『当たり前』という壁
吐く息も白くなり、クリスマスも今月の下旬に迫ってきた。
今もそうだけど、登校中に目にする恋人同士であろう学生達、町で見かける恋人達は、どんな事がきっかけで付き合う経緯に至ったのだろう?
どちらからかの告白をきっかけに──とか。
気づいたら付き合っていた──とか。
どちらにせよ、好きな人に好きになってもらえるという事は、奇跡に近い事なんだな。って思う。
──そう。菊川まどかを好きになって、絶対に付き合う事が出来ないと気づいた時から余計に、そう思う。
それでも僕は、彼女を愛し続けられている今に誇りを持てる。
それを自己満足、恋に恋しているだけとかの声はもちろんあるだろう。
自分でも、そう思う事はあったが、彼女を好きな事は事実なんだ。
わざわざこの気持ちを否定する必要もないし、彼女自身嫌がる素振りもないし、距離を置かれて離れられたわけじゃない。
だから、僕は今のこのままで良いと思っ─···
「おはよー! 朝から何辛気くさい顔しながら歩いてんのさ? まぁ、進路とか色々決めて受験勉強したり、就活したり大変な高校2年生だから、疲れちゃうのはわかるんだけどね? 」
後ろからおもいっきり体ごと突進してきて、アハッ。と、ショートボブの前髪をかきあげ、とびきりの笑顔──。
バイト先で知り合ったまどかだが、話をしてみたら偶然同じ高校に通う女の子だった。
「おはよう。 朝から元気だね。 だけど、体ごと突進して来るのはやめて欲しいかな? 下手したら僕が倒れて、まどかが怪我でもしたら大変だからさ。 」
「真面目な上に、優しすぎ! 」
ぷくぅー。と頬を膨らませ睨みつけてくる。
「本当に朝から仲良いですね、あなた達は。 恋人みたいに。 」
長く黒い髪の毛をかきあげ、ぱっちりと大きい眼差しを向けて、嫌みったらしい言葉を投げてくる
よりによって、千裕に見られるなんてツイない。
こいつとは、幼稚園から高校まで一緒で、家をお互いに行き来する仲ではあるが、恋人ってわけじゃない。
所謂幼なじみってやつだ。
「なんだ千裕か。 恋人みたいに見えても俺とまどかは、付き合ってな─···」
ピッ!と、千裕は人差し指を僕の口に当てて言葉を遮る。
「あなた達が、本当に付き合っていたら、こんなに大人しくしていられるわけないでしょ~? バカなのかなぁ? 幼なじみなのに私の性格わからないわけないよね? 神宮寺隼人君?」
「戸田さん! 私達付き合ってないし、もし私が隼人と仲良くしているのが気に食わないなら、気をつ─」
「あんたバカなの? 私が隼人の交遊関係に口出せるわけないでしょ? それこそ彼女でもないのに、そんな束縛してみなさい? 私は完全に嫌われて、あなたは晴れて隼人とゆっくり愛を育む事になるでしょ? 」
千裕は、すでに僕の口に当ててた人差し指をどけて、腕を組んでまどかを見下ろす形になって威圧的な態度を取っている。
千裕が165cmで、まどかが155cmで10cmも身長差があるから千裕の威圧感は、まどかにしたら結構あると思う。
って何を悠長に語ってるんだ僕は!?
早く二人の言い合いを止めに入らねば!
「ストップ! 千裕は、朝から何突っかかった言いがかりしてんだよ? お前は昔から瞬間湯沸し器みたいにすぐ熱くなるなよ? 」
「誰が瞬間湯沸し器よ!? 」
ぷっ。と、まどかが笑いを吹き出し、すぐに「いけない」と口を抑えるも時既に遅し。
千裕が、それを見逃すわけもなく、みるみる顔が真っ赤になる。
「な、な、何笑ってんのよあんた!! 確かに顔はちょっと可愛いかもだけど、胸はぺったんこでガリガリじゃない! それを突然現れて! 」
こんな通学路で、朝から大声出して突っかかったりしてきて、たださえ道行く学生やサラリーマンやOLにちらちらと見られていたのに、千裕が怒り始めたせいで更に注目を集める。
「と、戸田さん落ち着いて! 私別に隼人の事は男としても見てないし、恋愛対象外だから! だから安心して! 」
「もういい! それに気安く男の下の名前を呼ぶとか、ちょっと軽率すぎない? 」
千裕は、そう言うと学校に向かいどんどん先に歩いて行ってしまった。
周りからの視線が痛い。
女の子二人の喧嘩を止められなかった俺に対する嘲笑が聞こえてくる。
まどかは──凄いめんどくさそうな顔して、頭をボリボリ掻いて、俺と目が合うと鬼のような形相で近づいて来た。
「ちょっと!! 戸田さんにちゃんと私達の事話してあるの!? 」
「話してあるんだけど、全然信じないんだよ···。 」
そう伝えながら、学校に向かう為歩きだしたのだが、まどかは下を向き不満そうだ。
「どうして男と女が、同性みたいに···友達として接しても、周りは必ず恋愛に結びつけるんだろう? 性別なんか気にしない世の中になれば良いのに──」
「ずっと思ってるんだけど、他人の評価や意見なんか気にする必要ないんじゃないかな? 自分達が理解して、それで良ければ良いって思うんだ。 」
他人の評価や意見なんか、基本無視すれば良い。
他人は口を出すが、その後のこっちの人生には無責任にも関わらない。立ち位置が違えば見える世界が違う。考えが変わる。何が正しいかなんてはっきり言ってしまえば、この世にはないんだ。
という持論。
「周りの評価や意見を気にする必要ない······か。 私もそう思うけど、人である以上多少は気にしないとって気持ちも無いわけじゃない。 」
「確かにね。 難しい問題だよね。 みんな何かに捉われて生きてる。 トラウマだったり、ルールだったり。 僕達は、まだ、高2だし時間はたくさんあるから二人で考えていこうよ? まどかとは、ずっと一緒に生きるって決めたわけだし。 」
そう言って、まどかの方に僕の人生史上(言ってもたかだかまだ、17年なんだが)最高の笑顔を向けたら、物凄いしかめっ面をして、今には地面に唾でも吐き捨てて悪態ついてきそうな、クレーマーオヤジみたいな雰囲気を醸し出している。
──怖いっ!!!!!!
「あのさぁ、そういうの本当に良いから。 私を好きなのわかったし、ずっと好きでいてくれるってのもわかったけど、あからさまにそういう言動されるのウザいから! 」
そう吐き捨てた後、まどかは、足早に歩いて行ってしまった。
そんな事言われても、恋をすると自分の気持ちをぶつけたくなる。君に対しての恋愛感情は、冷めてないとわかって欲しくて──