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第一目的地

 やっと泣き止んだ黒猫に



「お前の名前は?」なんて聞いたけど


「私、天使1258番でございます」とか返される



(えー、天使だったの、黒いし猫だしオレ死ぬ原因作ったドジっ子が)


 驚愕(きょうがく)の表情で体長50センチのそれを見やる



「私、あなたを死なせてしまったために黒くなり、羽までなくしてしまいました」



 背中にあったらしき羽の辺りに目を向けてため息をつくチンチクリンは、涙ももう枯れたのか今度は猫背をシャキリと伸ばした



「こうなったからには、私(元)天使1258番があなた様のお供をしっかりと務めさせていただきます」



 胸をポンと叩き、鼻息荒く歩き出そうとする


(一番の不安要素だぞ、ドジっ子君)



「それはそうと、何とお呼びすれば宜しいですか、フリーター様」



(いや、既にフリーターって呼んでるし、しかも様付けされたし)



「オレの名前は斎藤佑弥だから、ユウヤって呼んでよ、お前も名前がないなら付けてやるよ、黒いから『クロ』な」



 安直なネーミングに不満アリアリだと顔に出ているが、わかりましたと先を歩き出した


 見渡す限りの草原に、クロとオレだけトボトボ歩いている



「なぁ、オレらどこに向かってるんだ?」



 上に1メートル飛び上がって立ち止まった二本足素行の黒猫が、あからさまに動揺(どうよう)しているのは明白だが



「大丈夫です、私についてきてください」



 なんて涙目でガクガク震えながら言われたんじゃ不安しかない


(やっぱりクロは不安要素しかないな)


 はぁー、とため息をついていると後方からドガドガとデカイ音が近づいてくる


 音がする草原に目を凝らすと、馬に乗った3人が目の前で徐行して止まった



「おい、お前たちなんでこんなところを歩いてるんだ?」



 先頭を走り、ひときわ大きな体格の男が尋ねた



「それが、オレたちもなんでこんなところに居るのか、何処かに街はないかと探しています」


「ここからじゃ近くの街まで馬でも1時間はかかるぞ」



 大きな男の影からもう一頭の栗毛の馬に乗った男が答えた



「なら、乗せて行ってあげましょうよ隊長」



 紅一点(こういってん)の女性は、長い金色の髪を編み込んでお団子にまとめられている


「あぁそうだなこれも何かの縁だ、乗っていけ少年……と後ろの黒猫はお前の使い魔か?」



 クロを見て何やら隊長と呼ばれた男が感嘆の声を上げる



「凄いな、お前はよっぽどの魔力の持ち主なのか」



 馬の上に引き上げられながら何のことかと考えたが、おそらく黒猫はこの世界では使い魔という位置付けなのかと結論づけた


 特に否定もせず、使い魔にしておいても問題ないだろうと



「はい、黒猫のクロです、オレは斎藤佑弥です、ユウヤって呼んでください」



 クロは女性の馬に乗せられたが、なぜか機嫌は良くない

 背中から撫で回されているのにフーフー言っている


(オレが変わって欲しいくらいだ)

 中身30過ぎのおっさんは、ただただ羨ましい限りだ


 馬で街まで連れて行ってもらう間に、彼らのことをいろいろ聞いた


 隊長こと『ナルサス』さんは35歳で白いマントをつけ、その背には紋章がデカデカと刺繍されている


 中に着ている服も、高貴な人なのだろうと安易に想像できる白いシャツに黒いパンツは、サイドにこれまた金色の二重ラインが施されている


 マントに隠れていたのは紛れもなく剣だった


 これから自国に帰るところで、オレたちが向かっている方向にあるのがその国の城下街だったようだ


 3人はその国の国王直属の剣士で、もう一人の男性が『ヨアール』さん25歳、女性は『マナエル』さん21歳と自己紹介してくれた


 2人はグレーのマントにナルサスさんと同じ紋章があり、中に着ているのは服こそ同じだが、一本ラインをマントの紋章と同じ赤色で刺繍されていた



「ところでユウヤは街に何しに行くんだ?見たところ商人でもないし、剣士でもなさそうだが」



 言われてみれば、草原を何も持たずに歩く一人と一匹って、かなり怪しい⁈

 

「仕事を探しに」なんて言ったところで納得なんて……



「そうか、ならまずギルドだな」



 ナルサスさんは意外とあっさり納得してくれるもんだな



「冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルド、ギルドもいろいろあるから自分に合ったものに入らないとね」



 満面の笑みで撫で回すが快感とでも言うように、マナエルさんはずっとクロをギュムギュムしているが、逆立つ毛が不快感マックスな上に充血目なのは見なかったことにしよう



「でも黒猫を使い魔にするくらいの魔力の持ち主なら、もっと違う職種なのかな」



 オレとクロを交互に見ながら片手を(あご)に当てヨアールさんは考えあぐねている


 そうやって会話しているうちに、目的地であるナルサスさんたちの居住地でオレが向かっていたらしい城下街が目前に見えてきていた


 ナルサスさんたちのお陰で、持って居ないため不安視していた身分証を見せることもなくすんなり街へ入れた



「困ったことがあったら、街の西に位置するトリューズという酒場に行ってみて、隊長の名前を言えば誰かが力になってくれると思うから」



 マナエルさんがクロを馬から降ろし、ウインクしながら微笑む



「またな、ユウヤ」とヨアールさん


「じゃあな、ユウヤにクロ」



 と手を挙げてほんの一時間弱一緒に居ただけのオレ達を、ギルドマスターが集まるの建物の前まで送ってくれた3人は城の方へと(きびす)を返した


「じゃあねと」クロに手を振るマナエルさんに、最後の足掻きの「シャー!!」なんて威嚇(いかく)をするクロが未だに意味不明だが、さっさとギルド登録しようとドアに手が当たった時



 ………フリータースキル『道案内』を習得しました………



 突然の事務的機械音が鳴り響いた


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