16 神を欺いて
この世に神はいるんです。
気づかないだけで。
「叶えて、神様。僕の願いは………」
一呼吸
「今は、やっぱり無いかな。」
「ええ?思わせぶりな態度からのまさかの無い?」
「うん。」
「あ、そうなの。分かったよ。待つ。」
「うん。そうしてくれると助かるよ。僕も願いが完全に無いって訳じゃなくて、ほら、何て言ったら良いか分からないんだけど、今見せて貰った景色を見たら、これでいいのかなって、僕が嫌だと思っているものはみんなにとっては大切なヒーローなのかなって。」
笑ってみせる。
大丈夫。
僕は出来ている。
これが彼に通用しているかははっきり言って分からない。
でも、
「そうか。そうだね。よく考えるといいよ。奇跡で願いを叶えられるのは一度きり。大切にね。」
「うん。」
僕等を囲い込むようにビルの外面が出来上がってくる。
その隙間からビルの中に入っていた棚や机、椅子なんかが僕等を避けて入ってくる。
「危ないね。森に帰ろっか。」
「うん。」
それから暫く森でたわいのない話をした。
頭を使うのは、もう今日は嫌になっていた。
やれ、どこかのアイスが美味しいだの、森のどこかに狐の巣穴があるだの。
本当にどうしょうもない、何の生産性もない会話だった。
それでも心地好かった。
出会ったばかりの頃。
あの互いの名前を決めたころ。
話題なんてもっぱらそんなものだった。
たった二週間くらい前の話
それでも僕にとっては久しぶりに感じられた。
きっと毎日が新鮮だったからだ。
「じゃあ、僕帰るね。また来るよ。」
「うん。じぁあね~。」
いつも通り木の上から手を振る少年。
あっ、となにかに気付いたように僕を呼び止めた。
「ショウタ!悩んでるようなら参考にして!僕が叶えてきた人々の中で唯一君と同じようにヒーローを憎んでいた人がいたんだ。そいつはヒーローを殺すことを願ったんだよ。」
「え、でも。今いるじゃないか。」
「そう。前のヒーローはそれで死んだ。でも、また次のヒーローが出来たわけだ。もし君が同じようにしたいなら、考えてみて。」
「うん。ちょっと考えてみる。」
もう一度手を振ると、振り替えしてくれる。
考えてみる…
考えてみるか。
「何て馬鹿なんだろうなその人。僕の願いはちょっと違うけど、まあ、いいか。」
傾いた夕日が少年の長い髪を照らした。
珍しく森でなく小さな村の寂れた建物の前に立っていた。
無駄に装飾のついた扉を引く。
やってるのかやっていないのか分からないような店内。
暗い照明の下には二人の男。
「やあ、相変わらずもう飲んでるの?」
「ああ?おお、坊主!」
「坊主じゃなくてテツ!もう、おじさん酔っ払いすぎ!三杯は酒人を飲むだよ!」
「うるせぇな~。お前も飲むか?」
「遠慮しとくよ。この通り、見た目は子供だもん。」
「あ?俺がお前くらいの時は飲んでたぞ。」
「おじさん。それ法律違反だよ。犯罪だよ。」
呆れたようにため息をつくと少年はおじさんの向かいに座る。
「で、今度は何でこんなに飲んだの。」
「かかあが、俺にばっかり文句言ってきやがる。」
「相変わらず。君のとこの奥さんは怖いねぇ、」
「っとによ~。」
「でも、好きだから結婚したんだろ。」
「そりゃあ、まあ、昔は可愛げあったからなぁ。」
なにかを思い出したようにふぅっと笑うと、酒のびんを傾ける。
中の氷がカランッと軽い音をたてた。
そこからは、
さて、どんな話をしたのやら。
酔ったおじさんと何千年ものときを生きる少年。
惚れ話も、愚痴も、下世話な話も二人と店長のみの店の中では、何でも吐き出せた。
「おじさん。おじさん起きて。もうすぐ日が昇るよ。」
「う……ああ……」
「ほら、起きて、奥さんに心配される」
ゆさゆさと揺さぶると眠そうなくぐもった声が聞こえた。
「そう……かや、かかあは俺程度のことも心配するんかや。」
はぁ、とため息をつくと困ったように少年は笑った。
その顔は幼いこどもをあやすようで、見た目子供の彼が見せるとあべこべでちぐはぐで何かクスリと笑ってしまうような愉快さがあった。
「そうだよ。こっちしか想って無いって思ってもじつは想いは双方向だったりするんだよ。子供さんだっているんだろう。こんなところでこんなことしてる場合じゃないんじゃない?」
「……そうだな。」
おじさんも落ち着いたように笑うと再び机に突っ伏する。
少年はそれを見計らい店の白い扉に向かって歩き出す。
ガチャッと扉を開けると一歩踏み出した。
登りはじめた太陽が赤いひかりを山の端からのぞかしていた。
「じゃあね~」
「ちょっと待て、」
呼び止められて少年は振り返る。
「そんななりでよく話せるな。」
「え、なに?喧嘩?」
「そうじゃねえ、子供なのに話し合わせられるなって」
「あ、そういうこと。」
山の端に掛かっていた太陽がその本体を見せる。
少年の端正な顔を斜めからてらした。
「ボクは君が思っているほど子供じゃないってことさ。結婚だってしたことあるんだ。それより、約束忘れないでね。君の願いは叶え続けるから。楽しんで!」
「それこそ犯罪だろ………。」
出て行った少年に向けて回答者も聞くものもいない言葉を吐く。
頭に鈍い痛みが走って机に突っ伏した。
コトッと耳元で音がしてうっすらと横を見る。
水の入ったグラス。
そしてそれを運んできた店主
「……相変わらず、あんたらは……」
「良いカモだろ。」
「図々しいカモだな。一晩中居やがってここは旅館はやってないんだよ。」
「ははっ…、いたたた。まあ、あいつとのつながりもあと少しだ…。」
「へぇ、なんかあるのかい。」
「いや……、」
男は口を閉じると水を啜った。
冷たい液体がのどをおちていく。
「そういやあ、うちの娘がそろそろ専門学校も卒業するんだが、おまんとこのあんちゃんとお見合いさせねえか。」
「あー?おまんとこの娘は可愛いし器量良いが、あんたが親戚になるなんて嫌だな。」
「え~。たのむよぅ、さっちゃん」
二人はどちらともなく笑った。
***
はい。まりりあです。
おっちゃん!おっちゃんが書きたかったんです。それだけなんです。
では、誤字脱字ありましたらお知らせください。
次の機会に




