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サプライズ

 千裕とまどか、僕とで一悶着あってから今日──まどかと約束した日曜日──まで、まどかとは会話してない。


 仲が悪くなったとかじゃなくて、バイトにしろ勉強にしろ遊びにしろ忙しくて連絡も取り合っていなかったし、クラスも元々違うから学校でも話機会がなかっただけだ。


 今日だってバイトに入っていても会話はなかったし、帰りも別々、今から会うってのに何か気が重い。


 待ち合わせの喫茶店に向かっているが本当に気が重い。


 好きな人に会うってのに······。


 "人の気持ちを考えられない所が嫌い"······か。


 それを言われても困るんだよな。


 僕にとって、友達なんてものは『自分にとって都合が良く、不快にさせてこない距離が近いだけの赤の他人』って認識だし、そもそも災害とかあったりした場合真っ先に心配して思い浮かべるのは、恋人の事なんじゃないのか?


 それなのに友達がいないからって人間性を否定してくるような偏見の塊連中ばかりで、ますます嫌気が差す。


 僕から言わしてもらえば、友達に依存しているだけだと思うし、周りからみた自分を気にしているだけじゃないか。くだらない。


「いらっしゃいませー。 お客様は1名様でよろしかったでしょうか?」


「あ、いや、もう一人あとから来ます。」


「2名様ですね? それでは、席の方にご案内致します。」


 案内された出入口に近い窓際の席について、気持ちを落ち着かせる。


 それにしても、話ってなんなんだ?


 突然まどかの方から誘ってくるなんて珍しい。


 付き合っているわけじゃないから別れ話って事でもないと思うし、距離を置きたいならわざわざ会って話そうとしないだろうし。


「こちらメニューになります。 お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください。」


「あ、とりあえずケーキセットでお願いします。」


「ケーキの方は、どちらにいたしますか?」


「えっと···苺のショートで。 それとブラックでお願いします。」


「かしこまりました。 それでは失礼致します。」


 先に用意してくれたお冷やで喉を潤すが、全然渇きが収まらない。


「はぁ。」


 "いらっしゃいませー"


 "待ち合わせしているんですけど"


 "あ、もしかしてあちらのお客様ですかね?"


 "そうです!ありがとうございます。"


 人が近づいてくる気配がする。


 ──ん?まどかか?


「ねぇ、ちょっと。 あんたまだ高校生なんだからおしぼりで顔拭いてないでよ、おっさんみたい。」


「歩いて来たから汗かいて拭いてたんだよ。」


 汗をかいていたのは、また違う理由でもあるけどそんな事言えるわけがない。


「それで話とは?」


「ぷっ、何その聞き方? 話入る前に私にも注文させてよ、そういう所だよ自分勝手なの。 あ、すいませーん!」


 ってもう決まったのかよ!? いくらなんでも早すぎだろ。


 あと呼び出しボタンあるんだから押せよ。


「お待たせ致しました、ご注文ですか? 」


「はい。ダージリンのケーキセット、モンブランで。」


「かしこまりました。 それでは、先に注文なさっていただいたのですが、女性のお客様と同時に持ってくる形で大丈夫でしょうか?」


「あ、はい。 大丈夫です。」


「ありがとうございます。 それでは少々お待ちくださいませ。」 


「それで、話って?」


 はっきり言って急かしているみたいだし、余裕がなくてダサいって思うけど、早く楽になりたいんだ。


 まどかに何を言われるか心配で、絶対に良い話ではない気もしてるし。


「急かすねー。 久しぶりに話するんだから、もっと気楽にしてよ。 隼人って本当に自分勝手だよね? よく戸田さんもこんな男を好きになるよなー。」


「久しぶりもなにも、まどかが話かけるなオーラ出してたからじゃないか。 不安がなかったと言ったら嘘になる。」


 メチャクチャにやにやして、ずっとこっちを見ている。なんなんだ? いくらなんでも失礼じゃないか? 僕は実際不安だったし、悩んでたし、今日まで苦しかった。


「ねぇ、隼人なんか忘れてない?」


「何を? まどかが言った俺は人の気持ちを考えられない所か何かか?」


「違うよ、ってかずっとそんな事考えてたの? それはあなたの本質だし、別に直したからって好きになる、直せないから嫌いになるって話でもないでしょ? そうじゃなくてさ···ね?」


 おどけた笑顔でそう言われても全然わからない、僕が何かを忘れてる? 何を忘れているんだ? とりあえず怒ってもなさそうだし、機嫌も悪くはないと思う。


「ごめん、全然わからな···」


「お待たせ致しました。 ダージリンとモンブランのお客様?」


「はい。」


「失礼致します。」


 この店員さん、多分僕らと変わらない年頃なんだろうけど丁寧な接客だなぁ。


「それでは、こちら苺のショートとブラックになります。」


「あ、どうも。」


 あ、女の子の匂いって何でこんなに良い匂いがするんだろう?


 最近まどかか千裕としか女の子とは関わっていないから何か新鮮だな。


「ごゆっくりお過ごしください。」


 去って行く姿もなんか絵になってるよなぁ。可愛いとやっぱり何でも様になるな。


「ちょっと隼人、今あの人に心奪われてたでしょ?」


「良いなって思ったけど、心は奪われてない!」


「どっちでも良いけどさ。」


 目の前のモンブランに手を伸ばし、上辺の黄色いクリームの部分だけ食べ始めたけど、変わった食べ方するなぁ。


 ちなみに僕は必ず苺は最初に食べる、あとに残していたら万が一食べられない事態が発生したら損した気分になるし。


「隼人って苺から食べてるんだ? 私と一緒だ。」


「そうなんだ? まどかも同じか。」


「うん、楽しみは何でも先にしちゃいたいのよ。」


 まどかと一緒の考え方、食べ方···ってだけでこんなにも嬉しい気持ちになるなんて、やっぱり僕はまどかが好きなんだよな。


「それでさ、今日の話って何なの?」


「あ、そうだ。 はい、これ。」


 突然渡されたチケット袋? なんだこれ?


 手紙か?


 中を確認したら図書カード5000円分が入ってた。


「え? これって?」


「誕生日プレゼント。 19日が誕生日だったでしょ? ちょっと早いけど渡せる日に渡しとかないと今月は忙しいから渡せなかったら嫌だなって思ってさ、ありがたく受け取りなさい!」


 意外だった···まどかは絶対こういう事する人じゃないと思ってたから素直に嬉しかった。


「あ、ありがとう。」


「なんか反応薄いなー。 本当に私が説教か何かすると思ってたの?」


「そりゃ、あんなタイミングで言われたら勘ぐっちゃうさ。」


「······じゃあさ、私が注意して隼人はそこを直すの? 直せるの? もし直せたとしても私は好きにならない絶対に。」


 さっきまでとは違い真剣な眼差し、声のトーンが落ちてる。


 まどかの言っている事がわからない。


 好きな人に好きになってもらいたいから努力するし、直すんじゃないか。


 それでも好きにならないっていうと─···


「え? 待って、それじゃ何? 初めからまどかは、好みのタイプが現れないと好きになれないって事? 白馬の王子様を待ってるの?」


 メチャクチャ面白い、一度も恋愛経験をした事がないから、恋愛感情もわからないって言ってるのに白馬の王子様を待っているのかと思ったらイライラしてきた。


 初めから好きな人がポンって現れる方が稀じゃないのか? みんなアタックされて絆されて好きになっていくと思うんだけど、それがわからないって恋愛以前に人としての心を持っていないんじゃないか?と思ってしまう。


「······」


「黙ってたらわからないよ。 まどかは恋愛感情がわからないんじゃない、わかろうとしないだけなんじゃない?」


「じゃあ、紹介して。」


「え」


「紹介してよ、男友達を。」


 目の前に自分を好きと言っている男がいるのに、その男に向かって男を紹介してくれって頭おかしいのかな?


「······何でだよ」


「私から好きになれないなら、誰かが私を好きになってくれたなら恋愛感情が生まれるかもしれないって思って。」


「いや、目の前にいるじゃん! 俺が!」


「イケメンが良い、ブサイクは無理」


「なっ!?」


 体の力が一気に抜け、自宅だったらそのまま横になりたい。


 惚れてる子にブサイクで対象外って言われたんだ、当たり前だ。


 もうどうでも良くなったし、紹介した男友達と上手くいってくれたら辛いけど、僕も忘れられるだろう。


 わかった。とびきりのイケメンを紹介しよう。


 女癖が悪いけど、デブじゃなければとりあえず手を出すようなクズだけど、意外とそういう男が好きなのかもしれないしな。


「わかった。 じゃあ、紹介してやるよ。」


「本当に? ありがとう。 やっぱり体の関係をいつかは持つなら男の容姿って重要だし、自分を安売りしたくないんだよね。」


 紹介すると言ったものの複雑な気分だ。


 どうなることやら─···。

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