可愛い拾い物
「よろしかったのですか、あのままギルドに入らせても」
先を急ぐ馬上から一抹の不安を滲ませ、上司に問う
「ヨアールお前の心配はわかるが、黒猫を従える程の魔力を持っているかも知れないまだ若い少年を他国に取られるよりは、心を許したと思わせておいた方が何かと都合が良いこともあるだろう」
隊長であり先の男の上司ナルサスは、白いマントを走る風にはためかせ心配症の部下をたしなめる
「クロとかいう猫には何かあったか」
ナルサスが聞いたのは同行するもう一人の部下でのマナエル
彼女は美しさも強さも兼ね備えていたが、決して抜かりのない仕事をすることを他の二人も知っていた
「うーん、体中撫で回して何か主従の印がないか調べたけど見つからなかったわ、つい毛ざわりが良いから撫ですぎて嫌われちゃったみたい」
ふふふと呑気に笑いなかがらも、やることはやったと報告を済ませる
「ならあの黒猫は使い魔ではないのか」
謎がひとつ増えたと息を吐くナルサス達の目前に、どこよりも頑丈な門が見えてきた
彼らが近づくのを見ると、止まることなく入れるように開かれて行き、門番が
「ナルサス隊長一行が戻られたぞ!!」
と中にいる兵に届けと声を張る
「お帰りなさいませ」と出迎えた兵達に馬を任せ、三人は城の上部へと急ぐ
重厚な扉がゆっくりと彼らを迎え入れるように開き、部屋の奥に続くカーペットの上を背を伸ばして歩く
やがて壇上へ続く階段の前まで来ると膝をつき右腕を胸の前に置き
「ナルサス他2名ただ今戻りました」
と一番高い場所にいる人物に頭を下げた
「よく戻りました、それで隣国の様子はどうでしたか」
白い肌に薄桃色の唇、黄金色の髪は上でひとつに結ばれていても長く肩下まで毛先が流れ、薄緑の衣は半袖ではあるものの体のラインを隠すように身を覆い、唯一の装飾品であるティアラは吹き抜けのステンドグラスの窓から入る陽の光を反射し、様々な色に煌めいている
彼女こそ、齢17にしてこの国の女王『アナベル』その人である
可憐なその姿と貞淑さから『花の女王』とも呼ばれる彼女は、ナルサスらに隣国で頻発頻発する魔物の暴走による被害の様子を視察するように命じていた
本来この三人は王を守るのが仕事なので、現王であるアナベルから離れるのは例外中の例外である
「隣国に入ってすぐの村が壊滅していました」
ナルサスが苦悶の表情で報告を始める
「ミノタウロスということまではわかりましが既に姿がなく、その先の村も2、3箇所被害を受けていました」
話を引き取ったのはヨアールだった
まだこの国に被害は出ていないが、いつそうなるかはわからない
その為先手を打ち三人に視察あわよくば討伐までと思っていたが、報告を受け深刻な表情の女王アナベルに、別の報告を始めたのがマナエルだった
「そういえば帰りに可愛い拾い物しましたわよ」
おいおい今それを報告するかと呆れた横目で見るヨアールと眉間を指で押し、ため息をつくナルサスの事など、クロネコ触り放題の幸せな余韻に浸っている彼女が気づく訳もなく
「可愛い拾い物?」と何に期待しているのか、女王ではあるが、まだ17歳の少女でもあるアナベルが階段を軽やかに降りてきて、男性ならば誰もが喜ぶその笑顔で、エメラルド色の瞳にマナエルを映し手を握ると
「何ですかそれは」と問う
17歳と言われても身長は150センチしかなく守ってあげたいと思わせるその小ささも可憐な花の女王が男性を虜にする要因のひとつになっている
「可愛い少年とフワモコな黒猫ちゃん、ギルドまで送って行ったのよ、はぁーまた触りたい」
最後のは報告というより願望である
「少年と黒猫ちゃん?」
思っていたのと違っていたのか、目を丸くしてナルサスに振り返る
報告するのはもう少し調べてからと思っていた彼も、主君である女王に聞かれては報告しない訳にもいかず、先ほどまで一緒だった可愛い拾い物こと少年『ユウヤ』と『クロ』の話を始めた