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3話 ここがどこなのか....

修正中


 今のは聞き間違いか?


 目の前にいる少女は微笑みながらなんて言った?


 ......拷問?


 こ、これは......。

 思ったよりも深刻な事態だ。



「い、いや。えっと....その......」



 この場を切り抜けるためにはどう説明したらいいのか。

 戸惑っている俺の口から出るのは、歯切れの悪い言葉ばかり。


 そんな俺を他所に、相当激怒しているらしい彼女は、顔に一切出すことなく可憐な表情のまま喋り出した。



「どうやってそこまで魔力(・・)を抑えているか知らないけど。女の子の水浴びを覗くなんて、いい度胸してるね。君」



 彼女のそんな言葉を聞いた俺は、目を大きく見開いた。

 それと同時に心臓の鼓動も一際大きくなる。



魔力(・・)感知にも引っかからないし、完全に油断してたよ。まさかこんなに近づかれてるなんて....」



 俺は正直、彼女の話した内容のほとんどが聞こえてはいなかった。

 もちろん鼓膜には届いている。

 受け取った情報は神経を伝い、脳まで達していたはずだ。


 だが、それを認識するだけの脳機能は残すことなく、”一つの言葉”の解析に割り当てられていた。



 ――――【魔力】



(って言ったよな、今。そんな....いや、でも........)



 最初に推測した――――【死後の世界】。

 これは俺の中でとっくに亡き者になっていた。


 走ったことで生じた疲労感や、そのため分泌された滴り落ちる汗、乾いた喉に染み渡る水の快感。

 そのどれもが生きているからこそ味わえるもののはずだ。


 一つの可能性が棄却された今。

 残すのは【転移で飛ばされたどこかの国】か。

 もしくは――――。



 他にも何か喋っていたようだが、もちろんそれらも全く頭に入ってこない。

 そんな俺の様子に気付いたらしい彼女は首を傾げている。



「ねぇ、君。ちゃんと人の話聞いて――っ!?」



 さすがにやや怒ったような口調になり、彼女が追及してきた時。

 そこで俺は咄嗟にWD(リストデバイス)を操作すると、少女の顔の前に”画像”を表示させた。


 画像フォルダから無造作に選んだ”一枚”。


 特に変なものは入れていなかっ()はずだ。



「い――――」


(ん? い......?)



 突然出現した画像によって驚いたところを、隙を突いて逃げようと思ったんだけど....。


 彼女の様子が少し気になる。


 顔には驚愕の色が満ち、且つ少し紅潮しているようにも見えた。


 俺は一体何を選択したんだ?


 その思考に従うまま自分の視線もまた、”それ”に移動させてみた。



「いやああああああああああ!!!!!!」


「え――――――ええええええ!?!?」



 可愛い悲鳴とほぼ同時に、俺は驚きの声を上げた。

 

 そんな二人が一緒に視線を向けている、空中に映し出されていたものはなんと――――。


 ”裸で抱き合う男たちの写真”。


 彼女は片手で目元を隠し、もう片方の手でを振り払おうとするが、投影モードでしかない”それ”はすり抜けるだけ。


 一緒になって驚いてしまった俺はどうして画像を出したのか。

 その理由を一瞬忘れてしまったが、すぐに我に返ると起き上がって、一目散に林の中へと逃げ込んだ。


 再び全力疾走する羽目になった俺を、今度は異質な混乱が襲う。



(なんだあの写真!? あんなの保存した覚えないんですけど!?)



 明らかにあっち系(・・・・)の写真。

 そんな趣味は微塵もない。


 デバイスが違う?

 いやでもレポートが?



「あーもう! 訳がわからん!!」



 そんなことを思考しながら林から抜け出ると、またもや思いもしないものが待っていた。



「や、やあ....。久しぶり......」



 林から飛び出した俺の真正面にいたのは、つい先刻撒いたはずの――熊だ。



(お、終わった......)



 俺は悟った。

 これが最期なんだと。


 怒号のような叫び声を上げながら鋭い爪を振り下ろしてくる熊の様子は、まるでスローモーションのようで。

 死地の間際、こういった現象が起こるとは聞いたことがあったけど、まさか自分が体験することになるとは思っていなかった。



(父さん、母さん。ごめん)



 最期に残すのは、家族への謝罪。

 先立つ自分をどうか許してほしい。

 来世があったらまたどうか。

 よろしくお願いし――。


 ――――シュン。


 と、そんな時。

 妙な音がした。


 ほんの一瞬だ。

 何かが擦れるような、切れるような不思議な音。


 ごく小音だったそれの出所はすぐに判明した。


 実際の時間で言うと2秒未満くらいか。

 いつまで経っても届かない爪を体感では何倍もの秒数待った後。


 正常な感覚へと戻る視界の中で、眼前にいた熊の頭は次第にずれ始め、そして地面へと落下した。

 その鈍い音に次いで、置き去りになった大きな巨体もまた、重量感のある音を鳴らし崩れ落ちる。


 足元近くに倒れ込んだそれからは、次第に赤い液体が滲み出てくる。

 元々攻撃をしようと近づいていたのもあってか、すぐに迫ってきた血にあわあわと後退し、尻もちをついた俺は完全に放心状態だった。



(さっきの....首を切った....音? で、でもどうやって......)



 そんな俺の側にやってきたのは――金の髪をなびかせた可憐な女の子。

 先の影響が残っているのか、まだ少し顔が赤い。



「君、もしかして......」



 その言葉で正気に戻った俺は、なぜか先ほどの出来事を思い返す。


 ち、違うよ!?

 俺は断じて腐男子なんかじゃないんだから――。


 何を血迷ったのか、そんな弁明を心の中でしていると。

 彼女の言葉が再び、俺の心臓を跳ねさせる。



魔法(・・)、使えないの?」




 【魔法】――ファンタジー世界などでよく出てくる類のもの。

 お世話になっている漫画やラノベなど多くの作品でも取り上げられている。

 【魔力】などを駆使して行い、現実でならありえない奇跡。


 ”ここ”が俺の知っている世界であるならば、そんな単語は出てこないはずだ。

 出すとしたら中二病に侵されている人くらいか。


 なら?

 ここは本当に――――。



(あれ....?)



 そこまで考えたところで、俺はあることに気付いた。



「ね、ねぇ。君は、俺の言葉がわかるの?」


「?? 当たり前でしょ?」



 彼女は一旦不思議そうに首を傾げてから答えた。


 そう。

 彼女が話しているのは紛れもない”日本語”だ。



「ていうか、私の質問には一切答えてくれてないんだけど? 水浴びの覗きの件もまだ――!」



 俺は勢いよく立ち上がると、彼女の両肩を掴んで尋ねた。



「あ、あの! ここはどこですか!? 君は日本語を話せるみたいだけど、容姿は全然....外国の人っていうか......。どこか日本と交流のある国の人なんですよね!? ね!?」



 俺は必死だった。

 それはもう、”尋ねる”というよりも”叫ぶ”に近かったかもしれない。

 そんな俺の様子に彼女はかなり驚いているようだが、気にしている余裕なんてなかった。


 今に至るまでに散々見せられてきた現象。

 それを信じたくない一心で、新しく見つけた小さな可能性に賭けたかったんだ。


 しかし、それも限界で――――。



「に、ニホン? ここの近くには”イニツィオ村”って村はあるけど....。ニホンっていう()と交流があるっていうのは......。聞いたこと....ないかな」


「そん....な......」



 これでもかと目を見開いた後。

 口からこぼれたのは、か細く弱い声。



「それにクニ? って言うのは領地のこと? あの村はまだどこの領地にも属してなかったと思うから。まだ”ただの(・・・)イニツィオ村”だと思うけど....」



 さらに加わる追い打ちに、俺はもう言葉は出なかった。


 もう明らかだ。



 ここは――――【異世界】。



 彼女のこれまでの発言。

 起こしていた奇跡(げんしょう)


 それら全てが物語っていたじゃないか。


 彼女の肩から手を離すと少し後退りした後。

 がくんと膝が崩れた俺はそのまま両手を地面に着くと、すぐに視界がぼやけ始めたのがわかった。

 

 彼女は俺の反応を見て、「ちょっと!」と言いながらしゃがみ込んできたが。

 そこで俺の様子を察してくれたのか、それ以上近寄ることはなかった。



 ――――俺は泣いた。



 すぐ近くに女の子がいることも忘れ、どれほど泣いたかわからない。


 俺が落ち着いてからややあって、彼女が口を開いた。



「君のこと、まだ許したわけじゃないんだけど。何か事情がありそうだし......。もうすぐ日も暮れるから、今日はとりあえず(うち)に来ない?」


「え....?」


一人(・・)で住んでて、部屋も空いてるし......。その様子だと今晩泊まる所もないんでしょ?」



 目を赤くしたままの俺は彼女の言葉に耳を傾けていた。


 近くにあるという”村”に行けば、もしかすると宿みたいなものがあるかもしれない。

 ただ仮にあったとしても、俺はこの世界のお金を持ち合わせていない。



(ここは彼女の好意に甘えさせて貰うしかない......か)



 彼女の提案通り泊めてもらうことにした俺は二人で湖まで戻り、それぞれの荷物などを回収して、それから彼女の家へと向かった。


 色々なことがありすぎて心も体も疲弊している俺は、少し前を歩く彼女と一言も会話を交わすことはなかった。


 しかし、歩いていると不意に何か大事なことを見落としている気がした。


 数時間ぶりに出会った――しかし自分が知っている”人間”とは明らかに違い過ぎる――人物に視線を向ける。


 改めて見ると......。


 今思えばおかしい。

 非リアな俺がこんなに綺麗で可愛い女の子と話をしていたことが。

 今こうして一緒にいることが。


 きっと普段とは違うこの状況が原因だ。


 これが吊り橋効果ってやつか?

 ........いや、違うな。


 そんな俺がこれから向かう先はどこだ?



(あれ? 一人暮らし?)




修正中


読んでいただきありがとうございます。

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