いざ、ダンジョンへ
ガンドュラーナの訴えは誰にも届かず、何度か魔方陣から出ようと試みたが、その度に骨身に突き刺さる程の強力な電撃を味わい最後には力なくうずくまっていた
「どうしたの、ガンドュラーナ」
以前はガンドゥラーナの出入り口として使われていたものの、今は空を見上げる為だけにある大き穴からパタパタと羽根をたばたかせて舞入った一羽の青い小鳥
囀るその声は、『森の妖精』の別名を持つ青い翼の小鳥でガンドュラーナの友達
「マイナリアちゃん!」
無数の傷がついたガンドュラーナを見て驚き、飛んで近寄ろうとするが
「来ちゃダメ!」
マイナリアを驚かさない程度の声量で引き止める
「魔方陣があるから、マイナリアちゃんが焼けちゃう」
ガンドュラーナならば耐えられる電撃でも、小鳥ではひとたまりもなく、炭すら残らず砂塵になるだろう
「なんで魔方陣なんか!ガンドュラーナ何があったの?!」
生きている年数こそ短いものの既に大人のマイナリアと、体長8メートルではあるが実はまだ子供の白龍ガンドュラーナ
お姉さん的存在のマイナリアに聞かれて、泣きながら昨夜の説明を始めた
しばらくして、話の全容を把握したマイナリアが憤慨して尾を高く上げてぷりぷりしている
「まったく勇者め!!私の可愛いガンドュラーナは人を襲ったりなんかしないわ、食べ物だって森の果実が大好きなのに」
ぷりぷり憤慨小鳥と大泣き白龍が洞窟で喚いているところに
「あのぉ、お取り込み中すみません」
昨夜のコボルトが血生臭い臭いを漂わせて立っている
「昨日のお詫びにと思ってこれをお持ちしました」
三角牛の肉を誇らしげに差し出すと、魔方陣に囚われたガンドュラーナに
「え、何かあったんですか?」
と状況がわからずに聞いたのが2匹の堪忍袋の尾をぶった切った
「あんたのせいで私の可愛いガンドュラーナがこんな目に合ってるんでしょ!!」
初見のマイナリアが眼前で羽ばたきながらコバルトの全身をつついてくる
必死に逃げ惑いながらも肉の入ったカゴは落とさないように大切に抱え込んでいる
その大事そうに抱えられている肉を見て
「また牧場から盗んだんですか!!」
大泣きのガンドュラーナが懲りないコボルトに咆哮を浴びせる
「違いますよ、ちゃんと買ったんです。人間にバレないようにフードまで被って」
怒りのマイナリアから身を捻り逃げるコボルト、追うマイナリア、泣きながら叫ぶガンドュラーナ………
そんな懐かしい昔の思い出に浸る
思えばあれからの十数年
相変わらずのこの魔方陣と、友達のマイナリア
一年で成鳥になるとは言え、身体の成長はむしろその後の方が進む
青く綺麗な翼を持つ小鳥のマイナリアは、この月日で小鳥から中型の大きさへと成長している
翼と尾が伸び、グラデーションをつけた羽先が黄金色に輝いている
頭に二本生えた白い大羽は、尾よりも長い
そして助けてもらった恩をこの長い月日の『食事』として返してくれるコボルト
草食だと知ってからは森から毎日食料を確保して持ってきてくれている彼は、巣穴の階下には知らず知らずにダンジョンが作られてしまったので、崖を毎日よじ登るのが日課になっているおかげか、体格が少し逞しくなった
そう、地図に記された獣道こそ、このコボルトの足跡であり毎日の日課の道のりである
「まあ、こんなもんだろう」
地図に新しい道が出るのは『道案内』スキル発動中というこで、一晩ザラドさんのお宅にお世話になり、オレはダンジョンへ一緒に行くための装備街の防具屋で選んでもらっている
はっきり言って現金がないオレに、道案内代として無償でプレゼントしてくれたのが冒険者こと『ラス』さん
防具と盾は一般的な初心者向けな物を選択
それから身を守るための剣、これに関してはザラドさんが作った物を安く提供してくれた
「ナリアソードだ、水の魔力が込められてるからレベルを上げてやると他にも色々と水の恩恵が受けられるぞ」
そう言って手渡された重さを感じない剣は、掴もうとすると細かな水滴になって消えてしまう
「必要な時には出てきてくれるさ、お前の事が気に入ったらしいからな」
ガハハと笑うザラドさんをよそに、その言葉の意味がよくわからないオレの横で、仕事をサボってクロに防具を選ぶのは、前髪ぱっつんに少女ことクルル
今日はポニーテールに結ばれた赤髪をフリフリ揺らして何やら不穏な空気が漂う
「ふっふっふー、カンペキだねクロちゃん」
男3人が覗き込んで絶句
黒い帽子に黒いマント、そして杖を持つクロ
(なんで魔導師装備、いやそもそもクロに装備がいるのか?)
もう突っ込むのも諦め
「………で、では行きますか」
苦笑のラスさんの掛け声で、見送るクルルとザラドさんに手を振りいざダンジョンへと歩みを進めた
「はぁぁー、新しいお友達できないかなぁ」
そんな白龍ガンドュラーナがワクワクしながら待っているとも知らずに