お化けが怖い生徒会長。しかしヒグマは素手で殺す。
そのやる気めいた態度には訳があった。肝試しだ。
「よしっ! 会長。次は俺たちの番ですよ!」
スクワットを数回して横を見ると、普段は強気な生徒会長の桑原美紀が足を震わせて怯えていた。
「いやいやいやいや徳田くん。このあからさまな神社は出るって。アレが」
「何言ってるんですか会長。全てはプラスチックで説明が付くらしいですよ?」
「それを言うならプラズマだ」
「どっちも同じですよ。さ、行きますよ」
神社へと続く竹林の夜道へ体を向け、美紀を手招きする。
怯えている美紀の手を取り、強引に竹林を歩き出した。
(めっちゃ勢いで手を繋いでしまったけど、柔らかい!!)
徳田は天国にいた。肝試しという名の天国に。
無言。暗がりに気まずい空気が流れた。
スマホのライトだけが足場を照らしている。
すると突然「きゃっ!」と、美紀が身をよじらせる。
「光った! 何かいる!?」
「…………何もないですよ会長?」
「あれは人魂に違いない! 私は人魂恐怖症なんだ早く何とかしてくれ!」
スカートを履いているにもかかわらずしゃがみ込み耳を押さえる美紀に、徳田はスマホを美紀に向けようかどうか少しだけ悩んだ。
辺りを見回したが、それらしい人魂は無い。
どうやら近くを通りかかった車のライトだと結論付け、徳田は美紀を手招きした。
「だ、大丈夫だ。まだやれる」
美紀が怖がりなのは周知済みであった為、肝試しは彼等が最後尾。既に他のメンバーは神社を抜けて集合場所へ集まっている。
「ほらほら会長。そんなゆっくりだと朝になっちゃいますよ」
「いやいやいやいや、いるって。絶対いるってば」
「会長~。この辺りはタヌキしかいませんって」
「と、徳田君……後ろ……!」
ぎょっとした顔の美紀に、徳田は「またまた~」と笑ったまま後ろを向いた。そしてちびった。
それは体長二メートルを優に超える、タヌキだった。
徳田の腕ほどの竹を噛み千切り、ギロリと二人を睨みつけた。
「デケぇタヌキ!!!!」
「なんだタヌキか」
ケロリと破顔した美紀は、巨大タヌキに浴びせ蹴りを食らわせた。タヌキは驚き逃げ出した。
「会長!?」
「あれくらいのタヌキなら、祖父の実家の森ににウロウロしてるよ」
マジかよ……。
徳田は声にならない呟きを漏らした。
「さ、行くぞ徳田君」
先程までの怖がりは何処へやら。
美紀は鼻歌を歌いながら先頭を歩き出す。
──ガサガサ!
「キャッ!」
可愛い叫びと共に、美紀が徳田の腕にしがみ付く。
柔らかな躰が徳田に密着する。徳田は一瞬で天国へ行った。
「何ですか今度は!」
「あそこでガサガサって……!」
震える美紀が指差す方向を確かめる徳田。
「何もないですよ?」
「いやいやいやいや、居るって居る居る! 私はガサガサ恐怖症なんだからちゃんと確かめてくれ!」
徳田は怯える美紀に仕方なく、草むらを確かめた。
しかし何も出てこない。
きっと猫か何かということで、美紀を納得させたのだった。
「と、徳田……!!」
「またですか会長?」
美紀が口に左手を入れ、右手で徳田の後ろを指差した。
唸り声のような音が聞こえ、竹林が大きく揺れた。
笑いながら振り向いた徳田が漏らしたのは当然の結果ともいえよう。
「グルオォォォォ!!」
それはヒグマだった。
徳田の体より太い木をなぎ倒し、二人を睨みつける。
「クマだぁぁぁぁ!!!!」
「なんだクマか」
徳田が逃げるより早く、美紀はヒグマに正拳突きをお見舞いする。
クマはまさか人間に奇襲を受けるなど思ってもおらず、突然の攻撃に一目散に逃げ出した。
「会長!?」
「あれぐらいのクマなら祖父の実家で三匹仕留めてるからな」
アンタ何者だよ……。
徳田はうっかり声を漏らしそうになった。
「あと少しだ徳田君。頑張ろう」
早くズボンを交換したい徳田は、無言で頷き歩き出した。
ケロリとした美紀は大手を振って歩くが、妙な声がしたかと思ったら直ぐさま徳田の後ろへと隠れた。
「女の悲鳴だ! 今度こそ間違いない!」
「…………」
徳田の肩にしがみ付く美紀。
背中には柔らかな感触がしっかりとあった。
徳田は既に解脱している。無理もない。
「徳田君! 早く確かめてくれ! 私は女の悲鳴アレルギーなんだ!」
「ワカリマシタ、タシカミテミマス」
ガチガチになった徳田が、美紀の指差した方向へと向かうもやはり何もない。
徳田にも女の悲鳴は聞こえず、空耳と結論付けた。
「と、徳田……!!」
「えー……後ろ見るのやだなぁ」
流石に三回目となると、徳田は直視を拒否したい気持ちでいっぱいとなった。
しかしヒクマ以上に恐ろしい物なんか無いだろうと、高をくくって振り向いた。
もう漏らす物は無いだろうと思ったが、何か出た。臭い。
「そこで何をしている!!」
それは警官だった。
徳田の眉間をぶち抜くのに最適な拳銃を構え、二人を睨みつける。
「あ、お巡りさんお疲れさ──」
「なんだサツか」
徳田が挨拶するより早く、美紀は警官にヘッドロックをキメる。
高校生に襲われると思っていなかった警察官は必死で抵抗を試みようとしたが、背中の確かな柔らかさに気を取られ、直ぐに意識を失ってしまった。
「会長!?」
「これくらいの警官なら、祖父の実家で三人くらい仕留めてるからな」
日本じゃないよな、絶対。
徳田は微かな声で呟いたが、美紀には聞こえてはいなかった。
「お、神社が見えたぞ」
「もう試す肝が無いです……」
どこか悟った顔の徳田は、涼しげな顔で美紀を見た。
神社で参拝をし、皆がいる合流地点へと向かう。
「遅かったな徳田」
先に来ていた友人が徳田の顔をしげしげと見る。
良いことあったのか。そんな顔をしている。
「徳田君がリードしてくれたから、怖くなかった。ありがとう」
「…………」
俺はアンタが一番怖かったよ。
徳田は心の中にそっと呟きを仕舞い込んだ。
「それじゃあ、二周目行こうぜ!」
ノリノリな友人だが、徳田は既に悟りの境地にいる。色々な意味で。
「徳田君と一緒じゃないと、やだな」
美紀が上目遣いで徳田を見る。
あ、お巡りさん片付けないと……。
徳田は己の半身の異常よりも他人を心配する優しい心の持ち主であった。




