長い長い夜編 美しい森って素晴らしいよ
湖は不思議と淡い群青色の光を放っている。。
ぼんやりと光る湖の真ん中に小さな島があって、その島は星々の光に照らされてと淡く光り空気中の何かがキラキラ光っていた。
ーーーーーー ニケ ーーーーーー
二つの頂にある山の中腹、そこはぽっかりと木が生えていない草原がある。
そこは本当に満点の星が眺められる。
星々の大きな生命力がこの森へと降り注いでいる様に見えて、私は寝床にしている草原の真ん中の大岩の上でよくビアと一緒に星を見ていた。
そして今日もビアと一緒に美しい星空を眺める。
今日は新月、信じられない程の数の星々に包まれて私は幸せを感じていた。
時間を忘れて私は星々の中に私の意識を飛ばしている。
しばらくするとスッと隣にエックがやって来た。
「ニケ、こんな所にずっといたらパコロカムイ(疱瘡の神)が来るぞ。。」
「エック、、すまない、あまり今日の星が綺麗で幻想的で目が離せなかったのだ」
エックも私と同じ様に空を見上げた。
「すごいな、、今日の空は特に綺麗だな、美しい空だ」
「なぜだろう、、今日の空はよく輝き瞬くんだ」
「ニケ、我の生まれたアイヌの里には星々が瞬きを増す時、天が世界を覗いていると言う言い伝えがある」
「そうなのか、なぜ天は我らを覗くのだろうか」
「我の村のオッテナ(族長)は言っていた、天は世界の変わり目を見ているのだと」
「ふーーーーん、なんの事か分からないね」
「うむ、そうだな」
「でも分かった事は、神様がこの地球を見てるからこんなに今日の星は綺麗なんだね」
「ああ、そうだな」
「エック、神様が覗いているなら今願い事を願うと叶うかもね」
ニコッと私はエックに笑った。
「ははは」っとなかなか笑わないエックが笑った。
「ああ、そう考えるのも面白いなずっと不穏な物なとばかり考えていた」
「エック、そんな後ろ向きに考えても仕方ない、祈ってみよう。」
「そうだな、、」
。。。
私たちは願った。
満点の星にいつもよりも煌めく神秘的な星空に。
《この美しい世界が平和に悠久に続きますように。。》
。。。
「エック」
「ん?」
「エックは何を祈った?」
「言う必要はないだろう、願い事とは神にのみ伝えるものだ」
「そういう物なのか?」
「うむ」
「そうか、まぁいい!」
私はニコッと笑ってヒョイっと大岩から飛び降りた。
ッザ!
エックも大岩から降りてくる。
そして私達はビアとネロと一緒に大岩を積んだ棲家の中で眠りについた。
ーーーーーー丑三つ時ーーーーーー
。。。。
トタトタトタトタ。
ん?
トタトタトタトタ。。
足音がする。。
トタトタトタトタ。。
誰だ?
私は奇怪しな足音で目を覚ました。
誰だい?
こんな丑三つ時に。
体を起こし周りを見渡す。
サーーーーーーー。。。
リリリリリリ。。
誰もいない。
聞こえて来るのは優しく木々を撫でる風の音と。
虫たちの鳴き声。
夢の中で足音を聞いたのか?と私は足音を疑った。
ビアが枕元にいて、隣でエックとネロが寝てる。
怪しい者は何もいない。
穴の外へと目を向ける。
穴の外側で星々がキラキラと光っているのが見えた。
星々は眺めていた時と同じように大きく煌めいてる。
またしても星々の輝きは私の目を奪った。
本当に今宵の星は美しい。。
。。。
フフフフ。
!!!
今、女の笑い声が聞こえた。。?
「だれだ。。?」
急に警戒心が高まる、心臓がドクンと大きく胸の中で打った。
私は藁を敷いただけの寝床から音を立てないように立ち上がり、立て掛けていた槍を掴んで大岩を積んだ棲家から出て行く。
棲家を出るとそこは星空に照らされた草原と木々の壮大な景色。
瞬く星々の明かりは強く森の全てを見渡す事ができた。
静かだ。。
今日は何か、、、森に違和感がある。
黒が濃い。。
全て見渡せるのに影が濃い、黒が強いと言うべきなのか、星々もくっきり見えている、そんな気がした。
こんな事、あるか?
いつもと森の気配が違う。
フフフフ。。
!!
また笑い声が。。
バッ!
私は後ろを振り向く。
輝く星々を背後に影の様に浮かび上がる女がいる。
女は積み上げられた大岩の上で寝る前の私がしていたように夜空を見ていた。
影の女の髪をヒューっと風が通り抜けフワリとなびかせる。
「だ。。」
ヒュ!!
誰だと私が叫ぼうとした途端、影の女は大岩の裏へと飛び降りた。
「待て!!」
私は大岩へと飛び乗る。
周りを見渡しても影の女はいない。
ガサガサ!
姿は見えないけど女が木々をかき分けていく音が聞こえる。
妖の類ではない、足音があると言うことは実態があるということだ!
ならば怖くなどない!!
私も大岩の裏へと飛び降り影の女の逃げる音のする方へ駆け出した!
ザザザザ!
この森は私の庭の様なもの、ただの女に追いつけない訳がない!
全力疾走で木々の間を抜けて風を切る様に追い駆ける。
ザザザザザザザザザ!
なんで?
奇怪しい。。
あの女になかなか追いつけない。
私は毎日この森にいる脚力には自信があるし地の理もある!
なのに追いつけない、そんなはずない!
それにチラリチラリと見える影の様な真っ黒な女、周りの木々には緑や蒼の色があるのに、あの女には色がない、ずっと真っ黒。。
私の目が色を失ったわけじゃない。
全てを飲み込みそうな漆黒の女。
衣服は薄い何かを着ている様に見える、でも。
服と肌の境目も分からない。。
本当にまるで影のようだ。
あいつは誰?あいつは何?
ガサガサガサ!!
え??
突然私の横で草木の音が現れた!!
何!!??
何が私の横を走ってる!!
ッバサ!!
白い物が飛び出してきた!!
「ニケ!!」
飛び出してきたのは白狼のビアだった。
「ビア!」
少し驚いたけど私は足は止めずに走り続ける。
「変んな女がるんだ!!」
「ああ。何か森がおかしいね。森の精霊たちも騒いでるよ」
「そうね。それに何か、今日の森は黒が濃いの。。」
フフフフ。。
声が聞こえる。
今の一瞬で私達は影の女を見失った。。
森の中にフフフフっと影の女の笑い声が響きこだまする。
辺りを見回しても何もいない。
それにしーーーんっと森の中だとは思えないくらい静か。。
「生き物全てが息を殺して隠れてるようだね」
「そうね、でも、逆に何かいるという事」
私達は緊迫感の中で臨戦体制を整える。
「こっちだよーー」
突然緊張感も何もない楽しそうな声が聞こえた。
私達は声のする方を見た。
すると見つけた。
苔の付いた大木の裏に影の女がいる、こっそりと顔を覗かせてこっちを見ている。
「見つけたよ!あの女かい???」
「そうあの女!でも何か様子が奇怪しい。気をつけないと。。」
「大丈夫だよ!あたしが人間の足に負ける訳が無いじゃないか!すぐに噛み付いて引き倒してやるさ!!!」
一気に駆け出すビア!
駆け出す直前に私はビアの背に飛び乗った!
女も背を向け逃げ始めた!
「待ちな!!逃さないよ!!」
速い!!!
まるで森を吹き抜けていく風の様に走るビア。
なのに距離が詰まらない。
「なんだいあいつは??」
「あの女、奇怪しいんだ。。」
「本当に奇怪しいね、そんなに速く走っている様には見えないのに。。ニケあいつ、あんたより速いんじゃないかい?」
「そうかもしれない、さっき私は追いつくこたができなかった」
「そうかい!じゃあスピードを上げるよ!振り落とされるんじゃないよ!!」
ッダ!!!ッダ!!!
ビュン!!!
「っく!!!」
速い!!
こんな本気のビアはなかなかない、狩りの時ももっと走りに余裕があるのに。
木々の間を掠めるほどギリギリを駆け抜けていく。
周りの景色が速すぎて景色が溶ける。
まるで本当に風になったみたい。
ッダ!!ッダ!!ッダ!!
超高速で駆け抜けるビア。
。。。
なのにあの女には追いつかない。。
木々の間からチラリチラリと黒い影の女は見える。
その女を追いかけてビアは疾風のように走ってる!
でも。なのに。。近づけない。。
あの影の女、そんなに必死に走ってる素振りも無いのに。。。
「なんで??」
「ニケあいつはなんだい!!??こんな事始めてだよ!!!」
「あいつ奇怪しいんだよ。色も無い」
「確かに奇怪しいね!あの女真っ黒だよ!」
「それにビア、あの女が向かってる方向って。。」
「ああ。《神成りの島》に向かってる。」
「なんでだろうね?」
「私にも分からない。でもあいつは捕まえないといけない!絶対に良いものじゃない!」
「そうだね!捕まえないといけないね!!」
さらにビアが全力で追いかけていく!
ッザシュ!ッザシュ!ッザシュ!!!
なのにいつまで経っても追いつけない!
ッバ!!っと走っていた私達の目の前が一気に開けた!
私達は結局あの影の女に追いつく事が出来きなくって。
《神成りの島》がある泉の広場に出た。
しまった!と思ったのも束の間、私達はその神々しい湖を見て息を飲んだ。
湖は不思議と淡い青色の光を放っている。。
ぼんやりと光る湖の真ん中に小さな島があって、その島は星々の光に照らされてと淡く光って、空気中の何かがその光を受けてキラキラ光っていた。
私達は夜に来る事は禁止されてる《神成りの島》の広場に来てしまった。
こんなに神々しかったなんて。
初めて来た夜の《神成りの島》、すごい、ずっと守ってきたこの島がこんなに美しい場所だなんて。
驚きの後に禁忌とされている夜の《神成りの島》に来てしまった罪悪感が驚きの後に押し寄せてきた。
「ビア、どうしよう」
「うぬ、ここにいるのは良くないね。。」
「あの黒い女はどこに。。あれも良くない物なのに」
「そうだね、もしにもあの神成りの島に、何かを上げる訳には絶対行かないよ」
フフフ。。
「あ」
《神成りの島》の泉の手前で真っ黒な女は立っていた。
今の今まであそこにあの女はいなかったはず、なのに、湖の前で黒い影の女はそこにいた、まるでずっといたかの様に堂々とそこに立って笑っていた。
このぼんやり明るい空間なのにもかかわらず女は真っ黒のままだった。
「本当に奇怪しなやつだね」
ビアが女に向けてグルルルルと威嚇し牙を剥く。
私も槍を構えた。
いつでも攻撃にかかれると思ったその時、バイバイと手を振り黒い影の女は私とビアに背を向け歩き始めた。
チャプ。。
片足が湖に触れる!
「待て!!そっちには行かさん!!ワオォォォォォオオオォォーーーーーーーーン!!!!」
遠吠えで威嚇するビア。
普通の人間なら驚いてこちらへ振り向く。
なのに、構わず真っ黒な女は島に向かって歩く。
しかも女は水の上を歩いてる。
足が水の中に沈まない。
まるで薄い水たまりの上を歩いているかの様に足の着いたところから波紋が広がっていく。
「なんだあの女は!」
「ビア!あの女を神成りの島に上げたらダメだ!」
「わかってるよ!!」
黒い影の女に向かって行くビア!
「飛び込むよ!!」
泉の端から思いっきり女に向かって飛び出す!
私も空中で槍を大きく振りかぶった!
黒い影の女に一直線!
「そこを動くなぁ!!」
私の声に反応して女は立ち止まった。
いける!!!
スッと影の女がこっちへ振り返った!
そして黒い影の女はニコッと笑い私達に向かってまたバイバイっと手を振ると私達の目の前でパッと消えた。
「なに!」
ジャブン!
私達はあの女の様に水の上を歩けるなんて事は無く泉の中に飛び込んでしまった。
水の中に沈む私達。
慌てて水面へ向けて泳ぐ。。
スイスイ。。。
ブクブクブク。。。。
私達は泉のすごい深くまで飛び込んでしまったみたいだ。
なかなか水面に出れない。。
スイスイ。。。
なぜだ?
いつまで泳いでも水面にたどり着かない!
奇怪しい!
息がもたない。。
苦しい。。
ガボ!!!
ビアが息を吹き出した音がした。
ビア。。!
息が限界なのね!
「ビア」
私は目を開けてビアに泳ぎ寄って行く。
やっぱりビアは口から泡を噴き出していた。
すぐ側にいたビアを抱きしめると、何でこんなに水面が遠いんだ?という疑問から辺りを見回した。
周りに目を向けた瞬間私は今目に入ってきた景色を疑った。
私達はいつも見上げている星空の中に浮いていた。
なぜ??
ここはどこ??
辺りを見回しても見た事のない水の中。
なのに星空がある。。
なんて綺麗な世界なの。。
上も下も右も左も前も後ろも全て、星空。。
赤や青の星の集まった様な雲とか大きなほうき星まで。。
私達はその世界のど真ん中で浮いてる。
凄い。。
なんて綺麗な世界。。
目を奪われる。。
ハァハァハァ。。
ビアが荒い息遣いをしてる。
息。。
出来るの???
スーーーハーーー。。
私も息を吸い込んでみる。
息。。できる。。。。
よかった。
でもどうしたら。。
ここから神代山へ帰らないと。。
「ニケ。ここはどこなんだ?」
「分からない。不思議な世界。」
話す事もできる。。
「帰らないと。。」
あたりを見渡すと。
目の前に一番大きな黒い星が。。
時々星の表面がポッポッと青く光る。
「なんなのだあの星は?」
「不思議な星。。」
するとその黒い星の周りがスーっと白く光り始めた。。
そして太陽が裏側から顔を出して来る。
この世界に何度も思わされる。。
綺麗な世界。。。
ビアも目を奪われてる。。
「きっとあの星に行けば帰れる気がする。。」
「そうだね!行くしかないね!!」
ビアが泳ぎ始める。
私もビアの横を泳いで行く。
近づくにつれて黒かった星は碧く色を変える。
少し波打った様に見える星。
不思議な星。。
もう目の前にその不思議な星が迫ってる!
「ビア!」
「飛び込むよ!」
バッシャン!!!
私とビアは星の中に飛び込んだ。。
飛び込んだ途端私達は水圧を感じて海の上に出た。
海から上がった浜辺は、いや世界は、私達が全く見たことの無い奇怪しな世界だった。




