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9話 少女の過去1

修正中


 ルナには以前、この家――ハルトが思っているところの”奇妙な小屋”――で一緒に暮らしていたおじいちゃんがいた。


 おじいちゃんはどうしようもなく大雑把な人で、薪割りをすれば形はバラバラ、料理をすれば鍋ごと焦がし、皿洗いを頼めば割る始末......。

 そんなおじいちゃんだけど、一つだけ。

 特に優れていたものがあった。

 それが....。


 ――【魔法】だ。


 多くの、そして複雑なものを操り、一人で家を建てられてしまう程の実力を有していた。

 つまりこの”奇妙な小屋”を建てたのはもちろん、おじいちゃんだ。


 元々ルナたちは旅の末、あのイニツィオ村へと辿り着いたということもあって、最初こそ不審な目を向けられていたが、祖父の人柄の良さからか。

 すぐに打ち解け、村のみんなからは頼られ慕われるようになっていった。


 そうしてイニツィオ村の近くのこの場所に家を建て、住むこと約10年。

 森の動物の肉や、自分たちで栽培した野菜などを売って、のどかに暮らしていた......けど。



 ――――今からおよそ7年前の”ある日”。



 ルナだけが森の奥に動物を狩りに行き、おじいちゃんは自宅で薪割りをしているということだった。


 大きな熊を仕留め、その当時はまだ不慣れな【風魔法】によってそれを運んでいたが、思ったよりも重かったせいで運ぶのに時間がかかってしまった。


 なんとか森を抜け、ようやく見慣れた家が視界に入った所でルナは立ち止まった。


 昼前に出かけたにもかかわらず、すでに太陽は夕陽になりかけている。

 そんな夕焼け気味の光が当たっている、ルナが出た場所は”奇妙な小屋”の裏庭だ。


 そこは薪割りをする場所になっていて、予定なら(・・・・)薪割りを済ませたおじいちゃんが畑の手入れもしていてくれるはずだったんだけど....。


 そこに散乱してあるのはいつものように大きさがバラバラな薪と、まだ済んでいない丸太。そして、投げ捨てられたように横たわっている斧だった。



「はぁぁ。まーた、こんな中途半端にしてー。どうせ家の中で休んでるんでしょ?」



 ルナはそう呟くと、捕らえてきた獲物を壁に置いて、家の扉に手を掛けた。


 ただ、そこで少し気になったのは、どうやら家の中の灯りは”どこも点いていない様子”ということだ。

 辺りも暗くなりつつあるため、そろそろ点けても良い頃合い。


 今日はもしかして....寝てる日(・・・・)なの? と思いながらゆっくりと扉を押すと、予想通り薄暗い部屋だけ(・・)が出迎えてくれた。


 おじいちゃんが仕事をさぼるのは、今までにも結構ある。


 大抵はテーブルで呑気にコーヒーを飲んでいたり、お腹が空いていたら先にご飯を作って待っていたり。

 その料理も美味しければ文句はないんだけど......。


 そして、たまにあるのが眠っていることだ。



「やっぱりかぁ....」



 ルナはそう呟きながら、溜息と共に思い切り肩を落とした。

 すぐに姿勢を戻して、勢いよく歩き出したルナは再び違う扉を開ける。



「おじいちゃん!! 今日こそはちゃんと仕事が終わるまでご飯食べさせないからね!! ほらさっさと起き――って、あれ?」



 目を瞑り、取っ手を掴んだままやや前傾姿勢で叫んでいたルナは、おじいちゃんの姿がないことに遅れて気付いた。

 その後、他の部屋も覗いてみたが、やはりおじいちゃんの姿はどこにも見当たらない。



「家にいないってことは村に行ったのかな? 特に買い出しに行かなきゃいけない物もなかったと思うんだけど........まさか」



 少々前の、まだルナが幼く早々に寝付いていた頃。

 おじいちゃんは村でとても仲良くしている青果店の店主たちと、夜な夜なお酒に浸っていた。

 次の日は二日酔いに見舞われ、ろくに仕事もできない程酔いつぶれて帰って来る始末。


 その店主は野菜の育て方などを教えてくれた、本当に仲の良い間柄で、せっかくの誘いを無下には断れなかったのかもしれない。


 それでも今は体調のことも考えて、ルナがきつく言っているせいか、食事を終えて村へ向かっても、その日のうちには帰ってくるようになっていた。


 ルナの”まさか”とは、つまりこのことだ。


 事前に約束をしていた彼らはルナを狩りに行かせて、その隙に昼間から飲みまくっているんじゃないのか....と。



「確かに今日はなんか。朝からそわそわしてたような気もするし....」



 今日の獲物が重かったのもそのせいじゃないの? と考えたが、それはただの被害妄想。こじつけでしかないと感じ、かぶりを振る。


 部屋の中の捜索を終えたルナは家の外へと出ると、”あること”を試すことにした。



「とりあえず"魔力感知"してみようかな。近くならそれでわかるかもしれないし......。よし!」



 最後を力強く言ったルナは、その言葉とは裏腹に目を閉じて静かに心を澄ませた。


 【魔力感知】――とは、そのままの意味で”周囲の魔力を感知する技”のことだ。


 この頃はまだ未熟で、心を落ち着かせることでしか感知できなかった。

 距離に関しても、円状に感知して半径100メルス程で、直線にしても最大500メルスしか(・・)なかった。


 ここから村の中心まではおよそ1キロスと少し離れているため、仮におじいちゃんが村にいたとしても感知することはできない。


 ただそれは、おじいちゃんが普通に村にいる(・・・・・・・)場合の話だ。


 以前、おじいちゃんが村の建物の修繕作業を頼まれた時に家で留守番をしていて魔力感知を行使したことがあった。

 すると微かではあるが、ルナの感知範囲まで広がったおじいちゃんの魔力を感じ取ったことがある。


 それを後から聞いてみたところ、その日の作業場所がかなり家寄りだったとのことだ。


 そういった可能性も含めて、試す価値はあると踏んで【魔力感知】を行った。


 ――しかし結果は、予想を遥かに裏切ることとなる....。



「え....? な、何....この魔力......」



 感知を始めて数秒後。

 ルナはとてつもない魔力を感じ取った。



「おじいちゃん? だよね、たぶん....」



 それは今までに感じたことのない程、莫大な魔力。

 あまりにも大きく膨れ上がりすぎた魔力のせいで、それが本当に”おじいちゃんのものである”という確信が得られなかった。



「”魔力制御”は必ずできるようにしろ! ってよく言われてたけど....。まさかこんなに隠してたなんて......」



 【魔力制御】――もまた、その名の通り”自身の魔力をコントロールする技”のこと。


 ”魔力を完全に0にする”、ということは出来ないが、ある程度まで小さくすることによって樹や水、岩などの自然に溶け込むことができる。

 また、自身の魔力量を他人に安易に教えてはいけないらしく、そういったことにも役立つらしい。


 当時、ルナはこれをおじいちゃんから徹底的に叩き込まれている最中で、そのために【魔力感知】の鍛錬が不十分だったのだ。


 おじいちゃんは先ほど話したような”魔力を使った作業”などを行わない限り、基本的には村の人々とほぼ変わらない程度の魔力しか感じない。



もしかして(・・・・・)......)



 僅かな不安を抱き、ルナは感知を中断して家の中へ戻ると、必要なものだけを手に取って再び魔力感知で方角を確認した。

 その位置は家の正面から見てほぼ真っ直ぐ、やや右ではあるが村のある方向だ。


 確かめ終えたルナは足に力を込め、【風魔法】を使って颯爽と駆け出した。


 当時の未熟な【風魔法】でも、通常よりもかなりの速度で走ることができ、家からちょうど(・・・・)500メルス程伸びている真っすぐな道をあっという間に走り切って、突き当りで停止した。


 そしてそこで【魔力感知】を再行使する。


 これで村の中心までの距離は残り約500メルス。

 ここからまた魔力感知を行えば、おじいちゃんがどこにいるのかすぐにわかると思ったのだ。



 ――しかし事態は、より驚愕なものになっていた....。



 ルナは心を落ち着け、ややあって発動した【魔力感知】の反応に――うろたえてしまった。


 おじいちゃんの魔力量は、さっきよりも少し小さくなっている。

 感知距離はずっと近くなったはずなのに。

 さらに最初に感知した位置よりも多少左にずれ、今も徐々に左側に――つまり村の中央に――移動しているらしい。


 ――ここまではまだいい。


 ただ魔法による何らかの作業が終わり、村の中を移動しているだけなのであれば......。


 ――問題はここから。


 おじいちゃんの他にも、村の人とは比較できないほど多量な魔力を5つ、それよりも弱いけどやや高い魔力を4つ感知した。


 そのうちの後者は倒れているのか、反応がやや地面に近い。

 しかし前者はおじいちゃんの動きと共に左へと移動していて、それはたぶん......。


 ――おじいちゃんに向けて、魔法を放っているように感じ取れた。


 そんな状況のすぐ近くには村人らしき反応も多からずあり、おじいちゃんはおそらくその”何者か”の攻撃からみんなを守っているのかもしれない。


 しかし”何者か”と言っても、それは人であるのかすらわからない。

 ここまで本格的に、”人が人を魔法で襲う”なんて考えたことがなかったからだ。


 そのためか、ルナの脳裏に過ったのは....。

 昔、おじいちゃんが話してくれた"お伽話"に出てくる――【人を襲い、人の魔力を喰らう魔物】だった。


 まさか、今おじいちゃんが対峙しているのはその....。


 ――【魔物】?



(もし....もしほんとにおじいちゃんがそんなのと戦っているなら、早く! 早く助けに行かなきゃ! 早く....はや....)



 その想像にルナは恐怖を覚えてしまい、完全に体を硬直させた。

 まるで樹の根が絡みついているように動かない脚。

 恐怖に怯えて震える上半身に、荒れる呼吸。

 加速する心臓の鼓動を抑えるように、胸辺りの服をぎゅっと握りしめていた。



 その状態でどれ程いたのか......。


 突然、大きな爆発音がルナの鼓膜に届いた。


 それはルナの思考を蘇らせ、今使える最大の【風魔法】で、まさに疾風のように走り出した。


 今いた最初の突き当りから、また同じような一本道を駆け、さらにもう一つの突き当り――今朝、ハルトが転んだ水溜まりがあった場所――を右に曲がると、イニツィオ村の北の入り口が見える。


 まだこの当時は村の外壁がなかったため、もろに捉えられる不吉さを漂わせた黒い煙。


 今とは違い誰もいない簡素な入り口を通り抜けて、煙が立ち込めているらしい中央広場まで急いだ。


 広場まではほとんど一直線だが、若干右に折れているのもあって、北の入り口付近からでは煙だけしか確認できない。


 ようやく視界に中央広場が入ろうと差し掛かった時、ルナの体は再び停止してしまった。


 中央広場にある噴水の近くには何やら人だかりができていて、それはまるで......。



 ――”倒れている誰か”を囲むようだった....。



 三度走り出し、取り囲む数人の壁を押しのけて、中心で倒れていた”その人”を視界に入れる。


 そこで横たわっていたのは、馴染みのある服装にいつものちょっと癖っ気のある白髪の男性。

 そんな服や髪の一部を少しばかり赤く染め、見慣れた顔にもまた血が付いている。



「お、おじいちゃん!! なんで....どうしてこんな......」



 そんな状態のおじいちゃんに駆け寄って、ルナは叫んだ。

 続いた言葉はか細く、さらに弱々しく語尾が薄れる。


 なぜこんな姿になっているのか、頭が混乱し状況が呑み込めない。

 おじいちゃんの傍で放心していると、近くにいた男性が声をかけてきた。



「と、突然、賊が現れて! この街を襲い始めたんだよ....。それでアビル(・・・)さんが私たちを守って......」



 ”アビル”とは、おじいちゃんの名前だ。


 ルナはその言葉を聞いてハッとし、さっき感じた”何者か”のことを思い出した。


 おじいちゃんに寄り添ったまますぐに【魔力感知】をすると、村の西側300メルスほど離れた所にいくつかの反応を感じ取った。

 最初に感知した時よりも大幅に魔力量が減っているようで、あまり移動速度は速くない。


 これなら追いついて倒せるんじゃ....? と一瞬考えたが、今はおじいちゃんの治療を優先すべきだとぐっと堪えた。



 ――けど......それは叶わなかった。



 敵の反応ばかりに気を取られていたせいで、ルナはおじいちゃんの魔力の変化に気付けていなかったのだ。


 おじいちゃんの魔力量は、今までに感じたことがない程かなり低くなっていた。

 ”魔力は人の生命の源でもある”と、前におじいちゃんから聞いたことがあったけど....。



(魔力って......。こんなに小さくなっても大丈夫なもの....なの?)



 さらにおじいちゃんの周りをよく見てみると、仰向けになって倒れているその下からは大量の血が流れ出ていることに気付いた。

 ルナは目を見開き、息を詰まらせる。



「お、お願い!! 誰か治癒薬を持ってきて!!」



 すぐに内心の焦りをかき消すように、周りの人々に叫びかける。


 その願いに対して一人の男性が「わかった!」と返事をして走って行き、他の周りにいた数人は自らが身に着けていた衣服を破って、止血をしようと試みている。


 ルナもそれを見て、自分の服を破ろうと手を掛けた時。



「ルナ......」



 小さな、そして、弱々しい声が鼓膜に伝わってきた。



「大丈夫。せっかくの....服を、破っては....もったい....ない....――」



 その声の主がおじいちゃんであることはすぐにわかった。

 普段から聞き慣れた優しい、大好きな人の声。


 しかしいつもとは違い、途切れ途切れでとてもか細い。

 


「おじいちゃん! 大丈夫だよ? もうすぐ薬が来るから....。だから....だから......っ!」



 ――まだ死なないで!

 ――もっと一緒にいたい!!

 ――もっともっといろんな魔法を教えて欲しい!!



 続くはずだった言葉を押し殺して、ルナは心の内で叫んでいた。


 先程からずっとおじいちゃんの体に触れているのだが、垂れ流れる血の量が増すのとは反対に、徐々にその温かさが低下していくのがわかる。


 今もおじいちゃんの状態を把握するため、魔力感知は続けている......けど。



 ――そしてついに....その時は訪れてしまった。



「ルナ....家に帰ったら....机の....引き出しを....開けてごらん。まだ(・・)、おまえに....話していない....ことがある。い....まの....おまえ....なら....大....じょ....――――」



 喋りながらルナの頬に伸ばされていた血まみれの手は、その声が途切れるのと同時に力なく地面へと落ちた。

 未だ続けていた魔力感知にはもう――反応がない。



 ――ルナ(わたし)は泣いた。



 泣いて――。

 泣いて――――。

 泣いて――――――。



 周囲の人々もまた一様に涙を流し、おじいちゃんの死を悲しんでいた。

 するとそんな最中、一人の女性が話しかけてきた。



「ごめんなさい....っ! アビルさんは最後、私の娘に向けられた攻撃をかばってしまって....。本当に......ごめんなさいっ....」



 そう言ってきたのは、娘を片手で抱き寄せ泣いている一人の婦人。

 母親の服を握りしめ、こっちを見つめている娘さんの瞳にも涙が滲んでいた。



 ――事の顛末(てんまつ)はこういうことらしい。



 突然、”賊”と名乗る者が数人現れ、目的は定かではないが村の建物や人々に魔法で攻撃してきたのだという。

 そこへおじいちゃんがたまたま駆けつけ、”賊”と戦闘に。


 多勢であったものの最初のうちはおじいちゃんの実力もあって村の外へと追いやっていたが、途中から参戦してきたリーダーらしき人物により戦況が拮抗。


 それでもなんとか堪えていたが、そのリーダーと思しき人物が他のメンバーに村の人々を襲うように指示したため、やがておじいちゃんは防戦一方に陥った。


 魔法の相性(・・)も悪く、守りながらの戦いは熾烈(しれつ)を極めたが、おじいちゃんが突然見たこともない”大きな魔法”を行使し、なんとかリーダーを撃退した。


 ――おそらくこの時の魔法が、私の意識を戻したあの爆発だったんだと思う。


 しかしその魔法でおじいちゃんはほとんどの魔力と魔素(・・)を使い果たしてまったらしく、まだ魔力を残していたリーダーは最後の悪足掻きに、近くにいた女の子をめがけ魔法を放った。


 それを身を挺しておじいちゃんが守ったのだという....。


 その女の子が、話しかけてき婦人にしがみついている娘さんということだ。



 近くにいた男性から事情を聞いたルナは、今では泣き崩れているさっきの母親と、その隣に寄り添う女の子に歩み寄った。

 それに気付いたのか顔を上げた母親の肩に手を置くと、まだ震えている声で語りかけた。



「大丈夫....。その()のせいじゃないよ。おじいちゃんは最後まで....みんなを守るために戦ったの。だからせめて....ありがとうって....言ってあげて?」



 その言葉に、彼女だけではなく周りの人々もまた涙した。

 少し落ち着いていたルナの瞳にも再び涙が滲む。



 ――けれど....それでもまだ。”辛い過去”は終わらなかった。


 

 それからしばらくして、この村の村長が現れた。

 やや太っていて、随分と偉そうにしているこの村の長には、いつものように数人の取り巻きが付いていた。



「ほらどけ! 邪魔なんだよ!」



 村の一大事だというのに遅れてやってきた村長一行は暴挙によって道を作り、ルナのいる所まで辿り着くと、いきなり取り巻きの一人が怯えた様子で叫び出した。



「こ、こいつです! さっきあの変な奴らと戦ってたのは!」



 指をさして、おじいちゃんのことを"こいつ"呼ばわりするその男に、ルナは苛立ちから目を鋭くする。

 それは周囲の人々も同じだったらしく、辺りの空気もやや殺気立つ。



「こいつかぁ。俺の村でドンパチしてくれたのわ。おかげで村がめちゃくちゃじゃないか!!!!」



 そう叫び散らしたのは、村長だ。

 あまり人として良くないのは知っていたが、さすがにこれは――。


 その対応に周辺にいた村人も限界を超えたのか、

 「村を救ってくれたんだぞ!」

 「ふざけるな!」

 「いい加減にしろ!」

 などの声が飛び交っていた。


 するとそんな村人の反応が気に入らなかったらしい村長は舌打ちをして、こう告げた。



「いいのかぁ? まぁた税を増やすぞ~?」



 目や口をこれでもかと引き延ばし、気味悪くにやけて言う村長の言葉に、みんなは静まり返るしかなかった。


 そして、そんな憎たらしいほど醜悪な表情の村長が次にしようとしたことが....。



 ――ルナ(わたし)の限界を超えさせた。



「こんな老いぼれじじいのどこがいいんだかぁ。あーあ。こぉのゴミが!!」



 そう言って村長は、横たわるおじいちゃんの亡骸を蹴ろうとしたのだ。


 その行為に完全に頭に血が上ったルナは、大きく見開いた紺碧の瞳に怒りの感情を灯して叫んだ。



「おじいちゃんに........触るなああああ!!!!」



 その瞬間、周りの空気は一変する。

 今までにない”怒りの感情”が、ルナの【魔力制御】を――狂わせてしまった。


 この村に、魔力を正確に把握できる人はどれだけいるだろう。

 たぶんそこまでいないんじゃないかと思う。

 それでも、この時の変化には誰もが気付いていたはずだ。


 周囲には激しい風が巻き起こり、近くにあった窓や瓦礫は砕け、建物も少なからず揺れている。そしてルナの周りには....。


 ――”目に見えるほどの魔力”が漂っていた。


 そんな異常な現象に蹴りの動作を中断した村長や村人たちが一様に驚く中、村長の取り巻きの一人が後退りしながらこう言う。



「髪が....髪の色が......か、変わりやがった!!」



 その言葉を耳にしたルナは咄嗟になびく髪へと視線を向け、事態を理解すると慌てて魔力を落ち着かせたが。


 ――それはすでに、手遅れだった。



(み、見られた!? ”誰にも見られないように”って、あれだけ....っ!)



 ルナは今ではすっかり元に戻っていた金色の髪を抱えて俯いていると、さらに別の男性が声を上げる。



「そ、そう言えばこのじいさんも! あの変な連中と戦ってるとき、髪の色が変わってましたよ!!」



 そのことを聞いた他の村の人々も口々に

 「そう言えば....」

 「確かにいつもと雰囲気が違ってたような....」

 「まさか....」

 などと騒ぎ始めていた。



(おじいちゃん....。やっぱり、あの姿(・・・)になってたんだね......)



 ルナもまたそれを聞いて、横たわるおじいちゃんを見つめそう思っていた。



修正中


読んでいただきありがとうございます!


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