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15話 風の吹き始め

※視点が複数あります。



 

 水滴の落ちる音が響く薄暗い通路を、カツカツと高い音を立てながら歩く二人。



 風魔法であるものを浮かせながら歩いている俺とは違い、悠々と前を歩いている相方に声を掛けた。



「なー、クレフ。そろそろ変わってくれよ~。俺はさっきこのゴミと一戦交えて疲れてるんだぜ~?」


「ふん、知らんな。それにそいつはゴミじゃない、貴重な商品だ。丁寧に扱えよ?」


「はぁ~、はいはい。わかりましたよ~」



 甲高い俺の声とは違い、やや低く太い声が返ってくるが、これ以上頼んでも仕方ないと諦めた。



 そのまま”貴重な商品”を浮かせながら歩みを進めていると、この砦の最奥の部屋に辿り着く。



「ここでいいのか?」



 部屋に入ると、そう相方に聞きながら頭上よりも高く浮かせていた商品をゆっくりと下ろし、腰辺りの高さで停止させる。



「ああ、そこでいい。あとはそのまま鎖で繋いでおけ」


「こいつ、土魔法も使えるんだぜ? 鎖なんて千切られちまうんじゃねーか?」



 先の戦闘....というかお遊び(・・・)で知り得たことだが、こいつは隠していた水魔法だけではなく、土魔法も扱えている。


 土魔法の一種(・・)を使えば、容易く逃れてしまうのではと思ったのだ。



 それに対して相方はこう答えた。



「土魔法が使えることなど知っている。だが、どうせほとんど知識のないこいつに、応用(・・)するまでの技術はないだろう。そのためにこの部屋を選んだんだからな」


「あ~、なるほどな」



 この最奥の部屋だけは壁や扉など、全て鉄で囲まれた場所。


 相方はこいつの力量を考えた上でのことのようだ。



(まぁ確かに。こいつのあの程度の魔法じゃ応用は無理そうだし、仮になんとかここを抜け出したとしてもまた捕まえれば良いことだな)




 一仕事を終えた俺たちは、来た道を戻っていく。



「あ~あ、折角あいつも”捨て駒”にしようと思ってたのによ~。きっと最高の駒になってたぜ?」



 俺は残念そうに呟く。



「バカを言え。あいつは紛れもなくアクア族の特性を受け継いでいる。そのことがはっきりした今なら、”奴ら”に渡した方が特だ」


「まぁそうだわな......」



 俺の将来の下僕、トップ候補はこれで夢と消えた。


 そこまで落ち込みもしないが、果たして奴ほどの逸材がこのゴミ山にいるだろうか......。




「他の連中の”仕上げ”はいつやるんだ?」


この間(・・・)もさっきも見ただろ。あれはでかすぎる....。運ぶことを考えると、村の近くでした方が効率がいい」


「は~!? 村の近くって、あと20日くらい先じゃねぇか!」



 相方の返答に思わず声を荒げてしまった。それほどの期間を待てるわけがない。


 始めてそれ(・・)を目にしてからずっと、疼いているのだ。


 早く新しいおもちゃで殺したい(あそびたい)....と。



 そんな感情を抑えられず、少し無理を言い過ぎてしまった......。



「三人! いや、二人でもいいから、調教させてくれよ? いざって時に扱えなかったら困るだろ? なークレフ――っ!!」


「おい、ジャス......。俺は”村に着いてから”と言っているんだ......」



 極希に見せる鋭い眼光。


 これまでに何度か目にして来たが、自分に向けられるこの眼にはどうしても慣れない。



 ごくっ....



 俺は喉を鳴らし、相方に謝る。



「す、すまねぇ。言い過ぎたな....。我慢するよ........」



 少し怯えたようにそう言うと、やや間があって返事が来た。



「ふん。まぁいいだろう。確かに試運転は必要かもな」


「!!」


「ただし、一人だけだ。それ以外は向こうでやれ」


「あ、ああ。ありがとよ、クレフ」



 普段ならここで一発ほどもらっていてもおかしくない。


 どうやら俺が思っている以上に、相方は浮かれているようだ。



「それでジャス。誰を調整するのか決めているのか?」


「ん? ああ。ちょっど仕事もろくにできない奴がいるからな。そいつにすれば仕事にはあまり支障は出ないだろうぜ」



 俺はそう言うと笑った。


 相方も「ふん。まぁ好きにしろ」と行って別の道へと進んで行く。



 一人残された俺は暗闇の中、口を吊り上げ不気味に笑う......。









 僕は一人、ベッドの上で待っていた。


 胸辺りまで薄い布を掛け、仰向けになり天井を見つめている。



「アルセ兄ちゃん....大丈夫かなぁ......」



 まだアルセ兄ちゃんが行ってしまってから、10分程しか経っていないはずだ。


 それでも心配せずにはいられない。



 どうしてこうなってしまったんだろう......。


 昨日までは普通だったのに......。



 そんなことを考えていると、次第に視界が狭くなっていく。瞼が重くなり、ゆっくりと閉じているのだ。


 睡魔に抗えず、もうほとんど天井は見えない。



(アルセ兄ちゃん....早く、帰って来て......)



 そう心の中で呟くと、眠りに着いた。



 そして、僕は夢を見たのだ。



 暗い閉ざされた部屋でしゃがみこんでいる僕に、誰かが手を差しのべてくれている。


 いや、誰かではない。この手は僕がよく知っている人のだ。


 いつも僕の頭に優しく手を置いて撫でてくれる。



 そんな光に向かって僕は歩き出す。


 すぐ近くにあるようなのに、いくら歩いても届かない。



「待って! 待って!」



 必死に叫びながら僕は走り始めた。


 それと同時に光も遠ざかるスピードを上げ、どんどん距離が遠退いていく。



(待って! 待ってよ! アルセ兄ちゃん!!)



 すでに僕の目からは涙が零れ始めていたが、そんなことを気にすることもなく走り続ける。



 そうしていると突然、僕は何かに躓いてしまい思い切り転んでしまった。



 ザザーッ!!



 ここは夢のはずなのに......激しい痛みが脳を貫く。



「うっ、うー....」



 この時は夢であることも忘れて、痛みを堪えながら呻いたのだ。


 そして、ゆっくりと上体を起こし、躓いたものを確かめると......。



「!!」



 そこに転がっていたのは、先ほどまでは元気な姿でいたはずの青年。



「アルセ兄ちゃん!!」



 それは力なく倒れていて、顔はこちらを向いている。その顔にある二つの目には、全く生気が感じられない。



 まるで......死――――。



「わああああ!!!!」



 勢いよく上半身を起こし、息を荒げている。


 どのくらい寝ていたのか分からない......。


 次第に息が整ってくると、太陽の光が差し込む通気口を見上げる。どうやらまだ朝日は昇っていないらしい。



「アルセ兄ちゃん......まだ、頑張ってるんだね....」



 そう呟きつつも、先ほどの夢が脳裏に蘇る。



「っ!!」



 この夢は不安から来たものなのか、あるいは......。



 きっと大丈夫。アルセ兄ちゃんなら決して負けたりしない。


 そう祈る他ないのだから――――すると唐突に扉を叩く音がする。



「!!!!」



 それに驚いた僕は咄嗟に薄い布を被り、その中で(うずくま)った。


 こんな時間に誰だろう。大人たちは寝ているはずだ。


 来るとしたら........。



「アルセ兄ちゃん!!」



 ベットから飛び出ると、扉に近づき小さな声で囁く。



「アルセ兄ちゃん! アルセ兄ちゃんなんでしょ!?」



 外からの返事は返ってこない。


 返答を待っていると再び扉を軽く叩く音がし、続けて扉の施錠を破るような金属音がした。


 いつもの鍵の音とは明らかに異なる。おそらく土魔法で破壊したに違いない。



 衝撃の反動でか少しずつ開いている扉は、あるところまで進むと動かなくなった。


 僕はそれをゆっくりと押し開ける。



「アルセ兄....ちゃん........」



 扉の向こう側にいたのは――――奇妙な笑みを浮かべながらこちらを見下ろす――――悪魔。









 ジャスと別れ、そのまま自室へと戻っていた。


 椅子に腰かけ足を組み静かに壁を見つめる。



「ようやく、あの”組織”に入れるのか......。長かったな........」



 今回の件が成功すれば、我々の盗賊団『バンディー』も仲間に加えてもらうことになっている。


 ”組織”と関係を持てるようになって7年程が経つ。


 ”7年前の仕事”以来、あまり良く思われていなかった我々は、北西の地域に移動した後も人攫いや人身売買、加えて鉱石の発掘作業などが主な依頼だった。



 北西の地域の方がやや中央都市が近いため、南東に比べると警戒が厳しかったと思われる。


 なぜそのような場所に移動させられたのか全く説明はなかったが、時が来るまで大人しく従うことに決めていた。



 そして、そんな生活を続けてやや7年......。


 ついに挽回のチャンスが訪れたのだ。



 10日程前のことである。



 ――――――――――――――――――――



 突然、”組織”からの訪問者が来たという知らせを受けた。


 私とジャスは速足で会議室へと向かっている。



「おい、クレフ! なんだよ急に! どうなってんだぁ?」


「知るか!! こっちが聞きたい....」



 ジャスに怒鳴りつけた後、顔の横を滴る汗。私は焦っていたのだ。


 これまでにも何度か”組織の使い”が仕事などを伝えに来たことがあったが......今回のようなケースは初めてだ。



「まさか....ターニス(・・・・)様が来るなんてな」


「......ちっ!」



 私は軽く舌打ちをし、歩くスピードを上げていく。



 ”ターニス様”――――とは、その組織の幹部(・・)の一人である。


 こんな組織の末端に直接幹部が来られるなどありえないのだ。



(折角ここまで来たんだぞ!? こんなところで......こんなところで、終わってたまるか!!)



 鋭い眼光で行く先を睨みつけ進む。



 やがてターニス様がお待ちになっている部屋に辿り着くと、扉の前で服を整え中へと入った。



「これはこれは! ターニス様。遅れてしまい申し訳ない。わざわざこんなところまで足を運んでいただきありがとうございます」


「..........」



 黒いローブを身に纏いフードを深く被り顔の見えないその方は椅子に座り、私の言葉には一切反応もせずただ黙っている。



「そ、それで今回は....どのようなご依頼を承れば宜しいのでしょうか?」


「..........」



 依然として喋る気配はない。



(クソ! 一体何しに来られたんだ......)



 全くと言っていい程、この方の考えていることが見えない私は焦りを増すばかりであった。


 そうしてジャスや他の部下など、私も含め皆で静まり返っていると――――



 ぷっ!



 という音が静寂であった部屋に響いた。



 その発生元であろう場所に目を向けると、黒いローブを被ったその方は笑いを堪えている様子だ。



「......あーはははは!! もうだめ! 我慢できない! ひぃ~、お腹痛い! あははは!!!!」



 我々は皆、何が起きたのかわからない。


 こちらの勝手な予想だったが、”ターニス様”は男性だとばかり思っていた。けれども聞こえてくる笑い声は女性の――というよりも女の子の声なのだ。


 そればかりか、先程まで2メートルはありそうな風貌で腰かけていた体格が急激に変化し、その体とは似つかわしくなくなってしまった大きなローブの中で、一人笑い続けている。


 混乱している我々は完全に置き去りである。



 私は話を進めるため、意を決して尋ねてみた。



「あ、あの....一体、何がそんなに面白いのでしょうか?」



 未だにソファーの上でローブに(くる)まりながら笑い転げているその方は、ピタリとその動作を止め、ローブの中からこちらに視線を向けてきた。



「......あ?」



 そうすると、遂今しがたまでの笑い声とは一変、ドスの効いた低い声が飛んできたのだ。


 それと同時に、部屋中を満たす殺気を纏った魔力。


 ただの下っ端である者たちは次々に倒れていき、なんとか立ち残っているのは私とジャスだけである。



 嵐のように魔力が飛び交う部屋の中を、ローブを被ったまま悠然と歩いてくるその方は私の目の前まで来ると、私を見上げ指を天井に向けこう言った。



「....(ひざまず)け」



 言葉と同時に指をゆっくりと床の方に向ける。


 その瞬間、私の体は地面に叩きつけられ這いつくばった状態になってしまう。



(な、なんだ!? この力は....!!)



 何が起きているのかもわからず、全く体を動かすこともできない。


 それを見かねた少し隣にいたジャスが声を荒げ動く。



「クレフ!!」



 それに気付いた”小さな化け物”はもう片方の手をジャスに向けると、思い切り壁に貼り付けた。



「グ....ゾ......」



 まともに喋ることすらままならないジャスは悔しそうにもがいている。


 ジャスの拘束を終えた奴が私の目線まで顔を落とすと、ローブの中に光る赤黒い二つの点を見つけた。



 息を呑みながらその点を見つめていると――――。

 


「なーんてね?」



 今度は最初の笑い声のような無邪気な少女の声に戻りそう言う。



 その言葉と同時に部屋の中の魔力の嵐は収まり、私とジャスを拘束していた圧力も消えた。


 ジャスは壁から落ちると咳込み、私はあまりの圧力で息ができなかった為、笛のような音を出しながら呼吸をした。



(なんだったんだ....一体.......)



 私は訳が分からず混乱している。まだ脳が正常に機能していないのだ。


 そんなことなど知る由もないその方は、少女の声のまま呟く。



「じゃ! そろそろ話し始めようか。早くしないと夜ご飯に間に合わなくなっちゃうからね!」



 最後にそう言いながらローブの中で指を立てているのか、そのような形が現れている。



「そ、そうですね......」


(この人は本当にイカレている....。扱いを間違えるとお終いだな......)



 心の中でそう呟きながら、何事もなかったかのように会談を開始した。



「今日、私が来たのはね? 君たち......パンティー(・・・・・)、だっけ?」


「いえ、バンディーです....」



 どう考えてもわざととしか思えないのだが......。



「あ、そうそう! その君たちバンディ―に、南東の村を襲って欲しいんだよね」


「「!!」」 



 私とジャスは同時に驚いた。



「南東ですか!? なんで急に....」


「さ~。その辺のことはよく知らなーい」


(南東....まさか......)



 ”南東”で思い出すのは、7年前のあの忌まわしい記憶。


 我々の初の依頼を台無しにしてくれたあの”村”だ。



「私は”ターニス”に頼まれて、ここに伝えに来ただけだからね~」


「「!!!!」」



 またも二人同時に驚愕する。



「あ、あなたが”ターニス”様ではないんですか!?」


「........」



 私は驚きを隠せなかった為、こんな質問をしてしまった。


 再び静まり返る空間に緊張が走る。



 ぷっ!!



 その音で再度、静寂を破ると目の前に座っている謎の人物は、先ほどと同じように笑い始めた。



「あーははは!!! やっぱり私のこと、ターニスと勘違いしてたんだ!! あーほんと面白すぎ!! ひぃ~、ひぃ~。お腹壊れる~」



 そんな目の前の少女を見て、ジャスと共に呆気に取られている。



(ほんと、なんなんだこの人は......)



 見た目や声などは本当にただの子供である。


 未だローブを被ったままだが、それでも体格などから少女であることは明らかだ。



「いや~ローブで上手いこと隠れるからさ。君たちを騙そうと思って、ちょっとやってみたんだけど......ぷ! こんな見事に引っ掛かるとはね! あはははは!!!!」


「そ、そうでしたか......」



 何がそんなに面白いのかわかりかねるが、ここは一先ず彼女に合わせておく。


 また先ほどのように暴れられても困る。



「ほんと、久々に笑ったよ~。ありがとね~」


「い、いえ....。ところであなたがターニス様でなければ、一体....どなたなのでしょか?」


「ん? 私はフォンセ。一応、第3階位(・・・・)だから。よろしく~」


「「!!!!!!」」



 今日一番の驚愕に、私とジャスは共に青ざめる。



 ”階位”とは、我々の後ろ盾をして下さっている”組織”の中でも、特に魔力に秀でた者のみに与えられる称号。


 必然的に”階位”を持つものが幹部の地位も獲得するのだ。



 そんな馬鹿なことがあるのだろうか.....。



 いや、先の力を考えれば納得はいく。おそらく先ほどの拘束時、この方は魔法を使っていない。


 あれは魔力のみ(・・・・)の圧力に違いない。



(こんなまだガ....小さい少女が、第3階位........)



 今はおもてなしとして出したお茶を飲んでいる。


 「これ美味しいね!」と言いながら、気に入ったのかジャスにおかわりを要求しているようだ。



 額に滲みっ出てくる冷や汗は一つの水滴となって頬を伝う。


 私は不安を飲み込むように喉を鳴らし、会話を再開させた。



「そ、それでフォンセ様。南東の村を襲え、とのことでしたが――」


「あ!」


「「!!」」



 私の言葉を遮り、何かを探しているように伺える。


 私もジャスも先ほどの”階位”の話から緊張は高まり、こんな小さな子供の一挙手一投足に神経を張り巡らせ、ほんの些細なことでさえ驚いてしまうのだ。



「あった! やばいやばい、忘れるとこだったよ~」



 目当てのものを見つけたのかローブの中から手が伸びてくると、その上には得体のしれない”黒い石”のようなものがある。



「これは......」



 それが何なのか皆目見当もつかなく、尋ねてみると。



「実験も兼ねてこれを使って襲って欲しいんだって。ターニスからの直々の依頼だからね?」


「! ターニス様の....直々......」



 その言葉に私は胸の高鳴りを感じた。


 これに成功すればきっと、念願の組織に入れてもらえるに違いない。



 ついに我々の、いや私の(・・)悲願を果たす時が来た。



 愉悦に心は疎か身体までも震わせていると、不意に少女の声が耳に入ってくる。



「とりあえず、これの使い方なんだけど。実際に見せた方が手っ取り早いよね?」



 徐に立ち上がった小さな体のその人は、床に倒れている私の部下の一人に近づくとなんの動作もなくそれを持ち上げる。


 そして、手に持っていた謎の黒い石を浮かせている部下の腹にねじ込んだ。



「がはっ!」



 その衝撃で意識を取り戻したのか、大きく目と口を開き、体はくの字に折れ曲がっている。


 貫通はしていないが、明らかに体内へと入り込んでいる手をゆっくりと引き出すと、手はどす黒い血にまみれていた。



 しかし、どうしたことか。部下の腹からは一滴も血が出てこないのだ。



「よし! これでおっけー! あとはこのまま出来上がる(・・・・・)のを待つだけだよ~」



 ”出来上がる”....とは何のことであろうか。



 そう少し疑問に思った時である。


 浮いている部下は急に苦しみ出した。



「うっ!......あ....あ......が....あ゛」



 もがいている彼の様子は尋常ではない。


 表情はもちろん、体の状態や発していた声はみるみる()ではなくなる。


 体は血管が浮き出ながら膨れ上がり、皮膚の色も変色していく。


 やがて頭だけを残し完全に人の姿を留めていないそれは、顔をこちらに向け何かを呟いた。



「じゅ....り゛ゅ......だず....げ......ぇ」


 パンッ!!



 それは最期の言葉を残し、頭を飛散させた。


 部屋に飛び散る無数の鮮血。



 すでに何人か目を覚ましていた他の部下たちは恐怖で腰が抜け、隣にいる私の右腕は他の者とは違い、嬉しそうに卑しそうに笑っている。


 一番近くにいた第3階位のその人は、「わーい! 雨だ~!」と言いながら部屋の中をはしゃぎ回っていた。



 血を出し尽くしたのか血の雨は次第に収まっていく。その発生元であったそこには、首から新しいそれがはい出ようとしている。


 ゆっくりと姿を現したそれは、今までに見たこともないような醜いものであった......。



 黒いローブを被った少女はその化け物に躊躇なく近づくとこう言う。



「この可愛い子を使って村を襲って欲しいんだって。直接作った主人の命令なら何でも聞くから! 例えば....あ! あいつ、殺してみて?」



 そう指で示すと、同時に歩み出した化け物はゆっくりと指名された部下に近づくと、無造作に腕を振るう。



 ブシュッ!!



 避けきれなかった部下は脚の3分の2ほどを残し、体の上半分以上が完全に消滅した。



「おー! やるね~。このまま私のペットにしようかな~」


(は、はは....素晴らしい!!)


「気付いてると思うけど~、この姿になると前みたいに知性とかは無くなっちゃう代わりに、魔力が飛躍的に伸びるんだよね~」



 フォンセ様の言う通りだ。


 人のままであったら、先ほど消し飛ばした彼よりも魔力で劣っていた。そんな彼を瞬殺できるほどの力を身に着けているのである。


  

「こ、これを一体、どれ程の数、使ってよろしいのですか?」


「んーそうだね~。よっと! これくらい?」



 そうやってローブの中から出てきた袋をテーブルの上に置くと、その中にはぎっしりとあの”黒い石”が詰まっている。



「こ、こんなに!......」



 私は興奮が収まらず、袋を触ろうとしている手が小刻みに揺れていた。


 隣で見ていたジャスもまた私と同じようだ。



「全部使ってもいいし、使わなくてもいい。好きなように使っていいってさ」


(使わないなんて手があるか! 部下だと色々と問題が生じるが......。幸いなことに我々には――――)


「あ! あとね~」


「!」



 心の中である計画が浮かんでいたのだが、少女の声で引き戻される。



「これを言ったら”ジャス君が喜ぶかもしれない”って、ターニスが言ってたんだけど~」


「俺が?」



 ジャスが喜ぶこと....まさか......。



「”例のじいさんを殺してこい”ってさ~。今回襲って欲しい村も”そこ”だから!」


「「!!!!!!」」



 先ほどに勝るとも劣らない、驚くべき朗報だ。



「あのじいさんを......俺の片腕を奪ったあのじいさんを......やっと、やっと........殺せるぜぇぇ!!!!」



 歓喜に狂っているジャスは体を反らし只管(ひたすら)笑っている。



「んじゃ! あとは頼んだからね~」


「わかりました。必ずご期待に沿えるよう努力します」



 私は部屋を出ていこうとしているその人にそう言って頭を下げた。



「あ! これも忘れるとこだった。はい」


「!」



 その”忘れ物”を部屋の入り口付近から投げてくる。



「それは君とそっちの君へのプレゼント。これもターニスからの直々のものだから」


「これは――――!」



 ターニス様からの品を受け取り、物の名前を呼ぼうとした時だ。


 忘れていた恐怖が蘇る。



「ここまで用意したんだから....失敗したらどうなるか..........わかるよね?」



 声は低く再び部屋の端から端へ、黒く重たい魔力で包まれた。


 先ほどよりも弱いのか、それとも慣れたからか、部下たちは後退りしながら壁際まで逃げている。


 俺とジャスはこれよりも重い直接的(・・・)な魔力を感じていた為か、一歩下がったものの、今度は声を出せるようだった。



「はい....お任せください。必ずや成功してみせます....」



 私は第3階位であるその人の目を見つめながらそう呟くと、一瞬で部屋に充満していた魔力が亡くなり、返事が返ってきた。



「あっそ。まぁ私は何でもいいんだけどさ! じゃあ、せいぜい頑張ってね~」



 そう言い残し、フォンセ様は部屋から出て行ったのだ。 




 ――――――――――――――――――――




 赤いお酒を注ぎ入れたグラスをゆっくりと回しながら堪能している。


 そうしていると反転して映った自分が見える。



「あと20日....。そろそろ準備しておかなくてはな......」



 そう呟き、グラスの角度を少し変えると、奥の方で光輝くものがあった。



「ターニス様。今しばらくお待ちください......」



 手にしていたグラスをテーブルへと置き、それを手に取ると口づけを交わし、誓いを立てる。


 唇を離しそれを左手に持ち替え、右手の人差し指へとはめた。


 そして、その光景をいつものように浸った後、壁にかけていた”マップ”を目にする。



「待っていろよ......」




 一つの大陸の書かれたその”マップ”には、いくつか名前の書かれた場所がある。


 主に大きな都市のみに記されたものだが、右下の隅にある小さな村には名前を手書きで記載し、赤い円で何周もした跡が残っている。




 荒々しく書かれたその村の名前は――――”イニツィオ村”。




読んでいただきありがとうございます!


もし分かりづらかったら

Twitterでも感想でもいいので

言ってもらえると幸いです。

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