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どっちになるのじゃ

 真っ暗な中に落ちて行くただそんな感覚だけが身体を支配して、目を開けているのか閉じているのかもわからない


(あれ、さっきまで何してたっけ)


 職場の後輩の結婚祝いに飯でもって事になって…

 いつもより飲みすぎたのは覚えてる



「先輩ご馳走様でした、本当にひとりで帰れますか?」


「大丈夫だって、これくらい飲んだうちに入らないからぁぁ、それよりお前は奥さんのところに早く帰ってやれよぉぉぉ」



 千鳥足のろれつが不安定な酔っ払い、つまり俺はフラフラと慣れた道を帰っていたはずだ


 まぁ記憶があるとすればそこまでだ、童貞で30を迎えて魔法使いになった俺には、羨ましい結婚話は毒だった


 めでたいのが半分、悔しいのが半分

 だからいつもより飲みすぎたんだ、そうだそうだ。と自己完結している場合ではなかった


 身体を起こしてみる、水の波紋が広がるのが見えたのは暗闇に目が慣れてきたからか


 しかも全裸?!



 ―――転生に必要な条件―――異常なし


 頭上でハウリングしながら機械的な声が響く



 ―――転生者の名前を確認―――斎藤佑弥


(あ、オレオレ)



 おやおや、座ってる下が光りだしたぞぃ


 どうやったかは知らないが、水の上に濡れることなく座れていた


 いよいよ面白いのはその光が魔法陣を描き出した事だった



 ―――魔法陣展開終了―――


(www随分ファンタジーな夢だ)



 嫌いじゃないよこんな展開、男なら誰でも一度は憧れるだろ異世界転生



 ―――斎藤佑弥を転生開始します―――


(どんとこーい)


 なんて考えたらキタコレ!!!


 魔法陣がペカーって光ったし

 ずぃんと水の中に引き込まれるし


 おっと息吸えるのか?そんな感じでベッドから落ちて夢オチか?!


 頭まで水に吸い込まれてから感じる息苦しさ


 ヤバイ、これはマジなやつだ


 苦しくてもがいているのは現実的すぎる

 手足ジタバタさせて薄く開いた目に遠くの光


 とにかくそこまで浮上しようと暴れながらがむしゃらにもがいてやっと水面に顔を出した



「ぐはぁーーー」



 新鮮な空気を吸い込んでパンパンに膨らんだ肺が生きていることを実感させる


 はぁはぁと肩で息をするのは、学生の部活以来じゃないか?


 こんな必至に運動しないし、まず大前提に死にそうなんて事にはそうそうならない


 呼吸が落ち着くと水が膝丈くらいで足がついていることも気づける


(オレ浅瀬で溺れたの、痛いやつじゃん)


 まずは状況確認と顔を上げると、仁王立ちのもふもふしたちっこいのが踏ん反り返っている


 白い毛で覆われ、耳はウサギのように長いが、だらしなく後ろに垂れ下がっている


 手足は短くお腹はぽってりの体調1メートルに満たない物体


 

「満腹な子猫みたいだな」



 ついつい出た声は相手を苛立たせるのには十分だった



「子猫とはなんじゃ、ワシは神じゃ!!」


「………………はぁ………そうですか」



 偉そうな白いもふもふしたちっこいのは見た目こそかわいいが態度は全く違う

 しかも自分を神と言う


(リアルに死にそうな思いしてた気がしたけど夢オチか?)



「夢ではないぞぃ、お前は酔っ払って一度死んだんじゃ」


「…え、死んだ?……あれ、さっきの声に出してたっけ」


「出ておらん、お前の考えとることなんて簡単に解るわぃ、なんせワシは神じゃからのぉ」


 やたら神を連発するのは無視して

 それよりオレが死んだという言葉に路線を戻した


「オレマジで死んだの」


「全くお前は、神に対しての言葉遣いというやつを……まぁいいかのぉ、お前は酔っ払った帰り道転んで階段から落ちて死んだのじゃ」



 オレの死に方意外とあっさりと端的に説明されたが


 酔った挙句に自分の不注意で死んだってことなら、もう深くは聞きたくない



「ところでじゃ」



 なんとも呆気ない死だったなぁと思ってると

 神というモコモコが話し始めた



「お前が階段から落ちた原因なんじゃが、酒のせいではない」


「え、今酔っ払って階段から落ちたって言ったばかりだろ!!」


「確かに酔っ払って階段から落ちたが、こやつを避けようとしたのじゃ」



 と肉球で後ろを指した先に、ガクガク震える黒いもふもふが一匹(そう数えるかは知らないが)泣きながら立っていた


 神さまの半分くらいの大きさのそれは、耳も短いし黒猫と言って遜色ない


 とにかく小刻みに震えているし涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で



「ごめ…にゃさ…い、ごめ…んにゃ……しゃいー」



 ってもう猫確定だなその語尾



「あの、避けようとって一体」

「ゔぁー…―…―ごめ…ごめ…ごめんにゃしゃいー」



 はい、もう聞こえないからちょっとタイム



「こやつはワシの遣いでそちらの世界にネコの姿に変化させて出しとったんじゃが」



 ネコ……だよねそのまんまだね



「こやつがお前の足元を横切って、それを避けようとして階段から落ちて死んだのじゃ」



 また大声で泣き出した〝黒猫〟(で良いよね)が落ち着くまでの間で、なんとか死んだことは納得しておきたかった



「さて、そこでじゃ」



 自称神様が質問してきた、オレの転生後の職業を



「こやつを遣いに出したワシにも責任はあるからなのぉ、この世界に転生させたんじゃが、お前『魔王』と『覇王』どちらになるのじゃ?」



(wwwどっちも響きはすげぇ、でもどう違う?)

 世の男性諸君、どっちを選ぶ


 オレは………


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