第一話「日課」
平成XX年、まだ寒さの残る春の朝――
薄明かりの中で目を覚ました私は真っ先に掛け布団をめくる。
ひんやりと冷たい風が私の腰の周りを舞った。
「ああ、やっぱり今日も出てる。」
私はそう淡々と呟いた。
昨日や今日始まったことではない。もう何年も続く毎朝の恒例であり、いわばルーチンワークだ。
私は布団から出ると、さっきまでお尻の下にあった吸水性のあるシーツを慣れた手つきで外し、くしゃくしゃに丸めた。
丸めたシーツを小脇に抱えて、空いたもう一方の手で自室のドアを開けて、そろそろと階段を下り、風呂場に行く。
私の名前が書かれたバケツの中に、シーツを投げ込む。
排水溝の前に立つと、冷たいタイルの床に触れた足から脳天へ、冷たさが一気に突き抜ける。
背筋がゾクゾクと震え「ふぅ、ッ」と声が漏れる。
と同時に、冷えて脚に張り付いたズボンの股の部分から、一筋の温かい雫が垂れる。
寝間着のシャツを脱ぎ、微かに湯気の上がるズボンと下着も脱いで、先程シーツを入れたバケツにまとめて放り込む。
むせ返るアンモニア臭に顔をしかめながら、水道の蛇口を開け、かじかむ手ですすぎ洗いをして、洗濯機へ移す。
私が住んでいるのは古い田舎の家で、蛇口を捻っても水しか出ない。
浴槽の隣に、薪でお湯を沸かす釜がついている、五右衛門風呂を近代的に改造したような風呂だ。
冷たい水を足元、膝、太ももへ掛け、少しためらってから、胸と背中にも冷水を浴びせる。
体を拭いて着替えたら、芯まで冷えた体をストーブで温める。
(どうして私だけ、こんなに惨めな思いをしないといけないんだろう)と今まで何度も悩んではみたものの、朝目覚めてみれば結果は同じである。
いつまでこんな生活が続くんだろう。来年は修学旅行もあるのに、また林間学校の時みたいに仮病を使って途中帰宅しないといけないのかな。
クラスの皆から「あの子また早退だよ、もしかして……」とか思われたりするのかな。
悔しい、辛い。
神様、どうか私のこの病気を治してください。
第一話『日課』おわり。