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人の心は脆く寂しさに弱い。それが言い訳だなんてわかってる。

 クリスマスが終わり、年末年始も過ぎ、冬休みが終わって学校が始まっても僕の気持ちは沈んだままだ。


 就活が今年の秋から始まるのに。


 まどかから前島と付き合う事を聞いてから1ヶ月経ったが、僕の気持ちは全然まどかを諦められていない。


 まどかに恋人が出来たら応援する事が出来る、諦められる。


 ずっとそう考えてたけど、いざその状況に身を置いたら全然ダメだ。


「おはよー隼人ぉ!」


「おはよ」


 千裕は強いよな。


 俺を好きでも、俺がまどかを好きと言っても変わらずこうして馴れ馴れしくしてくる。


 だけど、今はこの馴れ馴れしさが嬉しい。


「なんか最近ずっと元気ないね? どうした?」


「これから···来年の事を考えてたらナーバスにもなるさ。」


「確かにね。 でもみんな生きてるんだから、またいつか会えるよ。」


 千裕は弾けるような笑顔で語りかけてきた。


 甘えたい。


 ──今はすがりたい。


「なぁ、千裕······今日バイトないしさ、お前が暇なら今日うちに来ないか? 話したい事がある。」


「え? 行く行く! じゃ、今日一緒に帰ろうよ? そのまま向かった方が良いよね。」


「千裕が良いなら、そうしよ。」


「じゃ、決定~!!」


 本当に救われる······こいつには。


 ────────


「千裕ぉ! 千裕千裕ぉ! 今日映画のチケット手に入ったんだけど、一緒に行かねぇ?」


 あーうるさい!


 この猿本当に諦めないわね。


「はい、無理。」


「えー? 千裕はいつなら空いてるんだよ?」


「猿の為に空ける日はないし、今日は特に無理。 他の日なら······この間電話で話聞いてくれたお礼に映画に付き合ってあげても良いわよ?」


「猿って···一応幼なじみで、仲が悪いわけじゃないのにひどい言い方······だが、やったー! デートにOKしてくれるなら良いや!」


 この猿日本語わからないのかしら?


 映画に付き合ってあげるって言っただけって言った事を理解できないのかしら?


「ちょっと待って! デートじゃなくて、映画ね!」


「本人がデートって思ったらデートなの! 千裕がデートじゃないって思うならデートじゃない。それで良いんだよ。」


「なんかとてつもなく勘違いされそうな理屈ね、それ。」


「ところで今日外せない用事って隼人の事かよ?」


「まぁね。」


「なぁ、あいつはまどかにベタ惚れしてんだぜ? 脈がないのになんで頑張んだよ?」


 あー。うざい。


 どうだって良いじゃ···そうか、こいつも私を好きで振り向いてもらいたくて、こうした事言うんだもんね。


 無下にしたら悪いか。


「心配してくれてるの? それとも─」


「心配しているのもあるけど、一番は俺の方を見て欲しいからだ!」


 いや、それを堂々と言うなよ。


 裏表なくて潔いって思うけどさ。


 彼氏には絶対したくない。


「本当にバカだよね、あんたって。」


 キーンコーンカーンコーン


 キーンコーンカーンコーン


 ナイスタイミングなチャイム!


「ほら! 授業始まるよ! 席に戻りな。」


 鈴木はしぶしぶ席に戻っていった。


 悪い奴じゃないんだけど、自分に好意寄せてくる男に興味わかないんだよね。


 鈴木には悪いけど。


 ─────────



 人は寂しいと惚れた人以外の温もりを感じたくなったり、そばにいて欲しいとか勝手な事を考えたりするんだろうか?


「お待たせ! ごめんね遅くなっちゃって。」


「いや、そんなに待ってない。」


「同じクラスなんだから教室で待ってくれてても良かったのに。」


「変な噂が出回ったら面倒だから。」


「また、そういう言い方する。まぁ、良いけどさ。」


 今一緒にいるだけで色々言われているの聞こえないのか千裕のやつは。


 上っ面では心配しているふりの人間ばかり。


 裏では面白おかしく人の事を嘲笑する。


 だから僕はなるべく人と距離を作る。


 そんなもん無視して近づいてくるのが、寛和に千裕なんだが。


「ねぇねぇ、でもさ、隼人が私を誘うなんて小学生の時以来じゃない? なんか悩み事?」


「悩み事······うん、そうだな。悩み事。」


「そっか···あ、着いたー! 久しぶりだな。隼人の家。」


 普段は長く感じる道のりも今日は千裕と一緒だったからか早く家に着いた感じだ。


「上がりなよ。母さんまだパートから帰って来てないし、気楽にしてよ。」


「え? おばさんいないの? なら隼人と二人

 ···。」


「何にもするわけねーからな。」


「え? しないの?」


「するかよ!」


 とりあえず千裕には先に部屋に行っててもらい、僕はそのまま台所に。


「お待たせ。お茶だけで良い? つまめるようなものなかった。」


「あ、いいよいいよ。お構い無く。」


 なんか女子が自分の部屋にいるの久しぶり過ぎて変に緊張するし、よく考えたら僕の部屋に唯一出入りしているのって千裕だけなんだよな。


「で、悩み事って言うのは?」


「いきなりかよ。」


()()()()()()()()()()()()()ちゃんと聞いて、何か良い案を出してあげたいもん。」


 時計を見たら16時を回ってる。


 19時までには帰さないとだから確かに時間がない。


 僕は先月にあった、まどかが恋人を作り僕と連絡を断った事、それでも僕はまどかを好きな気持ちを忘れられないし応援も出来ない事に苛立ち何もやる気が起きないことを千裕に話した。


「なるほどね。それで悲劇のヒロインぶってうじうじしていたと?」


「うじうじしていたわけじゃ······」


「隼人は、あの女(菊川まどか)が好き。それだけは揺るがない事実なんでしょ? だったらみっともなく自分の気持ちぶつけなさいよ。カッコつけようとするな! あの女を諦めようとしてカッコつけた言い訳す─」


 我慢出来なかった。


 僕は最低だ······。


「ちょっ!? ちょっと! 離れて! 馬鹿にしないで!」


 千裕を勢い余って抱きしめてしまった僕の体は、千裕に突き飛ばされた。


 僕は何をしてるんだ?


 寂しいからって、辛いからって······。


「私なら甘やかしてくれるって思った!? 隼人に好意抱いてる私なら受け入れてくれると思った? 私はそんな都合良い女になんかならない!」


「ごめん。」


 今僕に言えるのは、この謝罪の一言しかない。


 卑怯なのもわかる、都合良く千裕に甘えようとした、あわよくばこのまま千裕と付き合えば気楽になれるかとか考えた。


 容姿端麗で見劣りしない。


 ······こんな時まで僕は周りの評価を無意識に気にしているのか。情けない。


「私帰るね。見送りも送り届けもしなくて良い。じゃあね。バイバイ。」


 僕は何をしてるんだ。


 千裕まで傷つけた。


 今までとは比べ物にならないくらい。


 まどかを好きなんて言っておいて、千裕に甘えてみたり、抱きしめたり、都合良く使った。


 そりゃあ、まどかにも好きになんて──


 ヴゥ~ヴゥ~。


 "隼人に一つ言っておくの忘れた。今ならあの女が隼人を好きにならない理由わかるよ。隼人は最低。私も大嫌い。"


 だよな······。

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