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スキル 道案内

「たのもぉー!」



 テコテコ遠慮もなく入ってきた体長50センチの黒いもふもふに、何が起きたのかと目を顔を体を向け、空気を揺らしていた男達の会話の声が次第に収まっていく



「あの、ギルドに入りたいんですが」



 もふもふの後にドアからそろりと15歳の黒ずくめ少年、そうオレ斎藤佑哉さいとうゆうやが中に入ると、中央に唯一ある大きな丸テーブルに集まっている男達がクロに釘付けになっている間を縫って、ひとりの少女がニョキリと前に歩みでた



「はいはーい、いらっしゃい、ご希望は?」



 印象的な赤毛に加え、眉の上でオンザに切られた前髪の彼女は、うねうねした軽い天然パーマの後ろ毛をツインテールで結び、耳下で毛先が揺れている


 長袖グレーの膝丈ワンピースの上に白いエプロンをし、身長150センチの小さめ少女が (かが)んで、更に小さな もふもふこと、両手を腰に置き胸をツンと上に向けた クロ を指でツンツンとつついている



「いいえ特にはなくて、オレに何ができるかもわからないので」



 ………フリータースキル『道案内』を習得しました………


 さっき聞こえた声が思い出される


 特に何もしていないのに習得されたスキル、しかし何ができるのかステータスを見ても《道案内ができます》って


(だろうね、読んで字のごとくだね)


 それより目を引いたのは職業〔フリーター〕のとなりに(魔王 または 覇王になるまでの繋ぎ)なんて失礼な文言もんごんが付け加えられていた


(繋ぎって何だよ、結構真面目にフリーターやるよオレは!!)



「おいボウズ、そいつはお前の使い魔か?」


 口火(くちび)を切ってなんだがデジャブな質問をしたのは男達の中でも中堅(ちゅうけん)と思われる人物で、すらっとしてはいるが、綿のシャツが腕の筋肉に合わせて盛り上がっていることから、良い筋肉の持ち主だと思われ、短く刈り上げられた銀髪がツンツン立っている



「そうですね、なんなようなものです」



 曖昧(あいまい)に返事をしてギルドの話に戻した


 クロの周りには興味半分、モフモフしたい半分の人だかりができている


 ツンツンヘアの男性は鍛治職人らしく、彼の武器目当てにこの街に立ち寄る冒険者も少なくないと耳打ちし、何か必要な武器があるなら頼ると良いよとにっこり白い歯を見せるさっきの前髪オンザ少女は『クルル』と名乗り、鍛治職人の『ザラド』さんを紹介してくれた



「それにしてもそんな細い体で武器を持てるのか?」



 転生してから数時間、なんのトレーニングも筋トレもすることなく、むしろ歩くことすらほぼしていないので、筋肉も何もないままの細い体でどんな職があるのだろう



「冒険者とかどうだ?人手不足で最近は魔物退治の依頼も増えてるし、肉持ち帰ればそれなりの収入も入るだろうからよ」



 クロを撫でてホクホク顔の白髪交じりの小太りおじさんがオススメしてくれた



「人手不足?冒険者は人気のない職業なんですか」



 いやいやと群れた男達の中からいくつかの手が違うと言うように横にフラフラ振られている



「隣国で魔物が頻繁(ひんぱん)に出没するようになって、退治しようとして逆に巻き込まれる冒険者が増えちまってなぁ、城から何人か視察に行って今日戻ったらしいが、おそらくあまり良い報告はしとらんだろうな」



 クロから離れてひとりが説明してくれた



「んだんだ、噂では何個か村がひでぇ被害を受けたらしいべ」



 やたらなまった男が言うと



「この国も近いうちに襲われるかも知らん」



 と別の男も話し出し、クロの周辺で井戸端会議の主婦のような会話が始まる


 城からの視察……恐らくナサエルさんたちの事かと考えているといきなり


 バターンと勢いよく開かれたドアのガラスが割れそうに揺れる



「ザラドさんここに居ましたか、ちょっと剣の刃先が欠けてしまって見てくださいよ」



 冒険者らしき男の突然の開閉音に抗議するようにクロがシャーシャー何か言ってるが、まぁまぁとなだめるいくつかの手ですぐに喉をゴロゴロ鳴らし始めた


(喉ならして目細めて、天使の面影なんてないなぁ)



「お前、ダンジョン行ったんじゃないのか」



 男に渡された剣をザラドさんは職人の顔で確かめながら聞くと



「道に迷っちゃいましたよ、あの辺魔物出没で道が封鎖されたりして通れなくなってるから、なんとなくこっちだと歩いていけば崖で、結局また降り出しだったりで、辿りつけなかったんですよ」



 と腰のバックから地図を取り出し丸テーブルにガサリと広げた


 どれどれと集まる集団に紛れてオレも(のぞ)き込む



「あー、こりゃしばらくダンジョンは諦めな」


「そうだな、道はここしかなかったはずだ」



 その意見に同意する声が次々と上がる中



「大丈夫です、ここ行けますよ」



 オレの口から全否定の言葉が口をついて出た



「なんだボウズこの地図見てわからねぇのか」



 なんて、まるで地図の見方が解らない子供を笑うように中年集団がガハガハと笑い出した


 でもオレにはハッキリ見えていた、地図の封鎖(ふうさ)された道とは別の道が


 地図の上にダンジョンまでの曲線が何かの足跡で記されている



 ………フリータースキル 『道案内』発動中…………



 どうやら聞こえるのはオレとクロだけらしいあの声が響くと、足跡は更にハッキリと形を成し、その横に(コボルト)と赤文字が浮かんだ



「封鎖されたルートから10メートル左にコボルトが使っている獣道があります」



 バカにするように笑う声を跳ね除け意見を言う


 笑っていた男たちを無視して冒険者の男とザラドさん、それにクルルとテーブルによじ登ったクロが地図を覗き込むと、さっきまで無かった道筋が一本追加されていた


 獣の足跡がひとつ、ふたつとダンジョンまでをつなげ、コボルトの赤文字が浮かぶ頃には、部屋に居た全員が地図を見下ろしていた


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