10話 異世界の歴史 ※修正中
※2018年7月17日加筆・修正しました
――――今からおよそ1000年前。
まだこの世界が複数の大陸で構成されていた時代。
それぞれの大陸には様々な人種の人々が暮らしていたらしい。
言語も複数に分かれていて、時にその壁が争いを招いたりもしていたが、人々はどうにか平和を保ちつつ生存していたようだ。
そんな時、ある国に一人の【魔導師】が現れた。
黒いローブを身に着け、フードを深々と被っているその人物は、ある国の上空に突如出現すると、一瞬にしてその国を滅ぼしてしまったという。
そのことはすぐに世界中へと広まり、様々な人種の人々は力を合わせ抵抗を始めた。
しかしながら、その【魔導師】は人の域を遥かに超える力を有していて、その当時の人々の抵抗など全く効かなかったという。
そして、人外の力を持ったその【魔導師】は魔法で大陸を変動させ、現在のこの大陸の元ととなる地形を形成した。
まさに”天変地異”。
正直言って、そんなチートレベルのラスボスみたいな奴は、ラノベのチートハーレム主人公に任せてのんびりしていたいものだ。
――――というか俺ならそうする。
そうして世界を手に入れた【魔導師】は大地の再構築に巻き込まれた人々や、抵抗してきた時に殺した者たちの死体を利用して、自らの手足となる”闇の生命体”を創造し、世界の気候や地形などを住みやすいように変化させた。
しかし、大地の再構成という凄まじい魔法の中でも生き残った人々は、その【魔導師】を討とうと人種を問わず結束し、一つの”組織”を作り上げた。
それからおよそ100年。
人間側は密かに身を潜めながら力を蓄え続け、【魔導師】を討つ機会を窺っていた。
もちろんその間には、【魔導師】によって生み出された”化け物”との戦いで、多くの犠牲があったようだ。
そんな様々な人々の死を乗り越え、遂にある弱点が見え始めた。
それは――――”寿命”。
いくら地球の形態を変化させる程の大規模な魔法を行使できる【魔導師】でも、寿命には勝てなかったらしい。
まぁそれでも100年以上生きて世界を支配してるだけで、元の世界の俺からするととんでもなく恐ろしいことなんだけど......。
それを機に弱体化し始めた”闇の生命体”は、人間側の全勢力を結集させ1体残らず殲滅していった。
そうして100年以上も続いた【魔導師】と人間側の戦いは幕を閉じることになったのだ。
ちなみにこの”組織”の中には特に魔法に優れたものが5人いたと言われているらしい。
彼らは100年の間に各基本属性において、最も力が特出していた人物たちで、つまり――――。
「つまり、彼らがさっき話した【セイヴィア】の各々の創始者らしいんだ」
「へー、そこまで詳しく聞いたことはなかったよ」
強面の店主がそう言い終えると、続いて今まで口を開かなかった金髪の少女の声が聞こえてきた。
言葉からも分かるように、彼女にとっても初の情報があったようだ。
(――――あれ?)
「そ、それで、俺の容姿のことはどうなったんですか?」
「うん....。さっきも言ったがセイヴィアというのは、”容姿が変わる”という特質を持っているわけだ」
「? はい」
「それは100年前の5人も同じことだったらしい。そして、もう一人。容姿の色について語られている者がいる。それは――」
――――もう一人。
さっき店主に聞いた時から少し嫌な予感はしていた。
この話の中で出てきた人物と言えば、それは――。
「【魔導師】だ」
「!!!!」
野太い声だけが部屋にゆっくりと広がった。
話を聞く前、”大体検討はついている、そんなに驚きはしない”、みたいなことを心の中で思っていたが、まさかそんなとんでもない奴と被ってるとは思わないよ。
なぜ先ほど隣の彼女があれほどまで慌てていたのか理解できる。
部屋には静寂が満ち、どのくらいそうしていたか、やっと店主が続きを語り始めた――のだが....。
「”お伽噺”の中で魔導師は、”黒い衣を身に纏い、漆黒のアーイと暗黒のヘーアを有していた”とされているんだ」
「........」
「......ん?」
(なんだって?)
ちょっと待って欲しい。
「”お伽噺”は元々古代文字で書かれていた物なんだが、それを何とか解読して現在まで伝えられているんだ」
「古代文字の”アーイ”は瞳のことで、”ヘーア”は髪の事を表してるんだって」
「は、はぁ....」
俺は緊張していた力が抜け、弱弱しく言葉を返した。
明らかに話の流れはこうだった。
この世界の歴史を伝え続けている”お伽噺”、その中に出てくる人類の敵であった【魔導師】。
その【魔導師】の容姿と、俺の容姿が一致しているということ。
”黒い瞳に黒い髪”
それなのに、謎の【古代文字】とやらの翻訳が少ーし違うだけで、こうも緊張感が無くなるものなのか........。
すっかりと拍子抜けしている俺のことなど全く気付いていない二人は、先ほどよりも神妙な面持ちでいる。
「ただ、セイヴィアのように”容姿が変化して”そうだったのか、それとも”元々の容姿”なのかは未だに分かっていないんだ。どの文献にもそれに関する記載がないらしい」
「そ、そうなんですね....」
不意に店主が口を開いたので、気が抜けていた俺は少し反応に遅れてしまった。
やっぱりさっきの言葉が頭から離れない。
(なんだよ、アーイとヘーアって。どんな間違いだよ......)
ここは異世界だ。俺が知っている言葉と違っても不思議ではない。
でもそんなのツッコミせずにいられるか!
この”お伽噺”、というか【古代文字】のことを調べてみたらもっと変な訳が出てきそうだ....。
ちょっと楽しみ。
多分他の二人はまだ真剣に話をしていると思うのだが、俺だけがそうやって面白そうだと思っていると、再び店主が話し始めた。
「ちなみにこの”お伽噺”は一般の人々、この村の人々にも伝えられている」
「え? それじゃ――」
「ただし、一般の人々には”お伽噺”のほんの一部しか伝えられていないんだ」
「ほんの一部?」
「要は、”魔導師が世界を滅ぼし、それを100年かけて人々が取り戻した”、ということだけ。つまり、”セイヴィア”という英雄たちがいたことはすっぽりくり抜かれているんだ」
もし仮に村の人々が【セイヴィア】のことを知り得ていたら、隣にいるこんなに可愛い彼女のことを怖がるはずがないのだ。
「おそらくこの村で、”お伽噺”を正確に知っている奴はほとんどいない。俺が把握しているのは、”この村の書庫を管理してる館長”、あとは”いつも道外れで商売している占い師のばあさん”の二人だけだ」
「そんなに少ないんですか....」
(占い....この世界にも占いなんてあるんだな)
まさか、”魔法の力で未来が見える”......なんて、流石にないよね?
「とりあえず、この村ではお前を怖がる奴はほとんどいないだろう。それでも少し変わった容姿だからな、変な目で見られるのは覚悟しとけ」
「は、はい....」
(すでに変な目で見られた後なんだけど......)
「館長とばあさんには俺から話しておくから、もし会うことがあれば挨拶しとけよ?」
「わかりました....」
そう返事をすると、目の前に座っていた店主が徐に立ち上がった。
ゆっくりと俺の方へと近づいてくる。
そこで連想されるのは今朝の出来事だ。
また何かあるのかと身構えると、突然背中に強い衝撃が加わった。
バンッ!
「大丈夫だ! とりあえず自信を持って堂々としてろ! じゃないと余計に怪しまれちまうからな! あっはっはっは!!!」
どうやら俺の背中を思い切り叩いたようだ。
俺は店主の言葉に耳を傾けながら咳込む。
この人はもう少し加減というものを知るべきだ......。
「ほら二人とも、もう遅いからそろそろ家に帰んな!」
そう言われて窓の外を見てみると、日はほとんど沈んでいるようで、夕陽が微かに残っている程度だった。
「わ! ほんとだ! 早く帰らないと!」
「そ、そうだね」
「おう! 気ぃつけて帰れよ?」
裏口に荷物を置いていた為、そこから失礼することになった。
荷物をまとめ....と言ってもルナがほとんど浮かせて持って帰るので、その表現が適切か怪しいところだ。
「おじさん」
「ん?」
帰り際、唐突にルナが声を掛けた。
「ありがとね....」
「おう。またいつでも遊びに来な」
「うん....」
今日だけで彼らの距離は以前よりもさらに近くなったはずだ。
昨日の件と同様に、俺もなんだかとても嬉しい気持ちになる。
「それじゃ、帰ろっか!」
「そうだ――!」
先に裏口から出て行ったルナに続き、俺も進み出よとした瞬間、肩を掴まれ止められた。
「ハルト....」
「え?」
店主は耳元で囁くように言葉を口にした。
「あんなに素の笑顔を見たのはアビルの旦那が生きていた時以来だ....。ルナちゃんのこと、任せたぞ」
それほどまでに彼女は辛い生活をしてきたのか。
昨日出会ったばかりの彼女からは、そんなことを微塵も感じられない。
確かに今日の村での対応を見ればそれも頷けるかもしれないけど......。
俺自身も”特異な容姿”ということで、きっと村の人々からはあまり歓迎されないだろう。
それでも俺にできることならなんでもしたい、そう思ったから――――。
「はい。任せて下さい」
そう言って店主を見る。
傷のある強面の男は、少しぽかんとした顔で固まっている。
どうしたのかと少し首を傾げると、急に笑い出した。
「はっはっはっは!!!! どうしてだろうな。魔力はほとんど何も感じないし、見た目はかなり弱そうだが....」
(え゛、なんで急にディスられてんの......)
いきなり笑い出したかと思えば、なぜか悪口を言われている。
少し困惑したものの、続く言葉でそれは疑問へと変わった。
「お前のその目を見ると、なぜだかあの人を思い出す」
(あの人??)
再び首を傾げていると、外から大きな声が聞こえてくる。
「おおーい!! 早くしないと置いてくよー!!」
彼女が出てから何分経ったかわからないが、これ以上待たせるのも悪いだろう。
「あ、それじゃまた来ます。近いうちに」
「おう。それじゃあな」
俺はしっかりとお辞儀をし、裏口から駆け出した。
※2018年7月17日加筆・修正しました
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