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14話 盗賊の少年2

※アルセ視点です


 扉の淵が茶色に光り、”ボシュ....”という小さな音を立てながらドアは通路側に倒れ始めた。


 すると倒れていた扉は途中で勢いを無くし浮遊する。


 そしてそれを静かに部屋の中に置き、通路の左右を確かめる。



「誰もいないみたいだな......」



 俺は部屋から飛び出し颯爽と駆け出そうとした。


 しかし、走り出すのと同時に隣の部屋のドアが開き始める。



「!!」



 驚きながら加速しようとしていた体を停止させ身構えた。


 もし他の子供たちも同様に”上がり”になっているのなら、隣の部屋からも連れて行こうとしている可能性は十分にある。



 薄暗い通路に光を放射しているその入り口に神経を張り巡らせ、喉を鳴らした。


 しかしながら予想は大きく外れ、一人の男の子が出てくる。



「アルセ兄ちゃん......どっか行っちゃうの?」



 その子は数日前に仕事中に転んで蹴られていた男の子だ。


 俺はすぐに傍まで駆け寄り目線を合わせながら、その子の頭に手を置く。



「だめだろ? もう施錠の時間なのに扉を開けちゃ。すぐにあいつらが来るから部屋に戻りな?」



 俺は小さな声で優しくそう言うと、男の子は泣きそうな声で俺に話してきた。



「さっき、サイ兄ちゃんが連れていかれたんでしょ? 声が大きかったから聞こえてきたんだ......。アルセ兄ちゃんもいなくなったら....ぼく、ぼく......」



 喋りながら次第に涙を滲ませ言い終えた後、腕で目を擦りながら立っているその子を見つめ、俺ははにかんで小さな声で囁いた。



「大丈夫! サイを連れて戻ってきたらみんなでここを抜け出そう。すぐに迎えに来てやるから大人しく待ってな?」



 その言葉に男の子は安堵したのか嬉しそうな表情に変わると「うん!」と笑顔で頷いた。



「俺は今からサイを連れ戻しに行くから、早く――」



 そう言いかけた時だ。少年が徐に何かを手渡してきた。



「これ....よかったら持ってって」


「これは......」



 そう言ってその子が手に持っているのは”小さな瓶”。


 これは先日、果実水が入っていた物だ。しかも一つではなく三つも。


 それだけで俺は何を意味しているのかを理解し、再び少年の頭を撫でる。



「ありがとう......大事に使うよ」


「うん! いってらっしゃい!」



 お互い小声のまま言葉を交わし、通路を素早く駆け出した。



 ここは山を掘って作られた住処である。


 最下層が採掘場になっていて、俺たちの部屋は最上階の一つ下の階に位置している。


 その階の階段の入り口付近に食料をもらえる部屋があるのだが、そこの前には奴らが見張りとして一人配置しているのだ。


 もちろん見つかれば戦闘は避けられないだろう。俺はそれを承知で走っている。


 射程距離に入ったら透かさず攻撃を仕掛けるつもりだった。



 しかし部屋の入り口が視界に入ってくると、どうやら見張りがいない。さらに奥の部屋への入り口も開いている。



(なんだろ....罠か?)



 奥の部屋へと続く扉を静かに動かすと、周囲を確認して中へと入る。



 普段は食料をもらう時以外はここへ来たことがなく、その為鍵がかかっていないことが不自然なのかどうか分からなかった。



 それでも今はこの出来事を幸運と思うしかない。



 そう言い聞かせながら水が溜まっている桶に向かうと、先ほど男の子からもらった瓶すべてに水を汲み、普段から所持している小さな革袋にも水を補充した。


 小さいとは言え、どれも水を目一杯入れたのでそれなりの重さにはなってしまったが、それでもこれから先必要になるものだ。


 瓶は腰のベルトの隙間に挟み、袋はいつものように腰からぶら下げた。



 装備(・・)を整えた俺は、再び入ってきた入り口に近づき通路を確認する。


 未だに見張りは来ていない様子で、辺りは不気味なほど静寂である......。


 意を決し外に出ると、今度は階段を素早く駆け下りた。



 俺の記憶では”上がり”が決まった子供たちは、おそらく牢屋のような所に入れられる。


 さらにそれは会議などを開く大部屋の近くにあったはずだ。



 最下層よりも二つ上の階の入り口で減速すると、壁に沿って進み顔だけを出して周囲を確認する。



(待ってろよサイ! もうすぐお前のところに行くからな!)



 息を切らしながら心の中でそう思い、ゆっくりと歩み出そうと足を動かした。


 片足がゆっくりと地面に着き、体も動き出した時。急に右半身が冷たくなっていくのを感じた。



 周囲の気温が下がったのか、それとも何かの寒気を感じたのか......。



 時間の流れが遅くなったように、徐々に目が右側を向いていく。


 さっき確認した時には誰もいなかったはずのその場所に立っていたのは、右腕を通していない服がゆらゆらと揺れている人物。少し長い癖の強い髪を揺らしながら、不敵な笑みを浮かべている男だ。



 俺の目はまだ向ききっていないが、そんなことはお構いなしに甲高い声が耳に響く。



「あれ~? おかしいなぁ。もうとっくに部屋の鍵は施錠されてるはずなんだけどなぁあ? お前....こんなところで何してんの?」


(ジャス!!!!)



 ようやく現状を判断した脳が体を動かし、急いで後ろに飛び退いた。



(体勢の整ってないこの状況で攻撃しても防がれるだけだ! 一旦距離を取ってから――)



 ゴッ!!



 そう思考していた俺の視界は急に回り始め、どのタイミングで鳴ったのかわからない鈍い音が耳に入ってくる。



(......え?)



 混乱している俺は頭が働いておらず、続いて背中を強打した。壁にぶつかったのか、それとも地面に落ちたのか........全く分からない。


 ゆっくりと手を地面に着いて上体を持ち上げると、そこでようやくどこを攻撃されたのか理解した



 遅れてきた右頬の痛み。


 右手の甲で口元を拭うと、手には血が付いている。



 そんな俺を見たジャスはがっかりした様子で、口を開いた。



「あー....まじかよ。こいつやっぱりゴミじゃん。こいつもとっとと”捨て駒”にすればいいのによー。なんで”あいつら”はこんな奴に目をかけてんだか......」



 両手を上げ頭を横に振りながら、疑問を呟いている。



 いくつか気になるワードが出てきていたが、まだ俺の思考は覚束ない。


 それでもいつまでも横になっていてはだめだと思い、震えながらゆっくりと立ち上がると、口笛が聞こえてきた。



「ぷゅ~。へー立ち上がれんのか。上手いこと魔力で防いだわけだ」



 さっきまでとは異なり驚いた様子で、称賛の言葉が飛んでくる。



 基本的に俺は日頃から魔力で体を覆ている。


 それは魔力の操作性の向上に役立つと思い、もう7年近くやっていることだ。


 つまり数日前の裏拳に関しても魔力で体を覆っていた為、ほとんど痛みはなかったのである。



 しかし今は違う、裏拳の比ではない。


 視界はかすみ、頭は朦朧(もうろう)としている。



 目の前の男が罵倒や称賛していようが、そんなことは全く気にならない。


 今考えなければならないのはこの状況をどう打破するかだ、他のことに頭を使う余裕などなかった。



(なんだよ....さっきの....。全然....見えなかった。ただ....殴られただけなのか?)



 別に油断したわけではない。


 ちゃんと魔力感知は行っていたし、目も奴から一切離さなかった。


 奴がしたことが何なのか皆目見当もつかない。



(さっきもそうだったけど、全く気配がなかった......)



 脳が回復してきた為、次第に言葉がはっきりしてくる。



 この階に進み出る前の警戒でも魔力感知はしていたのだが、それにもかかわらず突如として奴は現れたのだ。


 一体どんな魔法を使っているのだろうか......。


 しかし、ここでいくら考えようとも”奴が突然現れたこと”と、”奴の攻撃手段”が必ずしも一致するとは限らない。もしかしたら魔法ですらないのかも....。


 自分には”魔法”に関する知識があまりにも少なすぎるのだ。

 


 分析するほどの知恵がなければ、今やることは一つ......。



「ま~あ? それができたところで? お前は俺には勝てない。さっさと部屋に戻れ」



 俺との実力差がわかっているのだろう、随分な余裕だ。


 そんな挑発には乗らないと思いながら冷静に奴の行動を警戒していると、欠伸(あくび)をしながら続いた言葉に思考が止まる。



「ふぁ~。これから”あいつ”の”上がり”の手続きをしなきゃならねーんだからさ、ったくめんどくせー」


(な――――!!)



 ”あいつ”――それが誰なのか俺にはすぐにわかった。


 やはりここで出し惜しみしている場合ではない。それでも魔力を使い果たせば終わりだ。


 まだここには()が残っているのだから......。


 魔力が無くなる前にけりをつけるしかない。



 すでに終わらせていた仕込み(・・・)を再度確認し、目の前のジャスに集中する。


 魔力を高め始めた俺に気付いたジャスは、先ほどまでの腑抜けた顔から一変した。



「おい....お前何やってんだ。まさか俺と殺り合うつもりか....。随分と......舐められたもんだな!!!!」



 不気味に小さく呟いていた言葉は最後、咆哮へと変わる。


 俺はそれとほぼ同時に片手を奴に向け、周辺の壁を使った土魔法で攻撃し、次々に変形する岩たちは鋭い針のようになって襲い掛かるが、ジャスはそれをいとも容易く避けきる。



「遅い遅い! こんなの目を瞑っても避けれるぜ! それにしても、こんなに魔法が使えたとはな」



 奴の言葉に耳を貸す暇などない。


 俺は後退しながら片手で壁に魔力を注ぎ、もう片方の手で奴に攻撃しているが、十数メートルはあった距離はみるみる短くなっていく。



「おいおい....まさかこんな力で俺に勝とうとしてたのか? 拍子抜けもいいとこだー....なぁ!!」



 そう言って近づいてくるジャスは、やがて俺が吹き飛ばされた位置まで到達する。


 そして......。



「!!!!」



 ジャスは驚嘆の表情を浮かべながら急に動かなくなり、足元を見つめている様子だ。



「こいつは....」



 奴の両足には水の塊が付いていた。それによって動きを封じられているのだ。



「ちっ! ったく、ほんと面倒な――――っ!!」



 そう呟きながら俺の方に視線を向けたジャスは、さっきよりも驚いた様子でこちらを見やっている。



 それもそのはずだ、俺の容姿(・・)がさっきまでとは違うのだから......。



「アルセ....お前やっぱり、騙してやがったな......」



 少し焦ったような表情でそう言葉を吐くジャス。


 俺は閉じていた瞼を開く。



 その瞳はいつもの茶色ではなく、鮮やかな淡い青。


 普通の青よりは少し薄い色で水色に近いが、みんなから「綺麗な青だね!」と言われたことがある。


 そして、髪も同じだ。


 普段の茶髪ではなく、水色っぽい髪。



 松明しかない暗い通路では俺のこの姿ははっきりと見えるだろう。



 ゆっくりと両手をジャスに向け魔力を込める、すると先ほどまで足に球体を作るほどしかなかった水が、急激に肥大化しジャスの体を包む。


 俺の変化に気を取られ油断したのか、反応が遅れた奴は何も抵抗することなく水球体の牢獄に閉じ込められた。



「中は水だから、はぁ....そのままそうしていれば、はぁ....時期に窒息するだろ? はぁはぁ」



 俺は土魔法の陽動から大量の魔力を使っていたため、既に息が上がっていた。


 それでもここで気を抜くまいと両手を水球体に向けながら立っていると、ジャスが話しかけてくる。



「お前....水なんてどこに持っていた? いや、持っていたとしても水を取り出す素振りなんて見せていなかったはずだ。どうやって....」



 訝しそうに質問してくるジャスに俺は煩わしい表情を浮かべたが、答えてやった。



「お前のおかげだよ」


「あぁ?」


「お前が俺を吹っ飛ばしてくれたから、ここにあった瓶が割れたんだよ」



 そう言いながら、先ほど上の階で腰に身に着けていた小瓶があった場所を見せた。その証拠に少し服が濡れている。


 先ほどもらったばかりの三つの小瓶を挟めていた場所には一つも残っていない。


 壊してしまったことは後で謝ろう。



 質問を聞いて納得したのか降参したように両手を上げるジャスは、顔を横に振ると再び水の中で口を開いた。



「なーるほどな。仕方なねぇ。俺がお前の力を見誤ったようだ。潔く負けを認めてやるよ......」



 言い終わると顔を上に向けて、動かなくなった。



(やったか? やったの....か?........)



 両手で水球体を維持しつつ、ゆっくりと近づき奴を確認する。


 少し水球体を動かしてみたが全く動く気配がない。死体のようにただ浮かんでいるだけ......。



 俺は安堵し両手を下ろす。


 それと同時にゆっくりと地面に着地した水球体は、やがて崩壊していく。



 ドシャ!!



 という音を立てながら地面に落ちたジャスはピクリとも動かない。



 俺は腰を落とし、その勢いで仰向けに倒れる。



「あーー、しんどい......」



 数秒の溜めを作り叫んだ。



(まさか、あのジャスを倒せるなんてな....。やっぱり俺は特別なんだ....)



 俺は寝そべりながら顔の前で拳を作り、それを強く握り見つめながらそう思った。



(エイユウゾクってすげーんだな....。これで......父さんと母さんの仇の一つは取れたかな......)



 目を瞑り顔も見たことのない父と母のことを思い浮かべる。



 すぐに目を開けゆっくりと起き上がると、ジャスを見下ろしその場を後にした。




 どれ程走ったかわからない、消耗した体を押して歩みを進める。


 疲弊したこの状態では魔力を身に纏うことも、素早く走ることもできないが、今自分が出せる最大の速さで駆けた。



 そうしていると通路の終わりを視界に捉える。


 直ちに右側の壁に背をつけた俺は、ゆっくりと通路の端へと進む。


 そこに辿り着き辺りを見回すと、左手に会議をする大部屋と思われる部屋の扉が見えた。


 明かりが付いているようだが、扉は閉まっていて外の様子は気付かれないだろう。


 流石にここまで抜け出せないと踏んだのか、見張りもいない。


 音を殺しながら素早く部屋の前を通過すると、全速力で疾走した。



 すぐに牢屋のような部屋が併設された通路に出ると、そこからサイを探し始めた。



(サイ! どこだ!)



 どの牢屋を見ても誰も入っていない。


 ここではないのか、という焦りが増してくる。


 他の場所であるとすると、どこなのか全くわからない。



(やばい! 早くしないと! ジャスのことがバレて、すぐに追手が来る!)



 そう思った時だ。


 俺の足は止まり、ある一つの扉の前で立ち尽くした。



「なんだ....ここ」



 一つだけ不自然にある扉。


 他の部屋とは明らかに違う。


 魔力感知を行使し反対側に誰もいないことを確認すると、ゆっくりと扉を開けた。


 そこには短い通路があり、数メートル先の視界で捉えられるほどの距離に階段が見える。



 ここで合っているのかはわからない。


 もしこの先の普通の牢屋にサイがいたら、完全に遠回りになってしまう。


 それでも俺の中の何か(・・)が、こっちだと教えてくれるのだ。



「もしかして......これか?」



 そう言って胸元から取り出したのは、ペンダントである。



 これは数年前。


 サイと発掘作業をしている時に珍しい石を見つけ、奴らには黙ってこっそりと持ち帰った石を魔法で加工したものだ。


 大きさ的に二つのペンダントができたので、二人でそれぞれ持つことにしたのだ。



 もしばれても二人で罰を受けるように......。


 そして、俺たちは二人で一つなんだ......と。



 それを胸元にしまうと、迷いのなくなった表情で再び駆け出した。


 階段を上り、やがて光が見えてくる。


 それに合わせて魔力感知を行う、すると反応が一つ。



「!! これは!」



 それは紛れもなくサイの反応だった。


 この17年間、ずっと傍にいた親友の魔力。


 間違えるはずなどない。



 嬉しさのあまり涙が出そうになったが堪える。


 サイを助けた後は他の子供たちだ。


 みんなでここから抜け出すのだから、サイとの再会で喜んでいる場合ではない。



 そう決意を新たにした表情で階段を上りきると、周りのことなど気にせずに叫んでしまった。



「サイ! 助けに来たぞ! すぐにここから出――――!!」



 発した言葉は途絶えてしまった。


 俺の目の前にいるものを目の当たりにして........。



「サ....イ?........」



 さっき確認したように、この上の階にはサイの反応しかなかった。


 つまりここにいるのは紛れもなく”サイ”なのだ。


 しかし、俺の目線の先にいるのは........。



 体は2メートル程はあり筋肉が隆々としていて、さらに皮膚は黒く毛のようなものも生えている。


 頭に関してはどう考えても人間ではないフォルム。


 左右から角を生やし、左右に突き出たそれは途中で折れ曲がり上方を向いている。


 口は動物のようでうっすらと牙のようなものも見え、目は真っ赤である。



 どうやら鎖に繋がられているようだが、鼻息を立てて今にも襲ってきそうだ。


 俺はどうしていいかわからず、後ずさりしてしまった。すると何かにぶつかる感覚がある。



 この後ろは階段だ、何も障害物になるようなものなどなかったはず......。


 そう思いながらゆっくりと振り向き始めると、途中で思いもよらない声が聞こえてきた。



「あれ~? おかしいなぁ。もうとっくに部屋の鍵は施錠されてるはずなんだけどなぁあ? アルセ? こんなところで何してんの?」



 聞き慣れた甲高い声。


 ついさっき聞いたようなセリフ。



 驚愕の表情で目を見開いたまま振り向くと、予想していたその男を視界に捉える暇もなく、殴り飛ばされた。



「がはっ!」



 俺は部屋の右側の壁に飛ばされ強打。


 その衝撃で壊れた壁の破片と一緒に俺も地面に落ちる。



 魔力で身を守っていたあの時とはわけが違う。


 今回殴られた場所はどうやら腹のようだ。


 遅れてくる激しい痛みと吐き気。


 俺は状態を持ち上げることもできず、横たわったまま呻いていた。



「あ~あ。見られちまったか~、すまねー。でもやっぱりこいつ、俺たち(・・)を騙してたみたいだぜ?」



 霞む意識の中で聞こえてくるジャスの言葉。



(俺....たち? まさ....か......)



 そう思いながら視線を階段の方へ向けると、もう一人の男が現れた。


 この盗賊の首領にして俺の両親の仇である、クレフティス・ダール。



「ああ。どうやら、あいつらの言ってたことは本当だったみたいだな....」



 落ち着いた雰囲気とは裏腹に周りの空気が重くなる感じ。


 あの時と似ている......ジャスの激昂を静めたあの時と........。



(ま....じかよ....。あいつまで来たら....勝ち目なんて......ない。どうすれば......)



 クレフティスよりも弱いジャスにすら勝てない俺が、どうしたって勝ち目などない。



(もうここはイチかバチか、全力の魔法を放つしかない......)



 俺は言うことを聞かない程震えている体をなんとか持ち上げると、革袋の蓋を開けた。それと同時に魔力を高め容姿が変化する。


 それに気付いた二人は視線をこちらに向けると、クレフティスが口を開いた。



「ほー、間近だとここまで魔力が上がるのか。見た目はあいつらが言ってた通りだな」


「だろ? 俺も最初見たとき焦ったぜ。まさか”お伽噺のエルフ”みたいに髪や瞳が本当に変化するなんてよ!」



 明らかに余裕そうな二人は俺が魔法を行使しようとしていることなど、お構いなしと話し込んでいる。



「くっそ....」



 体力も魔力も残ってない今の状態では、か細く囁くことしかできない。


 俺は覚束ない足を支えに頭上で形成している水球体を奴らに向けて投げつけた。


 水の塊は勢いよく飛んでいき直撃すると思った瞬間、それははじけ飛び周囲に飛散する。


 何が起きたのか全く分からない状況で硬直していると、突然俺の視界が思い切り歪みだした。



(え?....なんだ、これ......)



 世界は反転しぐるぐると回り始める視界に耐えられなくなった俺は、膝をつきゆっくりと地面に横たわる。


 すでに限界近くまで魔力を使っていた為か、ジャスの攻撃によるものか、なぜこうなっているか分からないが、そんなことを考える余裕すらない。



 薄れゆく意識の最中、視界に入ってきたのは部屋の中央で鎖に繋がれている黒い獣。こちらに顔を向け口を動かしているようだ。



 何と言っているのかわからない。



 しかし、なぜかその獣を見て、心の中でこう呟いたのだ。



(サイ....ごめ....ん........)



 視界は次第に狭くなり完全な闇になる。


 そこで俺の意識は途切れたのだ。




 気を失った俺を見つめ、なぜか涙を流している黒い獣のことなど......分かるわけもなく........。



読んでいただきありがとうございます。


もう1話書いたらハルト視点に戻りますので

何卒お付き合いください。


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