第三話「正助と愉快な仲間たち(3)」
正助が手にしたのは、魔亀と呼ばれる、正助よりも少し大きい、巨大な亀のモンスターの甲羅だった。
真っ黒且つ平らでツルツルの表面は美しく、まるで鏡のようで、こちらの顔が映るくらいだ。
「今日のターゲットは、魔法使いの女だ」
と呟くと、口角を上げる正助。
何を隠そう、この甲羅には、〝一度だけ魔法を跳ね返す〟という特殊効果があった。
一度魔法を跳ね返した後は、罅が入り、二度と魔法反射には使えない。
幸運なことに、正助はダンジョン内で魔亀の死骸を発見したのだった。
ちなみに、魔亀の甲羅にそのような特殊能力がある事を知ったのは、偶然だった。
このダンジョン内には、正助たち以外のモンスターたちもおり、普段正助たちがいる場所(ダンジョンの入り口から入って暫く真っ直ぐ行った場所にある、開けた空間)を通り過ぎる事がある。
その殆どが転生者ではなく、ごく普通のモンスターなのだが、それらのモンスターが喋る言葉は、正助には全く理解出来ない(魂が人間であるが故か、勇者たちのような人間の言葉なら理解出来るが、勇者たちは正助の言葉を理解出来ない。つまり、正助が会話出来るのは、同じ転生者モンスターだけである)。
ある日。
ヴァンパイアが二匹、正助たちがいる場所を通り掛かった。
何やら会話しているようだが、正助には、理解出来ない。
「今夜吸血する相手の話でもしてんのか。ま、どうでも良いが」
と正助が呟くと、楓子が、
「ヴァンパイア同士のBL……アリね。でも、やっぱり正助君と熱男君が一番だわ!」
と、相変わらず気持ち悪い事を言った後、
「へぇ~。魔亀の甲羅は、魔法を跳ね返す事が出来るのね」
と、呟いた。
楓子のBL発言で顔を顰めていた正助は、
「は? 何言ってんだ、お前?」
と、聞き返すと、
「魔亀? 甲羅? 魔法を跳ね返す? お前の漫画の話か?」
と続けた。
正助の問いに、楓子は、
「違うわよ」
と言うと、
「彼らがそう言ってるじゃない」
と言いながら、指差した。
その先にいるのは、ヴァンパイアたち。
正助は、
「え? は? まさか、分かるのか!? アイツらの言ってる事!?」
と、思わず目を見開いた。
楓子は、
「そりゃ分かるわよ。だって、彼ら、男だし」
と、何でも無いように答えた。
楓子の説明によると、声を聞けば、相手がモンスターであれ何であれ、雄(男)かどうかが分かるらしく、更に、相手が雄(男)であれば、その言葉が理解出来るとの事だった。
「いや、重度の腐女子だからって、そんな特殊能力身に付くもんか!?」
と驚愕しつつ、正助がヴァンパイアたちの視線の先を見ると、ダンジョンの少し奥の方に、体長が正助よりも少し大きいくらいの亀のモンスター――魔亀がゆっくりと歩いていた。
普通の亀と違い、頭部に何本も角が生え、牙も複数あり、獰猛な顔をしている。
その姿を目に焼き付けた正助は、後日、魔亀の死骸が無いかとダンジョン内を探し回り、暫く歩き回った後、見事、甲羅が魔法反射に一度も使われていない魔亀の死骸を見付け出したのだった。
正助は、勇者・戦士・僧侶・魔法使いという編制の勇者パーティーの中で、紅一点の魔法使いの少女に対してこの甲羅を使い、仕留める事を狙っていた。
〝最高にモンスターらしく殺されろ〟とは言われているが、〝人間を殺してはいけない〟とは言われていないのだ。
一人殺した後で、他の人間に殺されれば、問題は無いはずだ。
(今まで散々キモいだの何だの言って来たあのクソ女を、今日こそは殺してやる!)
正助が下卑た笑みを浮かべた直後――
「あんたたち、分かってる? 今日こそは、あの忌々しい三匹を、完膚無きまでに叩き潰してやるんだからね!」
――ダンジョンの入り口に近い方の通路から、魔法使いの少女の甲高い声が聞こえて来た。