17 遠い昔に
この世に神様がいたって
僕が信じていたのはいつからだ。
いつまで信じていたんだ。
ベットサイドのライトスタンドの柔らかい光。
穏やかな低い声。
お母さん…、ああ、これは夢だ。
昔の……もう思い出せないくらい昔の夢。
『ひつじさんとウサギさんは仲良く暮らしましたとさ。おしまい。』
パタンと、本を閉じる。
『どう、面白かった?』
『うん。でも、オオカミさんはどう、したの?』
『え、あ、そうね。オオカミさんはこのあとひつじさんとウサギさんにごめんなさいして仲良く暮らしたの。』
『そうなんだ!オオカミさんエラいね。』
『そうね。』
母は困っただろう。
幼い頃の自分とはいえなんと扱いずらい子供なんだろう。
思わずクスクス笑ってしまった。
『もう寝ましょ。ほら、目を瞑って』
『うん。』
母に言われて目を閉じる。
母の暖かさと、お腹をポンポンと叩いてくれる安心感からぎゅっと瞑っていた瞼から少しずつ力が抜ける。
もうすぐ意識も無くなるだろう。
少しして規則正し呼吸音が聞こえてくる。
母は僕が寝たのを確認するとこっそりベットから抜け出し、居間の方へ歩いて行った。
今と少しデザインが違う。
子供用の椅子や遊び道具なんかで極彩色を放つ部屋
今は茶色の壁紙に木の素材で作られたものが沢山置いてある。
昔はこんなだったのか。
丈夫で、危なくないように、考えて作ってある部屋に両親の優しさを感じた。
『あなた……寝ましたよ。』
『ああ、翔太は相変わらずか。』
『ええ、隆くらい寝付きが良いとよいのだけれど……』
『仕方ないだろう。あまり元気な子ではないんだ。隆と違ってな。あいつが元気すぎるのもあるが。』
『そうですね。全く。兄弟なのに似ないものですね。』
笑い合う。
相変わらずここの夫婦は仲が良い。
しかし、僕や兄のことを思って笑っているのだと思うと胸がほっこりと暖かくなった。
そして、どうも両親を困らせているらしい幼い自分を叱咤したくなった。
………。
いや、今も同じか。
僕は兄と違って学校にも行ってない。
はたして今ここで笑い合っている夫婦は、僕の父と母はいつか僕が不登校気味のヒーローを憎んでいるヘンな子供になることをどう思うだろうか。
……。
やっぱり、嫌だと思うだろうか。
『しかし…男の子二人か。賑やかになるな。』
『私としては女の子も欲しかったですけど、生まれてきてくれただけでよかったです。』
『そうだな………。』
子供達の眠りを邪魔しないためか、音の抑えられたテレビで今日のニュースが流れている。
『そういえば、お向かいの神影さんとこの喜美ちゃん。やっと子供が出来たんですって。』
『そうか。ずっと不妊治療してたみたいだから。お祝いでも贈るか。』
『ええ。………でも、そうね。子供が欲しくても出来ない人たちもいるんですものね。』
『そうだな……。』
泡の消えたビールを傾ける。
コップが空になったのを見計らい、母は近くのビールの缶から残りを注いだ。
『奇跡……なのよね。あの子達が私達の元に来たのは。』
『ああ、感謝しなきゃな。』
『ええ、でも、誰に?』
『神様……かな。それに、お前にも。』
神と聞いてピクリと反応してしまう。
あの現実主義で、昔一緒に行ったお化け屋敷を鼻で笑った父が神に感謝などしたことがあるのだ。
『神様にね…。そうですね。私達がここに入れるのも、幸せに子育てできるのも、神様と、ヒーローのお陰かしら。』
『ヒーロー?……たしかに。そうかもな。』
訝しげに眉をひそめた父は母の眺めていたテレビにヒーローが格好良く映っているのを見て肯定した。
その日もあった戦いを女性キャスターがにこやかに説明している。
『いつか、ヒーローみたいに。なって欲しいわね。』
『それは、無理だろ。』
『いいえ、分からないわよ。だって二人でヒーローごっことかしてるのよ。隆なんか、もう小学生なのに』
ふふっと、思い出したように笑う母。
それにつられて父も少し口元を緩ませた。
『嫌ね。なんだかヘンな話になっちゃったわ。幸せボケかしら。』
『そうかもね。でもまあ、もう少し幸せに酔っててもいいんじゃ無いかな。』
『あら、幸せに酔えるなら、もうお酒はいらないかしら。』
『……それはまた別の話で…。』
困ったように笑う父。
イタズラするように楽しげに笑う母。
こんな母も父も見たことがない。
いつだって父は無口で、母は静かだ。
こんなにフランクな笑顔、なかなか見れないに違いない。
いつか、ヒーローみたいに。
母はそう言った。
でも、
願いは叶えてあげられそうにないや。
笑う二人をそっと眺める。
向こうからは見えてないみたいだ。
当たり前だ夢なんだから。
「ごめんなさい……母さん。父さん。僕は……」
僕はヒーローにはなれない。
***
こんにちは。まりりあです。
じつは、私は毎日投稿できるよう、書きためているわけですが、休日は一日三本とか書くのでだいぶたまってしまって出すのが書き上がってから六日後、ほぼ一週間空くわけです。と言うわけで、もしこれを読んだ方がいらっしゃれば、これは六日前に書かれたのだと思ってください。
それではまたの機会に。




