表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第0章
6/79

0-5 真打

※サリナ視点です

この子はなんなのだろう。

ろくな装備も身につけていないのに、ブラッドウルフの依頼を受けてすぐに出発しようとする。

問いただしてみれば、仲間はおらず、装備も無いと言う。

本当に彼女はなんなのだろう。

ブラッドウルフによって出ている被害を知らないのだろうか。


ブラッドウルフとは、人を襲うことはあまり無いが、家畜を主に襲い、人の経済に打撃を与える。

しかし、だからといって人から攻撃されてやり返さない通りがない。

当初は楽勝だろうと楽観視していたパーティーが瀕死の状態で帰ってきたのは記憶に新しい。


私と同じ銀色の髪が肩まであり、その顔は非常に愛くるしい。

身長も私と同じほどで、世でいえば超絶美少女と言うのだろう。

ジェームズなんかは顔が緩むのを必死に耐えている。

カルラは……その赤に負けず劣らず嫉妬に……これ以上言うのは彼女のために控えよう。


考え事をしていると、自己紹介が始まってしまった。

ジェームズを皮切り始まったが、なんと姓まで言うのだ。

ハンター同士の名乗りでは、基本名前だけで十分なのだ。

姓まで言うと、どこの生まれなのかある程度分かってしまう。

その人が特殊な事情持ちだと、都合が悪い。

ハンター協会も、その手についてはしっかりと分かっているようで、個人情報は決して明かさない。


では、なぜ明かすのか。

この子は、先程、洗いざらい吐いてしまった。

ついさっきハンター登録を済ませたこと、仲間はいないこと、武器もないこと、そして、お金の単位すらもよく把握していないこと。


ジェームズはきっと、この子はどこかの貧困な家庭から出てきたのだと考えたんだろう。

だから、自身の姓を明かし、いざとなればそこを頼るようにと。


それぞれが自己紹介を済ませ、次は私の番に。

うまく喋れるだろうか。

「サリナ・リナ。……中衛。」

私がそう言うと、彼女はじっ、と私を見つめてきた。

そんなに見られると何も言えなくなる……。



今度は彼女の自己紹介だが、どうしたのか、突然汗を垂らし始めた。


「ん?どうしたんだい?」


ジェームズがそう言うが、彼女は笑顔であやふやにし、身分証明書を取り出した。

2人より目がいい私は、つい見てしまったのだ。

全てが、規格外の能力ステータスだということを。

動揺を悟られないように、感情を奥に仕舞い込む。

こういうことには長けている。

決して口数が少ないのとは関係ない。と、思いたい。


「僕の名前はアイラです」


としか彼女は言わなかった、

こちらが姓を名乗っているのだ、お互いに出さなければ失礼に値するものだが、まさかこの子は、姓が無いのだろうか。


姓が無い、というのは、一般的には捨てられた子供を意味する。

これ以外にも姓が無くなる理由はあるのだが、圧倒的にこちらの数の方が多いのだ。

とある貴族の男が、妻以外にも関係を持ち、そして子を授かる。

そういった場合に多いのだ、捨てられるというのは。


きっと、辛い体験をしてここまで来たのだろう。

ハンターのことも、お金のことすらも知らないのもそれが原因なのだろう。

2人もそう思ったのか、次々に慰め、というよりは励ましの言葉を送った。

私もなにか言わなければ、この子の助けになるような何かを……。


「……私を頼ってくれてもいい」

「ほう」


……私だけ反応が違うような……。

いや、気にすまい。

きっとこういうことを言われ慣れていないのだ。

疑心暗鬼になってしまっているに違いない。

この依頼が終わったあとは、頑張って買い物に誘ってみようかと思う。


森の中に入って3分弱、手本を見せると言って1匹だけ出てきたのを狩ることに。

そいつはブラッドウルフ。

黒い毛並みに赤い瞳。

鋭く伸びた爪は軽々と人の体を貫きそうだ。

大きさは人間大。


「よし、いくぞ」


ジェームズの声で戦いの火蓋は切って落とされた。

少し遠くではアイラが遠くから心配そうに見守っている。

それもそうだろう、恐らくだが初めて見る魔物だ、怯えてしまっているに違いない。

私たちが、払拭しなければ。


「はっ!」


いつものパターン。

ジェームズが先制で怯ませ、カルラが魔法でダメージを与え、私がトドメ。

相手が1匹ならこれで十分。

だと思っていた。


「なっ!?」


ブラッドウルフはジェームズの攻撃で怯むどころか剣を受け止め弾き、魔法を軽々とよけ、私に反撃を加えてきた。

いつもと違うブラッドウルフの行動に多少は驚いたものの、この程度でやられるほど伊達にハンターをやっているわけではない。


「ぐっ」

ブラッドウルフと1体1をしていると、隙を突かれ左肩を負傷してしまった。

利き腕で無いのは不幸中の幸いだろうか。

左腕はピクリとも動かない。


「大丈夫か!」

ジェームズがブラッドウルフを剣で弾き飛ばす。

しかし、ブラッドウルフは軽々と着地し、こちらの様子を伺っている。

……どう狩るか考えているのだろうか。

もしジェームズか私がやられてしまえば、パーティーの全滅は必至。

そして、新人の女の子もまた。


そんなことは絶対に許されない、許さない。

私のプライドが、そう訴えてくる。

だけど、気持ちではどうにもできないこともあるのも事実。

このままでは、たかがブラッドウルフ1匹に、私たちパーティーが全滅……。


いや、こいつはブラッドウルフなのだろうか?

見た目こそブラッドウルフだが、その能力はブラッドウルフを大きく上回っていると思うのだ。


「1度引くぞ!」


ジェームズがそれを察していたのか、叫んだ。

それに異を唱えることなどしない。

3人は大人しく引こうとしたが、ジェームズの剣が弾き飛ばされてしまった。

まずい、撤退準備に入っていたのもあるが、もう足が動かない。

ジェームズがやられた場合、全滅は必至。

それを覚悟した時だった。


「やっ」

「ウガァ!?」


左から高速で何かが飛んできて、ブラッドウルフを吹き飛ばす。

その何かとは。


「……大丈夫ですか?」


銀色の髪を揺らした、あの女の子だった。

次回はアイラに戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ