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奴隷生活の始まり(後編)

細かい所をつめるのに時間がかかりすぎるってのはやっぱり才能のなさの表れなのかもわからんよとか思いながらようやく書き終わりました。細かい所つめるっていってもちっちゃな設定がだらだら続いちゃってなんか申し訳ないなあ

 奴隷にされる者にはあらゆる理由があるが大別すると人身売買、戦争捕虜、人狩りによる異民族の三つがある。人身売買は古くから農村で行われて居り一定量が確保されているが決して多数ではない。人狩りもよほど奴隷が不足していなければコストに見合わないため行われにくく、そのため戦争捕虜が多かった。戦時下に

 おいては多量の奴隷が発生する。しかし、この時代の皇国は領地を統治するのが困難になるほど広大であったため新規の侵略による捕虜の獲得はほとんどなく、これを受けて奴隷の値段が高騰し、安くない奴隷を早死にさせないためにそれほど酷い扱いは受けていなかった。

 実は全て夢で朝起きると母が朝食を作っていたりするんじゃないかと言う願いが、まさに自分の夢であると冷静に判断できるようになる頃、タリアは豪邸での生活にすっかりなれていた。早朝に起きて、主人たちが起きるより先にアコや他の奴隷とともに朝食を取り、屋敷を掃除して廻る。アコは工房で働いている解放奴隷の家が預かってくれる事になっておりそこに預けた。主人の娘を起こして、着替えを手伝い朝食を取らせてその少女とともに勉強する。昼食は家族はそろわず各自でとって、家にいるものの分は奴隷が用意する。奴隷も個々で昼食を取り、タリアはこの後も少女とともに学問に励む。授業で簡単な算術、文字、歴史や地理学それに加えてマナー教育などを教わっていた。村の学校とは違いタリアが横着な解き方をすると先生は褒めてくれた。算術をしている間は全ての不幸を忘れていられた。村が焼かれたこと、両親に会えないこと、そしてアコのこと、忘れてはならない忘れたい事を。一抹の罪悪感を抱きながらも思考することの快感に溺れいていた。夕方になると主人達の晩餐の準備を行い、片づけをしてからようやくアコを迎えに行き自分達も夕餉を取る。そして就寝する。

 先述の少女の名をルルティアといい、タリアの一つ下の長女である。母親譲りのふわふわしたブロンド、輝く碧眼と母親の趣味によるひらひらした衣服はまさにセレブリティの美少女といった容姿ではある。しかし、せっかくの衣服を雑巾に変えてしまう活発さを兼ね備えており、せっかく雇った家庭教師の授業をサボるのは日常茶飯事であったが皇国では女性に学問が不要であると言う考えが大勢でありエウティケスもまたそのように考えていたので彼女は自由奔放な少女時代を送る事になる。実質的に家庭教師による授業はもっぱらタリアと次男のアウルスに対して行われる事になる。

 アルブスク家は主人と嫁、二男一女の家族であり長男は二十四才ですでに父親の仕事を手伝っていた。次男のアウルスは十六才、私塾に通っており、一族から公務に携わる者を輩出すると言うエウティケスの願いをになっている。

 皇国は公務員を貴族に限定していなかった。激しすぎる領土の拡大に伴って必要となる人材が多すぎ、血縁のみで雇っていたのでは追いつかなかったため、自国民であればいかなる身分の物であれ登用する事を選択してその選別に博識者による推薦と試験を課した。「皇務員登用試験制度・メライトシステミア」である。試験には、実技、筆記試験および口頭試問が科せられ体力、知識そして瞬発的な智慧が要求された。

 アウルスは紛れもなく受験生であったが皇務員試験への推薦はすでに得られていたし、試験に受かるのに十分優秀であるように思われたためそれほどピリピリはしていなかった。あるときアウルスが私塾で出された課題ををしていると奴隷の少女がお茶を持ってきてくれた。以前、家庭教師から奴隷の少女が随分と優秀であると聞かされていたので休憩がてらいくつか問題を出してみようと思った。初等教育しか受けていないと言う話だったので、自然数に限定した安易な整数問題を出してみた。

「7を50回掛け算すると一の位はいくつになると思う?」

彼女は少し考え

「9です」

と答える。なるほどなかなか賢いようだ。あるいは勘で言ったのかと思いどう解いたか聞いてみた。

「7を二度かけると47です。三度目は343。四度目は2401。ここまで計算して一の位には法則があることに気付きました。五度目で7に戻ってくるはずです。だから50を4で割って余り2、二回かけたのと一の位は同じだと思いました。」

アウルスは少し面白く感じて暇つぶしに連続数や負の数などの概念を少女に与えてみた所、目をキラキラさせながら話を聞いている。教わるばかりだったので教えるのは彼にとって新鮮で楽しかった。またそのうち教えてあげようと約束してふたたび机にむかった。タリアは嬉しそうに部屋を出て行った。少女はその夜ワクワクしてなかなか寝付けなかった。

 彼女の才能は数学に限定された物ではなくあらゆる学問をまるでスポンジのように吸収していった。昼間の授業では基本的な事項を習い、夜中の逢瀬は秘匿するようにしていた。逢瀬と言っても言うまでもなく肉体関係ではなく理知的な会合と言った方が正しいが、秘匿することによって何故だか二人とも単に勉強する以上の楽しさを見出していたし、なにやらエロティックな興奮も内包しているように思えるので「逢瀬」と呼んで差し支えないだろう。

 ある時、アウルスは自分の生徒の優秀さをはかってみたくなった。彼女の知能を私塾の教員に評価させるため先日出た物理の課題を少女にも解かせて、それを教師に自分の物として渡してみることにした。おそらく怒られるだろうがそのときに説明すればいいと思っていたが、彼女の書いた論文は教師を飛び越え教授に渡され、私塾ではちょっとした騒ぎが起きてしまった。「落下に関する考察」。モノは重い物ほど早く落ちるし、軽い物ほどゆっくりと落ちる。そう考えるのは未発達の文明においては至極当然のことである。彼女はこれに以下のように反論した。

「重い物Aと軽い物Bを糸で繋いで出来たもっと重い物A+BはAより重いのにBに引っ張られてAよりゆっくり落ちることになってしまうじゃない。そんなのおかしい。」

教授はこの論文に閉口し、受験を控えた十六歳の少年の脳髄に恐れをなした。すぐにあらゆる実験を行って重力と空気抵抗を見出し、のちにこの教授は重力の第一発見者として歴史に名を残す事になる。最も驚いたのは少年だった。あれは自分の書いた物でないと言い出すタイミングを完全に逃してしまっていたのである。なにやら大きな騒ぎになってしまって、誰かの逆鱗に触れはすまいかとヤキモキしていたが別の日に教授に呼ばれて

「あの論文をワシの書いた物にさせてくれれば皇務員登用試験には零点でも受かるだろう」

その言葉の意味する所をすんなり理解した少年は奴隷少女のことを言わなかったのは正解だったかもしれないとおもいながら「よろこんで」と答えて握手を交わした。

 家に帰るなり父親にメライトシステミアに受かったとことの顛末を説明するとエウティケスは狂喜した。しかしアウルスはタリアのことは秘匿しておく事にした。自分の父親に見栄を張りたいのもあったがそれにもましてその少女の価値を秘匿しておきたかったのだ。上機嫌の父親に合格祝いにお願いを一つ聞いてもらっても良いかと尋ねた。

「ああ、何がほしい?何でもやろう。屋敷でも馬車でも奴隷でも。」

「奴隷を下さい。タリア、あの奴隷少女を。」

一転、父親の顔色が曇ってしまった。言いにくい事でもあるかのように、かつ疑いを持った眼でアウルスを見つめて

「やはりあの少女とそういう関係なのか。」

「そういう?」

「夜な夜な会っているそうじゃないか。妹と同じぐらいの少女と寝ているのか。」

全くの誤解を受けてアウルスは思わず声を上げて笑ってしまった。確かにあの秘密の逢瀬は参加していない者から見ればそう見えただろうなと思いながら、父親に夜の健全な授業を説明して聞かせた。

「教えると言うのは、思いのほか勉強になるものです。あの子は優秀ですし見た目も悪くない。ですから官吏になってからの秘書として登用もできると思って居るんです。」

殊勝な事をいう息子の成長に感慨深さを感じながらもそれでもやはり不安は完全にはぬぐいきれなかった。

「いいだろう。あの奴隷はお前に与えるが、それでも男女七歳にして同衾せずだもう二人きりで出会うのは許さん。いいな。」

父親の的外れな不信を内心で笑いながら神妙な面持ちで「ハイ」と頷いてみせた。

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