15.5話 闇の住人
※フォンセ視点です
晴れ晴れとした上空。
雲を押しのけ猛スピードで城まで帰っている途中だ。
徐々に高度を下げ、城の表にある出っ張った岩へと着地し続いて颯爽と駆け始めた。
すぐに岩に作られた門の前に辿り着くと、自分の10倍ほどの大きさのそれを両手で軽く押し広げ叫んだ。
「たっだいまー!」
門は勢いよく開き、いつものように壁に激突し止まる。周囲には爆音が広がり、少々土煙が立ち込める。
「お、お帰りなさいませ。フォンセ様」
次第に収まっていく土煙の中から、一人の執事が呆れたようにそう言って私を出迎えてくれた。その他の執事たちはどうやら門を戻しに向かっている。
「いつもおっしゃっていますが、もう少し静かにお戻りになってください」
「え~。だってこの方が”帰ってきたー!”って感じがするんだもん!」
すでに帰宅時の恒例行事になっている為、今更直す気など毛頭ない。
私の返答を聞いた年老いた執事は溜息をもらしながら、頭を横に振っている。
「そんなことより! 今夜のご飯は??」
「今夜はフォンセ様の大好物の”心臓の葡萄酒漬け”です」
「ほんと!? じゃ早速、食堂に――!」
「お待ちください」
私は急いで食堂に向かおうと言葉を発しながら走り出したのだが、動き出してすぐに執事から襟首を掴まれ止められた。
そのせいで身に着けていたローブのフードが頭からずれ、隠れていた顔があらわになる。
髪はピンクでツインテール。目は焦げ茶のような色合いだ。
「ちょっとバーラ....私は一仕事して疲れてるんだから、早くご飯に有り付きたいんだけど......。なに邪魔してんの?」
その行為に苛立ちを覚えた私は、低い声で呟きながら鋭い目つきで首の後ろを抑えている執事、”バーラ”のことを睨みつけた。
「邪魔などではありません。外から帰ってきて食事をするのでしたら、まずは手を洗いうがいをしてください」
見た目は白髪で、目はも同様に元々低い声をさらに重くさせ、上から睨みつけてくる。
私とバーラの視線の中間では見えない電撃が走り、周囲の空間が少し重くなる。門を閉ざし終えた他の執事たちは、怯えた様子でこちら窺っているようだ。
そうして数秒間、睨み合っているとバーラの口が動いた。
「そうでなければ、今夜のお食事......お預けですよ?」
最期の言葉が耳に入ってきた瞬間、私の体は稲妻に打たれたような衝撃が走った。
見上げていた顔を落とし、周囲に撒き散らしていた魔力も次第に弱まっていく。
「さぁ、どうなさるのですか?」
未だ口調が重い年配の執事はそうやって私を追い詰めてくる。
徐々に震え始めた体を何とか抑えつつ、再びゆっくりと顔を上げた。
「やーーだぁああああ!!!! ご・は・んー!! ご飯食べるのー!!」
私は目元に大粒の涙を溜め、その溜まった涙を目尻から豪快に流しつつそう喚き散らした。
――――それからややあって。
食堂に移り、長いテーブルの一席に着いて食事を待っている。両手にはナイフとフォークをそれぞれ持ち、鼻歌を奏でながら上体を左右に動かしていた。
もちろん手洗いうがいは済ませてあるのだ。
「まだかな~、まだかな~」
大好物が待ち遠しくて仕方がない。すると間もなくそれはやってきた。
「お待たせしました。どうぞ、お召し上がりくださいませ」
そう言いながらバーラが出してくれたそれは、脈を打ち、今もまだその活動を続けている。
「待ってましたー! いっただっきまーす!!」
私は目を輝かせ、それに食らいつく。
かぶりついた瞬間、その内に蓄えられていた葡萄酒と血が混ざった液体が一気に溢れ出る。
筋肉の中でもかなり強固で肉厚な心臓の筋肉は、実に噛み応えが良い。
口いっぱいにそれを入れ、よく噛みよく味わい、思い切り飲み込む。
ゴクッ!
「はぁ~~、幸せぇ~~」
顔の表情筋はかなり緩み、もう腰が砕けそうだ。
少し余韻に浸った後、また頬張り食べ続けた。
そのまま食事をしていると食堂の大きな扉が動き始める。
「ご苦労、フォンセ」
そうして現れたのはかなりガタイのいい大男で、マントを揺らしながら悠然と入ってきた。
「あー、あーいう」
私は口いっぱいに含んだまま、大男に返事をした。
「お前は相変わらずだな。バーラ、俺にも食事を頼む」
「かしこまりました」
そのままバーラは部屋から厨房へと向かっていった。
最後の欠片だったそれを飲み込むと、胸にかけていた白いナプキンを取り口元を拭く。
「やーやー、ターニス!」
「済まないな、わざわざお前に行ってもらうことになって」
「ぜーんぜん! むしろ面白かったし! ぷっ! 今思い出しても笑っちゃうよー」
そう、この大男こそ。
先ほどのパンティー....じゃなくてバンディーのあいつらが勘違いしていた”ターニス”である。
筋肉は肌が見えるところはどこも隆々としていて、髪と瞳は黒がかった赤い色、肌はやや黒っぽい。
私は思い出し笑いで再び笑い転げている。
それを呆れたように見つめている大男は、咳ばらいをし私に問いかけてきた。
「んんっ! それで? ”あれ”はどうなった?」
その言葉で落ち着きを取り戻した私は、彼に言葉を返す。
「ん? あー、ちゃんと渡してきたよ。なんか凄い嬉しそうで、かなり張り切ってるみたいだったよー」
「そうか....。今回は実験の段階だが、あいつらにはせめて奴らを殺してもらいたいものだ」
「あー大丈夫なんじゃない? ”あの村だ”って教えたらかなり叫んでたし。まー片方は老いぼれじじいで、もう一人は子供なんだから」
今回のバンディ―への仕事は、村の殲滅だけではない。
確実にあそこ近辺にいるはずの二人の『セイヴィア』、こいつらの体の確保も兼ねている。
一人はあいつらの復讐対象でもある為、おそらく刺し違えてでも殺してくれるはずだ。
子供の方は――――。
(まー私にとってはなんでもいいんだけど。どうせ捕まえてきても食べられないし、拾ってきたらで新鮮じゃないし......)
むしろ村人の方が気になってたりする。
「もしあいつらが失敗したら”もう一つのあれ”を使うしかないが......。ちゃんと渡してきたんだろうな?」
「もちろん! 大事な切り札だからね! ちゃんと最初に渡してきたよ!」
正確に言うと”最初に”ではなく、”最後に”渡したものだが......これは黙っておこうかな。
「さぁ、20日後が楽しみだな....」
「そうだねー。どんな殺し合いが見れるかなぁー」
私は座りながら窓から見える空を見上げた。
その時の表情はきっと先ほどの”緩んだ顔”と一緒か、あるいは――――。
そうしていると、バーラが「お待たせいたしました」と言ってターニスの分の食事を持ってきた。
それを見た私は人差し指を口にくわえ、よだれを垂らしながら、目を輝かせている。
「ねー! バーラ、おかわり!」
「だめです」
「わーーーーん!!!!!!」
それから再び泣き散らした後、おかわりをもらい満足するのだった。
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