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2・遠見

 聖域に近づいたため日差しが和らぐ。

 もう、精霊の加護は必要ない。

 精霊王の発する力で精霊達が活性化し、強烈すぎる日差しを弱めてくれるのだ。

 精霊王から力を注がれた精霊にできるのは、それだけではない。大地の奥底から水を汲み上げ潤すと同時に、その蒸発も抑えてくれる。

 それに植物の成長だって、飛躍的に早めてくれる。

 だから、聖域ってのは、不毛の砂漠の中に、唐突に現れた巨大な森って印象だ。

 精霊王リーフの聖域……カイロスが墜ちた直後は、まだ小さかったけど、どんどん広がっている。

 とは言え、精霊王リーフの力が及ぶ範囲が間近に迫ってるので、そろそろ拡大は止まるだろうけどね。

 精霊王の力が及ぶのは、自身を中心として、せいぜい数十キロだ。でも、姉さんが訪れたって王都は、この精霊王が百柱近くあったって話だ。

 リーフの聖域は、イツキ様が木々を繁るに任せて、ごく一部を畑として拓いてるに過ぎない。けど、王都は完全に整備されてた。

 姉さんの資料には、その写真があったよ……カイロスと一緒に失われたけど僕は憶えてる。

 整然とした町並みに広い畑。行き交う人々……

 だから、王都は凄く豊かな土地だって姉さんは綴ってた。

 でも、カイロスが墜ちる一年前に、精霊戦争が勃発……どんな戦争だったのか判らないけど、王都にいた精霊王、その半数が各地に散らばった。

 深緑の精霊王リーフと、その主たるイツキ様も、元は王都に居たそうなんだけど詳しい事は語ってくれないんだよな……結構な数の精霊王、その主が入れ替わったらしいんだけどね。

 僕は溜め息をつく。

 精霊戦争……戦争と言うからには戦いがあったんだろう。

 ドラに揺られ、僕たちは聖域の億へと進んでゆく。

 そして、聖域の中央へと辿り着いた。

 滾々と湧き出る泉。その中央に、深緑の精霊王リーフが鎮座していた。

 泉の中央の巨岩、そこに腰掛ける巨大な像。もし立ち上がれば、身長は十メートルはあるだろう。

 深緑の甲冑を纏った神像。これが精霊王リーフである。

 その精霊王リーフの姿に、僕は違和感を憶えた。

「蔦が絡まってない?」

 そう。以前リーフの元まで足を運んだ時は、その表面を無数の蔦が覆っていたのだ。が、今は、その蔦がない。

「クーの『千里眼』で見えた物次第では、リーフを動かす事になるかも知れないってさ」

 ルカの言葉と同時に、リーフが、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、僕の元へと歩み寄る。

 身長十メートルはあろうかという甲冑姿の巨像である。それが動くのだ。

 精霊王は動ける……知識としては知っていたが、実際に動いている所を見るのは初めてだ。

 ……圧巻だった。

 そして、リーフは僕の前で片膝を付くとしゃがみ込んだ。そして、その胸部が大きく拓く。

 カイロスにあった脱出カプセル……拓いた胸部、その内部の印象はそれだった。

「リーフに触れてくれ……力を貸せるよう同調させる」

 胸部から、中年男が顔を出した……この人が砂漠の精霊使いイツキ……深緑の精霊王、その主たるイツキ様である。

 人の良さそうなオジサンなので、正直、様付けするのは躊躇われる。本人も様付けは止めてくれって言ってるんだけど、このイツキ様が、ここの長でもあるんだよね。

 僕は、言われるままにリーフに触れる。

 そして精霊達と同調し、聖域の騒がしさに眉を顰めた。

 精霊が活発すぎて、ノイズだらけなのだ。これでは何も『視る』なんて事はできない。

 そう思った途端、一番、気になったノイズが消えた……精霊王リーフが力を貸してくれたんだ。だから、そのままノイズを一つ一つ取り除いてゆく。

 聖域の発するノイズを取り除いた所で、僕は知覚範囲を広げてみた。

 ここから最低でも百キロは離れているようだが、砂漠のあちこちに聖域らしき物が感じられる。

 いや、これは間違いなく聖域だ。

 中央には精霊王リーフに匹敵するほど、精霊を活性化させる存在が確認できる。つまり、精霊王が居るのだ。それを取り巻く、濃厚な植物の気配。

 僕の目の前に一つの画像が現れる。

 カイロスにもあった、空間投影って映像投写法と似た感じだ。何も無い空間に、映像や画像を投影するのである。

 ただ、カイロスの空間投影とは違い、これは精霊を使って画像を投影してる……僕も精霊使いである手前、流石に見れば判るよ。

 ちなみに、この画像。ルカには意味不明だろう。

 四角い平面に、青い点が十ほど散らばっているのだ……散らばり方には規則性はないが、僕にはそれが何か理解できた。

「聖域の位置を示した地図ですか?」

 僕は問う。

 けど、僕が今認識している分布とは少し違う。

 この地図。聖域の数が、僕の認識よりも幾つか多いんだ。

「ああ。今、お前が認識している聖域を反映させてくれ」

 イツキ様が『回線』を開いてくれたので、僕が干渉する。僕が認識できていない聖域を赤い点に変えた。

 たぶん、イツキ様は僕ほど遠くを『視る』事ができないんだと思う。

 赤に変わった点は三つ。その三つを線で結んだ先が、ここ精霊王リーフの聖域である。

「範囲を絞り精度を上げてくれ。周囲に精霊王や精霊使い。大精霊は潜んでいないか?」

 言われ、僕は範囲を絞ってよく『視る』事にする……できれば、範囲を拡大して、もっと遠くも『視て』みたかったんだけどね。

 でも、聖域が三つも無くなったんだ。これが非常事態であるって事は、僕にも理解できた。それに、また機会はあるだろう。これでイツキ様に恩が売れたのだ。

 数十キロほど離れた場所に精霊王に似た気配はあった。けど、発する力は、ずいぶん小さい。それが三つ。

「精霊王に似た気配は感じますが、発する力は格段に弱い……それが三体。今は動いていない……いや、動き出した。大きいな。精霊王と同じ大きさで人型だ。日没を待っていたのかな?」

 この気配、精霊王が力を絞って潜んでいるのかも知れない。相当注意しないと見落としそうなほど、精霊石が発する力が弱いんだ。

 日没が迫った今なら、精霊の加護が無くとも砂漠を渡れる。精霊の加護を使わなければ、精霊石の発する力は最低限でも構わないのだ。

 動き出した事で、漠然と人型である事は判る。しかも身長十メートル。精霊王以外の何物でもないが、精霊王が聖域を離れるなんて考え難い。

 僕はイツキ様の地図を拡大し、見つけた気配を黒い三つの点で表示してみる。黒い点は、ゆっくりと、この聖域に向かってきていた。

 聖域は、精霊王が在ればこそ存在できるのだ。精霊王を失った聖域は、半年と持たず砂漠に呑まれるだろう。

 そう思ったから、僕は消えた聖域を『視る』。

 泉は干上がり木は枯れ、そして強烈な日差しで自然発火し燃えてしまったようだ。大半が砂に埋もれ、今は面影すらない。

 聖域に住んでいた者達がどうなったかは、考えない事にする。

「今の王都に、三体もの精霊王を派遣する力はないはずだぞ?」

 王都が維持できるのも、精霊王の力があればこそだ。精霊王を武力として使えば、土地に対する豊穣の加護は失われるのだ。

 そう呟きつつ、イツキ様は難しい顔をした。

「王都が精霊王の回収を始めたのではないと?」

 消えた聖域。それは、王都が精霊王を派遣し精霊王を奪い去ったから。そうルカは考えたようだが、イツキ様の様子から疑問を感じたのだろう。

「わからん……が、三体もの精霊王が相手となると、まず勝てないな。近隣の聖域と交信し、連携を取って迎え撃つしかない、か」

 精霊王の力を使えば、離れた場所とも交信できる。精霊王と契約した精霊使いは、その助力が得られるため、魔法めいた事ができるんだ。

 ただ、僕たち平の精霊使いは助力なんて得られない……だから、個々で技を磨くしかないんだ。

 イツキ様の言葉を聞きつつも、僕はリーフの力を使い広範囲を『視て』回る。

 何やらイツキ様とルカは深刻そうな様子だけど、僕は詳しい事情なんか聞かされてないんだ。

 聞かされていないって事は、最初から戦力外……だったら落ち込むなぁ。

 でも、精霊王の力を借りられる又とない機会だ。だから、僕はその機会を存分に使わせて貰っている。

 精霊王リーフの力を借りて遠見の技を使えば、『視える』範囲は格段に広がる……けど、これでも姉さんを見つけるのは、相当難しいだろう。

 姉さんは、報告から察し精霊の加護は得られなかったみたいだ。精霊の加護が受けられれば、精霊とは何かを察するぐらいはできたはずだ。でも、それらしい報告は無いまま途絶えたんだ。

 精霊や精霊王は、この惑星に命を繋いでゆくための大切な装置であるって事にね。

 その大切な装置が、精霊戦争で王都から砂漠の各地へ散っていったんだ。王都へと回収したがるのも判らなくもない。

 そんな事を考えつつ、僕は聖域と三つの気配を結ぶ直線を調べてみる。

 どこかで上手く迎え撃てる場所はないだろうか? そう思ったんだけど無いね……

 と、僕は気になる物を見つけた。

 何か大きな固まりが砂漠の上に転がってたんだ。

 岩の類なら砂に沈んでいくはずだ。でも、それは砂には沈んでいない。半分埋もれてはいるけど、埋没しているワケでも無い。

 何だろう?

 そう思って精霊に働きかけ、僕は、それを調べてみる。

 ……この形って、ひょっとして。

 そう思った途端、声が聞こえた。耳で聞いたんじゃない。頭で聞いたんだ。

『ずっと待ってた』

 それは、姉さんの声だった。

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