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魔女との契約  ~内容はちゃんと把握しておきましょう~ 

掲載日:2020/12/07

 魔女のロクシュ(・・・・)は住んでいる小屋を出て、歩き出そうとして足を止めた。彼女の視界の先には招かれざる客たちが佇んでいた。


「お前が、魔女ロクシュだな」

「そうだけど?」


 ロクシュの返答に問い掛けた男、キラキラとした金髪の見目麗しい男はギリッと歯ぎしりをさせながら、彼女のことを睨んできた。彼だけでなく彼と共にいる他の三人、やはり見目麗しい男たちも同じように睨みつけている。


 ロクシュは表情には出さないようにしながらも、内心では盛大にため息をついていた。


(なんでこのタイミングで来るのよ)


「解け」

「……えっ? 何を?」


 低い呻るような声で言われたので、ロクシュにはよく聞こえなくて、首を傾げながら訝し気に呟いた。


「お前が掛けた呪いを解けー!」


 先程から話しかけてくる金髪がキラキラと眩しい男が叫ぶように言った。


「呪い?」


(そんなもの、掛けた覚えはないんだけど?)


 ロクシュは首を捻りながら考える。それを誤魔化そうとしていると思ったのか、男たちは騒ぎ出した。


「お前のせいで、アリーを追いかけることが出来ないじゃないかー」

「もしアリーが国に帰るまでに魔物に襲われたらどうするんだ」

「国を出られなければ、アリーを守ってやることが出来ない……」

「ああ、今頃アリーは、どれだけ心細い思いをしているのだろう」

「はあ?」


 ロクシュは男たちの言葉に呆れの声をだした。男たちは『アリー』への思いを口々に話していて、ロクシュがあげた困惑の声に気づかないようだ。


 そう言えばこの四人は話を聞かない人たちだったと、ロクシュはこの半年間を思い出して小さくため息を吐いた。


「大体、二百年も姿が変わらないなどおかしいだろ」

「いやだから」

「何が守護魔女だ。国から出られないようにするなど、呪いではないか」

「そのことには意味があって」

「守護と称して不当に金をださせていたんだろう」

「でもそれは今日で」

「そんな呪いなんかいらない!」

「終わる……って、それ!」


 馬鹿共の四人目が取り出したものを見て、私はそれを指さしながら声をあげた。

 私の顔色が変わったことに気を良くした四人は、意地悪い笑いを口元に浮かべた。


「知っているぞ。この契約書が無くなれば、お前には何も出来なくなることを」

「いや、待ちなさい。契約が無くなって困るのは私じゃないわよ。というか、それを持ち出して、ただで済むと思ってないでしょうね」


 私は彼らが戻ってから、親に怒られるだろうことを思いそう言った。

 が、あくまでも自分に都合が悪いことには見向きもしない彼らは、私が彼らのことを案じて言っているとは取らなかったようだ。


「はん。今更焦ったってもう遅い。こんな契約、今すぐ破棄してやる」

「待ちなさい。勝手にそんなことをしていいと思っているの。その契約は王国(・・)魔女(・・)とが交わしたものなのよ」

「王子である私が良いといっているんだ。やれ」


 ビリッ 

 ビリビリビリ


 契約書を持っていた男は、まず、小さく切れ目を入れて見せつけるようにしてから、勢いよく真っ二つに引き裂いた。


「ああ~~~~~~~」


 私は契約書を指さして大声を出した。が、契約書が引き裂かれると共に、体の中から何かが出て行くのが感じられて、口を閉じた。


 フワッ


 と、風もないのに髪が舞う。それからそれは私から離れて、故郷のほうへと飛んでいくのがわかった。


(ロクシュ様)


 私は心の中で呟き、目を閉じて彼女のことへと思いを馳せた。


 でも、それは一瞬のこと。すぐに私は目を開き、馬鹿なことをしでかした男たちを睨み据えた。勝ち誇った顔をしていた男たちは、私の反応に訝しそうな顔をした。


 私は右手を伸ばすとパチンと指を鳴らした。


「な、なんだ」

「何が起こったのだ」

「ここはどこなの」


 聞こえてきた声に、男たちはそちらを向いて顔を引きつらせた。そこには壮年から老齢といえる年齢の男女が数十人、困惑した顔で立っていたのだから。彼らは男たちに気がつくと、彼らのほうへ近寄って問いただそうとした。


「国王陛下、並びに王妃陛下。それから国の重鎮の方々。急にお呼びたていたしまして申し訳ございません」


 私は彼らの行動に水を注すように、慇懃に頭を下げながらそう言った。陛下方並びに国の重鎮たちは、私の姿をみて私の魔法により、ここまで移動したのだと気がついただろう。尚更困惑した顔で顔を見合わせて立ち止まった。


「お前、不敬であるぞ。国王陛下になんたる態度を!」


 馬鹿王子が何やらわめいているが、うるさいので指を鳴らして黙らせる。


「お前、王子に何をした。ふ……」


 おつきの馬鹿三人も続けてわめいてきたので、同じように指を鳴らして黙らせた。

 が、そのことに怒ったのか、私へと剣を抜いて切りかかってきたので、またもや指を鳴らして四人を動けないように拘束した。


「さて、うるさい者どもは黙らせたので、本題に入らせていただきますわ。国王陛下並びに皆様。残念なことでございますが、契約は破棄されました」


 私が王子たちを拘束する様子を唖然と見ていた国王陛下は、私に言われた言葉に目を剥いた。


「なんじゃと。いや、契約が破棄とはどういうことだ。おい、契約の書面は厳重に保管してあるはずではないのか」


 隣にいる内務大臣へと問いかける。


「はい。ちゃんと重要機密書類の保管場所にあるのを、一昨日確認しております」


 内務大臣は困惑しながらも返答をした。


「その確認をした時に、この(と四馬鹿の一人で内務大臣の息子を指さす)馬鹿者も一緒に居ませんでしたか」


 私の言い様に目を白黒させながらも、内務大臣は頷いた。


「は、はい。こ奴も一緒に居りました」

「その時に保管場所の手順を盗み見ていたのでしょうね」


 そう言うと、私は右手の人差し指をちょいと上に向けた。それと共に二つに破れた羊皮紙が内務大臣の前に浮かんだ。


「なあーーーーーーーーーーー!」


 その羊皮紙を見た国の重鎮たちは、顔色を真っ青どころか真っ白に変えて羊皮紙へと指を向けた。それからカクカクと首を私のほうへと向けてきた。


「ロクシュ殿、封印は?」

「残念ながら最後の仕上げが残っておりましたわね」

「○×△&%$#~」


 声にならない叫びを上げた彼らは、射殺しそうな視線を馬鹿四人へと向けた。


「私といたしましても、契約を最後まで遂行したかったのですが、誠に残念な結果となってしまいまして、本当に、ほんとう―に、遺憾ですわ」


 私は冷ややかな視線を国の重鎮たちへと向けた。


 私はこの国に来てからの半年間に、四馬鹿の行動を王宮へと報告していた。諫めていたようだけど、他の思惑のためか強くは言っていなかったのだろう。


「ロクシュ殿、もう一度契約を結び直すことは出来ないだろうか」


 藁にも縋るという思いで、宰相がそう言ってきた。


「無理ですわね。私はロクシュ(・・・・)では、ございませんもの」


 私の言葉に四馬鹿は口をパクパクと動かした。声を封じているから聞こえないけど「何を言っている。お前が魔女ロクシュだろう」とでも言っているのだろう。


「そ、そこをなんとか。新たに結び直してもらえないだろうか」

「無理と申し上げておりますわ。魔法使い協会の規約に抵触してしまいますもの。まあ、それ以前にそちらからの一方的な破棄ということで、この国自体にペナルティが発生してしまいましたわ。新たな契約をしようにも、五十年は出来なくなりましたわね。これはどの魔女、魔法使いにも適用されますのよ」


 重鎮たちは項垂れて黙り込んだ。そんな中、低い女性の呪詛のような声が聞こえてきた。


「どうして、どうしてこのような馬鹿なことをしでかしたのよ」

「それは皆様が私の言葉をちゃんと聞いてくださらなかったからですわね」


 馬鹿なことをしでかした王子たちへの言葉だけど、そういう行動をするに至った原因は王宮の重鎮たちの考え方にあると、言外に言ってやる。


「わたくし、この半年の間に何度もいいましたわよね。魔女契約についてちゃんと王子たちに話すようにと」

「ええ、聞いていますわ。ですから、言い聞かせましたのよ」


 王妃は頷きながら返事をした。


「ですが、それが十分でなかったので、このような結果になったのではないですか。もしくは皆様も、契約のことをちゃんと解っていらっしゃらなかったとしか思えませんわ」

「なっ! それはさすがに我らのことを馬鹿にしているであろう」


 騎士団長が気色ばんで言ってきた。


「そうでしょうか? では、いま一度、そこの馬鹿共にもわかるように、説明させていただきますわね。魔女との契約の中でも守護契約は特別なものですの。それといいますのも、その国において魔物が発生することを半永久的に抑制するようにするためだからですわ」


 そこで一度言葉を切り、馬鹿共の様子を窺う。彼らも国の重鎮たちも頷いているので、これは理解していたようだ。


「もちろん、そのためには下準備に時間が掛かりますし、ところどころで大規模魔法を行いますの。つまり一人の魔女もしくは魔法使いで成し遂げられるものではございませんわ」


 ここで四馬鹿の顔に不思議そうな表情が浮かんだ。先ほど馬鹿王子が『二百年姿が変わらない』と言っていたから、解ってなさそうだと思ったけど、まさにその通りだったようだ。


「ですので、守護契約をする時には『魔女名』及び『その家系』との契約になりますの。次代に引き継がれる時に、契約時の『家名』でご挨拶するのはそういう決まりだからですわ」


 四馬鹿の顔から血の気が引いていく。やっと言い掛かりをつけたことに気がついたようですわ。ですが、国の重鎮の方々を含めて、私が言った『家系』と『家名』が何を意味するのか、解っておられないようですわね。


 まあ、いいのですけどね。それよりも、説明を終えてさっさと国に戻ることにしましょう。あと三年はこの国に居なければいけないと思っておりましたが、もう居なくてよくなったのですもの。


 あの方をお待たせせずに済むのですから、早く済ますに限りますわ。


「そして守護契約のことですが、魔物の発生を抑えることなど、本来なら出来ないのはお分かりですわよね」


 問い掛ければ、騎士団長が力強く頷いた。


「発生を抑えられないのであれば、閉じ込めればいいというのが、守護契約の基本ですの。ですが閉じ込めても魔物は居なくなるわけではありません。いつかはそこからあふれ出てくるかもしれません。そこで考え出されたシステムが『ダンジョン』ですわ。ダンジョンというところに魔物を封じ込めて、その魔物を倒す。魔物はそのまま消えるのではなく、武器や防具、薬などの素材となるように変換させるのです。そうすることでダンジョン内の淀みを浄化させる。それがダンジョンというシステムですの」


 私の言葉に国の重鎮の方々は頷きます。あら、このことはちゃんと解っていらしたのね。


「ダンジョンの管理は国がすることになります。それはダンジョン内に入る冒険者の管理(入場料やその他諸々のことを含む)をすることで、利益が得られようになりますわね。魔物の素材により、流通も大きく動くことでしょう」


 そう、良質の素材が集まることにより、いい製品が出来、それを求めて人が集まる。人が集まれば国も活性化し、発展が見込める。

 それを狙って守護契約をする国が、まだまだ多くあるのです。


「ですが、このようなことが出来るのは魔法使い協会に認められた『魔女』か『魔法使い』にしか出来ないのです。ここもお分かりですわね」?」


 私が問えば、一斉に頷く皆様。


「そして守護契約の一番肝心なことですが、それは作られたダンジョンのある国の国民に、守護魔法を掛けることにあることもお分かりですわね」


 四馬鹿も大きく頷いている。……のを見て、私は盛大にため息を吐きだした。そこまで解っていたのなら、なんでもう一日待てなかったのかと、もう一度思う。


 けど、やらかしたことは元には戻らない。

 国民には申し訳ないと思うけど、受け入れてもらうしかないわね。


「さて、この説明でお分かりいただけたと思いますけど、最後の『封印』という名の魔法は、この国に住む全国民に掛ける魔法でございました。それにより契約は完了し、一応メンテナンス期間として十年間こちらでダンジョンの稼働状況を確認してから、満了となるはずでしたの」


 私の言葉に暗い顔になった重鎮の方々。ですがそうしていても何も解決しないと、国王が恐る恐る訊いてきた。


「その、ロクシュ殿。ダンジョンの……様子というか、使うことは出来るのか」

「そうですね。普通にダンジョンとして機能していると思います」


 私の返事に国王以下重鎮の方々は喜色を顔に浮かべました。


「ですが、先ほども言いましたけど、守護魔法が掛かっておりませんので、一般の方がダンジョンに入られる場合、普通にリスクがありますので、国民に告知をお願い致しますわ」


 そう言いましたら、国王以下重鎮の方々は不思議そうな顔をした。


「何を言うておるのだ。最後の魔法は『封印』だと、ロクシュ殿は言ったではないか」

「それを言いたいのはこちらですわ。『封印』という魔法は、この国に住む全国民、それもこの後生まれてくる子々孫々にまで伝わる魔法ですのよ。全国民の誰もが、ダンジョンに入って魔物を倒し、素材を手に入れることが出来るものであるのです。ですから効果に『魔物からの傷は半減』と『ダンジョン内では命を落とさない』と『ダンジョン内の魔物への攻撃力が五十パーセントアップ』いう付加がついておりますの。つまり自国のダンジョンであれば、死ぬことがないのですわ。『封印』というのは、その国民の働きによって、ダンジョンが長く持たせられ、魔物が国内に出てこなくなることから、その名前になったと聞いておりますわ」


 私の言葉を聞いてまたもや顔色を失くしていく皆様。


「つ、つまり、守護魔法は、我らにかかっていない、と?」

「ええ。先ほどからそう申していますわ。というよりも、半年前にこちらに参り、祖母より『魔女ロクシュ』の役目を引き継ぐ挨拶をした時に、ちゃんと説明をしたはずですわ。それをいい様に曲解なさったのは皆様ですわね」


 私は目を細めて彼らのことを見た。


「道理でおかしなことばかりおっしゃられたはずですわ。挨拶時に『アリー・クレメンス』と名乗ったことで、わたくしのことを男爵家の者だと思っておられたのですわね。確かに『ロクシュ・クレメンス』は男爵家の令嬢でしたもの。だからアリー()に学園に通うようにとおっしゃったのね。そしてそこの王子を焚きつけて私を篭絡させようとなさった、と。アリー()に婚約者がいるといっても、男爵家ならどうとでもなると思われたのでしょうね。自国ならまだしも他国の貴族ですのに、そのようなことが出来るとお思いでしたの?


 それに、契約時から何年が経ったとお思いですの。『先代のロクシュ』を名乗っていた祖母は、伯爵夫人ですわ。その娘の母は公爵家に嫁ぎましたのよ。


 つまり、わたくしは公爵令嬢ですの。


 あら、いけないわ。もう、ロクシュは名乗れないのだから、きちんとご挨拶をしないといけないわね。


 わたくし、アリシア・テヴリスと申します。テヴリス公爵家の第一子にして、自国の王太子の婚約者ですわ。此度の(馬鹿王子にせまられた)こと、本来ならわたくしの胸の内に留めておくつもりでおりましたが、契約が満了ではなく破棄されたことは、協会のほうにもう届いていることでしょう。なので、どうしてこのようなことになったのか、調査が入ることになるのですわ。その際に嘘偽りを申すわけには参りませんので、すべてをお話することになるのはご容赦くださいませね」


 そう言って私は冷たい笑みを口元に浮かべました。


「ああ、そうでしたわ。もう、この姿でいる必要はなかったですわね」


 指をパチンと慣らして、魔女ロクシュの姿・黒髪ストレートのすらりとした美人の姿から、私本来のフワフワとした髪質の茶色い髪にクリッとした丸い瞳の可愛らしい女の子の姿へと戻った。


「―――!」


 声にならない声をあげる馬鹿四人。まだ、声が出せないことと拘束は続いているので、身動きは出来ないでいる。

 他の人たちも茫然とした顔で、私のことを見つめている。


 私は箒を取り出すと、優雅に横座りをした。


「では、わたくしはこれにて失礼をさせて頂きますわ」


 ふわりと箒が浮かび上がっていく。


「待っ、待ってくれ~」

「お願いだ。我らを見捨てないでくれ~」


 我に返った国王以下国の重鎮たちが声をあげた。けど、今更私にはどうすることも出来ないことですわ。

 契約は破棄されたのだし、規約違反をするつもりはありませんもの。


「皆様、守護はございませんが、他国のダンジョンに入るのと同じですわよ。ポーションや傷薬などをいっぱい持って入ればよろしいのですわ。下層に向かわなければ、それほど強い魔物は出てきませんから。これから、頑張ってくださいね」


 にっこりと笑って小さく皆様に手を振ると、私は視線をぐるりとめぐらせた。これから向かう方角へと箒の頭を向けようとして、微かに見えたものに首を傾げた。


 目を凝らして見ているうちに、その点として見えたものはどんどんと近づいてくる。それと共にその姿がはっきりと見えてきた。


「まあ」


 小さく声を漏らしたあと、私は笑みを浮かべてそれが到着するのを待った。


挿絵(By みてみん)


「アリシア!」

「殿下。いけませんよ。勝手に他国に入られては。侵略と取られて、攻撃されるかもしれませんわ」


 にこやかに話しかければ、彼はムッと眉を寄せた。


「半年ぶりの再会だというのに、言うことはそれか?」

「他に何を言えと?」


 可愛く小首をかしげて問えば、乗っていたドラゴンをそばに寄せた殿下の手が伸びてきて、あっと思う間もなく彼の腕の中に抱きとめられた。


「会いたかった、アリシア」

「私もですわ」


 私の頬に自分の頬を擦り付けてくる殿下、私の愛しい婚約者のラウダニール・トウハバーズ様。


「契約が破棄されたと協会から連絡がきて、居ても経ってもいられなかったのだ。怪我などはしていないな」

「ええ、大丈夫ですわ。ご心配をおかけしたようで、申し訳ございません」

「当り前だ。アリシアは私の最愛の人なのだからな」

「嬉しいですわ、ラウダ様」


 ひとしきりラウダニール様は私の体を探るように触って怪我が無いことを確認すると、視線を下へと向けた。

 下はドラゴンを見て騒いでいた。中にはパニクって攻撃魔法を放とうとして騎士団長のげんこつに沈められている者もいるようだ。


 ラウダ様は立ち上がるとドラゴンに合図して、ゆっくりと降下させた。


「トウハ国の王太子ラウダニール・トウハバーズだ。我が婚約者、アリシア・テヴリス公爵令嬢を迎えに参った。彼女との契約は切れたのだから、異存はないであろう」

「は、はい」


 国王陛下が額に大粒の汗を浮かべながら頭を下げて答えました。


 うふふっ。これで後顧の憂いもなく、国に帰れるというものですわね。


 ラウダ様はまたドラゴンに合図して上昇させます。それから国へと向かっていくように命じました。



 さて、あれからのことです。まずはラウダ様と久しぶりの空中デートを楽しみながら、国へと戻りました。国では家族が手ぐすね引いて待っておりましたわ。あの国、アザラフ国でのことを洗いざらい話す羽目になりましたの。


 結果、魔法使い協会とトウハ国から正式な抗議がなされましたわ。協会は不当な契約破棄についての抗議を、トウハ国は自国の貴族令嬢に対する扱いについてです。

 決して王太子の婚約者の扱いについての抗議ではなかったことを、明記させていただきますわ。


 アザラフ国民はダンジョンの恩恵にあまり預かれないようですわ。それは仕方がないことですわね。守護魔法を受けられなかったのですもの。本来なら守護魔法により、子供の小遣い稼ぎとして丁度いい、良質な薬草取りがダンジョンの一階で出来ましたのに。守護魔法が無ければ、子供どころか成人した大人でも、気をつけなければ命を落とすことになりかねませんわ。



 それから家族と話しあった結果、彼らが私と祖母の説明を次のように曲解したのではと、考えが纏まりましたの。


『魔女ロクシュ』との契約があと一つ、大きな魔法を行うことにより終わる。

 出来ることなら、契約満了後も不測の事態に備えて、魔女をこの国に留めたい。

 代替わりとして、来たのは若い娘。それも男爵家の者。

 それなら王子と結婚させてこの国に留めてしまおう。

 王家の者となれるのだから、男爵令嬢にとっては良いことだ。


 だったのではないでしょうか。


 王家も貴族も、国民から冷ややかな対応をされていると聞きますわ。

 自業自得とはこのことですわね。


 さて、わたくしはというと、三年後の結婚ということでしたが早まることになり、一年後にはラウダニール様の妻となりますの。毎日、忙しいながらも充実した日々を過ごしておりますのよ。

 本当に嬉しいですわ。


 そう考えますと、馬鹿なことをやらかしてくれたあの四人には感謝しかありませんわね。


補足 


設定など


この世界の人々は魔法が使えるが、ほとんどの人は魔法をぶっ放す系しか出来ない。つまり創造魔法や付与魔法は使えない。


はるか昔に高度な魔法文明があったと云われていた。

いまから五百年ほど前に、古代魔法文明の遺跡を発見、研究をした人が、付与魔法の再構築に成功し、発表した。それを知った研究者が集まり、いつしか小さな街ができた。それにより古代魔法文明の研究が進み、いくつかのロストマジックを復活させた。

そのことに目を付けた大国に狙われ大軍に攻め寄せられたが、ある若者が立ち上がりその大国にロストマジックを使って抗った。

大国は退けられ、このことによりその若者を王として新たな国が興された。

それが『トウハ国』である。


・トウハ国

古代魔法文明を研究し、それにより今の人々には使えない魔法を使うことが出来る者たちが住む国。


・魔法使い協会

大国が退けられたことにより、他の国々がトウハ国に魔法に関する依頼をするようになり、そのごたごたから出来た組織。魔法の依頼は協会が受け、所属する魔法使い・魔女に振っている。


・魔女ロクシュ

二百年前の魔女。魔法使い協会に来た依頼により、アザラフ国に来た。ストレートの黒髪に切れ長の瞳の美人。当時二十六歳。アザラフ国との契約により『契約の石』にこの姿が登録された。これにより契約完了まで、ロクシュの系譜はこの姿で魔女活動をすることになる。


ちなみにこの時、ロクシュには夫と二人の娘、一人の息子がいた。『魔女契約』となったために、契約の継承は二人の娘の子孫へと受け継がれていった。


・クレメンス家

ロクシュが男爵家令嬢となっていたように、魔女登録時は男爵家だった。夫は入り婿。だけど、ロクシュが『守護魔法』契約をしたことにより、クレメンス家を守ろうと発奮。彼の代で子爵家に、息子の代で伯爵家に陞爵しょうしゃくされた。

娘に『守護契約』が引き継がれたため、クレメンス家は代替わりの時の『借りかりな』の届け先となった。


・アリシア・テヴリス

トウハ国のテヴリス公爵家の令嬢。『守護契約』により魔女名は『アリー・クレメンス』だった。年齢は十八歳。本来は学園に通う必要はなかったのに、愚かな考えを持ったアザラフ国上層部により、学園に通う羽目になった。

学園に通園する時の姿は本来の姿だった。


ちなみに本来なら彼女の母、おば等の代の者が祖母のあとを継ぐはずだったが、何故かその代に『守護魔女契約』を引き継げるほどの魔力を持つものが生まれなかった。

アリシアの代では、妹、いとこ、はとこ等、後継候補は数多現れたが、一番年上だったアリシアが、とりあえず継承することになっていた。


もう一つおまけに『守護契約』のアフターフォローは十年となっている。なので、アリシアが三年と言っていたのは、次にいとこが来られるのが三年後だったから。そのあとは妹を含む継承候補たちが実績を積むために一年交代で引き継ぐはずだった。


・王子たち

第二王子、宰相の息子、内務大臣の息子、騎士団長の息子。

上層部の思惑により『アリー』に近づいたが、靡かない・媚を売らない姿に、おちた人たち。

そして、最後の魔法の『封印』のために、アリシアが来てから半年の間、国から出ることを禁止されたことを、『呪い』と勘違いした人たち。


『封印』発動の一週間前に、学園を卒業した。このあと『アリー』の姿が消えたことにより、国に帰ったと勘違い。国境まで行ったけど、国から出ることができなかった。

で、あの暴挙を行った。


・ダンジョン化魔法

魔物を封じ込めてそこで倒すことにより、アイテムが手に入るようにするシステム。


この世界の人々は知らないことだが、魔物がこの世界に来るのは、古代魔法文明の大規模魔法のせい。その大規模魔法により異界との間に亀裂をつくり、魔物がこの世界に現れるようになった。古代魔法文明はその亀裂を塞ぐために使った魔法により滅ぶことになった。

だが、一度できた亀裂は元に戻ることはなく、時が経つと共に『揺らぎ』が出来て『淀み』となり『穢れ』に変わっていく。最後には魔物を通す『穴』になる。


ダンジョン化の魔法を始めるにあたって、『淀み』から『穴』までの潰しが行われた。そのあと『揺らぎ』の場所が出来ると、ダンジョンへと封じ込める変換が行われていった。


・封印という魔法

『封印』というのは、一時その国の国民だけ移動不可能にして行われる、大規模魔法のことである。もともとは『守護』魔法といわれていたが、国を封鎖して行うことから『封印』と名を変えた。

準備に半年以上かかるのは、全国民対象だから。国外にいる者を呼び戻す時間や、魔法対象者を把握するための期間である。


・契約の石

守護契約などの長期魔法を行う時に用いられる。最初の契約者の姿を記憶したり、契約の状況を魔法協会に伝えるもの。


・ラウダニール・トウハバーズ

トウハ国の王太子。ドラゴンライダーであり、ドラゴン騎士。


ドラゴンは魔物ではなく、高次元知能生命体。人語を解する。但し、古代魔法語。

ラウダニールはトウハ国唯一のドラゴンライダー。古代魔法語を話すことが出来、ドラゴンと意思の疎通ができる。彼が乗るドラゴンは彼のことを認めて付き従っている。

他にもドラゴン騎士はいるけど、意思の疎通までは図れない。古代魔法語でお願いしてドラゴンに乗せて貰っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョンの魔法、守護魔法の契約等、設定がすごいです。面白かったです。 ですが代替わりの話や爵位のあたりは頭がこんがらがりました。後書きまで読んでも「えーっと?」と考える感じです(;^ω^)…
[良い点] 婚約破棄ならぬ、契約破棄ものですね(笑) 馬鹿四人が本当に馬鹿で、いい味出してました。 契約っていうのは、簡単にどうにかなるものじゃないのに。 ちゃんと把握してないと駄目ですよね~。 さ…
[良い点] お姉様らしい展開でした(^^) [一言] ちょっと設定説明が多すぎるかなぁ、と。
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