ笑っていました。そこで初めて思い出すんです、俺が殺した一家の顔を。両親にまだ幼稚園に上がる前の娘、小学生の男の子。幸せそうな四人家族でした。


夢の中まで死ぬ順番を守ってるなんて律儀ですよね、教誨師さん。

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