表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

奴隷生活の始まり(前編)

遅筆過ぎるので前後編に分ける予定はなかった一話分を二つに分けます。つか説明文ばっかで申し訳ねえっす。

 高い買い物をしたな。エウティケス・アルブスクは姉弟を買った事をやや後悔していた。円台に出てきたときには何の興味も湧かなかったが、どこぞの傭兵が付加価値を説明すると回りは異様な興奮に包まれ彼女らの値段が上がっていくのを見て彼は彼女を買わずに入られなくなってしまった。アルブスク家は堅実な事業を元に財を成した資産家である。エウティケスはカルタスで単に財をなした事だけでは満足行かなかった。単なる成金として貧乏貴族や左遷役人たちに嘲笑を受けるのが我慢ならなかった。カルタスで有力者として或いは権力者として誰の嘲笑も受けなくなるためにはいくつかの事が必要であった。

 その一つとして、自分の財力を見せつける事があった。タルカスは奴隷商と農夫たちの作った街であるので、最も高価な奴隷や評判となる奴隷を購入することは有効な誇示であるのだ。しかしエウティケスが買った児童奴隷では購入自体より育成の方に大きな比重が置かれる。如何に高額で児童を買っても愛玩する者は嘲笑と軽蔑を浴びせ掛けられるし教育を受けさせても出来が悪ければ成人後に買い叩かれる事になる。しかし、教育に成功を修めれば、優秀な右手を得られるか悪くても高額で売れる。しかもその家の教育が成功していることを示す事にもなるので言えとしての格が高まるのだ。タリアとアコは農奴二人分の金貨で買われたがこれは破格の高値である。エウティケスは家の評価を上げるために大きな賭けに出たといえる。

 アコの手を引いて石畳の道をついて行く、見知らぬヒトの背中を見ながら。タリアとアコ以外の奴隷達は四人いたが、鎖をされていたので非常にゆっくりだった。タリアは激しい不安を感じたがアコの手を感じておもてに出さないようにしていた。見知らぬ背中が語りかけてきた。

「良かったわね。エウティケス様は厳しいけどちゃんとした人よ。変な事をさせられるような事はないわ。」

涙をこらえるのに必死で声が出ない。はい、とだけ答えた。

「私も奴隷なの。楽じゃないけど決して悪いご主人様じゃない。大丈夫だから安心して。」

あの、とタリアは声を出した。

「ドレイってなんですか?」

 自分の身の上を全て説明されてはじめて、理不尽な暴力で彼女が奪われたのは彼女が両親のものであることであると気がついた。メッテラという名の見知らぬ背中は優しく全てを教えてくれた。タリアが売られた事、そして今後ふたたび売られるであろう商品である事、理不尽な暴力の強大さや広大さ、偉大さ。背中が言いたかったのは要するにあきらめろと言う事だった。

「お母さんがどうなったかわかりませんか?」

「わからないけど、知らない方がいいわ。」

涙が溢れ出た。声も立てずにタリアは泣き始めた。メッテラはタリアが泣いているのに気付いて優しく抱いてくれた。大変だったわね、そう声をかけてくれた。

 タリアはそこを集落だと思った。長く続く壁に囲まれ巨大な門があり、その中に公園があってそれを取巻くようにいくつかの建物がある。忙しく人々が行き来している。

「ここがあなたの仕事場よ。」

「この村が?」

メッテラはなにを言ってるのかわからなくて、聞き返すように首をかしげ

「このお屋敷があなたの仕事場で、あなたの住むところなの。」

そう説明してくれた。少し間を置いてようやくこの長い壁で囲まれて大きな門と広場があるモノが個人の住居であると認識した。大きなお家ですね。そんな言葉しか出てこなかった。気付くとタリアとアコ以外の奴隷達はいなくなってきた。一緒に変われてきた人たちは農業の奴隷なのだそうで別の場所に連れて行かれたのだという話だった。

 アルブスク邸は北側の巨大な門と高い塀に囲まれた四角の巨大な敷地内に中庭を中心にして三つの建物からなる。東側には倉庫と屋敷付きの奴隷達の住居、西側には仕事場があり、奥まった南側の建物が主人一家の住居となる。アルブスクは農業によって財を成した地主がもとである。農奴として奴隷を購入して農繁期には彼らを使役し、農閑期に農奴に建設業をさせることで資産を増やしていった。その後、農奴の貸し出しや販売など事業を拡大しカルタスで地位を確立した新興の資産家である。この邸宅のほかに農地と農奴の宿舎、農具や武器の工房などを所有している。農作物の管理や建設物の工期、資金運用などアルブスク家の頭脳とも言える要所が東館である。

 エウティケスは自分の仕事部屋で奴隷の届け出書類や購入資金のやりくりなどを行っていた。想定よりやや多い出費を補うためにどうするかを考え、購入した奴隷の利用法を相談しているとノックの音がして少女がつれてこられた。アルブスクは奴隷の仲買や貸し出しをしたことはあったが育成と言うのは初めてだったので正直エウティケスは頭を悩ませていた。ボロ布をまとった少女はあかじみてはいたが、外見はそれほど悪くない。美人になれば売春宿にも売れる。養育にかかる費用を考えれば若干はアシが出るだろうが背に腹は変えられんななどと考えていた。

「名前は?」

「タリアと言います。この子はアコ。」

「歳は?」

「八つです。この子は二つ。」

「字は書けるか?」

「はい。」

はい、と言う返事が返ってくると思っていなかったのでエウティケスは驚いた。皇国でも貧困層の識字率は低く、辺境異領の奴隷少女が文字を知っているなどにわかには信じられない事であるためである。近くに寄らせてコップの水を使って字を書かせると、つたない字ではあったが「私はタリア。あなたはどなた?」と書いた。思わずハッとして

「これは失礼した。ワシはエウティケス・アルブスクと言う。今日からお前の主人となるからご主人様と呼んでくれ。」

そう言いながらエウティケスはにやけるのを止められなかった。農奴二人分の金で買った奴隷が既に文字を書ける、これは自分のした賭けに既に買っていることを示していたためである。それと同時にこの利発な少女の価値をより高くしたいと言う欲望が湧いて来るのを感じた。

「ここで私は何をしたらいいのですか?」

そう聞いてくる少女に、そうだなとエウティケスは居住まいを正し

「少々の家事と、我が家の子と一緒に教育を受けてもらおう。」

にやりとして

「その前に風呂に入ってもらわんとな。」

とつまらない冗談を言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ