11話 魔法を使ってみよう※修正中
※2018年6月17日加筆・修正しました
イニツィオ村まで買い出しに行った翌朝。
まだ辺りも薄っすら暗い早朝である。
そんな時間から一人、黙々と常日頃から行っている”日課”をしていた。
ブン! ブン!
何かを振るう音だけが周囲に響く。
(昨日できなかった分、少し多めにやっておくか....)
そうして夢中でやっていると、突然目に日差しが突き刺さる。
眩しさで動作を止めて片手でその日差しを遮り、その光の出所に顔を向けた。
「もうこんな時間か......そろそろ家の中に戻っとかないとな」
時間を忘れるほど集中していたようで、片付けを済ませ静かに速足で家の中へと戻った。
「おはよう! よく眠れた?」
「おはよう。うん、おかげさまで」
俺は昨日買ってもらった部屋着で就寝したのだが、これがもの凄いのだ。
なんでも魔力を込めて作られたものらしく、寝つきが良くなったり、疲労回復など様々な効果があるらしい。
これを買ったのは、昨日ルナも少し触れていたイニツィオ村の多くの人々が利用しているであろう商店街とは違う、裏通りにある店だ。
日用品や普通に使いそうなものはどうしても表通りで購入していたが、昨日回った店の大半が裏のお店だった。
外見からしても店内の様子からしても、明らかに怪しそうな一般的じゃないお店。
村人とのことを考えるとそうせざるを得ないのかもしれないが......彼女のことが少し不安になった。
しかし、いざ店の主人や店員などに話しかけると、表の時とは違い、普通のありふれた買い物の風景がそこにはあったのだ。
どうやら会話などを聞くとルナは裏のお店の常連客のようで、親しげに楽しそうに笑っていた。
そんな彼女を見たら、初めに思った不安なんかすぐに吹き飛んでしまう。
ただ....俺はまだ馴染めそうにはない......。
だってみんな顔や腕とか傷だらけだし、眼帯付けてる人とかいるし、なんかどの店に行っても睨まれるし......。
俺のことはいいとして、そこで購入したこの部屋着は本当にとんでもない代物だ。
それは間違いない。
「今日は仕事ないし椅子にでも座って待ってて、今、朝ご飯作っちゃうから」
「俺も何か手伝うよ?」
「いーのいーの! 待ってて?」
相変わらずの笑顔でそう言ってくる。そんな顔で言われては仕方がない。
俺は「うん....」とだけ答えると、そのまま席に着いた。
(あんな可愛いのになぁ......)
俺は東京に住み始めてから九州の田舎にいては到底出会うことのできない、とても綺麗な人には何度も遭遇してきたつもりだ。
もちろん巷で有名な芸能人やモデル、あるいはそういう関係の仕事にスカウトされそうな人など、多くの美人さんを見てきた。
それでも笑顔だけでここまで惹かれる人には出会ったことがない。
元の世界では友達すらいなかった俺が、こんな可愛い子と親しくなれるとは....。
彼女の笑顔を見る度に、本当は夢なんじゃないかと思ってしまう。
(少し容姿が変わるからって、みんな怖がり過ぎなんだよなぁ)
確かに昨日ゲイブさんが言っていたように、未知のものは恐れてしまうものだ。
しかし、この世界では”魔法”という特殊なものが反映しているではないか。
それにもかかわらず、たかだか”容姿が変化する”ということで大袈裟な気がする。
俺自身は散々漫画やアニメを見てきているから、驚かないというのもあるのかもしれないけど......。
容姿が変わると言えば、俺は100年以上前に人気だった”ドラゴン〇ール”が好きだ。
あの物語の主人公も、髪が変化して強くなったりしていた。
俺の中でも上位に食い込むほど面白いと思う漫画である。
まぁそれは置いておこう。
どうにかルナのことを理解してもらえる術はないものか....。
「何やってるの? ほら、ごはん食べよ?」
考え込み過ぎていて、いつの間にかできていたご飯は、すでにテーブルに置き終わっている。
「な、何でもないよ。じゃあ食べようか」
最初の所作は、ルナが最初の部分を言い終えた後、最後の「いただきます」のところだけ一緒に言うことで定着していた。
朝食を済ませ、食器の片づけも終わらせた俺たちは、それぞれ服を着替えて庭に出る。
「なあ、ほんとにこの服でするのか?」
「もちろん! せっかく君のために作ってもらったんだから、着なきゃ仕立て屋に申し訳ないじゃん。なーに? 嫌なの?」
「い、いやー、スゴクカッコイイナー」
ルナの顔が少し怖かったので、とりあえず嘘でも褒めておく。
この服は裏通りの仕立て屋にあつらえてもらったもので、部屋着と同様に魔力が込められている。
その魔力のおかげで丈夫にできているようで、どうやらこっちは弱い魔法ならある程度は防いでくれるらしい。
俺の服装は下が紺のパンツに、上はシャツみたいだが前が着物のように交差した感じで、紺色の生地をベースに白と黄色の柄で出来ている。
あまりお洒落とかには興味がないが......ちょっと恥ずかしい。
確かにこの服はかなり軽く、伸縮性も十分あって動きやすいから、仕方がない。
一方、ルナの衣装は、上は青と白の模様でできたシャツみたいなものを主体とし、黄色やオレンジなどの柄がついている。下はショートパンツを履いているにもかかわらず、それよりもほんの少し丈の長いスカートで構成されているのだ。
ちょっと見えそうで見えない......まぁ見えてもショートパンツなんだけどさ。
童貞であるこの俺には少し刺激が強い。
「っ! さ、さぁ! それじゃ早速、”魔法の特訓”を始めていこうか!」
「あ、うん、よろしくお願いします」
俺が彼女の服装を観察していたのに気付いたようで、いきなり開始された魔法の訓練。
心なしかまたルナの顔が赤いような?
どうしてこんなことになっているのかというと――――昨日の青果店からの帰り道。
――――――――――――――――――――
先に外へ出ていたルナに呼ばれ、急いで彼女の元へと駆け寄った後。
ゆっくりと今朝来た道を帰っている途中。
「さっき何してたの?」
「少しゲイブさんと話してただけ」
「ふーん、そっか」
少しつまらなさそうに、しかしどことなく嬉しそうに彼女は呟いた。
俺はなぜそんな表情をしているのか分からなかったが、機嫌は悪くない様子なので特に詮索する気にはならない。
やや前を歩いている彼女の横顔に向けていた視線をゆっくりと上げると、そこには今日買った大量の荷物が浮かんでいる。
もちろん俺も背中のリュックや両手に荷物を持っているが、前方では鼻歌を歌いながら後ろで手を組み平然と歩いている。
本当に魔法とは便利なものだ。
「そういえば....」
「ん?」
不意に声が出てしまった。
そのため彼女の反応にやや驚きながら応える。
「ル、ルナも風魔法使えたんだったね」
「まーね! でも火に比べるとぜーんぜん。火魔法だったらもっと楽に持てるんだけどなー」
(え? い、いや、火なんかで荷物持ったら全部焼けちゃうから)
ルナの言動に内心でツッコミを入れていた
(......ん?)
しかしなぜか、その言動に少し違和感を覚えた。
それがなんなのかはっきりしない。
少々考え込みながら歩いていると、ふと彼女の視線を感じる。
「??」
やや前にいる彼女は後ろ向きで歩きながらこちらを見続けている。
無言のまま微動だにしていない。もちろん歩いてはいるのだが、足以外は全く動いていない。
俺は歩きながら上半身だけを左右に振ってみると、それを追うように彼女の顔も動く。
完全に彼女は俺に照準を合わせているようで、ずっと俺から目を離さない。
「ど、どうしたの?」
そろそろなんだか怖くなってきた俺は、初めからそうすれば良かったのかと思いながら彼女に声を掛けた。
「いやさー、昨日の湖の時からちゃんと君の魔力を感知してなかったんだけど、多分昨日よりも魔力が増えてる気がするんだよね」
「......え?」
(ま、まさか........)
「と言っても普通に魔力が発現した人と比べると全然なんだけどさ。多分昨日の倍以上はあるんじゃないかな?」
俺は震える身体を必死に抑えながら、彼女に悟られぬように――。
(皆さん遂にきました。チートです。異世界物語にありがちなチート能力です!!)
もう本当に内心は喜びのあまり変に浮かれている。
今朝の青果店で描いた夢が再び作り上げられていく。
(チートで最強になって、ハーレム天国....)
もちろん顔には出さないようにしていたつもりなんだけど......まぁ流石に無理だったみたい。
「ハル....大丈夫?」
彼女の言葉で我に返る。
「だ、大丈夫! 大丈夫、大丈夫」
果たして外見はどんなことになっていたのか......想像したくもない。
落ち着きを取り戻した俺は、今度は冷静に今の状況を分析してみた。
(魔力が増えてるって......そんな特別なことはしてないはず)
そう、昨日この世界に来てから現在に至るまで、別段変わったことはしていない。
(とするともしかして、”俺の体がこの世界に慣れた”....とかか?)
今知りえている情報だけではその程度の予測しか立てられない。
まず元々魔力のない世界にいた俺が、”わずかながら魔力を有している”ということさえも解明できていないのに、1日で色々なことがあり過ぎなのだ。
”異世界という特異な場所で魔力に触れ、内に秘められていた力が覚醒した”......と今は解釈しておこう。
「じゃあさ、もしかして俺にも魔法が使えるかな?」
俺は期待しながらそう彼女に尋ねた。
”魔力が増えた”ということは、”魔法が使える”という可能性はかなり上がっていると考えたからだ。
「んー......」
しかし、彼女は腕を組みながら何か悩んでいるようだ。
「できるかもしれないけど......死ぬかもよ?」
「え..........」
『死』――――。
「そ、そんなにき――」
”そんなに危険なものなのか”と再び彼女に問おうとした時。
「なーーんてね! 冗談冗談!」
「な....」
「大丈夫! 私に任せて!」
どうやら冗談らしいのだが......。
(ルナさん、全然冗談に聞こえないから......そういうのはやめて)
心の中は先ほどまでとは異なり、暗い表情に冷や汗をかいている。
「とりあえず、簡単な魔力制御の仕方からやってみようか!」
「よ、よろしくお願いします」
――――――――――――――――――――
そうして話しながら、俺たちは家への帰路を辿ったのだ。
そして、話は現在。
「じゃあ、まずは魔力を感じてもらうところから始めていかないとね。魔力だけを君に向かって放つから、ちょっとそのままそこに立ってて」
「わかった....」
そう言うと、ルナの片手がこちらに向けられる。
すぐに違和感は起こった。一昨日の”変化”の時程ではないが、何か圧をかけられているような、そんな感覚。
彼女は俺の反応を見て、静かに手を下ろした。
「どうだった? なんとなくわかった?」
「うん。何かから押されてるような感覚だったよ」
「うんうん、それが”魔力”ね?」
一昨日にも感じたように周囲の――今回は前にいるルナからの魔力だった為か前方の――空気から圧を感じるようなものだった。
「流石に魔力は感じられるよね。じゃあ次に”実際に魔力を使う”をやってみよう!」
「うん....」
「..........」
「..........」
俺とルナは二人とも前かがみになり、全く動かない。
「え?」
「え?」
お互いに顔を見合わせると、俺から順番に声を上げた。
「俺は何をしたらいいの?」
「だから”実際に魔力を使う”だよ?」
「え? だからそれはどうしたらいいの?」
「え? うーん......」
昨夜と同様に腕を組み考え込んでいる。
数秒の後、彼女の口から発せられた言葉は――。
「どうしたらいいんだろう?」
「......は?」
彼女は申し訳なさそうに少し笑ってそう答えた。
俺はもう開いた口が塞がらない。
彼女の話によると、どうやら魔力というものは一般的に”5、6歳頃に発現するのと同時に、自由に扱えるようになる”らしいのだ。
もちろんこの間の話にも出てきた、生まれた時から優れた魔力を有している稀な人――”高魔力保持者”は別である。
そういう者たちは物心つく前、というか生まれた時から魔力の扱い方を体で覚えているらしい。
つまり、俺はというと、すでにある程度の年齢になっていてわずかながら魔力を有している。その上で扱い方が分からないという、本当に稀なケースなのだ。
異世界転移? か何かしてきたんだから、俺の存在自体が極々稀なんだけどさ......。
魔法の訓練を始めて5分足らず――――行き詰まってしまった。
結局二人で考えた末、店主なら何か知っているかもしれないということになり、昨日に引き続き今日もイニツィオ村に行くことになった。
(昨日の夜「私に任せて!」と言っていたのはなんだったんだよ........)
そう思ったのだが、彼女は彼女なりに随分考えてくれたようである。
イニツィオ村に向かう途中、ふと彼女の顔に目をやると、若干だが隈ができているように見える。
きっと夜遅くまでどうしたらいいか考えてくれたんだろう......。
そうこうしているうちに村へと着き、昨日と同様に青果店へと向かった俺たちは、店の中に入ると店主が面白そうにしている。
「なんだ、もう来たのか。”近いうちに”って近すぎるだろう」
「あははは....。いや、ほんとに......」
店主の言葉で昨夜の自分の発言を思い出し、何とも言えない気持ちになった。
「んで、今日は何しに来たんだ?」
「実は......」
軽くここまでの経緯を説明し、”魔力の扱い方を知りたい”という旨を伝える。
店主は髭を触りながら少し考え込んだ後、「まぁここじゃなんだから上げれ」と言って昨日と同じように中へと案内された。
昨日のような配置に座ると、先ほどの説明に加えて、”俺の魔力が日に日に増してきている”ということも伝える。
「確かに....昨日よりも魔力量が格段に増えてるな」
(え?)
「しかもルナちゃんが言うように、3日前会った時には体を近づけなければ魔力を感じられない程度だったというなら......。たった3日で普通の人が魔力を発現する時の魔力量と、ほぼ同等の魔力量になっている....ということか」
(......まじで?)
「そうなんだよ。私も今朝、感知して驚いたんだけど、一晩でこんなに魔力が膨れ上がるなんて......」
(も、もしかして....これは......異世界チート主人公になれるのでは!!!!)
昨日の予想は的中していたのだ。
俺はやはり何らかの特殊な力がある。
(異世界の神様! チート能力をありがとう!!)
心の中で神様に感謝する俺を他所に、彼女たちは話を進める。
どうやら隣にいる彼は一人上の空でいるようだ。
そうして少しだけ彼に気を取られていると、前に座っているおじさんの声が聞こえてきた。
「元々、”ほとんど魔力がない”という時点で不思議な奴だったのになぁ」
「そうなんだよねー。ほんと、不思議な人だよ」
未だに横で何かに感謝してるようなポーズでいる彼の方に再び目を向けた。
出会った時から思っていた事ではある。
まず、私のあの変化を見ても怖がらない。
魔法のことは知らないと言っている割には理解力が高く、火や水などの魔素になるものの性質まで詳しいようだ。
ただ、それでも怪しくは思えない。
おじさんもそれは同様であるらしい。
私としては寧ろ一緒にいると少し安心する。
昨日の町の案内でそれははっきりしていた。
あれだけ憂鬱だった村での買い物が、彼と一緒にいるだけで凄く安心し、楽しいものへと変わっていたのだ。
なんでそうなのかは分からないが、きっと彼の優しさがそうさせてくれるのかもしれない。
今はそう解釈している。
「17歳で魔力が発現するなんて、聞いたこともないぞ」
出会って間もない、数少ない思い出を再生していると、ふと店主の言葉に意識が向いた。
「え? ハルって17歳なの?」
「ん?」
私と同様に何かを考え込んでいたおじさんは、俯き気味であった上体を私の問いに反応するのと同時に起こすと、返答してくる。
「ああ。昨日聞いたんだけどな。どうやらルナちゃんと同い歳みたいだぞ」
「へー。そうだったんだ....」
(もう少し年下かと思ってたんだけど....)
髪や瞳なんかに関する容姿は、昨日おじさんが話すまで気にも留めていなかったが、見た目の雰囲気や話し方なんかから、年下だと勝手に決めつけていたのだ。
「でもそろそろ18になるとか言ってたな。何だっけなー、スーシューカンとかなんとか」
「え....ええ!?」
”そろそろ18になる”ということは、私よりも早く生まれたということだ。
私はあと数十日しなければ誕生日を迎えない。
彼の言うそろそろがどの程度なのか分からないが、普通の言い方からしたらその日は近いのだろう。
(てことは....少しの間だけハルの方が年上になるのか......)
なんだろう、ちょっと悔しい気持ちがある。
「それで”魔力の扱い方”についてだが」
そんな店主の言葉で本題を完全に忘れていた私を引き戻してくれた。
「彼の体に直接、魔力を注いでみたらどうだ?」
「魔力を注ぐ?」
「俺も昔、文献を読んだことがある程度なんだが、”体内にある魔力に他者の魔力を注ぎ干渉することで、自身の魔力を感じ取れるようになる”というものがあるらしい」
俺は一人、この世界の救世主や勇者といった特別な存在になれるのではと興奮していた。
そして、やっぱり極めつけはハーレムだと思う。
だってハーレムを求めない男なんている? いやいないでしょ!
そうやって冷めやらぬ高揚を抱いたままでいると、不意にルナとゲイブさんが立ち上がった。
「え? なに?」
「じゃあ今言ったみたいにやってみるんだ」
「うん、わかった」
俺のことは完全に無視し、そう言うと二人は俺の背中側に来る。
チート能力に心躍っていて全く話を聞いていなかったため、これから何をするのか皆目見当もつかない。
「え、どうしたの?」
「いいから君は黙ってて!」
「は、はい!」
ルナは何かを店主からレクチャーされてるようだ。
「”魔力制御”の応用だ。彼の背中に手を触れて、自分の中の魔力を彼の中に注ぎ込むイメージだ」
「うん....」
そっとルナの手が俺の背中に置かれる。そして、段々と接している部分に違和感が生じ始めた。
「......行くよ」
「え?」
次の瞬間、後ろから何かがぶつかってきたような強い衝撃を受け、俺の体は思い切り仰け反る。
何が起きたのかわからない俺は、只々驚くばかりだ。
そして、すぐに体中が熱を帯びたような、凄まじい痛みにも似た感覚に襲われた。
俺はその場に蹲ると、小さな声で呻くことしかできない。
次第に俺の意識はどんどん薄れていき視界がぼやけてくる。
そんな意識の中、ルナは俺の名前を必死に叫んでいるようだが、それに答えることはできない。
そのまま俺の意識は途切れてしまう。
※2018年6月17日加筆・修正しました
読んでいただきありがとうございます!




