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恋は突然始まるんだ。

 空が今の僕の気持ちを表しているようだ。


 どんよりとして、雨が降るのか降らないのかはっきりしない天気。


 まどかに男を紹介すると言って今日連れてきたわけだけど──。


「隼人が女を紹介してくれるなんてなぁ···どういう風の吹き回しか知らないけど、女の子と知り合えるのは嬉しいさね! ありがとな!」


 今からまどかは、こいつ─前島みちと─の毒牙にかかると思うとなぁ。


 だけど、あいつは一回僕がどれだけ優しいかを知るべきなんだ。


「なぁ、前島さ、本当に女ならデブ以外なら誰でも良いのかよ?」


「おう、デブじゃなきゃ良い!」


「今回会う子はデブじゃないが、可愛いわけではないんだが···。」


「ノープロブレムだ! 女の子と知り合い、さらにその子からもいつかは女の子を紹介してもらえる。つまり養殖だな。」


「養殖って···」


 前島と話していると調子狂うし、持論がハチャメチャでついてけないから疲れるんだが、つまらないわけじゃない。


 "次は井野宮~井野宮~"


 もうそろそろか···井野宮の次のバス停で降りて、待ち合わせの喫茶店に行くんだが、やっぱり気乗りしねー!


 うぅ······何かの間違いでまどかが前島に惚れたりしたら嫌だ。


 ここまで来て不安になってきたし、怖くなってきたし、後悔もしてる。


 僕はまどかが好きだし、まどかが嫉妬してくれるかもって思って千裕に好意を寄せられているというのも見せつけたけど、結果は全然ダメだ。


 俺の顔は好みじゃないって言われてるから仕方ないんだけどさ。


「隼人降りるぞ! ほら!」


「え? 着いた? アナウンス全然聞こえなかった。」


「着いた! ちゃんと聞いとけよ。」


 僕達はそのままバスから降りて、待ち合わせ場所へ─···


「いらっしゃいませ! お客様は何名様ですか?」


「あ、待ち合わせしてい···あ、いた」


 僕達が入ってきた事に気づいたまどかが、手を振っている。


「え? あの子? 可愛いじゃん!」


 確かに可愛い。


 普段より可愛い。


 おだんご頭にして、化粧もしてる。


 何で俺といる時は化粧なんかした事ないのに、今日はバッチリしてるんだ? そんなに僕に男の魅力がないのか···。


「待った?」


「うん。 待たされたから奢りね。」


「お前···」


「めっちゃ面白い! 可愛いし面白いし最高ですね!」


「え? 本当ですか~?」


 僕以外の男といる時の方が楽しそうじゃん。


 化粧もして、普通に言葉のやり取りだって出来てる。


 さっきから僕の方を見やしないし。


 ヴゥ~ヴゥ~


 "隼人は早く帰って。私この人ともっと話してみたい、それと紹介ちゃんとしてよ"


 早く帰ってって···そんなに嬉しいのかよ。


 気に入ったのかよ。


「あ、紹介してなかったな! こいつが菊川まどか」


「遅くなってごめんなさい、私まどかって言います。よろしくお願いします。」


「で、こいつが···」


「あ、俺前島みちと!」


「みちと君ね? よろしく!」


 なんかこの二人めっちゃ盛り上がってるじゃん、本当に俺邪魔者なんだなぁ。


 まどかと僕の関係なんてそんな程度だったんかなぁ? 僕の自惚れだったのかもな。


「二人ともごめん! 僕ちょっと急用出来ちゃて行かなきゃ。」


「さっき誰かから連絡あったよね~? スマホのバイブ音聞こえてたよ?」


「お? マジか隼人? 俺らなんかめっちゃ話合うから、俺らだけにして隼人だけで席抜けても問題ないぞ?」 


「うん! 私達楽しいから気を使わないで、行ってあげな~。」


 自分が僕にLINE送ったくせに白々しい。


 早く消えよう。


 もう辛い。


 まどかもやっぱりカッコ良い男が好きなわけなんだよな。


 例え見た目がダメでも、一緒にいて楽しかったり、退屈しない僕達ならきっと上手くいくって思ったのは幻想、自惚れ。


「じゃ、僕行くね。 ごめん」


 僕は二人をその場に残し、席を立った。


 胸が締め付けられる。


 モヤモヤする。


 あの二人が笑い合って、仲睦まじい所を何回も想像して、あの二人が手を繋いで、いつかは付き合ってしまうんかな?って考えてイライラする。


 なんで僕はこんな仕打ちを受けても、まどかを好きなんだろう。


 でも、それだけまどかを好きな自分が誇らしくもある。


 ──────────


「さて、茶番はおしまい。」


「え? 茶番?」


「そう、茶番···私が本当にあなたみたいなチャラい男と話すると思う? 俺は無害ですって顔して近づいてきて、面白い話したら簡単に女がなびくって思わないで?」


「なんだよそれ!?」


「なんだも何も、さっきから言ってるように茶番ですが? それとさりげなく手を握ってきましたけど離してもらえない?」


「じゃあ、なんでその茶番をしたんだよ!」


「そ、本題は······」


 ─────────



 まどか達と別れてからまっすぐ帰宅して、今はベッドの上で何の目的もなくスマホをいじり、今日の事を考えてた。


 男を紹介して欲しいって言ったからまどかが、積極的な格好をして、お喋りをするのは不思議じゃないんだけど、やっぱり落ち着かない。


 僕は本当にまどかが好きだし、他の男と仲良くしているってだけでイライラする。


 情けない。


 情けないよなぁ。


 本当ならまどかが恋愛感情を初めて持てるかもしれない事を応援しないとなのに。


 ······応援なんか無理だ。


 僕はやっぱりまどかが他の男と付き合うなんて嫌だ!


 僕がまどかの──。


 ヴゥ~ヴゥ~。


 "私達付き合う事になったの、ありがとうね、みちとに会わしてくれて。私初めて恋愛感情持てたかも"


 目を疑った。


 あのまどかが会ったその日に付き合う事にするなんて!


 僕はすぐに返事した。


 "今日会ったばかりなのに、付き合う事に決めたなんて嘘でしょ?"


 信じられない。


 いや、むしろ恋愛を今までしてきてないから勢いだけで···。


 ヴゥ~ヴゥ~。


 "本当だよ"


 嘘だ!!


 信じたくない!


 信じられない!


 ヴゥ~ヴゥ~。


 "もう連絡取るのやめよ? 私にも彼氏出来たわけで他の男と連絡しているなんて不誠実だから"




 その日、僕の連絡先から菊川まどかの名前が消えた──。

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