第九話 撤退、そしてリベンジ
『上から』の破壊音が空間全体に響き渡る。
「ライト」
一樹が唱えると光の玉が現れ周囲を照らし出した。
見えてきたのは入り口も出口もない洞穴のような空間だった。
「とりあえず土魔法で潜ったけどバレてないみたいだな」
次第に遠のいていく破壊音を聞きながら悠紀が言った。
「ああ、そうだな」
一樹に治療してもらいながら健志が答える。
そうして治療が終わり一段落ついた頃。
「あいつは規格外だ。正面からぶつかっても勝てない」
悠紀がきっぱりと言い放つ。
「じゃあやられっぱなしで諦めろってこと? オレっちはそんなのイヤっしょ!」
智之が力強く言い返した。
他の面々もその言葉に大きく頷く。
「落ち着け、そうじゃねーよ。正面からやると負けるってだけだ。俺に作戦がある」
悠紀が地図を取り出す。
「ここだ。ここであいつを仕留める」
そう言って悠紀が指差したのは巨大な谷のある場所だった。
「道也の銃、口径いくつだ?」
「12.7mmだけど……実弾使うの?」
魔法を撃ち出すのが魔法銃の主な使い道だが実弾も装填、発射が可能である。
ただし、魔物を討伐するのが目的のため使われることはまずない。
「ああ、ただし撃ってもらうのは普通の弾じゃないけどな」
言って悠紀はニヤリと笑った。
「んじゃ今から作戦の概要を説明する」
「ーーってな感じで内容は以上だ。何か質問はあるか?」
説明を終えた悠紀が全員に尋ねた。
皆問題ないと首を振った。
「したら15分後に作戦開始。それまでは各自自由にしてていいぞー。あっ、健志は盾を直すから少し残ってくれ」
「分かった」
各々が散っていく。
道也は寝ようと横になったがそこで大海に呼ばれた。
「何?」
「道也よ、実弾は持ってきているか?」
「一応あるけど」
道也が訝しげに答える。
「作戦が始まったらいつでも撃てるようにしておけ」
「何で?」
「万が一のサブプランというやつだ」
「ふーん。それで本音は?」
「こういうのがあった方がカッコいいだろう?」
「中二病」
「うるさい高二病」
二人は暫し睨み合った後お互いに吹き出した。
「ま、覚えておく」
「頼んだぞ」
大海が拳を突き出す。
道也は一瞬疑問符を浮かべたがそれはすぐに苦笑へと変わった。
「ホント、こういうの好きだよね」
そう言って道也は大海の拳に自分の拳を合わせた。
巨竜は鬱憤をぶつける様に周囲を手当たり次第破壊していた。
理由は言うまでもなく右目に刺さったナイフ。
鼻につく少年達の姿が脳裏から離れない。
「やーい木偶の坊!」
竜に人の言葉は分からない。
しかしその声色から挑発されていることは理解できた。
ただでさえ気が立っている所。
竜は相手を粉砕すべくそちらを振り返りーー歓喜した。
目の前にいたのは自分をコケにした少年の1人。
右目に刺さるナイフの持ち主だった。
思わぬところで屈辱を晴らす機会が降ってきたのだ。
僥倖以外の何物でもない。
竜は少年に向かっていく。
少年は怖じ気づくでもなく強気に笑った。
「んじゃ鬼ごっこといくっしょ!」
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