白龍『ガンドュラーナ』
時を同じくして、ダンジョン最上階
人が来なくなって何年経ったのか
最下層のモンスターを倒してある程度レベルを上げたら、満足してさっさと帰る者達を何千人見送った事か
声はすれども最上階までは姿を現さない人間達の
「そろそろ帰るか、腹減ったなぁ」
なんて自由発言に飽き飽きしているのが
白龍『ガンドュラーナ』
岩でできた洞窟の最上階に位置するそこは、出入り口を自ら掘り、寝ている場所から夜風を感じ、空を見ながら眠る快適な生活していた……筈なのに
体長8メートルの身を隠せるほど大きな翼をもち、空を飛ぶのが大好きなガンドュラーナの周りにある魔法陣のせいで外に出る事を許されず、もう大好きな空中散歩を楽しむことができなくなっていた
十数年前、いつものように空の散歩を楽しんでいると、眼下に一匹の獣が走るのが見えた
広い農場を全速力で駆け、森へと向かっている
(走るの好きなんだなぁ)
ガンドュラーナは翼を軽く羽ばたかせると、別の走る何かを見つける
どうやら人間らしい、しかも数十人が農機を武器のように持ち上げて叫んでいる
目で追うと、さっきの獣…コボルトを追いかけているようだ
(一匹のコボルトさんに大人数で追いかけるなんて卑怯だよ!)
メキメキ上昇した正義感
ズゴーンと足跡を地に食い込ませ、コボルトと人間の間に降り立った
驚いたのは人間だけではなく、コボルトも同様である
敵が増えただけにしか見えない!!
そーっと森の方に足を進めようとした時
「コボルトさんが可愛そう、許してあげて!!」
ガンドュラーナのコボルトを庇う声が農場に轟く
「な、何を言っている!そこをどどどどいてくれ!!」
一定の距離を保ち先頭に立つ農夫が震えを隠せないながらも言い返す
庇われたコボルトも何故か分からず、轟いた声に足がすくんで逃げることもできなくなっている
「いーやーだー!!!!」
恐らくそう言ったんだろうが、農夫達には龍が咆哮を上げたようにしか聞こえず、我先にと元来た道を逸走して行った
腰を抜かしたコボルトだけはその場を動けず、何故みんな逃げたのか不思議がるガンドュラーナの独り言だけが牧場の草音と合わされている
「あ、あ、ありがとうございます」
お礼は言ったがまだ足は立たない
「大丈夫ですか?ここに居たら危ないですから私のお家に行きましょう」
背中に乗せられて有無を言わさず飛び立つ白龍に
(一番危ないのはあなたですよーーー!!)
とは言えず、振り落とされないようにただただしがみついていた
しばらく自分の巣穴をで過ごさせ、そろそろ大丈夫だろうと 何度も頭を下げてお礼を言い、住居に帰るコボルトにくれぐれも気をつけるようにと別れ、眠りに就いたのに突然走る電撃で目を覚ました
光る魔法陣の中央で、息を荒げるガンドュラーナに勇者だと言う男とその仲間が言う
「農場の家畜を襲うコボルトを操っていたのはお前だな、家畜だけでなく人間を襲う悪龍はこの場から二度と出られないようにしてやった、そのままゆっくり朽ちていくがいい」
身に覚えのない事にガンドュラーナは疑義を唱える
「確かにコボルトさんは助けたけど、操ったり家畜を襲わせたりなんてしてないヨゥ!」
しかし勇者集団は既に踵を返して去って行った
その背中に悲痛にガンドュラーナが叫ぶ
「だってだって…わたし草食龍だもんーー!」